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控訴とは? 上告との違いや流れ、弁護活動において求めたいもの
刑事事件では、ひとつの事件について3回までの裁判を受けることができる「三審制」が採用されています。そのなかでも、第一審の判決に対して不服がある場合の申し立てが「控訴」です。
令和元年版の犯罪白書によると、平成30年中におこなわれた控訴審の申し立ては5710件で、うち576件が第一審の判決を破棄する結果となっています。第一審の有罪判決が覆されて無罪となった事件は31件です。数字としては決して多くはありませんが、第二審に訴える意義は十分にあるといえるでしょう。
このコラムでは「控訴」について、控訴の意味や流れ、控訴審における弁護活動や控訴に関するポイントなどを弁護士が解説します。
1、控訴とは
まずは「控訴」とはどのような手続きなのかを確認しましょう。
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(1)控訴とは
控訴とは、第一審の判決に不服を申し立て、上級の裁判所に対して新たな判決を求める手続きです。わが国の刑事事件は、ひとつの事件について3回までの裁判を受ける権利が認められており、控訴はそのなかの2回目にあたる裁判を求める手続きとなります。
刑事事件の第一審を担当するのは地方裁判所・簡易裁判所・家庭裁判所のいずれかです。
罰金以下の刑にあたる罪、選択刑として罰金が定められている罪、窃盗罪・横領罪・賭博罪などは簡易裁判所が裁判権を有し、少年審判・少年の福祉を害する事件は家庭裁判所が裁判権を有しています。そのほかの事件では、地方裁判所に裁判権があります。
これらの裁判所が下した判決に対して不服を申し立てる手続きが控訴です。刑事事件の控訴審は、裁判所法第16条1号の定めによって高等裁判所が裁判権を有しています。
刑事事件における控訴は、被告人または検察官がおこないます。さらに、第一審における弁護人や被告人の法定代理人、保佐人にも控訴が認められています。
第二審がおこなわれると聞くと「裁判のやり直し」をイメージするかもしれませんが、控訴審が審理するのは事件ではなく第一審の判決内容です。第一審の判決に誤りがないかがポイントとなるため、裁判所が必要としない限り、被告人の出頭は必要ありません。
ただし、裁判所が必要とした場合は、再度の取り調べや証人に対する事実確認もおこなわれます。 -
(2)上告との違い
控訴と同じような意味の言葉として、紛らわしいのが「上告」です。
上告とは、第二審の判決を不服として、第三審を求める上訴のことで、最高裁判所が裁判権を有します。
上告審が審理する対象も、やはり控訴審と同様に第二審の判決内容です。最高裁判所が上告を認めるのは、原則として第二審の判決が憲法違反または判例違反にあたる場合に限られています。
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2、控訴が認められるための要件
第一審の判決を不服とした控訴が認められるには「第一審の判決に誤りがある」という理由を主張する必要があります。控訴が認められるためには、刑事訴訟法第377条から第383条までに明記されている各要件に該当しなくてはなりません。
ここでは、控訴が認められるための要件を確認しましょう。
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(1)絶対的控訴理由とは
絶対的控訴理由とは、第一審における法令違反の程度が強いため、その違反が判決に影響したかどうかにかかわらず控訴を認めるものです。
刑事訴訟法第377条・第378条において、次の七つが掲げられています。- 法律に従つて判決裁判所を構成しなかったこと
- 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと
- 審判の公開に関する規定に違反したこと
- 不法に管轄または管轄違いを認めたこと
- 不法に公訴を受理し、またはこれを棄却したこと
- 審判の請求を受けた事件について判決をせず、または審判の請求を受けない事件について判決をしたこと
- 判決に理由を附せず、または理由にくいちがいがあること
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(2)相対的控訴理由とは
相対的控訴理由とは、刑事訴訟法第379条の規定に従い、絶対的控訴理由にあたらないものの、その違反が判決に影響をおよぼすことが明らかな場合を指します。つまり、その違反がなければ、第一審の判決は異なるものになっていた可能性が高い場合は、相対的控訴理由が認められます。
たとえば、被告人の自白のみを採用して犯罪事実を認定した場合のように、訴訟手続きに法令違反があった場合は相対的控訴理由に該当します。 -
(3)控訴が認められるための要件
絶対的控訴理由・相対的控訴理由にあたらない場合でも、刑事訴訟法第380条から第383条までの規定に該当する場合は、控訴が認められます。
●法令の適用に誤りがあった場合(刑事訴訟法第380条)
第一審の判決に、法律の解釈や適用の誤りがあった場合を指します。
●刑の量定が不当であった場合(同第381条)
第一審において言い渡された量刑が不当に重い、不当に軽い場合を指します。
●事実の誤認があった場合(同第382条)
第一審判決の事実認定に間違っている場合をいいます。
●再審請求が可能な事由があった場合(同第383条1号)
第一審において採用された証拠や証言が虚偽だった、有罪判決を受けた被告人の利益になる新たな証拠が発見されたなどの場合です。
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3、控訴審の終わり方は複数ある
刑事事件における第一審の判決には有罪・無罪の2種類しかありませんが、控訴審で下される結論の種類は複数あります。
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(1)第一審裁判所による控訴棄却決定
控訴申し立てが方式に違反している、控訴権が消滅したあとに控訴している場合は「控訴申立てに不備がある場合」に該当します。
また、控訴趣意書が期間内に提出されない、控訴趣意書に方式違反が認められる、あるいは疎明資料・保証書の添付がないなどの場合は「控訴趣意書に不備がある場合」にあたります。控訴趣意書に記載された申し立ての理由が、明らかに控訴理由にあたらない場合も同じです。
これらにあたる場合は控訴棄却の決定がなされます。 -
