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警察の取り調べの内容とは? 流れや対応の注意点についても解説
刑事事件を起こすと、警察による「取り調べ」が行われます。ドラマなどでは、薄暗い取調室で厳しい追及を受けたり、暴力的な扱いを受けたりするシーンが描かれていることが多いので、取り調べに対して強い不安を感じる方は多いでしょう。
事実、令和2年中には全国で17件の不適正なおそれのある取り調べが確認されたと警察庁が公表しており、顔や机をたたいたといった暴力的な事案も発生しています。警察の取り調べでどんなことを聞かれるのか、どのような扱いを受けるのかといった不安を感じてしまうのも当然です。
本コラムでは、警察による取り調べの種類や実態、取り調べを受ける被疑者に保障されている権利や取り調べに臨む際の注意点などを解説します。
1、警察の取り調べとは
警察には、刑事訴訟法第198条1項の定めによって被疑者を、同第223条1項の定めによって参考人を、それぞれ取り調べることが認められています。
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(1)任意での取り調べ
警察捜査の基本を定める犯罪捜査規範では、第99条において「捜査は、なるべく任意捜査の方法によって行われなければならない」と明示しています。警察には、被疑者に出頭を求めて取り調べる権利がありますが、犯罪捜査規範の定めに従えば任意での取り調べとなるのが基本です。
ここでいう「任意」とは「逮捕による身柄拘束を受けていない」ことを意味します。警察からの出頭要請を受けて、必要の都度、指定された日時に警察署へと出向いて取り調べを受けるのが一般的です。取り調べが終わったあとは、自宅へと帰ることが許されます。
任意の取り調べでは、刑事訴訟法第198条1項の規定によって、出頭の拒否や出頭後の途中退去が認められています。たとえ警察でも「必ず出頭せよ」「途中退去は認めない」と強制することはできません。
なお、任意での取り調べのことをマスコミでは「事情聴取」と報じることがあります。参考人・重要参考人といった立場の人物を取り調べる際に使われる表現ですが、法律上は刑事訴訟法第223条1項に規定されている参考人の取り調べを指しています。 -
(2)逮捕・勾留中の取り調べ
捜査の基本である「任意」の反対は「強制」です。強制捜査とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段をいいます。したがって、被疑者を逮捕・勾留して身柄を拘束したうえで進められる捜査は強制捜査となります。
逮捕・勾留中の被疑者には、取り調べを受忍する義務があるので、任意での取り調べの際のような拒否・途中退去は認められません。取り調べが終わったあとは警察署の留置場に身柄を置かれるため、帰宅することも、会社や学校へと通うことも許されません。
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2、警察の取り調べの実態
警察による捜査は秘密裏に進められる点が多く、特に取り調べについては密室で行われていることから実態が知られていない面も存在しています。警察での取り調べの実態をみていきましょう。
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(1)何を尋ねられるのか?
取り調べで尋ねられる内容のうち、最も重要なのは事件に関する記憶や体験です。犯行時の状況や行動、犯行に至るまでの背景や事情、犯行後の行動などを詳しく尋ねられることになるでしょう。
また、事件に関係ないように思える内容に踏み込んで尋ねられる場面もあります。生い立ちや職歴、日ごろの暮らしぶり、趣味など、事件に関係のないプライベートな内容を尋ねられるケースも少なくありません。これには、取り調べという非日常的な環境に置かれた被疑者をリラックスさせるため、あるいは事件に関係する点がないかを探るためといった目的があるといわれています。 -
(2)どのような流れで進むのか?
取り調べは、取調官と被疑者が一対一で会話する形で進められるのが基本です。補助や通訳が同席することもありますが、ほとんどの場合、取調室のなかで一対一の状況になるでしょう。
事件に関する内容に先だって、被疑者に保障されている権利や取り調べに際しての注意点などが説明されます。わからないことは遠慮せずに質問し、十分に理解したうえで取り調べに臨むべきです。
実際に事件に関する内容を尋ねられる場面では、自由に状況を話すよう求められることがあれば、取調官からの質問に答えるかたちで進められることもあります。
取り調べで供述した内容は「供述調書」という書類にまとめられます。これは、被疑者が「私は……」という一人称のかたちで事件について語る形式の書類で、内容に誤りがないことを確認し、被疑者が署名・押印することで完成します。 -
(3)取り調べにかかる時間や回数
法務省が平成23年にまとめた「取調べに関する国内調査結果報告書」によると、調査対象となった8233件の事件全体における警察での取り調べ時間は、平均で18時間52分でした。
この調査は、被疑者が逮捕・勾留された事件を対象としています。23日間の身柄拘束期間のうち、送致の日や勾留満期の日、検察官による取り調べの日など、実質的に取り調べができない日が5日程度は存在することを考えれば、1日に1~2時間程度の短時間の取り調べが連日のように行われるケースが多いようです。
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3、警察の取り調べは拒否しても良い?
