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相手に触れただけでも暴行罪? 犯罪が成立する要件と科せられる刑罰
令和6年9月、公園で小学生の首をなでたとして暴行の疑いで男が逮捕されました。逮捕された男は警察の調べに対し「肩は触ったが、暴行になるとは思わなかった」と供述したそうです。
暴行罪と聞くと、人を殴ったり蹴ったり、暴力を振るった場合に罪が成立するイメージが強いでしょう。しかし、この事例のように「触れただけ」でも罪を問われるのか、疑問を感じる方も少なくないはずです。
本コラムでは、暴行罪が成立する要件や科せられる刑罰などを確認しながら、「触れただけ」といったケースでも罪に問われるのかを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事で分かること
- 触れただけでも暴行罪が成立するケースはあるのか
- 暴行罪を犯した場合に科される刑罰とは?
- 暴行事件を解決するために弁護士ができること
1、「暴行罪」が成立する要件とは?
暴行罪とはどのような犯罪なのでしょうか?
条文に照らしながら成立の要件を確認していきます。
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(1)暴行罪の法的根拠
暴行罪は刑法第208条に定められている犯罪です。条文によると「暴行を加えた者が傷害するに至らなかったとき」を処罰の対象としています。
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(2)暴行罪が成立する要件
暴行罪が成立するのは、次の2点の要件を満たしたときです。
- 「暴行」があること
- 暴行が「故意」であること
本罪における「暴行」とは、相手に対する不法な有形力の行使を意味します。
典型的には、殴る・蹴るといった暴力行為を指すと考えればよいでしょう。
そして、これらの暴行には「故意」が必要です。単純には自分の意思でわざと暴行を加えた場合を指すので、たとえば「誤って手が相手の顔に触れただけ」といったケースは、故意を欠くため暴行罪が成立しないと考えるのが基本です。
もっとも、暴行の故意がどこまで要求されるかは刑法的な議論のあるところであり、相手への接触までを意識していなくても故意が認められることもあります。 -
(3)暴行罪と傷害罪の関係
暴行行為によって相手にケガを生じさせてしまった場合は、刑法第204条の「傷害罪」が成立します。傷害罪は「人の身体を傷害した者」を処罰の対象としており、暴行罪とは非常に近い関係にある犯罪です。
傷害罪における「傷害」とは「人の生理機能に障害を与えること」と定義されており、典型的には「ケガをさせること」が挙げられます。ただし、条文にはケガの種類や程度は明示されていません。つまり、出血を伴うような切り傷、骨折といった重大なケガに限らず、擦り傷・打ち身・打撲といった軽傷や、病気、心的外傷によるストレス障害なども傷害に含まれます。
2、暴行罪に問われる行為とは? 「触れただけ」でも成立するのか?
暴行罪が成立するのは、他人に向けて不法な有形力を行使したときです。
では、どのような行為があれば暴行罪が成立するのでしょうか?
たとえば「触れただけ」でも暴行罪が成立するのかも併せて考えていきましょう。
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(1)「有形力の行使」とは?
有形力とは、物理的な力を指します。物理的な力を他人に向けて加えることは「有形力の行使」です。
条文のうえでは有形力の強弱について触れていないので、相手にケガを負わせる程度の強い力はもちろん、ケガにはつながらないような軽微な力を加えた場合でも法的な解釈のうえでは有形力の行使となります。
また、相手の身体に接触しなくても有形力の行使となるケースも存在します。
たとえば、相手の近くにナイフを投げるといった行為は、人の身体を傷害する危険のあるものなので、相手に当たらなかったとしても有形力の行使となり暴行罪が成立する可能性があります。
車の運転で強引に幅寄せなどをする、いわゆる「あおり運転」についても、妨害運転罪ができるまでは、暴行罪の適用が検討されていました。
なお、有形力とは物理的な力を意味しますが、エネルギーのような非物理的な力を用いた場合でも有形力の行使となる可能性があることも覚えておきたいところです。過去には、室内でブラスバンド用の太鼓を連打して相手をもうろうとさせたという事例で暴行罪の成立を認めたケースが存在します。
「有形力の行使」が適用される範囲は非常に広いので、思いがけず暴行罪の疑いをかけられる可能性があると心得ておきましょう。 -
(2)「不法」とは?
