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被疑者の勾留と被告人の勾留の違いは? 釈放や保釈を求めるには
令和元年10月、当時の法務大臣が、妻の選挙戦において選挙スタッフに法定の上限額を超える報酬を手渡していたと週刊誌で報じられたことをきっかけに、大規模な買収が発覚しました。夫婦は令和2年6月にそろって逮捕されたのち、7月には公職選挙法違反の疑いで起訴され、被告人として勾留されました。
連日のようにマスコミに取り上げられ、夫婦の処遇には注目が集まりましたが、報道のなかで「勾留」や「保釈」といった法律用語が多く飛び交い、詳しく状況を理解できなかったという方もいらっしゃるでしょう。
このコラムでは「勾留」についての概要や、被疑者段階での勾留と被告人段階での勾留の違い、釈放・保釈を求めるための活動についてもあわせて弁護士が紹介します。
1、勾留と拘留の違いとは
まず、「勾留」は「こうりゅう」と読みます。ここで紛らわしいのが、同じ読み方の「拘留」です。まずは「勾留」と「拘留」の違いについて確認しておきましょう。
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(1)勾留とは
勾留とは、犯罪の被疑者や被告人の身柄を、警察署の留置場や拘置所などに拘束する措置をいいます。あくまでも捜査の実効性や刑事裁判を維持するための身柄措置であり、懲罰としての性格はありません。
自由な行動は大幅に制限されるため、外出や連絡などは認められず、施設内で決められた日課時限を遵守することになりますが、ドラマや映画で描かれるような劣悪な監獄に閉じ込められるわけではありません。食事や睡眠などは当然に確保されており、被疑者・被告人としての人権が守られています。
拘留と区別するために、漢字の「勾」の部首に注目して「かぎこうりゅう」とも呼ばれています。 -
(2)拘留とは
拘留とは、刑事罰のひとつです。30日未満の期間で刑事施設に収容される刑罰で、言い換えれば「短期間の懲役」と同じようなものだといえます。
ただし、拘留では懲役のように刑務作業が課せられるわけではありません。基本的には独房で正座またはあぐらで座り続けることになりますが、希望があれば刑務作業への従事も認められています。
こちらも、漢字の「拘」の部首に注目して「てこうりゅう」と呼ばれます。
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2、勾留に該当する要件とは?
「勾留」を受けるのは、次の3つの要件をすべて満たした場合です。
- 犯罪の嫌疑があり勾留請求の手続きが適法であること
- 勾留の理由があること
- 勾留の必要があること
それぞれの要件について確認していきましょう。
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(1)犯罪の嫌疑があり勾留請求の手続きが適法であること
「犯罪の嫌疑がある」とは、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合をいいます。明らかに有罪であるとまでの確証はなくても、罪を犯したことが相当程度の可能性をもって認められれば足りるとされています。
ただし、いくら罪を犯した可能性が高いとはいえども、勾留請求までの手続きに違法があれば勾留が認められるわけにはいきません。
警察の逮捕に違法がないか、逮捕から検察官への送致までの時間制限が守られているかといった手続きが適法のもとにおこなわれている場合は、勾留請求も適法であるとされます。 -
(2)勾留の理由があること
「勾留の理由」は刑事訴訟法第60条に明示されています。
- 被疑者が定まった住居を有しないとき
- 被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- 被疑者が逃亡しまたは逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
なお、同条は被告人に対する勾留の理由を規定していますが、刑事訴訟法第207条1項の定めに従い、被疑者にも準用されます。
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(3)勾留の必要があること
対象となっている事案の軽重や捜査の進展状況などから「勾留の必要がある」と認められる必要があります。勾留による利益と勾留によって生じる不利益を比較したとき、不利益のほうが著しく大きい場合は「勾留の必要性がない」と判断されます。
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3、被疑者として勾留される場合の流れ
