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実況見分では何をするの? 現場検証との違いや実況見分調書の意味とは
交通事故や刑事事件の当事者になると、警察による実況見分が行われることがあります。
たとえば、令和3年3月には、群馬県伊勢崎市の北関東道西行きで発生した死傷事故について、事故車両の同乗者立ち会いのもとで実況見分が実施されました。この事故では、死亡した女性の遺族らが事故原因の究明を警察に訴えており、当時の状況を詳しく知るために改めて実施されたようです。
実況見分は、交通事故の原因究明や刑事事件の犯行状況を明らかにするために行われる捜査のひとつですが、実際にはどのような捜査が実施されるのでしょうか?
このコラムでは、実況見分の捜査内容や証拠能力について弁護士が解説します。
1、実況見分とは
まずは「実況見分」とはどのような捜査なのかを確認しましょう。
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(1)実況見分とは
実況見分とは、警察・検察官が犯罪や事故が起きた場所における被疑者・被害者・目撃者などの位置関係や状況を明らかにする捜査のひとつです。
死傷者が発生した人身交通事故や空き巣などの侵入窃盗事件において実施されることの多い捜査で、被疑者・被害者・目撃者などの供述を補強する重要な証拠として活用されます。
交通事故の現場では、事故発生当時に当事者立ち会いのもとで実施されることが多く、救急搬送されたケースでは回復を待って実施されるのが一般的です。 -
(2)現場検証と実況見分の違い
実況見分に近い捜査として「現場検証」と呼ばれるものがあります。報道などでは現場検証と呼ぶのが一般的ですが、法律上の正しい名称は「検証」です。交通事故や刑事事件が起きた現場における検証という意味から、現場検証と呼ばれています。
現場検証とは、裁判官が発付した検証許可状にもとづいて実施される捜査で、目的や内容は実況見分と同じです。被疑者・被害者・目撃者などを立ち会いにして実施されるという点も変わりません。
現場検証と実況見分の違いは、任意・強制の区別です。実況見分は、任意のもとで実施されます。裁判官が発する令状は必要ありません。
一方の現場検証は、裁判官が発付した検証許可状にもとづく強制捜査であり、逮捕や捜索差し押さえなどと同じように強制的に実施できるという違いがあります。
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2、実況見分では何が行われるか
実況見分が実施される場合は、どのような捜査が行われるのでしょうか?
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(1)交通事故における実況見分
交通事故のうち、死傷者が生じた人身事故では実況見分が行われます。過失運転致死傷罪などの容疑で刑事事件として送致される可能性が高いため、証拠を確保するために実況見分が実施されるのです。
加害者となる第一当事者、被害者となる第二当事者のほか、事故の目撃者などが立会人となり、事故当時の道路の状況や交差点の状況、各車両の位置関係や目撃者の立ち位置などを客観的に見分します。
実況見分の結果は、過失運転致死傷罪などの立証に用いられるほか、交通事故の過失割合の算定にも大きな影響を与えるため、正確な見分が実施されなくてはなりません。 -
(2)刑事事件における実況見分
窃盗や暴行・傷害といった刑事事件においても、実況見分が行われます。事件現場での状況や逃走経路、凶器や被害品を投棄した場所の確認といった捜査が行われるほか、仮想被害者を見立てて犯行当時の状況を再現する「再現見分」も実況見分の一種です。
主に被疑者の犯行を立証する目的で実施されるものですが、被害者・目撃者の供述を補強する材料として実施されることもあります。
特に、空き巣などの侵入窃盗事件では、どのような侵入経路で何を盗まれたのかといった被害状況を被害者立ち会いのもとで見分し、被疑者が判明した際には逮捕状請求にも活用されます。
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3、実況見分調書は証拠になるか
実況見分の結果は「実況見分調書」という書類にまとめられます。実況見分は任意のもとで実施される捜査なので、警察官が作成する実況見分調書を証拠として認めるのかどうかに疑問を感じることもあるでしょう。
実況見分調書は事件の証拠になるのでしょうか?
