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国選弁護人と私選弁護人はどう違うの? 国選弁護士制度の概要とは
犯罪の容疑をかけられてしまい、被疑者や被告人として罪を問われる立場になっている人には、弁護人を選任する権利が認められています。自ら弁護人を選任できる場合は「私選弁護人」を依頼することになりますが、資力がないなどの一定の条件を満たす場合は国が弁護人を選任する「国選弁護人」を利用することも可能です。
私選弁護人も国選弁護人も、弁護士登録した弁護士であることに変わりはありません。しかし、利用できる条件や選任のタイミング、期待できるサポート内容などに違いがあります。
このコラムでは「国選弁護人制度」について取り上げ、制度の概要や選任できる条件、私選弁護人との違いを弁護士が解説します。
1、国選弁護人と私選弁護人の違い
まずは国選弁護人と私選弁護人の違いを、それぞれの意味から確認していきましょう。
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(1)国選弁護人とは
日本国憲法第34条は、抑留、拘禁された者の弁護人依頼権を保障し、第37条3項前段では、刑事事件の被告人について「いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」と明示し、被告人の弁護人依頼権を保障しています。この規定を受けて、刑事訴訟法第30条1項は「被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる」と被疑者・被告人の弁護人依頼権を認めています。
ところが、被疑者・被告人のなかには、経済的に弁護士費用を捻出できず弁護人を自由に選任できない事情を抱えた方も少なくありません。単に経済力がないという事情だけで弁護人を選任する権利を行使できないようでは、憲法や刑事訴訟法が権利を保障している意味がないでしょう。
そこで、日本国憲法第37条3項後段は「被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する」と定め、これを受けて刑事訴訟法第36条は、被告人以外の者が選任した弁護人がない場合には、「被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない」と被告人の国選弁護人選任請求権を定めています。また、刑事訴訟法第37条の2では、一定の条件の下、勾留状が発せられている被疑者(同1項)及び勾留請求されている被疑者(同2項)についても、同様の規定を設け、被疑者の国選弁護人選任請求権を規定しています。これらの定めに従い、裁判所または裁判官によって附されるのが国選弁護人です。 -
(2)私選弁護人とは
裁判所や裁判官が選任した弁護人ではなく、被疑者・被告人となった本人や、本人の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹からの依頼によって自由に選任された弁護人のことを「私選弁護人」といいます。
費用は全額が選任者らの負担になりますが、どの段階で依頼するのか、どの弁護士に依頼するのかもすべて自由に決めることができます。また、弁護の方針に不満があれば被疑者、被告人自ら解任することもできます。
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2、国選弁護人制度の詳細
国選弁護人制度について、さらに詳しく確認しておきましょう。
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(1)国選弁護人制度とは
前述のとおり、資力が乏しく、私選弁護人を依頼できない被疑者・被告人について国が費用を負担することで弁護人を選任する制度を「国選弁護人制度」といいます。
同制度によって選任される弁護人には2つの種類があります。
● 被疑者国選弁護人
刑事事件の被疑者として逮捕され、勾留による身柄拘束が決定した被疑者について国が費用を負担して選任する弁護人を指します。被疑者国選制度は、平成18年から実施され始めた比較的に新しい制度で、前述のとおり、勾留状が発せられた被疑者等が対象です。
なお、平成28年に刑事訴訟法が改正されるまでは「死刑、無期・長期3年を超える懲役もしくは禁錮にあたる事件」に対象事件が限定されていましたが、現在ではこの要件が撤廃され、勾留された被疑者は事件の内容にかかわらず国選弁護人を選任することができます。
● 被告人国選弁護人
刑事事件の被告人として検察官によって、起訴された被告人について、国が費用を負担して選任する弁護人のことです。 -
(2)国選弁護人が選任される流れ
選任の流れについては、被疑者段階であるのか、被告人段階であるのかによって異なります。
まず、被疑者国選弁護人の選任が請求できる場合は、前述のとおり、勾留状が発せられている場合ないし勾留請求をされている場合です。被疑者は、選任を請求するには、「国選弁護人選任請求書・資力申告書」を裁判所に提出しなければなりません。裁判所が①貧困その他の事由により弁護人を選任できないこと、②被疑者以外の者が選任した弁護人がいないこと等の要件を審査したうえで、要件を満たす場合に、法テラスに指名、通知を求めます。
法テラスは、法テラスとの間で国選弁護人契約を締結した弁護士の名簿から指名の手順に従って指名打診を行い、その弁護士の承諾を確認した上で、国選弁護人候補として指名し、裁判所に通知します。裁判所は、当該通知を受けて当該候補者を国選弁護人として選任します。
