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逮捕状がなくても逮捕はできるの? 刑事事件における逮捕状の意義
犯罪事件のニュースを見ていると、被疑者について「警察が逮捕状をとった」と報道されることがあります。
たとえば、令和3年2月には、前年10月に会社員の男性の遺体が見つかった事件について、まず「警察が男女5人の逮捕状をとった」と報道され、同日中に「男女5人が逮捕された」と続報が報道されています。
このようなニュースを目にすると「警察が逮捕する際は必ず逮捕状が必要だ」と思われる方もいるかもしれませんが、実は逮捕状がなくても逮捕できるケースもあります。そのため、逮捕状が発付されていなからといって、必ず逮捕されないわけではありません。
このコラムでは「逮捕状」の意味や効力、逮捕の種別、逮捕されてしまったときにとるべき対策について、弁護士が解説します。
1、逮捕状とは
犯罪事件のニュースや刑事ドラマなどでは、たびたび「逮捕状」が登場します。逮捕状とはどのようなものなのでしょうか?
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(1)「逮捕」とは
「逮捕」とは、単に「犯人や被疑者を捕まえる」という行為を指すものではありません。一般的には、逮捕とは、警察・検察官が被疑者の逃亡および証拠隠滅を防ぐ目的で、強制的に身柄を拘束し、引き続き短時間その拘束を続けることを意味しています。
誤解されている方もいらっしゃるかもしれませんが、逮捕されたからといって「犯人だ」と断定されたわけではありません。逮捕は、あくまでも捜査上の必要から犯罪の容疑がかかっている人の身柄を拘束し、ひいては刑事裁判への出廷を確保して「犯人であるのか」を明らかにするための手続きです。 -
(2)「逮捕状」とは
逮捕状とは、裁判官が発付する令状のひとつです。原則として、逮捕は裁判官の判断によって許可されるものであり、逮捕状には、「被疑者を逮捕することを許可する」と書かれています。
逮捕状が発付されるのは、司法警察員または検察官からの請求を受けた場合です。逮捕状請求を受け付けた裁判官は、逮捕状請求書に添付された捜査資料に目を通し、必要があれば捜査官を呼び出したうえで面接して、逮捕状の要否を精査します。なお、実務上は、検察官が逮捕状を請求する割合は少なく、逮捕状の請求は、ほとんどが司法警察員によって行われています。
裁判官が逮捕を許可すると「逮捕状」が発付されます。原則として、有効期間は7日なので7日間の期限内に執行されなくてはなりません。
もし期限内に逮捕を執行できなかった場合、逮捕状は裁判所に返却する必要があります。継続して逮捕の許可を得るためには、再請求によってさらに期限の長い逮捕状の発付を受けなければなりません。 -
(3)逮捕状が発付された事実は知らされない
逮捕状の請求や発付は、捜査機関や裁判所の間で秘密裏に行われます。被疑者に対して逮捕に先立ち「◯日以内に逮捕状を請求する」「あなたを逮捕するための令状が発付された」と知らせることはありません。
そもそも、逮捕は逃亡・証拠隠滅のおそれがある場合に認められる強制手続きであるため、被疑者に対して、事前に逮捕状に関する情報を知らせてしまえば、逃亡・証拠隠滅を図るおそれが高まるからです。
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2、逮捕状に書かれている内容
逮捕状にはどのような内容が記載されているのでしょうか?
