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不起訴処分とは? 不起訴の種類(理由)や判断基準を解説
不起訴処分とは、検察官が起訴しない処分をくだすことです。不起訴処分となれば刑事裁判が開かれないため、前科がつかず事件が終結します。前科がつかないということは刑罰も科されないため、被疑者は元の日常生活に戻ることができます。
刑事事件では、逮捕されても必ず刑事裁判に発展するわけでありません。さまざまな理由によって不起訴処分となるケースがあります。しかし、不起訴の種類(理由)や検察官が何を基準に不起訴処分と判断するのかなどはあまり知られていません。
そこで、本コラムでは不起訴処分について、定義や種類、判断基準、不起訴処分を獲得するために弁護士に相談すべき理由について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、不起訴処分とは?
まずは不起訴処分の定義や起訴との違いについて解説します。
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(1)不起訴処分とは?
不起訴処分とは、犯罪の疑いをかけられている人に対して、検察官が公訴を提起しない処分を下すことです。通常、検察官は警察から送致された事件や自ら認知した事件について、被疑者の取り調べや証拠物の捜索などの捜査を行ったうえで、起訴・不起訴処分を判断します。不起訴処分となれば、身柄は釈放され、前科もつかず日常生活へと戻ることができます。
一方、公訴の提起(起訴)とは、裁判所に対し、特定の刑事事件について刑事裁判で審理するよう求めることです。起訴されると被疑者は被告人へと呼び名が変わり、刑事裁判にかけられます。
刑事裁判では、裁判官が資料や被告人の意見、被害者の処罰意識などさまざまな要素を総合的に判断して有罪・無罪を決定し、有罪の場合は量刑まで判断され、前科がつきます。日本の司法における起訴後の有罪率は99%以上です。いったん起訴されると有罪になるおそれが極めて高いといえます。そのため、刑事事件で逮捕された場合は前科がつかないように不起訴処分を目指して活動します。 -
(2)略式起訴は不起訴処分ではない
起訴には正式起訴と略式起訴の2種類があります。正式起訴は公開の裁判による審理を求める起訴手続き、略式起訴は書面のみの簡略化された起訴手続きを指します。正式起訴された場合は裁判に出廷するため、自らが起訴された事実を容易に認識できるでしょう。
一方、略式起訴された場合は正式起訴のように公開の裁判が開かれないため、「自分は不起訴処分になった」と勘違いをしてしまう人がいます。しかし、略式起訴は起訴の一形態ですから、有罪となれば、罰金または科料の刑罰を受けます。
公開の裁判が開かれないことは被疑者にとって負担は少ないですが、自分の言い分を主張する機会がなく前科がついてしまいます。そのため、もし捜査機関からの指摘内容に疑問や反論がある場合は、略式手続きに同意する前に、弁護士に相談のうえ方針を決めるとよいでしょう。 -
(3)「逮捕されない=不起訴処分」ではない
刑事事件の被疑者になると、逮捕されたうえで起訴・不起訴の判断を待つケースと、在宅のまま捜査を受けて起訴・不起訴の判断を待つケースがあります。在宅捜査の場合は逮捕による身柄拘束を受けないため、「不起訴処分になるのではないか」と期待してしまうかもしれません。
しかし、在宅捜査は逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを根拠として行われるため、起訴・不起訴の判断とは無関係です。在宅捜査でも起訴されるケースもあるので、逮捕による身柄拘束を受けていないから不起訴処分になると考えるのは誤りです。
2、不起訴処分の種類(理由)
不起訴処分には、その理由に応じた種類があります。「法務省訓令の事件事務規定第75条2項」に定められており、1号から20号までありますが、そのうち特に多い理由について解説します。
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(1)嫌疑なし