一般的な刑事事件の流れのなかで最初に勾留を受けるのは「被疑者」としての段階です。被疑者として勾留される場合の流れを確認しましょう。
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(1)被疑者とは
「被疑者」とは、犯罪の疑いがある人を指す言葉です。警察や検察官の捜査対象になっている段階であり、刑事裁判の被告人として起訴されていない人を指して使われます。
ニュースなどでもよく耳にする言葉に「容疑者」がありますが、被疑者と容疑者はほぼ同じ意味です。ただし、刑事訴訟法などでは被疑者と表記されているため、被疑者は法律用語、容疑者はマスコミなどのメディア用語として使い分けられています。 -
(2)被疑者として勾留されるまでの流れ
被疑者として勾留されるのは、犯罪の被疑者として逮捕されたあとです。一般的には、第一次捜査権をもつ警察が被疑者を逮捕し、48時間以内に被疑者の身柄と関係書類を検察官へと送致します。
送致を受けた検察官は、さらに被疑者を取り調べたうえで起訴・不起訴を判断しますが、多くの場合、この段階では捜査が尽くされていないので判断材料が足りません。そこで検察官は、裁判官に対して身柄拘束の延長を求めることがあるのです。これを「勾留請求」といいます。
裁判官が勾留を認めた場合、原則として勾留請求の日から10日間まで身柄拘束が延長されます。また、捜査の進捗状況によっては、さらに10日間までの延長も可能です。
つまり、最初の勾留請求の日からから延長までを含めると、最長で20日間の身柄拘束を受けることになります。
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4、被告人として勾留される場合の流れ
刑事事件が進行していくと、被告人としても勾留されることがあります。被告人として勾留される場合の流れも確認しておきましょう。
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(1)被告人とは
被告人とは、検察官によって起訴され、刑事裁判を提起された立場の人を指す言葉です。罪を問われて刑事裁判にかけられている段階にあるため、被疑者よりもさらに一段階進んだ状態にあるといえるでしょう。
被告人とよく似た用語として「被告」があります。被告とは民事裁判で訴えられる側の方のことを指す用語なので、混同しないように注意しましょう。 -
(2)被告人として勾留されるまでの流れ
被告人として勾留されるのは、刑事裁判の被告人になったときです。
警察に逮捕され、検察官の請求によって被疑者としての勾留を受けていた場合は、起訴後もそのまま被告人としての勾留が継続されるのが一般的です。
また、逮捕されずに在宅のままで捜査を受けて起訴された場合でも、正当な理由なく指定された期日に裁判所へ出頭しないなどの理由があれば、「勾引」による身柄拘束を受けるおそれがあります(刑事訴訟法第58条)。
被疑者としての勾留と被告人としての勾留のもっとも大きな違いは「保釈」の可否です。被告人として勾留された場合は、一時的な身柄解放である保釈の請求が認められます。
保釈が認められれば、勾留による身柄拘束が解除されて在宅の状態で刑事裁判を受けることが可能です。家族とともに生活し、会社や学校へと通うことも許されるので、素早い社会復帰を目指すなら保釈の機会を有効に活用するべきでしょう。
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5、被疑者の釈放が認められるには
被疑者として逮捕・勾留を受けている段階では、保釈を請求することはできません。ただし、検察官が起訴・不起訴を判断するまでの間に、何度か「釈放」が期待できるタイミングがあります。
- 逮捕後に別の真犯人が逮捕され、容疑が完全に晴れて釈放された
- 警察の逮捕手続きに違法があったため釈放された
- 逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されて、検察官が勾留請求しなかったため釈放された
- 検察官の勾留請求を裁判官が却下して釈放された
- 検察官が「罪を問う必要はない」と判断して不起訴処分を下し釈放された
犯罪の嫌疑が消えうせた、逃亡や証拠隠滅といった勾留の理由がなくなった、被害者との示談が成立して勾留の必要性がなくなったなど、身柄を拘束するための要件がなくなった場合は釈放されます。
釈放は、条件付きの一時的な身柄解放である保釈とは異なり、同じ理由で再び身柄拘束を受けることはありません。
ただし、釈放によって事件が完全に終了することがあれば、単に身柄拘束の理由や必要性がないため任意の在宅捜査に切り替えられただけのケースもあります。釈放が刑事事件のゴールだとも言い切れないでしょう。
