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実刑判決とは? 執行猶予付き判決との違いや収監後までの流れを解説
テレビニュースや新聞報道で刑事裁判の結果が報じられる際には「実刑判決」や「執行猶予付き判決」というフレーズが登場します。これらは刑事裁判の判決として被告人に言い渡されるものです。しかし、それぞれの意味を見るとその重みはまったく異なります。
本コラムでは「実刑判決」の意味や判断基準を「執行猶予付き判決」と比較しながら解説します。実刑判決を受けるとどうなるのか、刑務所に収監されたあとの流れもあわせて紹介しましょう。
1、実刑判決とは? 執行猶予付き判決との違いは?
まずは「実刑判決」とはどのようなものなのかを、執行猶予付き判決との違いを含めて解説します。
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(1)「実刑判決」の意味
刑事裁判で有罪となると裁判官から判決が言い渡されますが、判決後、直ちに刑が執行されることを「実刑判決」と呼びます。
実は、実刑判決という用語は、刑事訴訟法などの法律で明確に定義されているものではありません。ただし、実際の判決文でも「実刑に処するのが妥当である」といった表現が用いられているため、法律用語として広く認知されています。
わが国の刑法では、死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料の6つが主刑として規定されていますが、実刑判決の対象となるのは自由刑のうち懲役・禁錮に限ると考えるのが一般的です。懲役は刑務所に収監して刑務作業に従事する刑罰、禁錮は刑務作業を課せられることなく刑務所に収監される刑罰を指します。
つまり、実刑判決とは「直ちに刑罰を執行して刑務所に収監する」という意味だと考えればよいでしょう。
なお、同じく自由刑のうち、30日未満の短期的な身柄拘束を科す拘留は必ず実刑になりますが、拘留について実刑判決と呼ぶことはありません。
また、罰金・科料は金銭を徴収する財産刑ですが、基本的に「罰金の実刑判決」などと呼ぶこともありません。 -
(2)「執行猶予付き判決」との違い
「執行猶予付き判決」とは、判決の言い渡しから一定の期間に限って刑の執行を猶予するものです。刑法第4章・第25条から第27条までに明記されている制度で、執行猶予の期間中に新たに別の罪を犯すなどで取り消されない限り、刑の言い渡しの効力が消滅します。
実刑判決を受けると直ちに刑務所へと収監されますが、執行猶予付き判決を受けた場合は刑務所へと収容されることなく社会生活を通じて罪を償い、更生を目指すことになります。
家庭・仕事・学校などへの影響は最小限に抑えられるため、実刑判決よりも格段に有利な判決であるといえるでしょう。
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2、実刑判決となるケース
刑事裁判における判決が実刑となるか、それとも執行猶予付きとなるのかは、さまざまな証拠や証言に基づいて裁判官が判断します。また、一部の重大事件については、一般国民から抽出された裁判員も判断に参加します。
では、裁判官や裁判員が「実刑判決を言い渡すのが適当だ」と判断するのはどのようなケースなのでしょうか?
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(1)重罪の場合
刑法などの法律が規定している刑罰を「法定刑」といいます。法定刑が重い犯罪では、執行猶予が付されず実刑判決となるおそれが高いでしょう。
執行猶予は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」に付されることになるため、法定刑の下限が3年を超える懲役・禁錮の犯罪には、原則として執行猶予がつきません。
たとえば、殺人・現住建造物等放火・強盗・強制性交等などは、法定刑の下限が懲役5年なので、原則として執行猶予が付かない犯罪にあたります。 -
(2)犯行が悪質な場合
同じ犯罪でも、犯行の動機や手口が悪質で被害が重大であれば、執行猶予が付されず実刑判決が言い渡される危険が高まります。
魔が差して罪を犯したのではなく事前に計画して犯行に及んだケースや、被害金額・負傷程度が重いケースでは、裁判官が「悪質だ」と判断しやすくなってしまうでしょう。 -
(3)余罪多数の場合
連続窃盗や広域的な特殊詐欺のように余罪が多数の事件や、覚醒剤の所持・使用のように複数の事件で起訴されている場合は、単一の事件で罪を問われているケースよりも罪が重たくなりやすく、実刑判決を受ける危険が高いでしょう。
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(4)反省の様子がみられない場合
刑事裁判では、被告人本人が罪を認めて深く反省しているのかも判断材料となります。罪を犯したことが明らかなのに、自己の都合や防衛ばかりを主張して反省している様子がみられない場合は、裁判官が厳しく罰する必要があるとして実刑判決を下すおそれが高まるでしょう。
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(5)再犯のおそれが強い場合
被告人本人の反省とあわせて「再犯のおそれの有無」も重要な判断材料になります。懲役・禁錮といった自由刑は、本人に反省を課す側面があると同時に、罪を犯した人物を社会から隔離するという側面も併せもっています。
刑事裁判において再犯防止に向けての具体策を示さないと、裁判官が「再犯を起こすおそれが強く、社会から隔離する必要がある」との判断を下し、実刑判決を言い渡されてしまう危険が高まります。 -
(6)執行猶予期間中の再犯の場合
すでに以前の刑事裁判で執行猶予付き判決を受けており、執行猶予の期間を満了するまでに再び罪を犯した場合は、実刑判決が言い渡されるおそれが非常に高いでしょう。
執行猶予の期間中に別の犯罪で実刑判決を受けてしまうと、以前の執行猶予も取り消されてしまうので、長期にわたって刑務所に収監される事態は避けられません。 -
(7)過去に前科がある場合
法的に明記はされていないものの、過去に刑事裁判で有罪判決を受けた前科があれば、判決が実刑に傾く危険は高まると考えるべきです。以前にも罪を犯したことがあるのに再び罪を犯した事実が「反省していない」と捉えられるからです。
