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殺人事件の刑期はどのくらいなのか? 執行猶予の可能性は?
殺人罪とは殺害の意図をもって人の命を奪う犯罪です。とても重い罪であるため、その刑について死刑や無期懲役を思い浮かべる方は多いでしょう。
ただ、殺人罪の刑罰には死刑、無期懲役のほか、有期懲役があり、裁判で言い渡される刑(量刑)には事件ごとに大きな幅があります。では、量刑はどのような要素をもとに判断されるのでしょうか。また殺人事件において、判決に執行猶予が付く可能性はあるのでしょうか。
本コラムでは、殺人事件における殺人罪の成立要件や刑期、量刑判断の要素、殺人罪で逮捕された場合の弁護方針などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、殺人罪の成立要件
殺人罪は故意に人を死亡させると成立する犯罪です(刑法第199条)。殺人罪における故意とは、相手を殺害する意図(殺意)を指し、これには「相手が死んでしまってもかまわない」という意図も含まれます。
殺意は人の内面の問題ですが、その有無は客観的な状況をもとに判断されます。たとえば急所への執拗(しつよう)な攻撃があったか、直ちに救急車を呼んだかどうかなどの状況です。
殺意はなかったが人を死なせた場合は、殺人ではなく傷害致死罪(刑法第205条)や過失致死罪(刑法第210条)などにあたります。
2、殺人罪の刑期
殺人罪の刑罰の種類や刑期について見ていきましょう。
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(1)懲役刑が定められている
殺人罪の刑罰は「死刑または無期もしくは5年以上の有期懲役」です。金銭を徴収される罰金刑などはありませんので、有罪になれば死刑か懲役刑が選択されます。
殺人罪の有期懲役について、実際に何年の刑になるのか(量刑)は事件によって大きく異なります。
なお、令和4年に地方裁判所で言い渡された殺人罪の有期懲役でもっとも多かったのは10年を超え15年以下の刑期でした。 -
(2)殺人未遂も犯罪として成立する
犯罪の目的を達成した場合を既遂といい、目的を達成しなかった場合を未遂といいます。
殺人罪は未遂、つまり人を死亡させる現実的な危険性のある行為を開始したが、人を死亡させるに至らなかった場合も罪に問われます。
未遂の場合も既遂と同じ刑罰が適用されます。ただし、刑法第43条の未遂減免という規定により、刑が減軽される場合があります。
3、殺人罪における執行猶予
執行猶予とは、有罪を言い渡されたが、刑の執行が一時的に猶予される制度のことです。執行猶予期間中に再び罪を犯さない限り、刑の効力は消滅します。
重大犯罪である殺人罪に執行猶予は付くのでしょうか。
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(1)執行猶予付きの判決になる可能性
結論からいうと、殺人罪には原則として執行猶予は付きません。というのも、執行猶予は前提として、「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」の判決に付されるものだからです(刑法第25条)。
殺人罪の刑罰は最低でも5年の懲役刑が定められているため、執行猶予の前提である「3年以下の懲役」という要件を満たしません。
ただし、非常にまれではありますが、殺人罪で執行猶予が認められるケースがあります。 -
(2)刑が3年以下に減軽された場合
殺人罪で執行猶予が付く可能性があるのは、刑が減軽され、懲役の刑期が3年以下に短縮された場合です。
刑が減軽される可能性があるのは、次のような場合です。
- 心身耗弱の場合(刑法第39条2項) ※心神耗弱とは、精神障害によって善悪を判断し、それに従って行動する能力が著しく低下している場合をいいます
- 自首をした場合(刑法第42条)
- 未遂の場合(刑法第43条)
- 罪を犯したことに酌むべき事情がある場合(刑法第66条)
もっとも、これらのケースに該当したとしても必ず刑が減軽されるわけではなく、また刑が減軽されたときに必ず執行猶予が付くわけでもありません。
あくまでも事件全体を見たときに刑の減軽や執行猶予付きの判決が相応なのかどうかが判断されます。
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4、殺意以外で量刑を判断される要素
殺人罪は法定刑が死刑か懲役刑のみと、数ある刑法犯の中でも特に重い犯罪に分類されます。したがって、殺意があったかどうか、すなわち殺人罪が成立するかどうかは刑の重さに大きく影響します。
では、殺意があり、殺人罪が成立する場合には、どのような点が刑の重さに影響するのでしょうか。
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(1)加害者の年齢や性格
加害者の年齢が若い場合や、普段の性格から特に粗暴性や残虐性といった犯罪傾向がみられない場合には、更生の余地があるとして刑期が短くなる場合があります。
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(2)犯行の動機
社会への不満や逆恨みなど自分勝手な動機の場合には量刑が重く傾きます。反対に、被害者から虐待を受けていた場合のように、事件の背景から必ずしも自己中心的とはいえない場合には刑が軽減される可能性もあります。
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(3)前科の有無
前科がありながら罪を犯したような場合、過去に刑事責任を問われ自身の罪と向き合う機会があったにもかかわらず、社会の中で更生できなかったことを意味しています。再犯のおそれが高いと判断され、刑が重くなる可能性があります。
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(4)犯行様態
犯行様態が悪質な場合にも量刑は重くなります。たとえば、いたぶるように時間をかけて殺害した、逃げる被害者に対して何度も攻撃を続けたなど、残虐で執拗(しつよう)な犯行だったケースなどが該当します。
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(5)社会に与える影響の大きさ
殺人事件が社会に与える影響も量刑を左右する要素です。たとえば無差別殺人や幼い子どもの殺人などは社会から見て加害者に対する処罰感情が強く、刑が重くなりやすいといえます。
5、殺人は裁判員裁判の対象事件|裁判員裁判の流れとは?