暴行罪が成立するには、有形力の行使が「不法」のものであることが求められます。
ここでいう不法とは、法律が定める犯罪の成立を否定する理由がないという意味です。
通常であれば犯罪となる行為でも違法とはならない事情を「違法性阻却事由」といいます。
たとえば、ボクシングや空手などの競技では相手に徒手で攻撃を加えるので有形力の行使に当たりますが、これらはスポーツという「正当行為」であるため暴行罪は成立しません。
ほかにも、突然襲い掛かってきた相手を退けるために強く押し返したといったケースは「正当防衛」に、車が突進してきて目の前の人にぶつかりそうになったので腕をつかんで強く引っ張ったといったケースは「緊急避難」となり、それぞれ暴行罪の成立が否定されます。 -
(3)「触れただけ」でも暴行罪が成立するケース
暴行罪が成立する要件に照らすと、次のような行為は暴行罪の処罰対象になると考えられます。
- 背中を強く押す
- 平手で相手の頭をたたく
- 顔面を拳で殴る
- 足蹴りをする
- 胸倉や腕をつかむ
- 髪の毛を引っ張る
- 人に向けて農薬を振りかける
- 刃物を振り回して脅す
このように、暴行罪にあたる行為の範囲は非常に広く、単純な暴力行為はもちろん、通常であれば暴力とはとらえられないような行為でも暴行罪に問われる可能性があります。ナンパ行為で相手の腕をつかむような行為も、暴行罪が適用される場合があります。
自分では相手の身体に「触れただけ」という認識でも、口論の末にもみ合いとなった、その場から立ち去ろうとした相手を引きとめようとしたなどのシチュエーションでは「暴力を振るわれた」と主張され、暴行罪の疑いをかけられてしまう可能性もあるでしょう。 - お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
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3、暴行罪で科せられる刑罰
暴行罪を犯した場合、どのような刑罰が科せられるのでしょうか?
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(1)暴行罪の法定刑
暴行罪を犯して有罪判決を受けると、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科せられます。
懲役とは刑務所に収監されて労働に従事する刑、罰金は金銭を徴収される刑です。
拘留は1か月未満の短期に限って刑事施設に収容される刑で、労働への従事は強いられません。科料は罰金と同じで金銭を徴収される刑ですが、その金額は1万円未満に限られます。
懲役・罰金の上限が低く、日本の法律においてもっとも軽い刑罰である拘留・科料が設けられているという点を考えると、暴行罪の法定刑はほかの犯罪と比べて軽いといえるでしょう。
ただし、軽い刑罰で済まされたとしても、刑罰を受けた経歴は前科として残ってしまいます。公的な資格を有している場合や海外へ渡航する機会が多い場合は、前科があることが不利にはたらくおそれがあるため、決して軽視すべきではありません。 -
(2)暴行罪に関係する罪の刑罰
暴行をはたらいたとき、暴行罪が成立するだけにとどまれば刑罰は比較的軽く済むでしょう。ところが、相手にケガをさせてしまい傷害罪に問われると、15年以下の長期または50万円以下の罰金となり、刑が格段に重くなります。
暴行の結果、相手を死亡させてしまうと刑法第205条の傷害致死罪です。傷害致死罪の法定刑は3年以上の有期懲役なので、最大20年にわたって刑務所に収容されるかもしれません。
また、故意を欠く暴行は罪になりませんが、誤って人にケガをさせると刑法第209条の過失傷害罪となり30万円以下の罰金または科料に、誤って人を死亡させると同第210条の過失致死罪となり50万円以下の罰金に処されます。過失の程度が重いと評価される場合は、刑法211条の重過失致死傷等罪になり、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処されます。
たとえ故意ではなかったとしても、相手を死傷するという重大な結果が生じてしまえば刑事責任を問われるという点は覚えておきましょう。
