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不退去罪に該当するケースとは? 住居侵入罪との違いについて解説
令和3年1月、大学入試が実施されていた会場で失格となった受験生の男が会場のトイレに立てこもり、「不退去罪」で現行犯逮捕される事件が起きました。
この事例のように、適法な理由で住居や施設などに立ち入ったとしても、退去の要求を受けてこれに応じなかった場合は、刑法で定める不退去罪が成立する可能性があります。
本コラムでは、不退去罪の成立要件や罰則などについて、不退去罪が成立しやすいケースを挙げながら弁護士が解説します。
1、不退去罪が成立する要件と法定刑
まずは不退去罪がどのような犯罪なのか、成立する要件や罰則について確認していきましょう。
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(1)不退去罪の法的根拠と罰則
不退去罪は、刑法第130条の後段に規定されています。法律の条文と法定刑は次のとおりです。
【刑法第130条】
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 -
(2)不退去罪の成立要件
不退去罪は、他人の住居や、他人が看守する邸宅・建造物・艦船を対象としています。これらの場所において、住人や管理者などから退去を求められたのにこれに応じなかった場合に成立する犯罪です。
ただし、行為者について「正当な理由」がある場合は不退去罪が成立しません。
たとえば、警察官による捜索差押えが実施されている現場において「帰ってほしい」と要求したとします。しかし、警察官は裁判官が法律に基づき許可した令状により適法に捜索差押えを実施しており(刑法第35条参照)、正当な理由が存在するため、処罰の対象ではありません。
一方で「話し合いが終わっていない」「話を聞き入れてくれるまでは帰れない」といった自己都合では、たとえ背景になんらかの理由があったとしても正当な理由とは言えません。
なお、退去を求められたものの正当な理由なくその場にとどまっていたとしても、直ちに不退去罪が成立するとは言えないでしょう。不退去罪は、退去の要求を受けて、退去に必要な合理的な時間を超えて退去しない場合に成立します。
たとえば、所持品を持ち帰るために整理する、脱いでいた上着を着て靴を履くといった退去のために必要な準備を進めている時間は、不退去罪の対象にはあたりません。退去に必要な時間を合理的に超えており、故意に退去しない場合は不退去罪として処罰されます。
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2、不退去罪と住居侵入罪との違い
不退去罪と非常に近い関係にあるのが、同じく刑法第130条前段に規定されている「住居侵入罪」です。
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(1)住居侵入罪とは
住居侵入罪は、他人の住居や、他人が看守する邸宅・建造物・艦船に侵入した場合に成立します。
侵入した目的に関係なく、広く不法侵入を罰する犯罪です。不退去罪と同じく、3年以下の懲役または10万円以下の罰金が規定されています。 -
(2)不退去罪と住居侵入罪の違い
住居侵入罪は、住人や管理者の意思に反して不法に侵入する犯罪です。一方で、不退去罪は、住居・建造物などに立ち入る際に許可を得ているものの、その後の経緯から退去を求められたのにこれに応じず居座る行為を罰する犯罪であるという点に違いがあります。
不法に侵入すれば、その時点で住居侵入罪が成立しますが、不退去罪では住居・建造物などに立ち入った時点では違法性がなく、退去要求を無視して故意に居座った時点で犯罪となります。なお、不法に侵入したうえでさらに退去の求めに応じなかった場合は、住居侵入罪のみが成立し、不退去罪は成立しない。
いずれにしても法定刑は同じなので、3年以下の懲役または10万円以下の罰金を科せられることに変わりはありません。
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3、不退去罪で逮捕されることはある?
