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在宅起訴と通常の起訴は何が違う? 在宅起訴でも前科はつく?
刑事事件の被疑者になると、逮捕・勾留されたうえで警察や検察官から取り調べを受け、定められた期間までに起訴・不起訴が決定するというのは、一般的によく知られている流れでしょう。
一方で、被疑者になったが逮捕・勾留されずに、起訴・不起訴が決定する場合もあります。身柄を拘束されずに起訴される場合を「在宅起訴」といいますが、具体的にはどのような起訴手続きを指すのでしょうか?
このコラムでは、在宅起訴をテーマに、通常の起訴との違いや在宅起訴となるケース、起訴された後の流れなどについて解説します。
1、在宅事件、在宅起訴の定義
在宅事件において、在宅のまま起訴することを「在宅起訴」といいます。といっても、在宅事件とはどのような事件なのか、そもそも起訴とは何かなど不明な点も多いはずです。まずは定義を解説しましょう。
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(1)在宅事件の意味
在宅事件とは、刑事事件の被疑者が、捜査機関に身柄を拘束されないまま捜査を受ける事件を指します。一般的に「刑事事件を起こすと逮捕される」と認識している方が多いかもしれません。しかし、逮捕されないまま捜査を受けるケースのほうが多いのが実情です。
令和元年版犯罪白書によれば、平成30年の全被疑者に占める身柄率(警察などで被疑者が逮捕されて身柄付きで検察官に送致された事件および検察庁で被疑者が逮捕された事件の割合)は36.1%でした。つまり、刑事事件を起こしても、身柄が拘束される割合は3分の1程度でしかありません。
在宅事件では、自宅から会社や学校に通うなどの日常生活を送りながら、捜査機関からの呼び出しがあればその都度応じ、取り調べを受けます。 -
(2)起訴の内容と種類
起訴とは、刑事事件において、検察官が裁判所の審判を求める意思表示のことです。被疑者が起訴されると呼び名が被告人に変わり、刑事裁判を受けることになります。
起訴には正式起訴と略式起訴の2種類があります。
正式起訴とは、公開の法廷での裁判を求めるための起訴手続きをいいます。起訴から初公判までは1~2か月の準備期間があり、判決がでるまでに複数回の審理を経る場合もあります。重大事件で被告人が否認している場合には、判決まで数年かかるケースもめずらしくありません。
略式起訴とは、公開による裁判を求めず、書類のみの審理で終わらせるための簡略化された起訴手続きをいいます。略式起訴されると、2週間前後で裁判の判決にあたる略式命令が届くため、正式起訴と比べて早期に事件が終結します。 -
(3)在宅起訴の定義
以上を踏まえると、在宅起訴とは、被疑者の身柄を拘束しない状態で検察官が裁判所の審判を求める手続きということです。正式起訴、略式起訴のいずれかが選択されます。
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2、在宅事件の特徴
在宅事件・在宅起訴について、さらに詳しく見ていきましょう。身柄事件との違いも含めて解説します。
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(1)身柄事件との違い
身柄事件とは、刑事事件の被疑者が、逮捕・勾留により身柄を拘束された状態で捜査を受ける事件のことです。身柄が留置場または拘置所にとめおかれ、必要に応じて取調室で取り調べを受けます。
逮捕・勾留は被疑者の身体の自由を奪う強力な手続きなので、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合など、その必要性がある場合にのみ認められます。
在宅事件と身柄事件は、身柄を拘束されているか否かという点が大きく異なります。身柄事件では逮捕から起訴までの最長23日間に加え、起訴後も裁判まで身柄拘束が続きます。この間は生活や外部との連絡に著しい制限がかかるため、精神的な負担も大きいでしょう。在宅事件ではこのような制限や負担がありません。 -
(2)私生活への影響が少ない
在宅事件の大きな特徴は、身柄を拘束されないため、私生活への影響が少なく済むことです。
捜査中の取り調べや起訴後の裁判に際して自宅から出頭すればよく、職場や学校に通うことも、毎日家族とともに暮らすこともできます。長期の身柄拘束を受けると解雇や退学などの不利益を被る場合がありますが、在宅事件ではその危険を大きく下げられるでしょう。
私生活への影響が少ないことは、被疑者や家族にとって極めて重要です。したがって身柄を拘束された場合には、逃亡や証拠隠滅のおそれがない旨を主張し、身柄の釈放を求める必要があります。 -
(3)有罪になると前科がつく
在宅事件でも身柄事件と同様に、起訴されて有罪になれば前科がつきます。正式起訴、略式起訴のいずれの場合であっても変わりません。
正式起訴の場合は裁判で裁判官が有罪・無罪を判断するため、有罪判決を言い渡されると前科がつきます。略式起訴の場合は被疑者が罪を認めて同意することが前提条件なので、略式命令に不服があって正式裁判を請求するなどしない限り、略式起訴をもって有罪判決が下されることはほぼ間違いないといえるでしょう。
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3、在宅起訴となるケース
どのようなケースで在宅起訴となるのか、その条件を見ていきましょう。
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(1)逃亡のおそれがないケース
