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他人の名義で書類を作成すると文書捏造で犯罪になる? 罰則などを解説
平成31年1月、自分の夫を装って離婚届に署名・押印し、夫に無断で市役所へ離婚届を提出した女性が逮捕される事件がありました。逮捕容疑は有印私文書偽造、有印私文書行使罪などです。
文書の捏造は、逮捕される可能性のある重罪なのです。
また、文書の捏造に関する罪は、捏造する文章が公文書であるか私文書であるか、有印文書であるか無印文書であるか、偽造したのか変造したのかによって、細かく分別されています。
本コラムでは、文書捏造がどのような犯罪に該当するのか、どんな行為をすると罪に問われるのか、具体的な罪名や罰則、そして罪に問われた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。
1、文書捏造によって成立する犯罪とは?
- 無断で他人の名義を使って契約書にサインする
- 他人の身分証明書を使って借用書を作成する
このような行為は文書の捏造にあたり、刑法第17章が規定する文書偽造の罪によって処罰される可能性があります。
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(1)文書捏造が犯罪とされる理由
一般的に、法律上の権利関係や社会生活において重要な事実関係は、文書に記載することで証明されます。しかし、文書捏造がまかり通る世の中になってしまうと、私たちは文書を信用することができなくなり、社会生活の安全が脅かされてしまうことになります。
文書の信用性を保護するために、文書の捏造は、「文書偽造」として刑罰の対象とされているのです。 -
(2)犯罪名が細分化されている犯罪の種類
文書偽造の罪は、「どの文書」を「どのように捏造したのか」によって、犯罪名が細分化されています。
文書の種類は「公文書」と「私文書」に大別されます。さらに、「有印文書」か「無印文書」かによっても区別されるのです。
「公文書」とは、公務員などによって作成された公的な文書のことを指します。これ以外の私的な文書が、「私文書」です。
「有印文書」とは、印章や署名が記載された文書のことを指します。それらが記載されていない文書は「無印文書」と呼ばれます。
また、文書を捏造する行為は、「偽造」と「変造」に分別することができます。
偽造とは、権限のない者が、他人名義の文書を作成することです。このような行為は、「文書の名義人」と「文書作成者の人格」が本来なら別人であるところを、同一であるかのように偽るという点で、犯罪とされます。
変造とは、内容を変更する権限のない者が、すでにある文書の非本質的部分に手を加えて内容を改ざんして、新たな証明力を作り出すこと、とされています。
なお、改ざん行為であっても、文書の本質的部分を変更することで新しい証明力を作り出した場合には、変造ではなく偽造にあたります。
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2、公文書と私文書の違い
公文書とは、公的機関や公務員が、職務に関し、所定の形式に従って作成すべき文書のことです。公務員が作成したものでもあっても、友人宛の手紙や退職願のように公務とは関係のないものは、公文書ではありません。
公文書の具体的な例としては、以下のようなものがあります。
- 住民票、戸籍謄本
- 課税証明書・所得証明書
- パスポート
- 運転免許証
- 裁判の判決書
- 公証人が作成した文書
公文書は、私文書と比較して信用性が高く、信用性を保護する必要も大きい文書です。そのため、公文書の捏造は、私文書の捏造よりも厳しく処罰されます。
私文書とは、権利・義務に関する文書、もしくは事実証明に関する文書のことになります。
権利・義務に関する文書とは、法律上の権利・義務の発生・変更・消滅・存続の効果を発生させる文書のことを指します。事実証明に関する文書とは、実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書のことです。
私文書の例は、以下の通りです。
- 領収書
- 源泉徴収票
- 契約書
- 郵便局への転居届
- 私立大学入試の答案
- 就職・転職のための履歴書
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3、文書偽造が成立する行為
どのような行為をすると文書偽造の罪が成立するのか、犯罪名ごとに、解説いたします。
また、文書捏造が問題とされる事例は、私文書が対象であることが大半です。そのため、私文書偽造の問題を中心に、解説いたします。
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(1)有印私文書偽造罪、有印私文書変造罪
「行使の目的」で、他人の印章や署名を使用して私文書を偽造・変造する行為は、「有印私文書偽造罪」または「有印私文書変造罪」にあたります(刑法第159条1項、2項)。
「行使の目的」とは、偽造・変造された文書が「本物であり正しい文書」だと他人に誤信させる目的のことを指します。
たとえば就職先へ提出するために、他人の卒業証明書を自分名義に書き換えた場合には、行使の目的があると見なされるのです。
「有印私文書偽造・変造罪」は、行使の目的で文書を作成した時点で成立します。作成した文書を実際に行使した場合は、刑法第161条1項の「行使罪」として処罰されることになるのです。
有印私文書偽造罪、有印私文書変造罪の罰則は「3か月以上5年以下の懲役」です。罰金刑などはないため、有罪になれば、執行猶予がつかない限り刑務所へと収監されます。 -
