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弁護士コラム

2021年10月14日
  • その他
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業務上過失致傷が成立するとどうなる? 傷害罪との違いを解説

業務上過失致傷が成立するとどうなる? 傷害罪との違いを解説
業務上過失致傷が成立するとどうなる? 傷害罪との違いを解説

たとえ積極的に危害を加えるつもりがなかった場合でも、不注意によって他人にケガを負わせると犯罪になります。

令和2年10月には、飼い犬が客を噛んで軽症を負わせた事件でカフェの経営者が逮捕されました。同年2月と5月に、店内で飼育しているゴールデンレトリバーが誤って女性客を噛み、1人の女性は右手に、もう1人の女性は左手にそれぞれ軽症を負ったとのことです。この事件では、動物とのふれあいを提供している施設としての届け出がなかった点について動物愛護法違反に問われたほか、刑法の「業務上過失致傷」にも問われています。

本コラムでは「業務上過失致傷」が成立する要件や実際に罪に問われた事例を解説していきます。

1、業務上過失致傷の成立要件

まずは「業務上過失致傷」がどのような犯罪なのか、法的な根拠や成立要件、罰則を確認していきましょう。

  1. (1)業務上過失致傷の法的根拠

    業務上過失致傷は、刑法第211条前段に「業務上過失致死傷等」として規定されている犯罪です。

    「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者」を業務上過失致死傷とし、相手を死亡させてしまった場合は業務上過失致死に、負傷させた場合を業務上過失致傷になります

  2. (2)業務上過失致傷が成立する要件

    業務上過失致傷の成立要件は次の3点です。

    • 業務上の行為であること
    • 過失によるものであること
    • 相手を負傷させたという結果が生じたこと


    ここでいう「業務」とは、人が社会生活を維持するうえで反復継続して行う事務を指します。反復継続して行う予定があれば仮に最初の行為で人を負傷させた場合も本罪は成立します。一般的にイメージする「仕事」だけに限らないため、過去には自家用車の運転も業務に含むと解されていました。

    なお、業務の適法性までは求められていないので、たとえば医師免許をもたないまま医療行為を施すことも、反復継続性があれば業務となります。

    「過失」とは、通常払うべき注意を怠ることを指します。ここではさらに、通常は一定の業務に従事する者として当然に要求される注意義務を怠ったことが原因となって、何らかの事故を起こした場合だと理解しておけばよいでしょう

    「業務上の行為」において「過失」があったことで、相手を負傷させた結果が生じると、業務上過失致死傷が成立します。

    もし、業務に関係しない状況で過失によって相手を負傷させた場合は、刑法第209条1項の過失傷害が成立するにとどまります。また、業務上の行為において過失があったとしても相手を負傷させることがなければ、未遂を罰する規定が存在しないため、本罪は成立しません。

  3. (3)業務上過失致傷の罰則

    業務上過失致傷の罰則は、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。単なる過失傷害の罰則が30万円以下の罰金または科料であることに照らすと、格段に重い刑罰が規定されているといえるでしょう。

    業務上必要な注意を払う義務があるのにこれを怠って重大な結果を招いたという点は厳しく評価されると考えるべきです。

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2、業務上過失致傷と傷害罪となる事件の違い

業務上過失致傷と同じく、相手を負傷させるという結果が生じた場合に適用される犯罪に「傷害罪」があります。本項ではどのような違いがあるのかについて解説します。

  1. (1)傷害罪とは

    傷害罪は、刑法第204条に規定されている犯罪です。「人の身体を傷害した者」を罰するもので、ケンカの相手を殴って骨折させた、トラブルの相手を刃物で切りつけて切創を負わせたといったケースが典型的でしょう。

    傷害罪は比較的身近な犯罪です。令和2年版の犯罪白書によると、令和元年中の認知件数は2万1188件で、刑法犯全体のなかでも5番目に多い犯罪に数えられています。

  2. (2)成立要件にみる業務上過失致傷と傷害罪の違い

    業務上過失致傷と傷害罪はどちらも「相手を負傷させた」という結果において同じであり、まぎらわしい犯罪だといえます。

    両者を明確に区別するのは、相手を負傷させるに至った行為について「故意」があったかどうかです。傷害罪は、相手が負傷するという結果を認識したうえで暴行を加えるなどした場合に成立します。また、特に負傷させようとまでは意図していなかった場合でも、暴行に故意があれば傷害の故意もあるものと認められます。