在宅起訴は捜査機関による直接の監視から離れ、自宅で日常生活を送りながら起訴される手続きなので、採用されるには逃亡のおそれがないことが大前提です。
逃亡のおそれがあるかどうかは、職業や家族との同居状況、前科前歴や示談の有無、罪の認否状況など複数の観点から判断されます。たとえば定職があり家族と同居している場合には、その環境を捨ててまで逃亡する利益が低いことから、逃亡のおそれが低いとみなされやすいでしょう。 -
(2)証拠隠滅のおそれがないケース
共犯者と口裏をあわせる、事件の証人に危害を加えるなどして証拠隠滅を図るおそれがないことも在宅起訴の条件です。
証拠隠滅のおそれがあるかどうかは、共犯者や余罪の有無、証拠品の押収状況、罪の認否状況などさまざまな要素をもとに判断されます。たとえば共犯者が存在せず、すでに有力な証拠品が押収されていれば、証拠を隠滅しようにもできないため、証拠隠滅のおそれは低いと判断されやすいでしょう。 -
(3)軽微な事件であるケース
在宅起訴は、痴漢や盗撮など比較的軽微な事件で採用されるケースが多く、殺人や強姦などの重大事件ではほとんど採用されません。このような重大事件では重い量刑が予想されることから、逃亡や証拠隠滅を図るおそれが高いためです。
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(4)逮捕・勾留されていないケース
逃亡や証拠隠滅のおそれが高いと、そもそも逮捕・勾留されて身柄事件となります。したがって逮捕・勾留されていないことも在宅起訴の条件といえるでしょう。
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4、在宅起訴に関する専門用語
ここで、在宅起訴に関連する用語について解説します。混同しやすい用語なので整理してみましょう。
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(1)書類送検
書類送検とは、捜査の主体が警察から検察官へと変わる際の手続きを指す用語です。メディアなどでは書類送検と呼んでいますが、正しくは送致といいます。
身柄事件で被疑者を逮捕した警察は、48時間以内に取り調べを実施した後、検察官へ被疑者の身柄と捜査書類を送ります。この手続きが送致です。書類送検は逮捕されない在宅事件における送致を指すものであり、捜査書類のみが警察から検察官へと送られ、捜査の主体が移ります。
ただし、在宅事件では、身柄事件における送致のように48時間以内という時間制限はありません。いつ書類送検されるのかは分からないわけです。
身柄事件でも在宅事件でも、被疑者は原則として送致されます(刑事訴訟法第246条)。身柄事件では身柄と書類が、在宅事件では書類のみが検察庁へ送られるのであって、在宅事件の送致(書類送検)が特別なものというわけではありません。 -
(2)略式手続き
略式手続きとは、検察官の請求により、簡易裁判所が公判手続きによらず「100万円以下の罰金または科料」を科す手続きのことです(刑事訴訟法第461条~470条)。略式手続きが採用されると、正式な裁判が開かれず書類のみで審理されます。
対象となるのは、100万円以下の罰金や科料に相当する比較的軽微な事件です。懲役・禁錮や死刑が予定される重大事件で略式手続きが選択されることはありません。
また、被疑者本人が罪を認めて同意することが必要なので、軽微な事件でも否認していれば対象になりません。 -
(3)略式起訴
検察官が略式手続きを請求するための手続きが、略式起訴です。すべての事件で通常の起訴手続きがとられると、裁判所の人員や時間がいくらあっても足りません。そこで、軽微でかつ被疑者の自白と同意があるものに限り、簡易迅速的に事件を終結させるために認められるのが略式起訴です。
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(4)略式命令
略式命令とは、略式手続きで簡易裁判所が発する命令をいいます。正式裁判における判決にあたると考えればよいでしょう。100万円以下の罰金または科料を超える命令がくだされることはありません。
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5、在宅起訴の流れ
ここからは在宅起訴の流れを見ていきましょう。正式起訴されたケースを中心に解説し、章の最後には略式起訴されたケースについても触れています。
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(1)裁判所から書類が届く
まず裁判所から自宅などに、「起訴状謄本」と「弁護士選任に関する回答書」が送られてきます。在宅事件では身柄事件のように起訴までの期限がないためいつ起訴されるか予測できませんが、この書類が届くことで起訴されたと分かります。
起訴状謄本とは起訴状の写しを指し、起訴状とは検察官が起訴に際して裁判所へ提出する書類を指します。被告人の年齢や住所、公訴事実や罪名などが記載されています。
被疑者は起訴状謄本をよく読み、記載された事実を認めるのかそれとも否認するのかを確認しなければなりません。
弁護士選任に関する回答書とは、裁判所が被告人に対し、今後の裁判手続きで弁護士を選任するのかしないのか、する場合はどの弁護士(私選か国選か)を選任するのかを尋ねるための書類です。 -
(2)弁護人選任に関する回答書に返答する
事件には必要的弁護事件と任意的弁護事件の2種類があり、罪を問われている事件がどちらなのかによって、「弁護士選任に関する回答書」の質問事項や今後の対応が異なります。どちらの事件なのかは、回答書に記載されています。