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6、被告人の保釈が認められるには
刑事事件の被告人となった場合は、保釈の請求が可能です。
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(1)保釈とは
保釈とは、刑事訴訟法の規定に基づき、刑事裁判の被告人が受ける勾留を一時的に解除する手続きです。
わが国の法制度では、刑事裁判において有罪判決が下されない限り、誰もが「犯人だ」とは決めつけられない権利があります。これを「推定無罪の原則」といいます。
つまり、検察官に起訴された段階でも、刑事裁判が進行している最中も、有罪判決が下されていない限りは、身柄拘束による不利益はできる限り解消されなければなりません。そこで、被告人の社会生活を維持・調整すると同時に、一定の条件を付することで、刑事裁判への確実な出頭を確保するのが保釈制度です。 -
(2)保釈の要件
保釈は、被告人本人や配偶者、弁護人などからの請求によっておこなわれます。裁判所は、権限をもつ者からの保釈請求を受けた場合、一定の重罪や逃亡・証拠隠滅などのおそれがない限り、原則としてこれを認めなければなりません。
また、保釈が認められるには、裁判所に保釈保証金の納付が必要です。保釈保証金は、被告人の経済力や想定される刑罰の重さによって決まりますが、条件どおりに刑事裁判を受けた場合は、たとえ有罪判決を受けたとしても全額が返還されます。
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7、勾留に対する弁護活動とは
刑事事件を起こして勾留を受けた場合は、ただちに弁護士に依頼のうえで必要なサポートを受けましょう。
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(1)勾留請求・勾留決定を阻止する
刑事事件の被疑者として勾留されないためには、検察官の勾留請求および裁判官の勾留決定を阻止する必要があります。たとえば、適切な身元引受人を用意する、弁護士の意見書を提出するなどの方法で、勾留請求・決定を回避できる場合があります。
被害者のいる事件では、被害者との示談交渉を進めるのも有効です。被害者との示談が成立していれば、あえて逃亡や証拠隠滅を図るおそれが低いと考えられるからです。
とはいえ、犯罪の被害者は被疑者に対して強い怒りや嫌悪感を抱いているおそれがあります。公正中立な第三者である弁護士に交渉を一任することで、円滑な示談交渉が期待できるでしょう。 -
(2)勾留の取り消しを求める
いったん勾留が決定した場合でも、勾留を取り消す請求が認められた場合は勾留が解除されます。
弁護士に依頼すれば、勾留取消請求に向けた手続きのサポートが受けられます。裁判官に勾留取消請求を認めてもらうためには、勾留の理由や必要性がないことや、勾留請求が不当であることを証明しなければなりません。個人での対応は困難なので、弁護士のサポートは必須でしょう。 -
(3)保釈を請求する
検察官に起訴されてしまうと、引き続き被告人として勾留を受けることになります。弁護士に依頼して、ただちに保釈請求に向けたサポートを受けましょう。
保釈には権利保釈、裁量保釈、義務的保釈の3種類があります。原則として認められるべき権利保釈が認められない場合でも、弁護士からの請求があれば裁量保釈の適用が検討される可能性が高まります。
また、不当に長い勾留を受けていたケースでは、弁護士が主張することで義務的保釈が認められる可能性もあるでしょう。
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8、まとめ
被疑者として勾留されても、刑事手続きの流れのなかで釈放を受ける機会が何度もあります。また、被告人として勾留された場合でも、保釈を請求することで身柄が解放され、日常生活を送りながら刑事裁判を受けられる可能性があります。
ただし、釈放・保釈を個人だけの対応で実現するのは困難です。なるべく早く弁護士に相談されることをおすすめします。
被疑者・被告人として勾留を受けたことで釈放や保釈を求めるなら、刑事事件の弁護実績が豊富なベリーベスト法律事務所におまかせください。
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ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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