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鑑定留置とは? その手順や期間、起訴・不起訴の判断に与える影響
令和元年7月に発生した放火殺人事件について、令和2年12月、京都地検は被疑者の鑑定留置を終了し、殺人罪などの疑いで起訴しました。京都地検は6か月にわたる鑑定留置の結果、被疑者の刑事責任能力を問えると判断したようです。
この事件のように、刑事事件の被疑者になると鑑定留置が実施される場合がありますが、鑑定留置では具体的にどんなことが行われるのでしょうか。
本コラムでは鑑定留置をテーマに、鑑定留置の期間や流れ、刑事処分に与える影響などについて解説します。
1、鑑定留置とは
鑑定留置とは何か、どのようなケースで実施されるのかについて解説します。
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(1)鑑定留置とは
鑑定留置とは、被疑者や被告人の心神または身体に関する鑑定をさせるについて必要があるときに、裁判所が期間を定め、病院その他の相当な場所に留置することをいいます(刑事訴訟法第167条)。
刑事事件の被疑者・被告人の刑事責任能力が問題になると、その精神状態を調べるために精神鑑定を実施する場合があります。精神鑑定を円滑に行うために被疑者・被告人の身体を精神科病院や拘置所に留置するのが鑑定留置です。 -
(2)裁判員裁判で実施されることが多い
殺人や強盗致死などの裁判員裁判対象事件では、法廷での被告人の言動に不審な点があれば、裁判員は刑事責任能力を疑うことになります。一般市民である裁判員に対して判断のよりどころを明確にする意味もあり、鑑定留置をともなう精神鑑定が実施されるケースが多くあります。
また検察側の思惑として、精神鑑定で有利な結果を得て、確実に有罪に持ち込むために念のため鑑定留置の実施を請求する場合もあるでしょう。 -
(3)本鑑定と簡易鑑定との違い
精神鑑定には起訴前の鑑定と起訴後の鑑定があり、起訴前の鑑定には起訴前本鑑定と簡易鑑定があります。鑑定留置をともなって実施されるのが起訴前本鑑定、鑑定留置されずにごく簡易的に実施されるのが簡易鑑定です。簡易鑑定は、検察庁の庁舎内において、通常は1回30分~1時間程度の短時間で実施されます。
一方、起訴前本鑑定は、被疑者の身柄を2~3か月にわたって精神科病院や拘置所内に留置し、医師が継続的に診察する方法で行われます。鑑定の結果をもとに検察官が不起訴処分を下す場合や、最初に簡易鑑定を行い、そこでの判断が難しいときは本鑑定が実施される場合もあります。
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2、起訴判断に与える影響
鑑定留置が何のために行われるのか、また起訴・不起訴の判断にどのような影響を与えるのかを解説します。
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(1)刑事責任能力を鑑定する
鑑定留置は、被疑者や被告人に刑事責任能力があるかどうかを鑑定するために行われます。刑事責任能力とは刑法上の責任を負う能力をいい、「心神喪失」と「心神耗弱」の2つの状態があります。
心神喪失とは、精神の障害によって善悪を判断する能力や、その能力に従って行動する能力が失われている状態のことです。
心神耗弱とは、精神の障害によって善悪を判断する能力や、その能力に従って行動する能力が著しく減退している状態をいいます。 -
(2)起訴・不起訴の判断や刑事裁判への影響
刑法第39条第1項は「心神喪失者の行為は、罰しない」、同第2項は「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」としています。心神喪失と認定されると刑事責任を問うことができないため、必ず無罪判決が言い渡されます。心神耗弱は限定的に刑事責任能力が認められるため無罪にはなりませんが、必ず刑が減軽されます。
検察官はこれらの規定を踏まえ、起訴前の段階で被疑者の責任能力を疑う場合には鑑定を実施し、その結果をもとに起訴・不起訴を判断します。令和2年版犯罪白書によれば、心神喪失を理由に不起訴処分になった人員数は、毎年400~600件ほどで推移しています。 -
(3)刑事責任能力を判断するのは誰か
精神鑑定を実施するのは精神科医ですが、刑事責任能力があるかどうかは法律上の問題なので、最終的に判断するのは検察官または裁判官です。
検察官や裁判官は、鑑定を実施した医師の意見を尊重し、刑事責任能力の有無を判断します。
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3、鑑定留置の期間と流れ
鑑定留置の期間や鑑定の流れ、内容について解説します。
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(1)鑑定留置の期間
