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覚醒剤で逮捕! 不起訴処分や執行猶予を求める場合は何が必要か?
覚醒剤取締法違反で逮捕されると、起訴される割合が非常に高いという特徴があります。
令和元年版犯罪白書によると、平成30年中に発生した覚醒剤事件における起訴率は76.9%で、起訴猶予率は8.8%です。また刑罰も「懲役」または「懲役・罰金の併科」となり、罰金のみで許されることがありません。その意味で非常に重い犯罪だといえるでしょう。
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、どのようなかたちで不起訴処分や執行猶予つき判決の獲得を目指せるのでしょうか。覚醒剤取締法の概要や刑罰の内容、量刑の判断基準などもふくめて、弁護士が解説します。
1、覚醒剤取締法の概要
覚醒剤取締法は、覚醒剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するために設けられている法律です。
旧来は「覚せい剤取締法」という名称が使用されていましたが、常用漢字の変更に伴って令和2年4月1日から「覚醒剤取締法」に名称変更されました。
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(1)規制対象となる薬物
覚醒剤とは「フエニルアミノプロパン」「フエニルメチルアミノプロパン」「およびその塩類」を指します。これらと同種の覚醒作用を有する物であって政令で指定するもの、これらに掲げる物のいずれかを含有する物も禁止されています(覚醒剤取締法第2条)。
覚醒剤は依存性が高く、身体への影響が大きいとされる大変危険な薬物です。そのため、ほかの薬物犯罪と比較しても厳しい刑罰が設けられています。 -
(2)規制される行為
覚醒剤取締法では、主に次の行為を規制しています。
- 輸入、輸出(第13条)
- 所持(第14条)
- 製造(第15条)
- 譲渡、譲受(第17条)
- 使用(第19条)
上記の行為をみだりにおこなった場合、覚醒剤取締法違反が成立します。例外として、製造業者や医師、研究者などが業務のために所持するケースなどでは違反となりませんが、通常はこれにあたらないでしょう。
また覚醒剤取締法違反となるには「故意」が必要です。たとえば知らない間に運び屋にされたケースや、手足を縛りつけられたうえで覚醒剤を注射されたようなケースでは故意がないため処罰されません。
もっとも、このようなケースはまれですし、確固たる証拠が求められるため、むやみに故意を否定することは意味がありません。何らかの違法薬物だとの認識や、「詳しくはわからないけど覚醒剤かもしれない」という程度の認識があれば、故意があったとみなされる可能性は高いでしょう。
2、不起訴や執行猶予を求めることができるのか?
冒頭でお伝えしたとおり、覚醒剤事犯による起訴率は非常に高く、違法行為が事実なら、かなりの確率で起訴されると考えられるでしょう。
起訴の可能性が高い理由としては、直接的な被害者がいないため示談による解決が見込めない点や、依存性が高く危険な薬物であるため刑罰が重く、起訴猶予(不起訴)にする理由がない点、などが挙げられます。
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(1)執行猶予つきの判決を求めるには
容疑の内容が事実である場合は速やかに認めたうえで、執行猶予つきの判決や、刑の減軽を目指すことになります。執行猶予がつけば直ちに刑務所に収監されず社会生活の中で更生が可能となり、刑が減軽されればそのぶん社会復帰が早まります。
執行猶予や刑の減軽を目指すには次のような活動を通じ、更生の可能性が高く、再犯のおそれが低いことを主張していく必要があります。
- 反省の態度を示す
- 入手ルートを正直に話す
- 家族に監視を誓約してもらう
- 薬物を通じた仲間との関係性を断つ
- 薬物克服プログラムを受ける、自助グループへの参加を約束する
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(2)不起訴を目指すには
覚醒剤事犯において不起訴処分の獲得は非常に難しい面がありますが、容疑と事実が異なる場合には不起訴処分となる可能性があります。
たとえば所持を疑われているが一緒にいた友人のものであって本人のものではないケースや、まったく身におぼえがないケースなどです。
この場合は取り調べの対応が重要です。供述が二転三転すれば信用性がないと判断されますし、やってもいないことを自白すれば不利な調書をとられて後に覆すのは困難です。
そのため早期に弁護士と面会し、友人との関係性や容疑をかけられるまでの経緯などを詳細に伝えたうえで、取り調べのアドバイスを受ける必要があります。