    一方で、業務上過失致傷が成立するのは業務上の行為において「過失」が原因で相手を負傷させた場合に限られます。たとえ同じ程度のケガを負わせたとしても、業務上の行為における過失が原因であれば業務上過失致傷となり、業務性の有無にかかわらず故意によるものであれば傷害罪となります。

  3. (3)罰則も異なる

    傷害罪の罰則は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。最高で15年にもわたる懲役が科せられるおそれがある点に注目すれば、非常に厳しい刑罰が設けられている犯罪だといえるでしょう。

    業務上過失致傷の罰則が5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金であることと比較すると、負傷させた原因が故意であるのか、それとも過失であったのかは重要です。同じ行為によって同じ結果が生じる場合であっても、そこに故意が存在したのか、過失にとどまるのかで懲役の上限に10年もの差がつくため、故意・過失のどちらが認定されるのかが争われるケースもめずらしくありません。

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3、業務上過失致傷が適用された事例

実際に業務上過失致傷が適用された裁判例を紹介します。

  1. (1)航空機同士の異常接近事故

    平成13年1月、国内線の旅客機同士が上空で急接近し、衝突を避けるために一方が急降下したため搭乗客らが機内で跳ね上げられて落下し、57名が負傷する事故が発生しました。
    調査の結果、いわゆる「ニアミス」が発生した原因は、実地訓練中の航空管制官が便名を間違えて管制指示を出したことで両機が著しく接近してしまった点にあったことが明らかになります。

    航空管制官は航空交通の安全確保を職責としており、航空機の接触・衝突事故が発生すれば多数の生命が失われることは容易に予見できる立場です。本件は、両機の機長が接触を回避するための緊急行動をとったために事故を回避できたものの、急降下によって搭乗客を負傷させた責任は航空管制官にあり、業務上過失致傷が成立すると判断されました

    また実地訓練中の航空管制官を指導監督する立場である航空管制官についても、便名の言い間違いに気付かず直ちに是正をしなかったことが業務上の注意義務を怠った過失にあたるとして業務上過失致傷が成立するとされました(最高裁平成22年10月26日決定(平成20年(あ)第920号事件))。

  2. (2)看板の落下事故

    平成27年2月、飲食店の壁面に歩道上へと突き出すかたちで設置されていた看板から、老朽化した金属製の支柱が強風によって落下し、直下を通行していた歩行者の頭部に衝突して、被害者に全治不能の頸髄損傷などの傷害を負わせた事件です。

    この事件では、飲食店の店長職を担当していた被告人が、業務上過失致傷に問われました。

    事件の直前、看板を支える部品の一部が歩道上に落ちていたことを通行人が指摘しており、その色合いや質感から自店の看板から落下したものであることや、強風が吹くなかでさらにほかの部品が落下する危険があったことは容易に予見できたはずです。ところが、被告人は部品が脱落した箇所の特定や歩行者への注意喚起といった措置を講じないまま放置しており、その結果として歩行者が負傷していることから、業務上過失致傷は免れないと判示されました

    ただし、裁判官は「被告人の過失は決して軽くない」としたうえで、本来的な原因は点検業務を担当する部署の落ち度も重大であると述べており、法定刑のなかでも比較的に軽い罰金40万円が言い渡されました(札幌地方裁判所平成29年3月13日判決(事件番号:平成28(わ)第211号事件))。

  3. (3)ガスフライヤーの転倒事故

    平成28年7月、祭りに出店したからあげ店の露店店主が、高温の油を入れたままのガスフライヤーを移動させようとして転倒し、高温の油を周囲に飛散させて周囲の見物客9名を負傷させた事件です。

    営業を終えて露店を撤去するにあたり、30分ほど前に火を止めたばかりで高温の油が入っていたガスフライヤーを不安定な台車に乗せて運び出している最中に転倒させた行為は、重大な危険を及ぼすことが容易に予測できたはずです。ところが、店主は大勢の見物客に対して「危ないよ」と一声かけただけでガスフライヤーを移動させようとして事故を招きました。

    裁判官は、撤去を差し控えるべき業務上の注意義務があったのにこれを怠ったと指摘しています一方で、加入していた保険による賠償に加えて、保険の限度額を超えた場合に備えて弁護人名義の口座に300万円を預け入れ、これからの貯蓄を続けて賠償に備える姿勢もみせたことも評価して、禁錮3年・執行猶予5年の判決を言い渡しました(福岡地方裁判所平成29年12月20日判決(事件番号:平成29(わ)第88号事件))。

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4、会社が問われる責任と求められる対応

従業員が業務上過失致傷に問われた場合、会社にも何らかの責任を追及されるのかという点は気になるところです。会社が問われる責任や求められる対応について確認しましょう。

