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仮釈放の条件・制度を利用するには? 傷害事件のケースから読み解く
もし傷害罪などの罪で逮捕されたら、釈放されるまでどれくらいの期間がかかるのでしょうか。また出所後の社会復帰への道筋も気になるところです。
令和元年版の「犯罪白書」によると、平成30年中に認知された傷害事件は2万2523件で、うち1万8747件が検挙にいたっています。検挙率は83.2%という高い数値を示しており、身近な犯罪であることが伺えます。
そこで、このコラムでは、素早い社会復帰を実現する「仮釈放」の制度について解説しながら、家族が傷害事件を起こして実刑判決を受けたときにとるべき行動について紹介します。
1、傷害罪の刑罰
故意の暴力によって相手に怪我を負わると、刑法の「傷害罪」に問われます。
傷害罪は刑法第204条に規定されている犯罪で、暴行を加えた者が相手に傷害を負わせた場合に成立します。「相手に傷害を負わせてやる」という気持ち、つまり故意があれば成立するのはもちろん、暴行の故意さえあれば意図せず傷害の結果が生じた場合でも傷害罪が成立します。
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(1)傷害罪の法定刑
傷害罪の法定刑は、刑法第204条によって「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められています。
刑法第208条の暴行罪が「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」であることと比較すると、相手に傷害を負わせたという結果が生じることで刑罰が格段に重たくなっています。 -
(2)実際に下される量刑の判断基準
傷害事件の法定刑は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」ですが、これは傷害事件を起こして逮捕されれば「懲役15年か、あるいは罰金50万円のどちらかが下される」という意味ではありません。
刑事裁判で実際に下される量刑は、1か月以上15年以下の懲役、または1万円以上50万円以下の罰金の範囲内で決定されます。
傷害事件における量刑判断の基準は次のような要素が関係します。
- 加害者の前科前歴
- 傷害の程度
- 暴行の態様や犯行の悪質性・計画性
- 加害者の反省の有無
- 被害者への謝罪と弁済の有無
- 被害者の処罰意思の強さ
判断基準には初犯か再犯か、という点が考慮されますが、事件の内容次第では初犯でも実刑判決が下されて刑務所に服役する可能性も否めません。
ただし、実刑判決を受けて長い期間の懲役が確定しても、満期を迎えないと絶対に出所できないというわけでもありません。「仮釈放」が認められると、満期を迎える前に刑務所から釈放され、一定の制限はあるものの一般社会の中で生活を送ることができます。そこで、次章では仮釈放について解説します。
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2、仮釈放とはどのような制度か?
傷害事件を起こして実刑判決を受けても「仮釈放」が認められれば満期を迎える前に出所できる可能性があります。
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(1)仮釈放とは
「仮釈放」とは、懲役・禁錮の刑を受けて刑務所などの刑事施設に収容されている受刑者が、刑の満期を迎える前に一定の条件を付されて「仮」に釈放される制度です。
あくまでも「仮」の釈放であり、一般社会での生活が許されたからといっても制限なく自由に過ごせるわけではありません。
仮釈放中は社会生活のなかで更生を目指す期間であって、その期間中に再び罪を犯したり、順守事項を守らなかったりすれば、仮釈放が取り消されてしまいます。その場合、仮釈放を受けて一般社会で過ごした日数は刑期に算入されません。
つまり、結果として刑期が延びることになるので、仮釈放中の行動には十分に注意が必要です。一方で、仮釈放期間を満了すれば、残りの刑期は免除されます。 -
(2)仮釈放の条件
仮釈放は、刑法第28条に大きな条件が示されています。
- 懲役または禁錮に処されていること
- 有期刑では刑期の3分の1、無期刑では10年が経過していること
- 改悛の状があること
刑期については、傷害事件の法定刑をみると懲役刑の最長は15年なので「少なくとも5年が経過すれば仮釈放の条件を満たす」といえます。ただし、実際に仮釈放が認められている事例は刑期の3分の2が満了している受刑者が大部分であり、刑期の半分に満たない期間で認められるケースはごくまれといえるでしょう。
その理由は、下記の「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」の第28条に示されている、具体的な条件を満たす必要があると考えられるからです。
- 悔悟の情が認められること
- 更生の意欲が認められること
- 再犯のおそれがないと認められること
- 保護観察に付することが改善更生のために相当であること
- 社会の感情が仮釈放を是認すると認められること
つまり、単に規定の年数を経過しているだけでなく、深く反省し、更生にも積極的で、施設内での受刑態度も良好で再犯のおそれがないと判断される必要があるわけです。
さらに、いくら受刑者本人の素行がよくても、被害者をはじめとした一般社会が「仮釈放を許すべきではない」と反対するような罪を犯していれば、仮釈放は認められにくくなります。 -
(3)傷害事件の再犯で仮釈放は認められるか?