犯人ではないことが明白である場合、または犯罪の成否を認定する証拠がないことが明確である場合の不起訴処分です。真犯人が見つかったときや犯行時のアリバイが明らかになったときなどが該当します。
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(2)嫌疑不十分
嫌疑が完全に晴れたわけではありませんが、犯人であることや、犯罪の成否を認定する証拠が不十分である場合は嫌疑不十分となります。起訴しても有罪判決に至らないと考えられる場合、検察官は嫌疑不十分による不起訴処分を下します。
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(3)起訴猶予
罪を犯したことが明らかで、裁判で有罪を証明するだけの証拠もそろっていても、検察官の判断で起訴しない場合は、起訴猶予の判断を下します。たとえば、被疑者が深く反省していて被害者との示談が成立している場合は、刑罰を科さなくても改善更生が見込めるため、起訴猶予を理由とした不起訴処分になる可能性があります。
不起訴処分のうち、もっとも多いのが起訴猶予です。令和5年版犯罪白書によれば、令和4年の不起訴人員47万9092人のうち、起訴猶予は41万9846人と、全体の約87%を占めています。 -
(4)親告罪の告訴取り下げ
検察官が起訴する際に被害者の告訴が条件となっている犯罪を親告罪といいます。たとえば、名誉毀損(きそん)罪(刑法第230条)や器物損壊罪(同第261条)などが親告罪に該当します。
親告罪では、被害者の告訴を受けて警察が逮捕・送致した後に、示談が成立するなどして被害者が告訴を取り下げる場合があります。告訴が取り下げられると公訴提起の条件を満たさなくなるため、検察官は起訴できません。したがって必ず不起訴処分と判断されます。 -
(5)罪とならず
犯罪の構成要件に該当しない、または犯罪の成立を阻却する事由があることが証拠上明確なときに該当する不起訴処分です。そもそも罪となる行為がなかった場合や、形式上は罪となる行為があったが正当防衛を認められて違法性が阻却された場合などが該当します。
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3、不起訴処分となった場合の影響
不起訴処分になった場合、これまでと同じ生活を送れるのかどうかは気になるところでしょう。ここでは不起訴処分による影響について解説します。
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(1)刑罰を受けない
不起訴処分になると刑事裁判は開かれないため、懲役刑や罰金刑などの刑罰を受けることがありません。逮捕・勾留により身柄を拘束されていた場合は即日で身柄が釈放され、自宅へ帰ることができます。在宅捜査の場合も事件が終結します。
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(2)前科がつかない
前科とは、刑事裁判で有罪判決を言い渡された履歴を指します。警察・検察庁のデータベースと市町村の犯罪人名簿に記録されると、一定の職業に就けない、一部の国へ渡航する際に制限を受けるなどの不利益が生じます。しかし、不起訴処分はそもそも裁判が開かれないため、前科がつくこともありません。
ただし、刑事事件の被疑者として捜査対象になっているため、不起訴処分でも前歴は残ります。前歴とは捜査機関によって捜査の対象になった経歴のことです。前歴は、前科のような不利益はありませんが、再び罪を犯したときには処分が重くなる可能性が高くなるでしょう。 -
(3)不起訴処分でも解雇される場合がある
解雇をするかどうかは会社の判断によるので、不起訴処分なら必ず解雇されないとは言い切れません。これは不起訴処分の理由にもよります。たとえば、「嫌疑なし」「罪とならず」であれば、罪を犯していないと検察官が証明したようなものなので、解雇を回避できる可能性が高いと考えられます。
これに対して「起訴猶予」の場合は、不起訴処分になったものの罪を犯した事実は消えません。そのため、就業規則や会社の方針によっては解雇される可能性もあります。
4、不起訴処分の判断基準とは?