また、過去の犯罪に対する刑罰が懲役・禁錮で、刑の執行が終了した日または執行猶予を得た日から5年以内であるときは、原則として執行猶予が付されず、実刑判決が言い渡されます。
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3、執行猶予付き判決を得る条件
刑事裁判で執行猶予付き判決が言い渡された場合は、刑務所へと収監されることなく社会生活を通じて罪を償いながら更生を目指すことが可能です。家族と離れる必要はなく、会社や学校へも自由に通えるので、実刑判決と比べると社会復帰しやすい処分であるといえるでしょう。
刑事裁判において、執行猶予付き判決が言い渡されるための条件をみていきます。
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(1)罪が比較的に軽い場合
刑法第25条1項には、執行猶予について「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」について、刑の執行を猶予できると明記されています。これは法定刑ではなく、実際に判決で言い渡される量刑を対象とした条件です。
たとえば、法定刑が「10年以下の懲役」である犯罪は、刑事裁判によって1か月以上10年以下の範囲内で量刑が決定されます。情状によっては3年以下の懲役になることもあるため、執行猶予の対象です。
ただし、刑法第25条1項では「猶予することができる」とも明記されています。この条件を満たしていたとしても裁判官の判断によっては執行猶予が付されないおそれもあるということは肝に銘じておくべきでしょう。 -
(2)前科のない初犯の場合
これまでに事件を起こして刑罰を受けたという経験のない初犯であれば、裁判官が更生を期待して執行猶予付き判決を言い渡す可能性が高まります。
ただし、犯行が悪質な場合や、捜査機関に多数の前歴が記録されているようなケースでは、初犯であっても厳しい判決となるおそれがあるので油断してはいけません。 -
(3)前回の刑の執行が終了して5年以上が経過している場合
以前の懲役・禁錮を受けた経歴があっても、満期を迎えて刑の執行が終了した日、または執行猶予期間を満了して刑の言い渡しの効力が消滅した日から5年以上が経過していれば、執行猶予の対象です。
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(4)被害者との示談が成立している場合
ここまでの条件に加えて重要なのが「被害者との示談成立」です。
法的な要件としては示されていないものの、法廷外の場で被害者に対して真剣に謝罪の意思を伝えたうえで慰謝料や賠償金を含めた示談金を支払い、許しを得れば、被告人にとって有利な情状のひとつとして評価され、執行猶予が付される可能性が高まります。
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4、実刑判決から収監後までの流れ
実刑判決の言い渡しを受けてから刑務所に収監されたあとまでの流れをみていきましょう。
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(1)拘置所に戻される
裁判所において実刑判決を言い渡されても、即時、刑務所に収監されるわけではありません。まずはそれまでに収容されていた拘置所に戻されて、収監先の刑務所が決定する日を待つことになります。
ただし、判決が言い渡されるまでは被告人と呼ばれていた立場が、実刑判決後は「受刑者」へと変わります。拘置所に収容されている間も刑罰の期間に含まれるので、懲役であれば拘置所内で労役を課せられることになります。 -
(2)刑務所に収監される
収監先の刑務所が決まると、拘置所から刑務所へと身柄が移送されます。刑務所に収監されたあとは、原則として刑期が満了するまでの間、懲役・禁錮の受刑者として刑務所で服役することになります。
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(3)刑務所での生活
刑務所内では、閉鎖環境のなかで厳しい規律を敷かれた生活を送ることになります。
懲役の場合は強制的に刑務作業に従事します。禁錮では刑務作業への従事義務はないものの、独房において常に看守による監視を受けます。受刑者が自ら願い出た場合は刑務作業への従事が認められるので、刑務作業への従事を願い出る禁錮受刑者も多数です。
刑務所に収容されている期間は、親族や上司などによる面会が認められています。面会可能な人数や面会が認められる曜日・時間は各刑務所によって差があるので、家族などによる面会を希望する場合は事前に調べておいたほうがよいでしょう。 -
(4)釈放・仮釈放
懲役・禁錮の受刑者は、原則として刑期が満了するまで刑務所での生活を強いられます。釈放されるのは刑期が満了するときですが、刑務所内での受刑態度が良好で、十分な反省が認められており、再犯のおそれもなく、受刑者本人が希望していれば、一定期間が経過した段階で「仮釈放」を受ける可能性もあります。
令和2年版の犯罪白書によると、令和元年中に仮釈放を受けた受刑者は全体の58.3%に達しています。素早い社会復帰を実現する有効な手段なので、積極的に仮釈放を目指すのが最善でしょう。
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5、まとめ
刑事裁判で実刑判決を言い渡されて刑が確定すると、直ちに刑が執行されることになります。一方で、執行猶予付き判決となった場合は、一定期間に限って刑の執行が猶予されるうえに、期間が満了すれば刑の言い渡しの効力が消滅します。
家族と離れることなく、仕事や学校への影響も最小限に抑えながら社会生活を通じて更生を目指すことが許されるため、有罪が避けられない場合は執行猶予付き判決を目指すのが賢明です。
実刑判決とならないためには、被告人にとって有利な事情となる証拠をとりそろえて刑事裁判の場で主張する必要があるので、弁護士のサポートは欠かせません。執行猶予付き判決を目指すなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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