令和元年版の犯罪白書によると、検挙人員中の再犯者の割合は年々増加しており、平成30年には48.8%を記録しています。
傷害事件は「カッとなるとつい手が出てしまう」といった粗暴癖をもつ人によるものも多く、本人の意思だけでは改善が難しい面があるため、再犯率も高い事件といえるでしょう。
再犯の場合、仮釈放の条件である「再犯のおそれがないと認められる」という点で大きく不利になるのは間違いありません。強い更生意欲を示し、模範的な受刑態度で臨まない限り、仮釈放は認められにくいでしょう。
反対に、初犯であれば懲役・禁錮という重い刑罰を経験したことで「深く反省しているので再犯のおそれはない」と期待され、仮釈放が認められやすくなります。
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3、保釈や釈放などの制度との違い
「仮釈放」と間違いやすい制度について、それぞれの違いを確認しておきましょう。
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(1)釈放とは
「釈放」とは、懲役・禁錮の刑期を満了して出所することをいいます。仮釈放が「刑期満了前の『仮』の釈放」であることと比べると、刑期を満了して刑罰が終了しているという点で大きく差があります。
なお、警察に逮捕された直後や検察官が勾留を請求して起訴するまでの期間に身柄拘束を解くことも「釈放」と呼ばれます。こちらの釈放は、検察官が不起訴処分を下して事件が終了した場合や、身柄拘束の必要性がなくなり在宅事件として処理される場合にとられる手続きです。 -
(2)保釈とは
「保釈」とは、検察官が起訴した段階から認められる一時的な身柄解放のことです。保釈の請求をし、保釈金を支払うことで、条件付きで一般社会での生活を送りながら刑事裁判に出廷します。
ただし、保釈を受けても被告人という立場が解消されるわけではないので、刑事裁判の結果次第では刑務所などへ収監されるおそれがあります。 -
(3)執行猶予とは
「執行猶予」とは、懲役や禁錮などの刑罰の執行を一定期間に限って猶予する制度です。執行猶予の期間を無事に満了すれば、言い渡された刑の効力は消滅します。
刑罰の執行が猶予されれば、懲役・禁錮の判決を受けても直ちに刑務所などに収監されるわけではありません。ただし、執行猶予の期間中に再び刑事事件を起こしてしまえば、執行猶予が取り消されてしまいます。
さらに「執行猶予を受けている期間中の犯罪」では情状の余地が少なくなってしまうので、新たな事件において厳しい判決を受けるおそれが強まるでしょう。
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4、仮釈放にむけて家族にできること
あなたの家族が傷害事件の被告人として実刑判決を受けてしまい、刑務所などに収監されたのであれば、素早い社会復帰のためにも仮釈放にむけたサポートに努めていく必要があります。
仮釈放は本人の意思や反省などのほかにも、仮釈放を受け入れる体制づくりが大きく影響するので、家族のサポートは必須です。
ここでは、仮釈放にむけて家族にできること、家族が注意すべきことを紹介します。もし、家族だけで対応することが不安である、仮釈放の手続きについてわからない等があれば、弁護士への相談をおすすめします。
仮釈放を目指すための具体的かつ必要なアドバイスも得られるので、受刑者本人の社会復帰にむけて大きく前進できるでしょう。
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(1)身元引受人として受け入れの意思を示す
受刑者本人が仮釈放を希望している場合は、身元引受人として受け入れの意思を示しましょう。
仮釈放が認められるには、出所した先の社会が本人の改善更生のために適切であることが必要です。家族による指導・監督があれば、再犯防止にも効果があると認められやすくなります。 -
(2)むやみに住所を変更しない
受刑者本人が指定した身元引受人は、保護司による事前調査の対象となります。
保護司とは、受刑者と社会を結ぶために、本人と定期的に話をして啓発を促すなど更生にむけたケアをする国家公務員です。
事前調査では改善更生に適しているのかを審査されるため、家族はむやみに住所地を変更するべきではありません。そのため、引っ越しをする合理的な事情がある場合は、担当の保護司にその旨を相談するとよいでしょう。くれぐれも無断で住所を変更し、事後的に報告するような事態は避けましょう。 -
(3)就職先を用意する
一般社会において更生を図るためには「就労」が効果的であると考えられます。意欲的に就労して賃金を稼ぐことで、罪を犯さないまっとうな社会人としての更生が期待できるからです。家族のはたらきかけによって就職先の内定が得られれば、仮釈放が認められやすくなるでしょう。
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(4)受刑者本人に仮釈放の日取りを伝えてはいけない
仮釈放の日取りが決まると、身元引受人に通知されます。出迎えの可否などについて回答する必要があるので、返信は必須です。
また、面会や手紙などの機会を利用して受刑者本人に仮釈放の日取りを伝える行為は禁止されているので、くれぐれも順守事項に違反しないように努めましょう。
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5、まとめ
傷害事件を起こしてしまい懲役・禁錮の実刑判決を受けて刑務所などに収監されても、受刑者本人が深く反省し、更生意欲も旺盛で、受刑態度が良好であれば「仮釈放」が認められる可能性があります。ただし、仮釈放が認められるには、受刑者本人に課せられた条件だけでなく、身元引受人や出所先の環境も重視されるので、家族のサポートは必須です。
傷害事件を起こして服役中の家族の仮釈放を希望するなら、刑事事件の弁護実績を豊富にもつベリーベスト法律事務所にお任せください。仮釈放が認められやすくなるための環境整備にむけたアドバイスなど、経験豊富な弁護士が全力でサポートします。
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