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殺人罪の時効は何年? 罪を犯してしまった場合の弁護活動
知人との争いが過熱して相手を殺してしまった……。
もし自分の家族がこのような状況におかれたとき、多くの方が「家族として本人のために何ができるのだろうか?」と考えるでしょう。
殺意をもって人を殺害する犯罪を殺人罪といい、仮にけんかであっても殺意が認められれば殺人罪に問われます。
本コラムでは、殺人罪はどのような犯罪で刑罰はどれくらいの重さなのか、また時効は何年で成立するのかなどについて解説します。
1、殺人の定義とは
法律で殺人はどのように定義されているのでしょうか。殺人罪が成立する要件や、「人」「人を殺す」の意味を確認しましょう。
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(1)殺人罪の成立要件
殺人罪は故意(人を殺そうという意思、殺意)をもって人を死亡させると成立する犯罪です(刑法第199条)。
この故意には、人を殺そうという明確な意思だけでなく、「もしかすると死んでしまうかもしれないがそれでもかまわない」という意思も含まれます。これを「未必の故意」といいます。
故意がなく人を死亡させた場合は、傷害致死(刑法第205条)や過失致死(刑法第210条)などにあたります。 -
(2)「人」の定義
殺人罪における人とは、すでに生まれてきており、今も生きている自分以外の個人を指します。そのため、胎児やすでに亡くなっている方は殺人の対象である人にはあたりません。
ただし胎児の場合、母体から一部でも露出した段階で人とみなされ、殺人の対象となります。
また、自発的呼吸が完全に停止し、かつ心臓が完全に停止し、最後に瞳孔反射が消滅することで「すでに亡くなっている」とみなされます。 -
(3)「人を殺す」の定義
「人を殺す」というのは、人の生命が自然に終わるよりも前にこれを絶つ行為をいいます。
人の生命を絶つ現実的な危険性のある行為であれば人を殺す行為にあたり、撲殺や絞殺、毒殺など、その手段はとくに限定されていません。
2、殺人に関する法律と処罰の内容
殺意をもとに人を殺害し、あるいは殺害しようとした場合には次の罪に問われます。処罰の内容とあわせて見ていきましょう。
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(1)殺人罪
殺意をもって人の生命を絶てば、まず成立が疑われるのが殺人罪です。法定刑は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」と、大変重いものです。
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(2)殺人未遂罪
人を殺すつもりで殺害行為を始めたが、相手が死亡しなかった場合は殺人未遂罪が成立します(刑法第203条)。
殺人未遂の場合も殺人と同じ法定刑が適用されますが、未遂減免の規定により刑が任意的に減軽される場合があります(刑法第43条前段)。
また自分の意思で殺害行為を中止した場合を中止犯といい、その場合は刑が減軽または免除されます(同条後段)。 -
(3)同意殺人罪
加害者と被害者が殺人について合意したうえで、被害者を死亡させた場合に成立するのが同意殺人罪です(刑法第202条)。
同意殺人には、被害者から「自分を殺してくれ」と頼まれて殺害した場合(嘱託殺人)と、被害者に「殺してもかまわないか?」と聞き、承諾を得て殺害した場合(承諾殺人)があります。
いずれの場合も法定刑は「6か月以上7年以下の懲役または禁錮」です。
3、殺人罪の公訴時効は改正された
ここでは殺人罪の時効は何年なのかを解説します。
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(1)時効は3種類ある
まず、時効とは何かについて説明します。殺人事件に関係する時効には「公訴時効」「刑の時効」「消滅時効」の3種類があります。
公訴時効とは、法律で定めた期間が経過すると、検察官が起訴できなくなる(犯人を処罰できなくなる)制度をいいます(刑事訴訟法第250条)。刑事事件で一般の方がイメージする時効は、この公訴時効でしょう。
刑の時効とは、刑(死刑を除く)の言い渡しを受けた場合に、その刑が執行されないまま法律で定めた期間が経過すると、刑の執行が免除される制度をいいます(刑法第31条)。
裁判で刑が確定した後に逃亡するなどしたケースで関係する制度のため、刑の時効が問題になるのはかなりまれです。また、死刑に対しては刑の時効が適用されません。