3、逮捕の流れと刑罰の内容
覚醒剤取締法違反で逮捕されるケースの典型は所持、使用、輸入です。それぞれのケースにおける逮捕の流れや刑罰内容を解説します。
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(1)覚醒剤の所持
覚醒剤の所持は、現行犯逮捕が多いでしょう。職務質問や所持品検査、家宅捜索などをきっかけとして覚醒剤らしきものがみつかり、簡易検査によって覚醒剤だと判明すると、その場で逮捕されます。
所持の刑罰は「10年以下の懲役」です(覚醒剤取締法第41条の2、1項)。営利目的の所持だった場合は「1年以上20年以下の懲役」か、情状により「1年以上20年以下の懲役および500万円以下の罰金」となります(同条2項)。 -
(2)覚醒剤の使用
使用の場合は、尿検査の結果をもとに逮捕状が裁判所へ請求され、通常逮捕されるケースが大半です。挙動不審であるために職務質問を受け、任意で尿の提出を求められたり、容疑が濃厚な場合には強制採尿令状にもとづき尿を採取されたりすることもあります。
使用の刑罰は「10年以下の懲役」です(覚醒剤取締法第41条の3、1項)。 -
(3)覚醒剤の輸入
所持したまま輸入した場合には空港の税関検査で発覚し、現行犯逮捕されます。国際郵便で輸入した場合には税関職員に発見され、成分の鑑定がおこなわれたうえで通常逮捕されます。
輸入の刑罰は「1年以上20年以下の懲役」です(覚醒剤取締法第41条1項)。営利目的で輸入した場合は「無期もしくは3年以上20年以下の懲役」か、情状により「無期もしくは3年以上20年以下の懲役および1000万円以下の罰金」となります(同条2項)。 -
(4)逮捕後の流れ
逮捕された後は、次の流れにそって刑事手続きが進められます。
- ① 逮捕から48時間以内……警察官の取り調べ、検察官送致
- ② 送致から24時間以内……検察官の取り調べ、勾留請求
- ③ 勾留・勾留延長…………最長20日間
- ④ 勾留満期まで……………起訴・不起訴の決定
- ⑤ 起訴後から判決まで……被告人勾留
4、量刑の判断基準
覚醒剤取締法違反で逮捕され有罪になると、懲役となるか、懲役と罰金の両方を科されます。量刑判断でどの程度の刑期になるのかは関心の高い問題でしょう。裁判官は量刑を判断する際、さまざまな点を総合的に考慮します。
まずは目的です。営利目的の場合は危険な覚醒剤が広く社会に浸透してしまい、国民の保健衛生上の危害を増幅させるリスクが高いことから、刑罰が加重されます。したがって、単純に個人で使用するためだったのか、営利目的があったのかは量刑に大きな影響をあたえます。
次に前科の有無です。覚醒剤は害悪性が高いことから再犯者は厳しく処罰される傾向があるため、非常に重要な要素です。同種の前科があれば執行猶予がつかず、実刑となる可能性が高いでしょう。反対に初犯であれば執行猶予がつくケースは少なくありません。
さらには更生の可能性も判断材料となります。本人が深く反省して更生に向けた意欲をもっているのか、家族のサポートによって生活の立て直しや治療を受けることが可能なのかといった点が考慮されます。
そのほか、使用の頻度や使用量などから薬物依存の度合いが高いかどうか、組織的犯罪か否かなども量刑判断に影響をあたえるでしょう。
5、覚醒剤で逮捕されたら弁護士へ早期相談を
覚醒剤事犯では、起訴され実刑判決を受ける可能性が十分に考えられるため、できるだけ早く弁護士のサポートを受けることをおすすめします。弁護士は不起訴処分や執行猶予つき判決の獲得を目指し、次のような活動をおこないます。
- 早期に本人と面会してアドバイスをおこない、取り調べで不利な調書をとられることを避ける
- 治療機関や自助グループの紹介など、薬物依存症の克服に向けた支援をする
- 更生の可能性を示すために受診証明書を提出する、医師に証人として出廷してもらうよう働きかける
- 仲間と決別した証拠として、携帯電話を解約した書類などを提出する
- 家族のサポート体制を整え、裁判に出廷し監督の方法を示してもらう
6、まとめ
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、何の対応もしなければ厳しい処罰を受けるおそれがあります。実刑判決となれば社会生活から隔離され、その後の人生に多大な影響をおよぼすでしょう。これを避けるには、少しでも早い段階で弁護士へ相談することが大切です。
覚醒剤を所持するなどして逮捕のおそれがある方はベリーベスト法律事務所へご相談ください。覚醒剤事件の解決実績が豊富な弁護士が状況に応じて適切なサポートをおこないます。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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