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(1)実況見分調書とは
実況見分調書とは、実況見分で得られた情報を書面に記録したものです。最高検察庁と警察庁との間で取り決められた捜査書類基本書式例のひとつで、見分官となる警察官名義で作成されます。
定まった様式が存在するものであり、文章によって説明する体裁のものですが、犯罪捜査規範第104条3項によって「できる限り図面および写真を添付する」と規定されています。 -
(2)実況見分調書の証拠能力
実況見分は、立会人に説明を求めながら、事件や事故の発生状況などを確認していく捜査です。すると、日本国憲法第38条が保障している「黙秘権」の対象となり、特に被疑者が立会人となった場合は証拠として採用されるものなのかという疑問が生じるでしょう。
実況見分調書は、刑事訴訟法第321条3項の規定が準用され、警察官が官職氏名を署名押印し、立会人が刑事裁判で証人として尋問を受けたうえで真正に作成されたものであると認めた場合に限って、証拠として認められます。
被疑者・被害者などの参考人による供述を録取した供述調書は供述人の署名押印がないと証拠として認められません。しかし、実況見分調書は見分官である警察官の名義で作成された捜査書類なので、立会人の署名押印は不要です。
もちろん、実況見分そのものは任意捜査なので、立会人がこれを拒んだときは適法に実施されたとはいえず、証拠能力は否定されます。
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4、実況見分で注意すべき点とは
実況見分が実施されることになり、立会人としての協力を求められた場合は、どのように対応するべきなのでしょうか?
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(1)ありのままの状況を説明する
実況見分は、立会人が知っている情報について客観的に見分する捜査です。事件や事故の実況見分では、当事者同士の主張や記憶の違いから、それぞれが説明する内容に食い違いが生じることもあるでしょう。
しかし、故意に自分の記憶とは違う説明をしてしまうと、そのままの内容が実況見分調書に記録されてしまいます。
誤った内容の実況見分調書が作成されてしまうことで、思いもよらない厳しい刑罰が科せられてしまったり、重い過失割合を負うことになったりします。実況見分では自分が知っているありのままの状況説明に終始するよう心がけましょう。 -
(2)捜査員の誘導に流されないようにする
実況見分は、見分官である捜査員の主導で進みます。すでに被疑者・被害者の供述内容をすべて知っている捜査員は、有罪の証拠とするために都合のよい内容に仕立て上げるよう説明を誘導するおそれがあります。
もし、捜査員の誘導に乗ってしまい、捜査機関にとって都合のよい内容で実況見分調書が作成されてしまえば、その内容を覆すのは容易ではありません。
実況見分の経過のなかで事実と反する説明を求められた場合は、必ず「間違っている」と申し立てて、自分が記憶しているありのままの事実を説明しましょう。
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5、実況見分について弁護士に相談するメリット
実況見分が実施されることになった場合は、弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。
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(1)実況見分の目的やポイントが明確になる
弁護士に相談し、詳しい状況を説明すれば、なぜ実況見分が実施されるのか、実況見分の目的はどこにあるのかといったポイントが明確になります。
実況見分が実施される際に、見分官から「◯◯の状況を明らかにする」といった丁寧な説明が得られるとは限りません。どんな目的があるのかを理解しないまま実況見分に臨んでしまい、あいまいな記憶のままで誤った説明をしてしまうと、それが証拠として採用されるおそれがあります。
弁護士に相談すれば、実況見分で明らかにしたい点や、その点が明らかになることでどのような展開が待っているのかの具体的なアドバイスが得られるでしょう。実況見分に臨む際の心構えや注意点についてもアドバイスが得られるので、安心して立ち会いができるはずです。 -
(2)被害者との示談成立が期待できる
被害者が存在する事件・事故では、示談交渉によって重い刑罰や不当に高額な慰謝料請求を回避できる可能性があります。ただし、事件・事故の被害者は、加害者に対して強い怒りや嫌悪感を抱いているものなので、加害者本人やその家族による示談交渉ではかたくなに拒否されてしまうケースも少なくありません。
公平中立な第三者として弁護士が代理人を務めることで、被害者の警戒心が和らぎ、示談交渉の円滑化が期待できるでしょう。特に、実況見分が実施される事件・事故では、捜査機関側が厳しく有罪を立証しようとしている可能性が高いので、示談成立による不起訴処分の獲得が最善策となります。
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6、まとめ
実況見分は、事件や事故の状況を明らかにするために実施される任意捜査のひとつです。
見分の結果は実況見分調書に記録され、刑事裁判では証拠として重視されるため、故意に記憶と違う説明をすることで思わぬ厳しい刑罰を受けてしまうおそれがあります。
事件・事故の当事者となり、実況見分の立ち会いを求められている場合は、弁護士に相談のうえでアドバイスを求めましょう。実況見分の対応に不安を感じている方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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