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(1)人定事項
逮捕状には、被疑者の人定事項が必ず記載されています。氏名・年齢・住居・職業は、逮捕状が逮捕を許可している対象人物を特定するための重要部分であるため、必須の項目です。
ただし、住居が定まっていない被疑者であれば「住居不定」、職業がはっきりとしない場合は「職業不詳」とされることもあります。 -
(2)被疑事実に関する事項
逮捕状は、必ず「どのような罪を犯したのか」が明記されています。罪名欄には「窃盗罪」や「覚醒剤取締法違反」といった具体的な罪名が記載されます。
また、いつ・どこで・誰に対して・どのような罪を犯し・どのような被害を与えたのかといった「被疑事実の要旨」も明記されますが、様式のなかに収まらない長さになるため別紙として添付されます。 -
(3)逮捕手続きに関する事項
逮捕状には有効期限があります。有効期限を過ぎた逮捕状は効果を失うため、裁判所に返還しなくてはなりません。
さらに「引致(身体の自由を拘束した者を強制的に連行する)すべき場所」として、逮捕後に連行すべき警察署も記載されます。通常は逮捕状を請求した警察署が引致先として指定されますが、遠隔地での逮捕も想定して「逮捕地を管轄する最寄りの警察署」という一文も併記されます。
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3、通常逮捕には逮捕状が必要
逮捕には三つの種別があります。この三つの関係については、並列的な関係であるという考え方もありますが、一般的には、通常逮捕が原則で、他の2つは例外であると考えられています。
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(1)通常逮捕とは
「通常逮捕」とは、刑事訴訟法第199条1項に定められた逮捕種別です。警察官・検察官・検察事務官のみに認められた逮捕で、被疑者が罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があるとき、裁判官が発付した逮捕状に基づいて執行されます。
日本国憲法第33条は、通常逮捕と現行犯逮捕について明文をもって認めています。
憲法第33条には「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」と明記されています。
つまり、憲法の定めに従えば、現行犯と令状による通常逮捕を除いては誰もが「逮捕されない」という権利をもっているため、逮捕状は通常逮捕が認められるために必須となるわけです。 -
(2)通常逮捕を受けるまでの流れ
通常逮捕を受けるまでの一般的な流れは次のとおりです。
- 被害者からの被害申告(被害届・告訴)
- 被疑者の特定・犯罪事実の裏付け捜査
- 逮捕状請求
- 逮捕状の発付
- 警察による逮捕
通常逮捕が執行されるケースでは、被害者からの被害申告によって警察が事件を認知し、各種の捜査が進められたうえで逮捕状が請求・発付されて逮捕にいたります。事件の発生から被疑者の逮捕までに時間がかかることから、通常逮捕のことを「後日逮捕」と呼ぶこともあります。
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(3)逮捕状が手元にない場合
逮捕状は、ひとつの事件について1通しか発付されません。すると、被疑者を発見した際に逮捕状が手元にないという事態も想定されます。
たとえば、逃走した被疑者を捜査員が手分けして捜索しているときや、全国に指名手配された被疑者が遠く離れた土地で発見されたときなどは、逮捕状なしで身柄を確保しなくてはなりません。
すでに逮捕状が発付されている被疑者については、手元に逮捕状がない場合でも、被疑事実の要旨とすでに逮捕状が発付されている旨を告げることで通常逮捕が可能です。これを「逮捕状の緊急執行」といい、逮捕後できる限りすみやかに逮捕状を示せば違法とはされません。
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4、逮捕状がなくても逮捕できるケースとは?
日本国憲法第33条の規定に従えば、逮捕は逮捕状に基づいてされるのが原則です。ただし、逮捕の種別のうち「現行犯逮捕」と「緊急逮捕」にあたる場合は、逮捕状を示すことなく逮捕が認められています。
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(1)現行犯逮捕が認められる場合
刑事訴訟法第213条は「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と定めています。これがニュースなどでもよく報じられる「現行犯逮捕」です。憲法も現行犯逮捕を認めています。
「現行犯人」とは、「現に罪を行い、または行い終わった者」を指します。また、次の四つにあたる場合は「準現行犯」として、現行犯人と同じ扱いを受けます。- 「泥棒!」と呼ばれて追いかけられているなど、犯人として追呼されているとき
- 犯罪の被害品や犯行に使用したと思われる凶器などを所持しているとき
- 血痕など、身体・被服に犯罪の顕著な証跡があるとき
- 「そこで何をしている」と声をかけられただけで逃走するなど、誰何(すいか)され逃走しようとするとき
現行犯逮捕は、刑事訴訟法第213条に明記されているとおり「何人でも」認められています。警察官・検察官に限らず、犯罪の被害者や目撃者でも逮捕が可能です。ただし、私人が現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを検察官または司法警察職員に引き渡さなければなりません。
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(2)緊急逮捕が認められる場合
逮捕状がなく、さらに現行犯ともいえない場合でも、刑事訴訟法第210条に掲げられた条件に合致する場合は「緊急逮捕」が認められています。緊急逮捕が認められるには、次の三つの条件を満たす必要があります。
- 死刑・無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足る十分な理由があること
- 急速を要し、裁判官に逮捕状発付を求める暇がないこと
- 逃亡・証拠隠滅のおそれがあること
これらの要件を満たした場合は、嫌疑が十分であること、急速を要していることを被疑者に告げたうえで緊急逮捕が可能です。なお、逃亡・証拠隠滅のおそれがあることは、緊急逮捕の明文上は要求されていないですが、要件として必要であると考えられています。
緊急逮捕の要件を満たしている場合は、逮捕状がない場合でも日本国憲法第33条に定める「令状主義」には反しないとされています。ただし、緊急逮捕を執行した場合は、直ちに逮捕状を請求し、発付を受けた逮捕状を被疑者に示す必要があります。もし裁判官が逮捕状請求を却下した場合は、直ちに被疑者を釈放しなくてはなりません。
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5、逮捕状の内容を確認した上で逮捕を拒否するとどうなる?