(2)控訴裁判所による控訴棄却判決
弁論を経て、控訴申立ての方式違反や控訴権消滅後の控訴が明らかになった、あるいは控訴理由が認められない場合は、控訴棄却の判決が言い渡されます。
また、控訴審の裁判所が第一審の判決に誤りがないとの結論を下した場合にも同様に控訴棄却の判決が言い渡されます。 -
(3)破棄判決
控訴理由が認められた場合、つまり第一審の判決に法令違反や誤りがあると認めた場合は、第一審の判決を破棄します。また、職権で第一審判決後に、刑の量定に影響する事情を取り調べた結果、「原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めた」(397条)場合には、原判決の破棄が可能です。
第一審の判決が破棄された場合、控訴審裁判所は、以下三つの手続きのうち、いずれかをしなければなりません。
●差し戻し
第一審を担当した原裁判所に事件を差し戻して審理させる手続きです。
●移送
事件を別の裁判所に移して審理させることを「移送」といいます。
●自判
第一審の原裁判所に差し戻さず、控訴審を担当した裁判所が自ら判決を下す手続きです。
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4、控訴するまでの流れ
控訴の申し立てから控訴が認められるまでの流れをみていきましょう。
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(1)控訴申し立ての期限
控訴を申し立てるには、第一審の判決を受けた日から14日以内に「控訴申立書」を第一審の裁判所に提出します。14日を過ぎてしまうと控訴できなくなるので、短い時間で控訴すべきか否かを判断する必要があります。
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(2)控訴趣意書の提出
控訴を申し立てると、高等裁判所から「控訴趣意書」の提出を求められます。提出までの期限はおおむね1か月です。
控訴趣意書とは、控訴を申し立てた者が、自己の主張である控訴理由をまとめて控訴審で争う内容を明示した書面です。刑事訴訟法において規定されている控訴理由を充足する内容でなければ認められないため、作成には非常に高い専門性が求められます。そのため、実際には控訴の申立人である被告人ではなく、弁護士が提出することになります。 -
(3)控訴を認めるかの判断
控訴審を担当する高等裁判所は、控訴する側から控訴趣意書の提出を受けると同時に、控訴された側からも答弁書の提出を受けます。控訴趣意書・答弁書の内容と、第一審の事件記録を検討したうえで、控訴を認めるかを判断します。
控訴が認められれば期日が指定されて公判が開かれますが、法令上の方式違反などがあれば控訴棄却決定が下されます。
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5、控訴審における弁護活動の目標
控訴審における弁護活動は「第一審の判決を破棄させること」が目標です。第一審のように、有罪・無罪を争ったり、処分の軽減を目指したりするわけではありません。
控訴審の審理において重きが置かれるのは控訴趣意書の内容です。つまり、控訴が認められるか否かは、控訴趣意書の内容によって左右されます。重大な法令違反などがない限り、控訴理由は「量刑不当」を主張することになるでしょう。
量刑不当には「1項破棄」と「2項破棄」があります。
1項破棄とは、第一審で下された量刑が重すぎて不当であると主張することです。一方の2項破棄では、第一審が下した量刑は否定せず、判決後に生じた被告人にとって有利な事情から第一審の量刑が重すぎると主張します。
たとえば、第一審の判決が下されたあとで被告人が被害者に謝罪のうえで賠償金を支払えば、ある程度の被害回復がなされたと判断されて被告人にとって有利な事情となり、2項破棄が期待できるでしょう。
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6、控訴審では弁護士の経験や実績が必要
控訴審は、第一審のように公判において主張を述べて事実や量刑を争う場ではありません。第一審の判決の破棄を実現するために有効な主張が求められるため、弁護士には第一審とは異なる経験や実績が必要です。
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(1)控訴審の経験は必須
弁護士になるためには、試験を突破し司法研修所で修習生としての研修を受けることになります。しかし、ここで控訴審の弁護活動を学ぶことはまずありません。
わが国の刑事事件は三審制を採用していますが、3度目のチャンスとなる最高裁での上告審は非常にハードルが高いため、逆転はほぼ望めないでしょう。つまり、第一審の判決を覆すためには、控訴審が事実上の最後のチャンスとなります。
控訴審の経験が少ない弁護士では最後のチャンスを無駄にしてしまうおそれがあるので、必ず控訴審の経験をもつ弁護士を選びましょう。 -
(2)控訴審の弁護に求められる能力
控訴審の弁護に求められる能力は、第一審の弁護活動とはまったく異なります。
控訴審の目的は「第一審判決の破棄」であり、出発点となるのは第一審の判決書です。弁護士には、判決書に記載されている内容を的確に分析し、事実認定が合理性や正当性を欠いている部分や重大な法令違反、法令の適用・解釈の誤りをあぶり出す能力が求められます。被告人にとって有利となる事情を証明するための証拠を的確にピックアップして提出する能力も必要でしょう。
また、弁護士の得意分野を知ることも重要です。刑事事件の控訴審であれば、民事事件を主に扱っている弁護士ではなく、刑事事件の経験が豊富な弁護士に依頼することをおすすめします。
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7、まとめ
わが国の刑事事件では三審制が採用されており、第二審となるのが「控訴審」です。ただし、控訴審では第一審のように公判で事実や量刑が争われるわけではなく、第一審判決の破棄を目標とします。地方裁判所や簡易裁判所で審理される第一審とは異なった弁護活動が必要なので、控訴審の弁護経験が豊富な弁護士を選任しないと、せっかくのチャンスを無駄にしてしまうおそれがあるでしょう。
控訴審の弁護活動には経験が必須です。第一審判決の破棄を目指すなら、控訴審の経験が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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