消滅時効とは民事上の時効のことです。殺人事件では、被害者(遺族)がもつ不法行為にもとづく損害賠償請求権が、法律が定めた期間の経過によって消滅する制度をいいます(民法第724条)。 -
(2)殺人罪の公訴時効は廃止
公訴時効は犯罪の法定刑ごとに期間が定められています。
かつては殺人罪にも25年という公訴時効がありましたが、平成22年4月の刑法および刑事訴訟法の改正によって「人を死亡させた犯罪であって法定刑の上限が死刑であるもの」については公訴時効が廃止されています。
つまり、法定刑の上限が死刑である殺人罪には公訴時効がありません。
またこの改正では、公訴時効の廃止のほかに、法定刑に応じて公訴時効の期間が延長されました。
たとえば、人を死亡させた犯罪のうち法定刑の上限が無期の懲役・禁錮にあたるものは15年から30年に、法定刑の上限が20年の懲役・禁錮にあたるものは10年から20年に、それぞれ延長されています。
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4、殺人罪の公訴時効はさかのぼって適用される
では、平成22年の法改正より前にあった殺人事件の公訴時効はどのような取り扱いになるのでしょうか。
法改正前の殺人罪の時効は25年だったのだから、法改正前にあった殺人事件についてはそのまま25年の公訴時効が適用されるのでしょうか。
それは、法改正の施行日時点(平成22年4月27日)で公訴時効が成立しているかどうかで判断されます。
- 法改正の施行日時点で公訴時効が成立していなかった場合……法改正「後」の規定がさかのぼって適用、つまり公訴時効はない
- 法改正の施行日時点で公訴時効が成立していた場合……法改正「前」の規定が適用、つまり刑事責任を問われない
公訴時効は、犯罪行為が終わったときから進行します(刑事訴訟法第253条)。
たとえば、平成22年4月27日の時点で殺人行為があってから24年11か月が経過していても、法改正の施行日時点で旧規定にもとづく公訴時効は成立していないため、法改正後の規定が適用されます。つまりこのケースはで公訴時効はありません。
5、殺人を犯してしまったとき弁護士ができること
殺人罪は、初犯だと刑が軽くなるという期待はあまりできないでしょう。初犯で、何年も前の犯行であっても、死刑や無期懲役があり得ます。
もし家族が人を殺してしまった、殺そうとしてしまった場合は、ただちに弁護士へ相談してください。
弁護士は状況に応じて、次のようなさまざまなサポートをおこないます。
- 自首の同行
- 取り調べ対応についてのアドバイス
- 検察官に対する勾留請求の阻止や裁判官に対する勾留決定の取り消し請求(準抗告)
- 保釈の請求
- 被害者(未遂の場合)や遺族への謝罪と被害弁償
- 贖罪(しょくざい)寄付(反省と謝罪の気持ちを示すための寄付)の提案
- 証拠収集
- 法廷弁護 (例:殺意がなかったことや、精神の障害により善悪を判断する能力が著しく低下していたことの主張・立証など)
当然ながら殺人は、どのような理由があっても許される行為ではありません。
しかし、殺人にも金銭目的のように身勝手な犯行から、長年の介護疲れによる殺人のように同情の余地があるものまで、事件の様態に大きな幅があります。
そのため、どのような場合にも一律に重い刑を受けるのではなく、加害者や事件の背景に酌むべき事情があった場合には、不当に重い刑を受けないようにする必要があります。
実際に殺人事件では、殺人の動機や事件の背景などの事情が考慮されたうえで非常に幅のある判決がでています。
加害者の人権を守り、重すぎる刑を回避するために活動するのが弁護士です。罪を犯した本人のためにご家族ができるのは、まずは弁護士へ相談してサポートを受けることであり、速やかな行動が望まれます。
6、まとめ
殺人罪の公訴時効は、平成22年の法改正によって廃止されています。法改正よりも前に犯した殺人についても、施行日時点で旧規定による公訴時効が成立していない場合には、同じく公訴時効はありません。現時点で逮捕に至っていなくてもいずれ逮捕・起訴される可能性は十分にありますので、もし自分の家族が殺人を犯してしまった場合には、すみやかに弁護士へ相談するのが賢明な選択肢といえるでしょう。刑事事件の加害者弁護の実績が豊富なベリーベスト法律事務所がサポートしますので、早急にご連絡ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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