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傷害致死罪の意味や殺人罪との違い。執行猶予や正当防衛の可能性は?
人に傷害を与え、結果として死亡させてしまう犯罪を「傷害致死罪」といいます。暴力事件を起こしたなど自ら積極的に加害したケースだけでなく、やむをえずした行為によって相手を死にいたらせ、傷害致死罪の嫌疑をかけられてしまうこともあります。
傷害致死罪で有罪になると、どのような刑罰を受けるのでしょうか。同じく人を死なせる犯罪である殺人罪とは、何が違うのでしょうか。
今回は傷害致死罪の意味や刑罰、殺人罪との違いを解説します。正当防衛が認められる条件についてもあわせて確認しましょう。
1、傷害致死の意味
傷害致死罪は刑法第205条で、「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。」と規定されています。平成17年施行の改正によって、法定刑が2年以上から3年以上に引き上げられました。
「傷害」とは、体の生理機能に障害を与え、健康状態を不良にするという意味です。具体的には、体に傷やあざをつける、病気の感染や中毒症状を引き起こさせる、神経症に陥らせるといったことです。傷害行為と死亡との間に相当因果関係があった場合に傷害致死罪が成立します。
傷害致死罪には、暴行や傷害の故意が求められます。殴ってやろう、傷つけてやろうといった意思です。傷害の故意まではなくても、暴行の故意さえあれば足りますので、暴行を加えた結果、転倒して打ちどころが悪くて亡くなってしまっても傷害致死罪が成立します。
この点、暴行や傷害する意図はなく人を死亡させた場合の過失致死罪と区別されます。たとえば道を歩いていて出会いがしらにぶつかった人が転倒して亡くなったケースでは、暴行や傷害する故意はないため、過失致死罪に該当し得ます。
警察庁の犯罪統計書によれば、平成28年における傷害罪の被害者は2万5699人ですが、そのうち、傷害致死で亡くなった被害者は79人います。暴行や傷害の意図しかなかったとしても、相手が亡くなってしまうケースがあるのです。
このように、本来の意図よりも重い結果が生じた場合に、より重い犯罪を認めることを結果的加重犯といいます。
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2、傷害致死罪の刑罰・量刑・執行猶予
傷害致死罪の刑罰は3年以上の有期懲役です。
以下、傷害致死罪と関係の深い暴行罪や傷害罪の刑罰と比較してみましょう。
- 暴行罪……2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
- 傷害罪······15年以下の懲役または50万円以下の罰金
傷害致死罪では暴行罪や傷害罪のように罰金刑がありませんので、有罪になり、執行猶予もつかなければ刑務所で過ごすことになります。有期懲役の上限は20年ですので、最長でも15年と定めている傷害罪より重い罪であることも分かります。
量刑は法定刑の範囲内で、裁判官がさまざまな要素を総合的に判断し、言い渡します。具体的には、行為の悪質性が際立っている、同種の前科がある、証拠隠滅や逃亡を図ったなどの要素があると、量刑が重くなる可能性が高いでしょう。
なお、傷害致死罪で有罪になったとしても、3年以下の懲役の判決を受け、過去に禁錮以上の刑に処せられたことがないなどの条件を充たせば、酌むべき情状の存在によっては、執行猶予がつく可能性があります。
酌むべき情状とは、被告人に有利になる事情を指します。具体的には、犯行にいたる動機や生い立ちに同情の余地がある、被害者や被害者家族との示談が成立している、これまで一度も事件を起こしたことがない、といった事情です。たとえば介護疲れによる傷害致死事件では同情的な判決になり、執行猶予がつく場合が少なくありません。
もっとも、人が亡くなっている深刻な犯罪ですので、相当の情状が必要になります。どんな事情があれば確実に執行猶予が認められるといった性質ではありませんので、複数の事情を積み上げていくことになるでしょう。
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3、傷害致死罪と殺人罪の違い
刑法第199条は「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」としています。殺人罪です。
傷害致死罪も殺人罪も、被害者を死亡させている点は共通しています。両者の大きな違いは「殺意の有無」にあります。
傷害致死罪は傷害を負わせる意思で(暴行や傷害をする故意をもって)犯行にいたっており、結果として相手が亡くなっています。
一方の殺人罪には殺意があります。殺意とは、死亡という結果の認識認容のことです。「相手を殺してやる」という意思や、「相手が死んでも構わない」という認識があれば、殺意があったとされます。殺意をもって犯行におよべば、結果として人が死亡しなくても殺人未遂罪で罰せられる可能性があります。
殺意は内面の問題なので、立証が難しい側面があります。本人が「殺すつもりだった」と自白するケースばかりではありませんし、仮に自白があったとしても、人を殺めてしまった異常な状況下の中で自身の意図を認識できない場合もあるでしょう。
そこで、殺意を認定するための客観的な要素として、凶器や創傷部位、犯行の動機、救護措置の有無など、間接事実を積み上げて立証することになります。
たとえば、包丁を使い(凶器)、心臓や首などの枢要部分を刺せば(創傷部位)、殺意の認定に傾きます。事件前からひどく相手を恨むような事実があり(犯行の動機)、事件後に救急車を呼ばずに(救護措置がない)放置すれば、殺意があったと判断されやすくなります。
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4、正当防衛だったとしても、傷害致死に問われる?