4、暴行事件を解決するために弁護士ができること
自分では「触れただけ」という認識でも、暴行罪の疑いをかけられてしまう可能性があります。そのような場合に穏便な解決を目指すなら、弁護士への相談を急いでください。
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(1)暴行罪の疑いをかけられた場合の刑事手続きの流れ
警察が被害者からの申告を受けて捜査を始めると、被疑者として取り調べを受けることになります。
逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあると疑われれば逮捕され、逮捕・勾留によって最大23日間の身柄拘束を受けてしまうかもしれません。
警察・検察官による捜査が終結し、検察官が起訴すると、刑事裁判が開かれます。刑事裁判で有罪判決が下されると法定刑の範囲内で適当と判断される刑罰が言い渡され、期限内に異議申し立てをおこなわなければ刑が確定し、懲役や罰金、拘留・科料といった刑罰が科せられます。 -
(2)暴行事件の解決を目指すなら被害者との示談が重要
暴行事件を穏便に解決したいと望むなら、最優先すべきは被害者との示談交渉です。
被害者との話し合いの席を設けて、暴行をはたらいてしまったことを真摯(しんし)に謝罪したうえで、精神的苦痛に対する慰謝料などを含めた示談金を支払うことで、警察への被害届や刑事告訴の取り下げの実現を目指すのが、示談の一般的な流れです。
加害者と被害者との間で示談が成立すれば「すでに当事者間で和解した」と評価されるので、捜査機関はそれ以上に厳しく罪を追及する必要がなくなります。示談が成立することで不起訴処分となる可能性も高まるでしょう。
また、警察の捜査段階で示談が成立した場合、暴行罪であれば「微罪処分」として事件が終了する可能性も生じます。微罪処分は、警察限りで処分を終了して検察官への送致を見送る手続きです。検察官に送致されず刑事裁判は開かれないので、刑罰を受けることも前科がつくこともありません。
もし検察官への送致が避けられなかったとしても、示談が成立していれば「起訴猶予」となる可能性が高まります。起訴猶予とは、犯罪の証拠は十分にそろっているものの、諸般の事情からあえて起訴を見送るという不起訴処分のひとつで、やはり刑事裁判が開かれないので刑罰は科せられません。
微罪処分や起訴猶予による不起訴処分といった有利な結果を得るには、被害者との示談成立が必須です。第三者である弁護士が窓口となって交渉すれば、加害者に対して怒りや警戒心を抱いている被害者との円満な和解が期待できるでしょう。 -
(3)示談以外の活動
暴行罪の場合、そもそも犯罪としてはあまり重くないことから、起訴して処罰をせずとも再犯の抑止といった刑事司法の目的を達成できるケースもままあります。そのような場合、示談といった目に見えた結果を作らずとも、再犯防止のための取り組みなどの要素を積むことで、不起訴になる余地があります。
また、仮に逮捕された場合も、勾留却下にするなど身柄解放のチャンスは十分にありますので、諦めずに弁護士に依頼すれば、結論が変えられることもあります。
5、まとめ
暴行罪が成立するのは、相手に対して不法な有形力を行使したものの、相手にケガを負わせなかったときです。たとえば、口論の中でもみ合いになり、相手の身体に「触れただけ」だったとしても、法律の定めに従えば暴行罪が成立する可能性も否定はできません。
暴行罪は比較的軽微な刑罰が設けられている犯罪です。ただし、懲役を科せられて刑務所に収監されてしまったり、前科がついて解雇や公的資格のはく奪などの不利益を受けてしまったりするおそれもあるので、軽視してはいけません。
暴行事件を穏便に解決するには、刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士のサポートが必要です。相手に触れただけなのに暴行罪の疑いをかけられてしまいお困りなら、数多くの刑事事件を解決してきたベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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