刑事訴訟法の定めに従えば、任意での取り調べに強制力はないため、出頭拒否や取り調べ途中の退去も可能です。出頭拒否や途中退去をしたからといって、それを理由に不利益な処分を受けることはありません。
ただし、罪を犯した疑いが高いものの警察が「まずは参考人として取り調べて感触を確かめたい」と考えている重要参考人である場合は、正当な理由のない出頭拒否・途中退去によって、かえって疑いを高めてしまう事態にもなりかねません。
任意での取り調べでは詳しい事情を聞けない、身柄を拘束しないと逃亡・証拠隠滅を図るおそれがあると判断されれば、逮捕状が請求され、逮捕・勾留されたうえで取り調べが行われる可能性が高まります。
不用意な出頭拒否・途中退去は危険だと心得ておくべきです。
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4、警察の取り調べへの対応法
警察による取り調べにはどのように対応すればよいのでしょうか?
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(1)言いたくないことでも言わないといけないのか?
警察による取り調べにおいては、被疑者に「黙秘権」が保障されています。日本国憲法第38条1項によって保障されている権利で、誰であっても「自己に不利益な供述を強要されない」とするものです。刑事訴訟法第198条2項でも、取り調べに際しては必ず被疑者に告知されなければならないとされており「言いたくないことは無理に言わなくてもよい」といった表現で伝えられます。
黙秘権は法的に保障されている権利であり、警察であっても犯すことはできません。また、黙秘権を行使したからといって、それだけを理由に不利益な処分を受けることもありません。 -
(2)録音は可能か?
取り調べは密室で行われるものであるため、ICレコーダーやスマートフォンを使って「録音したい」と考える方もいるでしょう。
取り調べの録音そのものは、法律による規制を受けていないため違法ではありません。暴力的・脅迫的な取り調べから身を守る手段としては極めて効果的な手段です。
ただし、取調室に入室する際は危険物の持ち込みを防止する観点から所持品の検査が行われるため、録音機器を所持していることを隠すのは難しいでしょう。取調官に知られれば、録音を控えるよう注意されるのは必至です。
また、録音することで不利な供述や虚偽の供述の証拠も残してしまう事態になります。取り調べ内容の録音は慎重に検討するべきでしょう。
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5、警察の取り調べを受ける際の注意点
取り調べを受ける際に気をつけておきたいポイントを挙げておきましょう。
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(1)嘘の供述をしない
犯罪の容疑をかけられて取り調べを受ける場合は、都合の悪いことや恥ずかしいことまで質問を受けるでしょう。また、罪を逃れたいと願う一心で、虚偽の供述をしてしまうのも不自然ではありません。
しかし、取調官は事前に捜査を尽くしたうえでさまざまな証拠をつかんでいるケースが多く、安易なうそはすぐに見抜かれてしまいます。
取り調べにおける虚偽の供述があったからといって、直ちに不利となるわけではありません。しかし、虚偽の供述を繰り返していると「反省していない」「罪から逃れようとしている」と評価される可能性があります。のちに刑事裁判で争うことになると、不利な結果を招いてしまう危険もあります。
都合の悪い内容であっても、取り調べにおいては真実を語るべきです。 -
(2)供述調書の内容が間違っている場合はサインしない
被疑者が取り調べにおいて語った内容は、供述調書にまとめられます。
供述調書は、被疑者が語った内容を一言一句もらすことなく記録するものではなく、警察官が要点を整理したうえで内容をまとめるもので、取調官による作文的な要素が強い書類です。
検察官が起訴・不起訴を判断する際や刑事裁判における証拠として強い意味をもつため、内容が正確でない場合は必ず取調官に申し出て、加除訂正してもらわなければなりません。「面倒だから」と訂正を求めずそのまま署名・押印してしまうと、その時点では「内容に間違いはない」と認めたことになり、刑事訴訟法第322条1項の規定に従って証拠に採用されるおそれがあります。
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6、強引な取り調べを受けてしまったら
ドラマなどでは、警察官による強引な取り調べが描かれることが多くあります。冒頭で紹介したように、実際に暴力的な取り調べも少なからず存在するため、不当とも思える取り調べを受ける危険があります。
強引な取り調べを受けてしまった場合はどのように対応すべきなのでしょうか?
