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殺意の有無はどのように判定されるのか? 関連する刑罰について紹介
犯罪行為によって人を死亡させた場合、問題となるのは「殺意」の有無です。
令和元年11月、空港のトイレで子どもを出産してその場で殺害し、遺体を公園に遺棄した女性が逮捕される事件が起きましたが、刑事裁判で女性は「殺意がなかったといえばうそになる」と述べて殺意を認めるような供述をしました。
「殺意」に注目が集まる理由は、殺意の有無によってどのような罪が認められるかが左右するからです。本コラムでは、殺意の意味や種類、過失との区別や認定方法などを解説します。
1、殺意とは
一般的にいう「殺意」とは、人を殺そうという意思を指す用語です。トラブルの相手や恨みのある相手を「殺してやろう」と考えることは、まさに殺意がある状態だといえます。
一方で、刑事裁判などで注目される法律上の「殺意」とは、単なる「殺す」という意思のみに限りません。法律上の殺意は「人を死に至らしめる危険性の高い行為をすることへの認識」だと定義されています。
殺意の有無は刑法第199条の「殺人罪」を適用するための要件のひとつであり、故意に人を殺害したことを認定するものとして重視されます。
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2、殺意(故意)の種類
● 確定的殺意
確定的な故意にもとづく行為によって人を死に至らしめた場合は「確定的殺意」があったものと認定されます。
自らの行為によって相手が死亡すると認識しているのに、あえて行為におよぶのが確定的殺意です。たとえば、包丁を人の胸にめがけて突き刺せば「当然、相手は死ぬはずだ」と認識できるので、確定的に殺意があったものと認定されます。
● 未必的殺意
必ずしもその結果が発生するわけではないものの、もしその結果が生じた場合はそれでもかまわないという意思を「未必の故意」といいます。これを殺意に照らすと、その行為によって相手を必ず殺してやろうというまでの意思はなかったものの、もし死んでしまったらそれはそれでかまわないと考えることを未必的殺意と呼びます。
積極的な殺害の意思がなかったとしても、未必的殺意が認定される場合は「殺意があった」とされます。
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3、故意と認識のある過失、殺意との違いは?
殺人罪における「故意」とは、必ずしも「殺意」と同じ意味となるわけではありません。故意は犯罪を実行することに対する意思であり、相手を「殺してやろう」あるいは「死んでしまっても構わない」という結果と結びつかないケースも存在します。
たとえば、相手を包丁で刺してやろうという故意が存在しても「まさか死んでしまうとは思わなかった」という場合は殺意が存在しないので殺人罪は成立しません。
包丁で刺すという犯罪行為そのものには故意が存在し、相手に危害が加わるという結果が発生するかもしれないとは思っていたものの、結果が発生しても構わないと思っていなかった場合は「認識のある過失」となります。
「認識のある過失」は、「過失」としての責任しか追及されません。過失とは、注意を怠ったことで結果を発生させてしまうことをいいます。
過失によって人を死亡させた場合は殺人罪の構成要件を満たさないため、殺人罪には問われません。ただし、不注意によって人の死亡という重大な結果を招いているため、別の犯罪として処罰されます。
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4、状況証拠による殺意の判定方法
殺意は人の内面的な意思です。つまり、殺意の認定にあたって唯一の確定的な証拠は、被疑者・被告人が述べた自白だけとなります。
そのため、人を死に至らしめた事件では、現場の状況や周辺事実などから読み取る「状況証拠」によって殺意を判定します。
状況証拠による殺意の判定方法を確認していきましょう。
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(1)凶器の種類と使い方
犯行に使用した凶器が、相手の生命を奪うに足りる形状・性能を有しているのか、凶器をどのように使用したか、などが殺意を認定する重要な状況証拠となります。
たとえば、刃物を使用している場合でも、刃渡りが長く鋭利なナイフを突き刺したのであれば強い殺意が認定されるおそれが強くなり、刺突能力のないカッターナイフで切りつけた場合は殺意が否定される可能性が高くなるでしょう。 -
(2)創部の箇所や程度
相手に創傷を与えた箇所や程度も重要な判断材料のひとつです。頭部・頸部・胸部・腹部といった人体の枢要部に凶器を深く突き刺していれば「死に至らしめる」という結果の発生は容易に予見できるため強い殺意が認定されやすくなります。
一方で、腕部・脚部といった重傷を負っても致命傷には至らない箇所への攻撃は、殺意が否定される可能性が高くなります。 -
(3)殺人の動機