被告人国選弁護人の場合は、被疑者国選弁護人選任請求の場合と同様に、被告人の請求によって国選弁護人を附す場合がある一方で、裁判所や裁判長が職権によって附する場合が被疑者の場合より、刑事訴訟法等に多く規定されています。
まず、死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役・禁錮にあたる重大事件、即決裁判手続の申立てのあった事件、公判前整理手続、再審開始決定の確定した事件の審判の際に被告人が死亡者又は心神喪失者であるときなどは弁護人の選任は必要的です。また、被告人が未成年や高齢など、防御の能力が劣っている場合その他裁判所が必要と認めるとき、少年の被告人に弁護人がないときなども、裁判所が弁護人を職権で附することができます。
このような場合、裁判所は、被告人に対して弁護人を請求するかどうかを確かめなければなりません。被告人から回答がなく、又は弁護人の選任がないときは、裁判長は、直ちに被告人のため、弁護人を選任します。その際は、裁判所や裁判著は、弁護人を附する旨の裁判をし、その裁判に基づいて、弁護人を選任します。
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3、国選弁護人が付く条件
国選弁護人が附される条件を確認しておきましょう。
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(1)国選弁護人が付く条件
被疑者国選弁護人を選任する場合は、次の要件を満たす必要があります。
- 被疑者に勾留状が発せられている、又は被疑者が勾留請求されている
- 被疑者が釈放されていない
- 私選弁護人が選任されていない
- 自己の現金や預金などの資産の合計(資力)が50万円未満である
- 資力が50万円以上ある場合は、あらかじめ、弁護士会に私選弁護人の選任の申出を行っている
被告人国選弁護人を選任できる要件は、次のとおりです。
【弁護人の選任が必要的な事件の場合】
当然、国選弁護人が附されます。
【弁護人の選任が任意的な事件の場合】- 私選弁護人が選任されていない
- 自己の現金や預金などの資産の合計(資力)が50万円未満である
- 資力が50万円以上ある場合は、あらかじめ、弁護士会に私選弁護人の選任の申出を行っていること
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(2)国選弁護人を選任できないケース
次のようなケースでは、国選弁護人を選任できません。
- 逮捕直後の被疑者として身柄拘束を受けており勾留請求される前段階にある場合
- 逮捕されたものの送致後に勾留されず釈放された場合
- 身柄拘束されずに在宅事件として捜査を受けている場合
- 現金や預貯金など、50万円以上の資力がある場合で、弁護士会に私選弁護人の選任の申出を行っていない場合
- すでに本人や家族などによって私選弁護人が選任されている場合
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(3)当番弁護士制度の利用
国選弁護人制度を利用するための条件を満たさない場合でも、被疑者は逮捕直後から「当番弁護士制度」の利用が可能です。
「当番弁護士制度」とは、身柄拘束を受けている被疑者や家族などの接見依頼によって弁護士会が弁護士を派遣する制度で、一度に限って無料での利用が認められています。取り調べに際してのアドバイスや今後の流れなどを相談できるほか、そのまま私選弁護人として選任することも可能です。また、被疑者に資力がなく、私選弁護人として選任できない場合でも、一定の手続きを経て、後に当番弁護士自身を、被疑者国選弁護人として選任することなどもできます。
利用にあたって対象事件や資力要件などは設けられていないので、弁護人の選任について悩みや不明点がある場合は積極的に活用するべきでしょう。
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4、国選弁護人の弁護士費用
国選弁護人を選任した場合、弁護士費用は誰が負担することになるのでしょうか?
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(1)原則は無料
被疑者段階・被告人段階にかかわらず、国選弁護人制度を利用した場合の弁護士費用は原則無料です。国選弁護人制度は資力が一定基準を下回る被疑者・被告人でも刑事弁護が受けられるために設けられて制度であり、国が費用を負担します。
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(2)費用負担を命じられる場合もある
国選弁護人制度の利用は原則として無料です。ただし、刑事裁判の判決において裁判官が訴訟費用の負担を命じた場合は、弁護士費用の負担が必要となることがあります。
たとえば、判決が執行猶予つきの懲役・禁錮、罰金であった場合は、社会復帰することによって弁護士費用の支払いが可能になると判断される可能性があるでしょう。このように、費用の支払いについては、裁判官が被疑者・被告人の具体的な事情から裁量によって判断します。
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5、国選弁護人が付くのはいつ?