不退去罪は、不退去の状態が続けば犯罪が継続していると考える「継続犯」にあたります。違法な状態が継続する時間が長いため、現行犯逮捕を受けやすい犯罪のひとつです。
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(1)通報を受けて逮捕される可能性がある
住人や管理者から退去を求められたものの応じない場合は、通報を受けて駆けつけた警察官に身柄を確保され、現行犯逮捕されてしまう可能性があります。現行犯逮捕とは、現に罪を行い、または行い終わった者の身柄を確保する強制手続きです。不退去の状態が続いていれば、現に罪を行っていると解釈されることになるでしょう。
警察官が駆けつけてきたときに暴れていたり、被害者に向かって大声を出していたりすれば、違法な状態であることが特に明確であるだけでなく、その後の危害を防止する観点からも、現行犯逮捕されやすくなるでしょう。
また、たとえ穏便な姿勢を保っていたとしても、不退去の状態が続けば犯罪が継続していることになるため、逮捕に踏み切られてしまうおそれがあります。 -
(2)私人による現行犯逮捕を受けることもある
現行犯逮捕は、警察官だけでなく一般の私人にも認められています。まさに目の前で犯罪が起こっている状況なので、犯人の取り違いが起きてしまう危険がないからです。
不退去罪は、住人や管理者が退去を要求しているにもかかわらず故意に居座ることで成立する犯罪なので、私人である被害者からみても誰が犯人であるのかは明らかでしょう。不退去を理由に、その場から立ち去れないよう腕をつかまれたり、ドアの鍵をかけられたりすれば、私人による現行犯逮捕を受けたものとみなされます。
ただし、逮捕行為として認められる実力行使は、身柄拘束のために必要な最低限のものに限られます。暴行をはたらく、相手の私物を取り上げるといった行為は必要な限度を超えていると解釈されやすく、逮捕行為が違法であると判断される可能性があります。
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4、不退去罪で逮捕される可能性がある行為とは
「帰ってほしい」「出ていってほしい」と申し向けられても相手の要求に応じずその場に居座るといったシーンは、日常生活において決してめずらしくはありません。むしろ、退去の求めに応じないだけで犯罪になってしまうことに驚いた方が多いかもしれません。
ここでは、日常生活の中で起きやすい不退去罪を例示しながら、逮捕の可能性についてみていきましょう。
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(1)飲食店などで居座る
飲食店において、従業員のサービスや提供された飲食物についてクレームをつけるなどしてトラブルになり、店舗側から「出ていってほしい」と求められても居座っていれば、不退去罪が成立する可能性があります。
客側としては「クレームに対する謝罪を受けていない」「納得できる回答が得られていない」という点で正当な理由があると考えがちですが、退去を求められた以上は居座れば不退去罪となるおそれがあります。
このようなケースでは、店舗側が対応に困って警察に通報する可能性が高いため、駆けつけた警察官による現行犯逮捕を受けやすいでしょう。 -
(2)訪問販売で他人宅にしつこく居座る
訪問販売や布教活動などで他人宅に訪問し、住人から「帰ってほしい」と要求を受けたのにしつこく居座っていると不退去罪に問われる可能性があります。
セールスマンとしては「要らない」と言われても商品の魅力を説明してなんとか購入につなげたいと考えがちですが、商品を買ってほしい、契約を結んでほしいといった都合は正当な理由にはあたりません。
やはり対応に困った住人が警察に通報して現行犯逮捕されてしまう可能性が高い事例です。 -
(3)施設などに居座る
冒頭で紹介した「試験を失格になり試験会場からの退去を求められた」といったケースのように、学校や公共施設などにおける不退去が問題となることもあります。施設管理者の退去要求に応じず居座っていれば、警察に通報されて現行犯逮捕されてしまうほか、施設の警備員など私人による現行犯逮捕を受ける可能性も高いでしょう。
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5、不退去罪や住居侵入罪に対する弁護活動
特に違法な目的があったわけではないのに不退去罪や住居侵入罪に問われて刑事事件に発展してしまった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
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(1)被害者との示談交渉を進める
弁護士が代理人となって被害者との示談交渉を進めることで、被害届・告訴の取り下げが期待できます。すでに刑事事件に発展している場合でも、被害届や告訴が取り下げられると、被害者が「許す」という意志をもっていると判断されるため、不起訴処分を獲得できる可能性は高まるでしょう。
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(2)取り調べに際してアドバイスを提供する
不退去の現場で現行犯逮捕された、あるいは警察署などに任意同行を求められたといったケースでは、警察官による取り調べが実施されます。不退去罪の取り調べでは、特に「どのような目的で立ち入ったのか」「なぜ退去の求めに応じなかったのか」といった点が重要になるでしょう。もし、違法な目的がなく、明確な退去要求を受けていなかったのに罪に問われてしまったのであれば、不退去罪が成立しないと主張できる余地があります。
しかし、警察官による取り調べでプレッシャーに負けてしまい「悪いことと知っていて居座った」という趣旨の供述調書を作成されてしまうケースも少なくありません。
弁護士に相談すれば、取り調べにおける正しい対応や、どのような内容を認め、どのような内容を否認するのかの具体的なアドバイスが得られるでしょう。 -
(3)早期釈放を目指した弁護活動を進める
すでに逮捕・勾留を受けている場合は、直ちに弁護士にサポートを求めましょう。逃亡・証拠隠滅のおそれがないこと、必要があれば任意での取り調べに応じる姿勢があることを捜査機関に示すことで、身柄拘束が解かれて在宅のままで事件処理が進む可能性があります。
検察官が起訴に踏み切った場合でも、保釈申請によって身柄拘束を解除できる可能性もあるので、素早い社会復帰が期待できるでしょう。
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6、まとめ
不退去罪は、住宅や施設の住人・管理人などから退去を求められたにもかかわらず、故意に応じない場合に成立する犯罪です。セールス活動や飲食店におけるクレーム事案のように、一般的な社会生活の中で罪に問われてしまうおそれがあるうえに、現行犯逮捕されやすいという側面もあります。
不退去罪の容疑をかけられて刑事事件に発展してしまった場合や、逮捕・勾留を受けてしまった場合は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。被害者との示談交渉や不起訴処分獲得を目指した弁護活動を行い、事件の早期解決に向けて尽力します。
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