殺人事件は裁判員裁判の対象となります。裁判員裁判とは、一般市民の中から選ばれた裁判員が参加して行われる刑事裁判のことです。裁判員裁判の対象となるのは、殺人のほかにも強盗致死や傷害致死、現住建造物等放火などの重大事件です。このような事件が裁判員裁判で評議されます。
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(1)裁判員裁判の流れ
裁判員裁判の流れは大きくわけると「公判前整理手続」「裁判員の選任」「公判」の3段階で実施されます。
公判前整理手続きとは、裁判官・検察官・弁護士が参加し、争点の整理やスケジュールの決定といった事前準備をする手続きです。
裁判員の選任については衆議院議員の選挙権を有する20歳以上の人のうち、欠格事由や就職禁止事由、不適格事由にあたらない人の中から無作為に選ばれます(裁判員法第14~18条)。
公判が始まると、冒頭で起訴状の朗読や黙秘権の告知などがあり、供述調書の朗読や証人尋問などがおこなわれます。
さらに検察官と弁護士がそれぞれ意見を述べ、裁判官と裁判員が別室で評議し、裁判官と裁判員の多数決によって判決が下されるというのがおおまかな流れです。 -
(2)裁判員裁判の特徴
裁判員裁判の流れには通常の裁判とは異なる特徴があります。まず、公判前整理手続きがあるため裁判が開かれるまでの期間が長い点が挙げられます。事件にもよりますが、4か月~10か月程度の期間を要します。裁判員の負担を減らして迅速な裁判とするために、事前準備を念入りにおこなう必要があるからです。
その代わり公判が始まると集中審理をおこなうため、判決がでるまでの期間は短くなります。おおむね1~2週間以内に判決がでるでしょう。
6、殺人事件を起こした場合に実名報道を回避することはできるのか
殺人事件は社会的関心の高い重大犯罪のため、実名報道される可能性が高いといえるでしょう。
少年法第61条の規定により原則として実名報道されない少年犯罪の場合や、精神障害者などの場合にも実名報道される可能性があります。
ただし令和4年に施行された改正少年法により、18歳・19歳の少年は「特定少年」として位置づけられ、特定少年については、対象事件の制限なく実名報道される可能性があります。
実名報道には法律の基準のようなものがないため、実際に実名報道されるかどうかは捜査機関や報道機関の判断によります。
したがって「必ず実名報道を回避できる」という方法は存在しません。
しかし、中には弁護士が各メディアや捜査機関にはたらきかけるなどして実名報道を回避できるケースがあります。必ずしも実名報道を防げるとは限りませんが、ご家族から弁護士へ相談してみるのはひとつの選択肢です。
7、殺人罪で逮捕されたときの弁護方針
最後に、弁護士が殺人事件でどのような弁護をおこなうのかについて解説します。
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(1)裁判員裁判に対する配慮
裁判員裁判では法律や裁判手続きの知識が少ない一般市民が裁判員となり、また集中審理によって、通常の裁判に比べて短い期間で裁判が実施されます。
そのため弁護士は、裁判員に対してわかりやすく丁寧に説明し、裁判員が有罪・無罪や刑の重さを的確に判断できるよう、うながします。
また「殺人事件の被告人は悪人である」という一般市民の感覚に対し、必ずしも悪人とまではいえないと思われるような主張を行います。
具体的には、殺人に至った経緯や生育環境、反省の度合いといったさまざまな事情を、証拠をもとに示すことになります。犯行には酌むべき事情があったとみなされれば、刑が減軽されたうえで執行猶予が付く可能性もでてくるでしょう。 -
(2)殺意がなかったことを主張する
殺意がなかった場合には、殺意を否定したうえで殺人ではなく傷害致死などにあたるという方向性の弁護活動をおこないます。
具体的には、凶器の種類や使い方、与えた損傷の程度や犯行動機などの複数の事情や証拠を示し、殺意がなかった旨を主張・立証します。 -
(3)正当防衛の成立や因果関係の有無を争う
ほかにも、迫りくる命の危険を防ぐためにやむを得ずした殺人であったとして正当防衛を主張する場合や、被告人の行為によって被害者が死亡したのではないと因果関係を否定する方向性の弁護活動などがあります。
どのような方向性で弁護活動をするのかについては事件ごとに大きく異なりますので、個別のケースでどうなるのかは弁護士に相談して決めることになります。
8、まとめ
殺人罪の刑罰は死刑もしくは無期または5年以上の有期懲役と、数ある犯罪の中でもとりわけ厳しいものです。量刑は事件の様態や犯行動機、反省の度合いなどさまざまな事情をもとに判断されます。事件ごとに大きな幅がありますので、個別の殺人事件の量刑については弁護士へ相談するとよいでしょう。
弁護活動は早期に、適切な弁護を行う必要があります。また、逮捕直後の72時間はたとえご家族であっても被疑者本人と面会することはできません。しかし唯一弁護士なら面会することができるため、弁護士からご家族からの言葉を伝えるといったことが可能です。さらに接見禁止がついた場合も弁護士は面会が可能です。もし家族が殺人罪で逮捕されてしまった場合は、早急に刑事弁護の実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。あなたの大切な人のために、弁護士がベストを尽くします。
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