  1. (1)罪に問われるのは従業員本人

    業務上過失致傷は、業務上の行為において必要な注意を怠った者を罰する犯罪です。会社の命令によって業務を遂行していた場合でも、過失の刑事責任を問われるのはあくまでも従業員本人や現場の管理責任者であるため、会社が罪に問われることはありません

    業務上過失致傷には、従業員が罪を犯した場合に会社も罰するという「両罰規定」が存在しないため、罪に問われるのは従業員本人だけです。

    ただし、欠陥商品などが原因で過去にも事故が発生しており、会社側も事故の発生を予見できていたのに何ら対策を講じていなかったといったケースでは、会社側の責任者として社長なども罪に問われるおそれはあります

  2. (2)労働安全衛生法によって会社が処罰されるおそれがある

    業務上の事故によって従業員が負傷したケースでは、会社側が労働安全衛生法違反に問われることがあります。労働安全衛生法は、事業者に対して労働者の危険や健康被害を防止するための措置を講じるよう義務付けています。

    機械や器具・爆発物・電気・掘削・採石・荷役・伐木・ガス・粉じんなどによる危険があるのに必要な措置をとらなかった場合は、労働安全衛生法第119条の規定により、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

  3. (3)損害賠償を求められる危険もある

    基本的に会社側が刑事責任を問われることはないものの、民事上の責任を追及されて損害賠償請求を受ける危険は否定できません。事故を防止するために取り組むべき安全配慮の義務を欠いたとして、被害者から慰謝料などの請求を受けるケースが考えられます。

    また、自社の従業員が負傷した場合でも、労働契約法第5条にもとづく安全配慮義務を欠いたとして従業員本人や家族などから損害賠償請求を受けることも想定されるでしょう。

  4. (4)再発防止対策も求められる

    たとえ会社側は刑事事件の責任をとる立場になくとも、従業員が業務上の行為で過失によって第三者を負傷させたのであれば、会社側は再発防止に取り組む姿勢を求められるでしょう。

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5、弁護士に依頼することによって目指せること

業務上過失致傷の容疑をかけられてしまった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。

  1. (1)被害者との示談交渉を依頼できる

    業務上過失致傷事件を穏便に解決するためにもっとも有効なのが被害者との示談交渉です被害者に対して真摯に謝罪のうえで治療費や慰謝料を含めた示談金を支払うことで、被害届や刑事告訴の取り下げを願います

    ただし、被害者のなかには加害者に対して怒りを抱いている方も多く、不意に負傷させられたという理不尽には特に強い怒りを感じていることでしょう。加害者本人や家族などが示談交渉をもちかけても、かたくなに拒否されてしまうケースもめずらしくありません。

    弁護士を代理人として交渉を進めることで、被害者の警戒心をやわらげながら心情に配慮した示談交渉が可能です。また、示談が成立した場合は、今後は賠償を求めない旨の清算条項など、安心できる内容の示談書の作成も一任できます。

  2. (2)不起訴や執行猶予など適切な処分を期待できる

    早い段階で被害者との示談が成立すれば、警察の捜査が進展する前に事件を解決できる可能性があります。負傷の程度が重大であれば警察が逮捕を検討しているおそれもあるので、早期の示談成立で逮捕の回避が期待できるでしょう。

    すでに警察の捜査が進展している状況でも、示談成立によって検察官が不起訴とする可能性も高まります。検察官が起訴に踏み切り、刑事裁判に発展した場合でも、被害者に対して謝罪と賠償を尽くしているという事実は、裁判官が量刑を判断するにあたって有利な事情となります。

    弁護士にサポートを依頼することで、厳しい実刑判決を回避して執行猶予を目指す、罰金刑となるよう裁判官に主張するといった弁護活動も期待できるでしょう

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6、まとめ

業務上過失致傷は、業務上の行為における不注意によって他人を負傷させてしまうことで成立する犯罪です。相手にケガをさせる意図がない場合でも厳しい刑罰が科せられるため、容疑をかけられてしまった場合は直ちに弁護士にサポートを求めて被害者との示談交渉を進めましょう。

業務上過失致傷事件の示談交渉は、被害者が強い怒りを抱いているケースが多いため、加害者本人やその家族では難航する傾向があります。安全に、そして円満に解決を図るには、弁護士に交渉を一任するのが最善策です。

直ちに刑事事件の解決実績を豊富にもつベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。

※本コラムは公開日当時の内容です。
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