鑑定留置の期間に法的な定めはありませんが、通常は2~3か月の期間を定めて実施されます。また期間が定められても、その後に延長される場合があります。
被疑者・被告人が勾留されている場合は、鑑定留置を受ける間、勾留の執行が停止します。鑑定留置中に取り調べは実施されません。鑑定留置が終わると、残りの勾留期間が進行し、取り調べができるようになります。 -
(2)起訴前本鑑定の流れ
鑑定留置をともなう起訴前本鑑定は被疑者を2~3か月にわたり拘束する強制処分なので、裁判官の令状が必要です。そこで、検察官が裁判官に対し、鑑定留置状の発付を請求します。
鑑定留置状が発付されると、被疑者の身柄は警察の戒護のもと精神科病院または拘置所に移送され、医師の継続的な診断を受けます。
鑑定結果をもとに医師が精神鑑定書を作成し、検察官に提出します。残りの勾留期間内に検察官が起訴・不起訴を判断するという流れです。 -
(3)鑑定留置の内容
鑑定留置が実施される場合は、医師が被疑者との面接や医学的検査を通じて、犯行時に幻覚・妄想があったのか、違法性の認識があったのかなど、被疑者の精神状態が事件に与えた影響を見極めます。
医師は被疑者の既往歴や家庭環境、経済状況、犯行時の思考や事件後の行動など広範囲の情報を聴き取ります。家族からの聴き取りも行うでしょう。過去については生育歴や職歴、婚姻歴などの生活史、現在については犯行時の病状や治療状況、最近の生活状況、さらには将来に関する予測なども踏まえ、長い時間軸の中で評価します。
知能テストや人格傾向を判断するための心理テスト、血液や脳波の検査、腹部エコー・CTなどの身体的検査を実施する場合もあります。
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4、鑑定留置実施の取り消しを求めるには
鑑定留置が決定すると、長期にわたり身柄拘束を受けるため、被疑者・被告人にとって多大な負担となります。裁判で有罪判決を受けたわけでもないのに強制的に身柄を拘束されて社会生活から隔離されることで、被疑者・被告人の人権が害されてしまうおそれもあるでしょう。
鑑定留置の実施や鑑定留置延長に不服がある場合には、裁判所に対して決定や命令の取り消しまたは変更を申し立てることができます(刑事訴訟法第429条第1項第3号)。これを準抗告といいます。準抗告が認められると、鑑定留置を回避でき、または回避できなくても期間が短縮される場合があります。
準抗告は弁護士が裁判所に対して行います。弁護士は被疑者には鑑定の必要性がないことや、鑑定を行うとしても留置する必要性はない旨を主張します。準抗告を認めるかどうかの審理は、鑑定留置を決定した裁判官以外の裁判官3人の合議体によって行われます。
準抗告以外には、弁護士が検察官や裁判官に対して意見書を提出する、裁判所に対して鑑定留置理由開示請求を行い鑑定留置の正当性を改めて判断させるといった活動によって、鑑定留置の取り消しを求める場合があります。
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5、責任能力があっても不起訴になるケース
心神喪失や心神耗弱に該当せず、完全責任能力が認められる場合でも、精神疾患を理由に不起訴処分や執行猶予を得られるケースがあります。
たとえばクレプトマニア(窃盗症)と呼ばれる精神疾患の場合、心神喪失や心神耗弱が認められるケースはほとんどありませんが、検察官による起訴・不起訴の判断や、裁判官の量刑判断に際して考慮される要素になり得ます。
クレプトマニアは、本人に「万引きは犯罪である」との自覚があり、その物を買うお金もあるのに、感情をコントロールできずに盗んでしまうといった特徴をもつ精神疾患です。一種の依存症なので、根本的に治療しない限りは再犯するおそれが高いといえます。
そのため弁護士としては、クレプトマニアの特殊性を主張しつつ、早期の段階から医療機関で治療を受けさせるなどして、検察官や裁判官に本人の治療と再犯防止に対する強い意欲を示していきます。その結果、刑罰を科すよりも治療が優先されるべきとして不起訴処分や執行猶予付き判決を得られるケースがあります。
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6、まとめ
鑑定留置は、被疑者・被告人の精神鑑定をスムーズに進めるために、精神科病院や拘置所に身柄を拘束する手続きです。精神疾患がある被疑者・被告人が事件を起こした場合に、心神喪失による無罪や心神耗弱による減軽を求めるのか、早期の段階で治療を開始させるなど不起訴や執行猶予を得るために活動したほうがよいのかは個別の事件によって異なります。難しい判断を要する問題なので、弁護士に相談のうえ慎重に検討するべきでしょう。
精神疾患をもつご家族が逮捕・勾留された場合は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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