(2)無印私文書偽造罪、無印私文書変造罪
印章または署名のない私文書を偽造・変造する犯罪は、「無印私文書偽造罪」または「無印私文書変造罪」にあたります(刑法第159条3項)。無印文書であっても、一般の人が見て真実だと誤信するような内容の文書を作成する行為は、処罰の対象となるのです。
無印私文書偽造罪、無印私文書変造罪の罰則は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。無印文書は有印文書よりも社会的信用度が低いため、偽造罪や変造罪の法定刑も軽くなっているのです。 -
(3)電磁的記録不正作出罪、電磁的記録供用罪
コンピューターで作成された記録は、法律的には意味での「文書」にはあたりません。しかし、近年になって公的機関や民間での事務処理が大幅にコンピューター化されたことを受けて、電磁的記録を刑法で保護する必要性が認識されるようになりました。
そのため、新たに設けられた刑罰が、電磁的記録不正作出、または電磁的記録供用罪となります(刑法第161条の2)。
電磁的記録の例としては、以下のようなものが挙げられます。- プリペイドカードの残高記録
- 顧客データベースファイルの記録
不正作出罪とは、他人が行う事務処理を誤らせる目的で、権利・義務または事実証明に関する電磁的記録を不正に作った場合に問われる罪です。
電磁的記録供用罪は、不正に作られた電磁的記録を、他人が行う事務処理を誤らせる目的で使用することが可能な状態にしておく罪です。
どちらの罪状でも、罰則は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」となります。
ただし、電磁的記録が公的機関や公務員が作成するべき公的な記録であった場合には、罪状は「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」と重くなるのです。
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4、文書捏造で詐欺罪が成立する場合とは?
文書捏造は、刑法第246条の詐欺罪に問われる可能性もあります。
詐欺罪とは、人を欺いて財産を交付させる、または財産上の不法の利益を得る犯罪です。そのため、捏造した文書を使って相手をだまして、それによって財産や利益を得た場合には、詐欺罪が成立する可能性があるのです。
文書捏造が詐欺罪となる可能性がある例としては、次のようなものがあります。
- 住宅ローンの契約申請時に源泉徴収票を改ざんして提出し、契約を結んだ
- 他人名義の通帳と印鑑を使って銀行で払戻証書を作成し、預金を引き出した
- 他人の健康保険証を借りて病院に行き、問診表に記載のうえ受診した
詐欺罪は重罪であり、その罰則は「10年以下の懲役」となっています。
また、ひとつの行為によって文書偽造の罪と詐欺罪の両方が成立した場合には、より重いほうの罰則が適用されるのです(刑法第54条1項)。
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5、文書捏造の罪に問われたら弁護士に相談するべき理由
公文書や私文書を偽造・変造する罪は、最長で10年の懲役が科される可能性のある、重罪です。
そのため、これらの罪に問われた場合には、速やかに弁護士に相談して、対処する必要があるのです。
対処の方法は罪を問われている状況によって異なりますが、具体的には、以下のような方法があります。
先述した通り、公文書および私文書偽造罪が成立するためには「行使の目的」が必要とされます。そのため、これらの罪に問われたときには、「行使の目的はなかった」ということを客観的な事実をもとに主張することで、無罪を訴えられる可能性があります。
罪を認めざるをえない場合にも、捜査への協力や贖罪寄付などの行動によって深い反省を示す、またはご家族に監督を誓約してもらい再犯のおそれがないことを示すといった方法で、起訴猶予(不起訴処分)や執行猶予つき判決の獲得を目指せる可能性があります。
また、文書偽造の罪は直接的な被害者がいないケースも多い犯罪ではありますが、もし無断で名義を使われた人や詐欺罪が関係する場合には、その被害者と示談をするとう方法もあります。
示談が成立すると、その事実を検察官・裁判官が考慮して、不起訴処分や刑の減軽につながる可能性が存在するのです。
ただし、被害者は加害者への嫌悪感情などから直接の示談交渉を拒む事例が多くなっております。弁護士に依頼すれば、被害者と加害者との間に入り、示談交渉を進めてもらうことができます。
偽造の事実を否認している場合でも、認めている場合でも、弁護士に相談することで、有効な対処を実施することができるのです。
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6、まとめ
他人の名義を無断で使用して契約書にサインをするなどの行為は、文書偽造の罪にあたりえます。また、文書捏造により相手方をだまして財産や利益を交付させた場合には、詐欺罪が成立する可能性もあります。いずれの犯罪にも重い罰則が設けられており、有罪になった場合の影響は計り知りません。
もし文章捏造の罪に問われた場合には、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にまでご相談ください。問われている罪の状況を考慮した有効な対処策を提案して、重たい刑罰を回避・軽減するために弁護士が尽力いたします。
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