事件前に被害者との間で重大なトラブルがあって強い恨みをもっていた、誰でもいいから人を殺して世間を騒がせたいと考えていたなどの事情があるケースでは、殺意が認定されやすくなります。
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(4)殺人前後の言動
日ごろから周囲に「あいつを殺してやる」と漏らしていた、犯行の際に「殺してやる」と叫んでいたといった状況がある場合も、強い殺意をうかがわせる事情として評価されます。また、負傷した被害者の手当をしなかった、救急車も呼ばずにその場から逃走したといったケースでも、やはり殺意が認定されやすくなります。
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5、殺意の有無に関連する犯罪
殺意の有無は、どの犯罪が適用されるのかを大きく左右します。ここで挙げる犯罪は、いずれも殺意の有無が問題となるものです。
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(1)殺人罪
殺意をもって人を死に至らしめると、刑法第199条の殺人罪が適用されます。殺人罪の法定刑は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役です。死刑という最高刑が予定されているだけでなく、有罪となれば最低でも5年の懲役を受けることになり、執行猶予もつかないという点で非常に重い犯罪だといえます。
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(2)殺人未遂罪
刑法第203条は「殺人未遂罪」を規定しています。殺意をもって相手に危害を加えたものの、相手が死に至らなかった場合に成立する犯罪です。
殺人未遂罪は原則として殺人罪と同じ法定刑の範囲で刑罰が科せられます。もっとも、刑法第43条により減刑される可能性があります。殺人未遂罪に対し懲役2年6か月~3年の間で判決が下された場合執行猶予がつく可能性があります。 -
(3)同意殺人罪
相手から「殺してほしい」と嘱託された、あるいは「殺されてもかまわない」と相手から承諾を得て殺害した場合は、刑法第202条の「同意殺人罪」が成立する可能性があります。
殺意が生じた動機が相手からの嘱託や承諾であるという点で殺人罪とは異なりますが、明確な殺意を要件とする点では殺人罪と同じです。
同意殺人罪の法定刑は、6か月以上7年以下の懲役または禁錮です。 -
(4)傷害致死罪
相手を傷害して死亡させた場合は、刑法第205条の「傷害致死罪」が成立します。殺意なく傷害を加えたことにより予期せず相手が死亡してしまったという点で殺人罪と明確に区別される犯罪です。
法定刑は3年以上の有期懲役で、殺人罪と比較すると格段に軽い刑罰が予定されています。 -
(5)過失致死罪
刑法第210条に規定されているのが「過失致死罪」です。
殺意も傷害の故意もない不注意によって他人を死に至らしめてしまった場合に成立する犯罪で、50万円以下の罰金が規定されています。
なお、業務上必要な注意を怠った、または重大な過失によって人を死亡させた場合は刑法第211条の「業務上過失致死罪・重過失致死罪」が成立し、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます。
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6、殺人罪の時効
犯罪には公訴時効が設けられています。公訴時効が経過すれば検察官が起訴できなくなるため、罪には問われません。
刑事ドラマなどでは殺人事件の容疑者が時効成立まで逃亡するといったシーンが描写されることがありますが、平成22年の刑法改正によって、死刑の公訴時効は撤廃されています。
ただし、公訴時効が撤廃されているのは「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が死刑である犯罪に限られています。殺人未遂罪は「人を死亡させた」という構成要件を満たしていないので25年が経過すれば罪に問われません。また、傷害致死罪は20年が経過すると公訴時効が成立します。
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7、まとめ
犯罪行為によって人を死に至らしめてしまった場合は「殺意」の有無によって殺人罪や傷害致死などの犯罪が成立する可能性があります。殺意が認定されるか否定されるかの違いが刑罰の重さに影響するため、殺意がなかったのに人を死亡させてしまって罪に問われている場合は、客観的な事実にもとづいて殺意を明確に否定しなくてはなりません。
殺意の有無が争点になっている場合、容疑をかけられている本人が「殺すつもりはなかった」と主張するだけでは足りません。直ちに弁護士に相談して弁護活動を依頼しましょう。
殺人罪などに問われている場合は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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