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(1)警察は「自白」を引き出そうとする
警察が強引な取り調べをする背景には「自白」を引き出そうとしているからという理由があります。
自白、つまり被疑者自身が「罪を認める」旨の供述をすることで、検察官は有罪に確信をもち、自信をもって起訴を決断できるからです。容疑を否認している被疑者を取り調べで自白させることを、取調官の間では俗に「落とす」と呼びます。
自白を引き出すことこそ取り調べの美学であるかのような傾向がありますが、自白の偏重は無実の被疑者に有罪判決が下されてしまう「冤罪(えんざい)」を呼ぶ原因だと問題視する声も上がっています。 -
(2)取り調べの状況を記録しておく
強引な取り調べを受けた場合は、いつ、だれに、どのような行為を受けたのかを日記やメモといった形で記録しておきましょう。できれば、特に問題のない取り調べであっても一貫して記録しておくことをおすすめします。
取調官の言動だけでなく、途中で補助者が入室してきた、取り調べの途中に取調官が退席したなど小さな変化もつぶさに記録しておけば、個人的な日記・メモといえども信ぴょう性が高まります。
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7、警察の取り調べにおける弁護士の活動
犯罪の容疑をかけられてしまい、警察による取り調べを受ける際は、任意・強制にかかわらず弁護士に相談してサポートを求めることをおすすめします。
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(1)依頼主との打ち合わせ
まずは弁護士と打ち合わせの機会をもち、今後はどのような対応が可能なのかを相談します。容疑をかけられている事件の内容やこれまでの取り調べ状況などをもとに、事件の見通しや取り調べの正当性を分析してもらうことで、的確なアドバイスが得られます。
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(2)警察への確認
事件を担当する警察署の捜査官に問い合わせて、逮捕の予定の有無など今後の方針を確認します。すでに取り調べが行われており、取り調べのなかで不当な行為が確認されている場合は、そのような取り調べを行ったのかという事実も含めて確認します。
逮捕の方針が強い場合は、逃亡・証拠隠滅のおそれを否定するために出頭を約束し、逮捕状を請求しないように働きかけることも可能です。 -
(3)取り調べの立ち会いの申し入れ
不当な取り調べが予想される、またはすでに事前段階で不当な取り調べが行われていることが確認できている場合は、取り調べへの弁護士の立ち会いを申し入れます。
立ち会いを申し入れたからといって、必ず立ち会いが許されるわけではありません。むしろ、立ち会いが許される例はまれです。
しかし、弁護士が立ち会いを求めたという事実は警察に対して強いけん制となるため、不当な取り調べを防ぐ効果が期待できます。 -
(4)任意の取り調べ最中のアドバイス
任意段階での取り調べでは、途中の退去も自由です。不当な言動があればその都度退去し、取調室の外で待機している弁護士に報告することで、対処法のアドバイスや警察への抗議が期待できます。
任意の取り調べでも、被疑者には黙秘権などの権利が保障されていることに変わりはありません。しかし、取り調べの最中では、どのような行為がどの権利に抵触するのかもはっきりせず、被疑者本人が問題を指摘するのも容易ではないので、安全な取り調べが保障されるよう弁護士がサポートします。 -
(5)逮捕されている場合は接見して助言する
逮捕・勾留によって身柄を拘束されている場合は、接見の機会を通じて取り調べに対するアドバイスを提供します。
取り調べの最中でも、弁護士から接見の申し入れがあれば、できる限りすみやかに取り調べを中断して接見の機会を確保する運用がとられています。また、被疑者が「弁護士を呼んでほしい」と求めれば、取調官は留置担当官に連絡して直ちに弁護士にその旨を伝えなければなりません。
弁護士との接見は、黙秘権などと同様に強く保護されている被疑者の権利のひとつです。逮捕されて直後の72時間はたとえ家族が相手でも面会が許されませんが、弁護士との接見に限っては許されています。不当な取り調べから被疑者を守るためには弁護士との接見が欠かせないので、積極的に活用するべきです。
逮捕・勾留中の弁護士との接見では「被疑者ノート」による情報共有が有効です。被疑者ノートとは、弁護士から差し入れられる記録用紙で、取り調べの有無や取り調べで質問された内容、自分が供述した内容、取調官の言動などを記録できるようになっています。暴力的な取り調べを受けて自白を迫られたといった状況も記録できるので、接見の機会に弁護士と情報を共有する手助けになります。 -
(6)依頼主の証言を裏付ける証拠の収集
実際は罪を犯していないのに容疑をかけられている、罪を犯したことに間違いはないがやむを得ない事情があったなど、被疑者にとって有利となる事情がある場合は、弁護士が裏付けとなる証拠を収集します。警察による捜査とは別に監視カメラの映像や目撃者・関係者の証言などを取りそろえることで、依頼主である被疑者の証言が確かであると証明します。
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(7)意見書の提出
依頼主が無罪を主張している、必要のない逮捕・勾留に踏み切られたことで不当に権利が侵害されている、取り調べにおける不当行為が確認されているといったケースでは、弁護士が検察官や裁判官に対して意見書を提出します。
弁護士からの意見書に法的な強制力はありません。しかし、検察官が起訴・不起訴を決断する際や、裁判官が有罪・無罪の別や量刑を判断する際には、警察での取り調べだけではわからなかった事実や背景が判明することもあるため、被疑者にとって有利な処分につながる可能性があります。
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8、まとめ
警察における取り調べでは、事件に関する内容を厳しく追及されることになります。自白を得ようと躍起になった取調官から暴力的な取り調べを受けるおそれもあるため、早い段階で弁護士のサポートを得るのが最善策となるでしょう。
容疑をかけられてしまい警察の取り調べを受けることになってしまった場合は、直ちに刑事事件の対応実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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