突然、自宅などに捜査員が訪ねてきて逮捕状を示されたとしても、身に覚えがない容疑であれば「やっていない」と反論して逮捕を拒みたくなるでしょう。しかし、裁判官が逮捕を認めて逮捕状が発付されている限り、逮捕は拒否できません。
その場で逮捕を拒否しても、逮捕手続き書に「罪を認めなかった」「やっていないと拒絶した」とその様子が記載されるだけで、逮捕は執行されます。
もし、逮捕状が発付されたことに対して不満や異議がある場合は、刑事裁判のなかで主張して違法性を争うことになるでしょう。また、逮捕が違法であると認められる場合には、逮捕によって生じた損害や精神的苦痛に対して国家賠償を求めることも可能です。
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6、逮捕後にすぐに釈放されるケースとは
警察に通常逮捕されても、すべての事件が刑事裁判にかけられるわけではありません。逮捕後すぐに釈放される可能性もあります。
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(1)検察官に送致されずに釈放されるケース
逮捕されても、すぐに別の真犯人が見つかるなど容疑が完全に晴れた場合は、検察官へと送致されずすぐに釈放されることがあります。また、警察官が逮捕状の有効期限が切れていることに気づかず逮捕状を執行したなど、逮捕手続きに誤りがある場合も、送致されずに釈放されます。
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(2)勾留を受けずに釈放されるケース
警察から被疑者の身柄を送致された検察官が「さらに被疑者の身柄を拘束して取り調べを継続する必要がある」と判断した場合は、検察官は裁判官に対し勾留(被疑者勾留)を請求します。請求を受けた裁判官は勾留の要件を満たしているか判断し、勾留状を発します。
被疑者勾留の期間は、請求の日から10日間ですが、やむを得ない事由があれば、裁判官は検察官の請求により、勾留期間を延長することができます。延長期間は、極一部の罪を除き、合計10日間を超えることができません。
反対に、検察官が勾留を請求しなければ、警察段階で48時間、検察官の段階で24時間の合計72時間で釈放されます。裁判官が勾留請求を却下した場合も同様です。
勾留が認められるのは、犯罪の嫌疑があり、かつ、定まった住居を有していない場合や逃亡・証拠隠滅を図るおそれがある場合です。また、勾留の必要がない場合も勾留は認められないので、勾留の必要も要件です。これらの要件を欠いた場合は勾留を受けないため、検察官の段階で釈放されることになります。 -
(3)不起訴処分が下されて釈放されるケース
勾留が決定した場合でも、検察官が不起訴処分を下せば即日で釈放されます。
検察官が不起訴処分を下すにはいくつかの理由がありますが、もっとも多く採用されているのが「起訴猶予」です。起訴猶予とは、犯罪が明白であり、有罪を勝ち取るだけの証拠がそろっていても、犯罪の軽重や情状などからあえて起訴しないとすることをいいます。
被害者との示談交渉が成立し、被害届や告訴が取り下げられたなどのケースでは、起訴猶予となって釈放される可能性が高いでしょう。
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7、なるべく早い釈放を実現するには?
逮捕状が発付された場合は、たとえ異議があっても逮捕を避けるのは困難です。逮捕されてしまうと最長23日間にわたる身柄拘束を受けたうえで、起訴されればさらに刑事裁判が結審するまで被告人としての身柄拘束が続きます。
身柄拘束が長期にわたれば会社からの解雇、学校からの退学といった不利益処分を受けてしまうおそれがあるため、早期釈放を目指すことが大切です。
刑事事件の被疑者として逮捕されてしまった場合は、直ちに弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。
被害者との示談交渉を進める、検察官に対して逃亡・証拠隠滅のおそれがない証拠を示して勾留請求しないよう求めるなどの活動により、検察官が勾留請求を避ける、あるいは不起訴処分を下す可能性が高まります。
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8、まとめ
逮捕状は、裁判官が「逮捕を許可する」と認めた場合に発付する令状です。
犯罪の容疑をかけられている人にとっては何らかの事情や反論できる材料があったとしても、裁判官が許可している以上は逮捕を避けることは困難でしょう。また、一定の要件を満たす場合は逮捕状がない状況でも逮捕が認められるケースがあるので注意が必要です。
逮捕による身柄拘束から素早い釈放を目指すには、弁護士のサポートが必須です。
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