- 必要的弁護事件……法定刑が死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁錮にあたる事件で弁護人がいなければ開廷できない事件(刑事訴訟法第289条1項)
- 任意的弁護事件……必要的弁護事件以外の事件
必要的弁護事件の場合は、弁護士がいなければ裁判を受けられないため、私選弁護人を選任する場合を除き、裁判所が職権で国選弁護人を選任します。
任意的弁護事件の場合は、弁護士をつけないまま裁判を受けることができます。ただし自身の権利を守り、事務手続きの負担を軽減するためには弁護士のサポートが重要なので、弁護士を選任する被疑者が大半です。
また、任意的弁護事件で国選弁護人を選任する希望がある場合、資力が50万円に満たなければそのまま国選弁護人の選任を請求できますが、資力が50万円以上の場合はいったん弁護士会に私選弁護人選任の申し出をおこなう必要があります。
この場合、国選弁護人の選任請求ができるのは、弁護士会から私選弁護人の紹介を受けられなかったなどの事情があるときに限られます。
資力に関しては資産の合計額や内訳を記載する「資力報告書」の提出が必要です。任意的弁護事件では起訴状謄本などとあわせて送られてくるため、国選弁護人を選任したい場合はこちらも作成しましょう。 -
(3)裁判にむけての準備をする
裁判にむけての準備をします。選任した弁護士が証拠書類の開示や精査をおこない、これをもとに被告人も弁護士と裁判の打ち合わせをすることになるでしょう。状況に応じ、裁判で有利な証言をしてくれる証人との打ち合わせも必要です。
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(4)刑事裁判が開始される
在宅起訴から1~2か月後に1回目の裁判が開かれますが、裁判がいつ終わるのかは事件の内容や弁護士と確認した方向性(自白か否認か)などによって変わってきます。
自白事件で執行猶予が見込まれるような事件であれば1~2回の裁判を経て判決にいたる可能性がありますが、否認事件や複雑な事件では判決にいたるまでに数年かかることもあるので、長期戦を覚悟することになるでしょう。 -
(5)略式起訴の流れ
略式起訴の場合は、書類送検の後に検察官から呼び出しがあり、略式手続きについての説明を受けます。被疑者本人が同意し、申述書に署名・捺印すると、検察官が簡易裁判所へ略式手続きの開始を請求します。
その後はおよそ2週間で、裁判所から犯罪を認定する旨と罰金または科料の金額が記載された書面が特別送達されてきます。罰金や科料を支払えば書面のみで手続きが終わり、被疑者が裁判所に出頭する必要はありません。
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6、在宅事件で弁護士ができること
在宅事件では普段どおりの生活を送ることが許されるため、罪を問われている立場であるという意識が薄れ、弁護士をつけるのが遅くなるケースがあります。少しでも有利な結果を望むなら、事件の被疑者となった段階で速やかに弁護士のサポートを得ることが大切です。
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(1)不起訴処分にむけた弁護活動
在宅事件であっても起訴される可能性は十分にあり、起訴されれば統計上99%以上の確率で有罪判決が下されます。有罪になれば前科がつき、今後の社会生活へおよぼす影響が多大となるため、不起訴処分を目指すことが大切です。
不起訴処分にむけた活動には、弁護士が検察官へ情状を主張する、被疑者が謝罪文を作成する、性依存や窃盗症の場合は治療するといったものがあります。何が有効かは事件によって異なるため、弁護士と相談しながら進めるのがよいでしょう。 -
(2)取り調べや在宅期間中の行動に関するアドバイス
在宅事件でも捜査機関から呼び出しがあれば取り調べを受けますが、供述内容によっては自身に不利にはたらく場合があるため、取り調べに関するアドバイスが必要です。
また日常生活の中でも不用意な行動をとれば逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとみなされ、身柄事件に切り替わる可能性があります。何に注意して過ごせばよいのかについても弁護士のアドバイスが必要でしょう。 -
(3)示談交渉
被害者がいる事件では、被害者との示談が成立していれば不起訴処分が下される可能性が高まります。
在宅事件でかつ被害者の連絡先を知っている場合は、物理的には被害者と接触を図ることも可能ですが、被疑者がそのような行動をとれば被害者の処罰感情を高め、あるいは証拠隠滅のおそれありとみなされるでしょう。弁護士に示談交渉を依頼するのが賢明です。
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7、まとめ
逮捕・勾留されたまま起訴されるケースと異なり、在宅起訴は日常生活への悪影響を抑えられます。ただし、在宅起訴であっても有罪判決が下る可能性は十分にあり、そうなれば前科もついてしまいます。
これを回避するためには、できるだけはやいタイミングで弁護士へ相談し、サポートを得るべきでしょう。在宅起訴される前に動きだすことで、不起訴処分の可能性も高まります。
ご自身やご家族が刑事事件の被疑者となり、在宅事件として扱われている場合には、ベリーベスト法律事務所へご連絡ください。刑事事件の経験豊富な弁護士が、不起訴処分や刑の減軽にむけて力を尽くします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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