検察官はどのような基準をもとに、起訴・不起訴の判断を下すのでしょうか。ここでは不起訴処分の基準と、影響する要素について解説します。
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(1)検察官が起訴・不起訴を判断する際の基準
被疑者を起訴するか、それとも不起訴処分にするかどうかを決めるのはあくまでも検察官であり、検察官の裁量に委ねられています。何かしらの条件を満たせば必ず不起訴処分になるという基準はありません。
ただし、刑事訴訟法第248条では、検察官は「犯人の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」としています。この条文に照らすと、不起訴処分の中の起訴猶予については、次のような要素が起訴・不起訴を判断する際の基準となり得るでしょう。- 被疑者の性格や性質(前科前歴の有無、常習性など)
- 年齢(若年、老年など)
- 境遇(家庭環境、職業、保護監督者の有無など)
- 犯罪の軽重(法定刑の内容、被害の程度など)
- 犯罪の情状(犯行動機、犯行手口、社会に与えた影響など)
- 犯罪後の動き(示談の有無、被疑者の反省の有無、逃亡や証拠隠滅の意思など)
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(2)不起訴処分を獲得するために必要な行動
被害者が存在する事件では、特に被害者との示談が重要です。検察官は起訴・不起訴の判断に際して、被害者の感情や被害弁済の有無・程度を重視するため、被害者との示談が成立していると不起訴処分となる可能性が高くなります。
親告罪では、告訴の取り下げを含めて示談をすれば確実に不起訴処分となります。ただし、示談成立は不起訴処分の獲得に向けて重要なことではあるものの、示談が成立すれば必ず不起訴処分になるとは言い切れません。
また直接的な被害者がいない事件(薬物事件、賭博事件など)の場合は、示談ができません。しかし、反省の態度や再犯防止策を示すことによって再犯のおそれが低いと判断され、不起訴処分となる可能性を高めることはできます。たとえば、反省の気持ちを示すために贖罪(しょくざい)寄付をする、依存症の治療を開始する、家族が本人の監督を誓約する、といった行動が考えられます。
5、不起訴処分獲得を目指すなら早めに弁護士に相談すべき理由とは?
不起訴処分の獲得には弁護士のサポートが不可欠です。ここでは弁護士ができることについて解説します。
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(1)罪を認めている場合
先述したように、罪を認めている状況で不起訴処分を獲得するには示談が特に重要です。しかし、示談を成立させるのは並大抵のことではありません。
被害者の連絡先を知らないケースが少なくないうえに、捜査機関は被害者保護の観点から被疑者やその家族に被害者の連絡先を教えてくれません。また、刑事事件の被害者は通常、被疑者に対して嫌悪感情を抱いているため、被疑者やその家族からの直接交渉は拒否される可能性が高いでしょう。
第三者である弁護士であれば、検察官を通じて被害者の連絡先を入手できる可能性があります。また、弁護士が間に入ることで被害者感情が和らぎ、冷静に話を聞いてもらえ、示談に応じてくれる可能性も生じてくるでしょう。
このように、不起訴処分の獲得を目指すにあたって、弁護士のサポートは欠かせません。弁護士が適切に示談交渉を進めることによって、不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
ほかにも弁護士は、贖罪寄付や再犯防止策の提示など、示談以外の行動についても状況に応じた適切なアドバイスやサポートをします。そして、それらの具体的な行動を根拠に、検察官に対して再犯のおそれがない旨を主張していきます。弁護士は早期解決に向けて迅速に対応いたします。 -
(2)罪を否認している場合
否認事件では、取り調べで一貫して罪を犯していない旨を主張する、黙秘するなどして不利な供述調書を作らせないことが大切です。そのためには、弁護士が早急に被疑者と接見し、取り調べに関してアドバイスをする必要があります。
精神的な不安を抱える中で否認や黙秘を貫くのは非常に難しいことです。しかし、弁護士が何回も接見することで、取り調べの心構えや供述の重要性、家族の励ましの言葉を伝えるなどして精神的な支えにもなるのです。
また、捜査官の不当な取り調べが行われた場合にも、弁護士のほうから捜査機関に対して抗議するため、不当な取り調べを抑制できる可能性があります。
6、まとめ
不起訴処分は理由に応じて複数の種類が存在しますが、いずれの場合も刑事裁判と刑罰を回避でき、前科がつくこともありません。しかし、不起訴処分を獲得するのは決して簡単なことではなく、被疑者本人やご家族だけの力では困難ですので、速やかに弁護士にご相談ください。弁護士は、示談交渉や再発防止策の提示など適切な弁護活動を通して不起訴処分の獲得に向けて迅速にサポートいたします。
また不起訴処分の獲得には早期の対応が大切です。逮捕されてから起訴・不起訴を検察官が判断するまでの期間は最長でも23日間です。この期間の間に、被害者に連絡を取り、示談交渉をして成立させる必要があります。罪を否認している場合であっても、取り調べに対するアドバイスを受けるには、早い段階で弁護士に依頼することが大切です。
刑事事件を起こして警察から連絡を受けている、自分の家族が刑事事件の被疑者になってしまったなどの状況の場合、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が不起訴処分の獲得に向けて力を尽くします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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