国選弁護人が選任されるタイミングを確認しましょう。
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(1)被疑者に勾留状が発せられたとき
前述のとおり、被疑者段階での国選弁護人は、勾留状が発せられた時点から請求が可能になります。つまり、警察に逮捕されて取り調べを受けている48時間と検察官のもとへと送致されて取り調べを受けている24時間の逮捕段階では、国選弁護人の選任は認められていません。なお、勾留を請求された被疑者は、国選弁護人の選任を請求することができますが、勾留決定後に国選弁護人が選任されることとなります。
したがって、逮捕段階での刑事弁護を希望するなら、私選弁護人の選任が必要となります。
なお、勾留状が発せられるまでの段階で私選弁護人を選任していない場合でも、当番弁護士制度の利用は可能です。 -
(2)被告人として起訴されたとき
被告人段階での国選弁護人は、検察官によって起訴された時点から請求が可能になります。現行の制度では被疑者段階でも国選弁護人の選任が可能なので、被疑者段階での国選弁護人が引き続き被告人の国選弁護人を務めるのが一般的です。
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(3)即決裁判手続がとられた場合
検察官が比較的軽微な事件等について、起訴と同時に、即決裁判手続の申立てを行った場合は、被告人に弁護人がないときは、裁判長は、できる限り速やかに、職権で弁護人を付さなければならないため、被疑者段階で弁護人を選任していなくても国選弁護人が選任されます。
即決裁判手続は、起訴から14日以内に公判が開かれて即日で判決が言い渡される制度であり、裁判手続が簡易・迅速になされます。
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6、私選弁護人に依頼する理由
刑事事件の被疑者・被告人となってしまい、できる限り有利な判決や処分を得たいと望むなら、国選弁護人制度を利用するよりも私選弁護人に弁護活動を依頼されることをおすすめします。
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(1)自由に弁護人を選任できない
国選弁護人は裁判所が弁護人を選任するため、被疑者・被告人が自由に弁護人を選ぶことができません。刑事弁護を依頼したい弁護士が決まっているとしても、その弁護士が弁護人として選任されるわけではないのです。
最善の結果を目指すなら、信頼できる弁護士を自ら依頼したほうがよいでしょう。
また、ひとたび国選弁護人が選任された場合は、被疑者・被告人から自由に辞めさせることはできません。途中でやめさせるためには、解任事由等について裁判官・裁判所に申し入れて解任してもらうしかありません。国選弁護人との相性が悪い、弁護方針が気に入らないといった理由での解任は望めません。 -
(2)刑事事件の弁護経験に乏しい弁護士が選任されるおそれがある
国選弁護人は、刑事事件の弁護経験に乏しい弁護士が選任されてしまうおそれがあります。
刑事事件を最善の結果に導くためには、弁護士の刑事事件の経験や実績も重要です。私選弁護人であれば、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士等を自由に選任できます。 -
(3)示談交渉が円滑に進まないおそれがある
刑事事件をもっとも穏便に解決できる方法が、被害者との示談交渉です。
被害者に謝罪したうえで慰謝料や賠償金を含めた示談金を支払い、示談が成立すれば、検察官が不起訴処分を下したり、執行猶予の判決を得るなど量刑上有利に考慮してもらえる可能性が高くなります。
示談交渉を進めるにあたっては、刑罰法令に関する知識だけでなく、犯罪被害者が感じている苦痛や苦悩も深く理解していなくてはなりません。示談成立を目指すなら、刑事事件の示談についても経験が豊富な弁護士を私選弁護人として選任されることをおすすめします。
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7、まとめ
国選弁護人制度は、資力が乏しい場合でも国が費用を負担することで刑事弁護を受けられる制度です。弁護士費用の負担が難しい方にとっては有益な制度ですが、自由に弁護士を選ぶことができないため、刑事事件の弁護経験が少ない弁護士等が選任されてしまうおそれがあります。
被疑者・被告人にとって有利な結果を期待するなら、刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士を選任するのが最善策です。
刑事事件の弁護活動は、ベリーベスト法律事務所にお任せください。刑事事件専門チームの弁護士が、最善の結果を目指して全力でサポートします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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