殺意がなかったにしても人を死なせてしまえば傷害致死に問われる可能性がありますが、正当防衛を主張できる場合もあります。正当防衛は刑法第36条に規定されており、認められれば不起訴処分が期待できます。起訴後であっても、無罪判決となる可能性も生じるでしょう。
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(1)正当防衛が認められる5つの条件
正当防衛が認められるには、次の5つの条件を充たす必要があります。
① 不正の侵害
法律上保護されるべき利益に対して、相手が違法に侵害している状態をいいます。侵害とは、生命、身体、財産に向けられた加害行為を指します。
② 急迫性の有無
急迫性とは、権利の侵害行為が現在進行形で発生し、または間近に迫っている状態をいいます。身の危険があれば警察を呼ぶ方法がありますが、それすらする暇がないときには急迫性があると認められます。
③ 防衛の意思
違法な侵害行為に対する防衛の意思です。たとえば相手から殴られるだろうと予想したうえで積極的に攻撃すれば、防衛の意思は否定されるでしょう。
④ 防衛の必要性
防衛のためにやむをえずした行為だったのかということです。逃げる余裕があったのにあえて攻撃していれば、防衛の必要性が否定される可能性があります。
⑤ 相当性の有無
相当性とは、防衛のためにとった行動が必要最小限のものであり、本当に防衛のためだったのかを確認する基準です。つまり、やり過ぎていないかということです。ロープで縛った相手に対してなおも攻撃を続けるような行為や、素手で襲ってきた相手に刃物で応戦するような行為は過剰防衛と評価され、傷害致死罪となる可能性があります。 -
(2)正当防衛は簡単には認められない
傷害致死事件で正当防衛が認められる可能性があるのは、たとえば、「殺す」と叫びながら執拗に暴行を加えてくる相手を防御のために腕で一度押したら転倒し、当たりどころが悪く亡くなってしまったケースなどです。
しかし正当防衛は、本来ある違法性を阻却する重大な行為ですので、認められるには上記すべての条件を充たす必要があり、決して簡単ではありません。事件の発端となる事実が相手側にあり、自分では正当防衛だと思っても、法律の観点からすれば成立しないことも少なくないのです。
そのため、正当防衛を主張する場合は、刑事事件の取り扱い経験が豊富な弁護士へ相談することがもっとも重要です。
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5、まとめ
傷害を与えた相手が、受傷を原因として亡くなってしまえば傷害致死罪に問われます。人が亡くなるという深刻さから傷害罪よりも重く処罰されますが、執行猶予や減刑の可能性は残されています。また、相手側の攻撃に対して身を守るためにやむをえず抵抗したら亡くなってしまったなど、正当防衛を主張したいこともあるでしょう。
傷害致傷事件を起こしてしまい、執行猶予を得たい、正当防衛を訴えたいといった場合は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が詳しい事情をお聞きし、ご希望の結果となるよう尽力します。
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