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上訴と控訴、上告の違いとは? 意味や流れを弁護士が詳しく解説
自分や家族が刑事事件の被告人となり裁判にかけられたが、裁判の結果にどうしても納得できない……。このようなケースで検討されるのが「上訴」です。
ニュースや新聞などで「上訴」という言葉を目にすることも少なくないでしょう。上訴は正しい裁判の実現のために設けられている制度なので、単に裁判結果に不満があるという理由だけでは利用できず、上訴するためには法律上の要件を満たす必要があります。具体的にどのようなケースで上訴が可能なのでしょうか?また「控訴」や「上告」とは何が違うのでしょうか?
本コラムでは「上訴」をテーマに、上訴の意味や控訴・上告との違い、手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、上訴とは
日本の司法では「三審制」が導入されており、裁判の結果に納得できない場合には上級の裁判所に不服を申し立てることができます。これを「上訴」といいます。
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(1)三審制の仕組み
三審制とは日本の裁判で採用されている審級制度のことで、原則として3回までの反復審理を受けられる仕組みです。
- 第一審
事件の内容によって、原則として地方裁判所または簡易裁判所で最初の裁判が行われます。 - 第二審
第一審の判決に不服申し立てがあった場合に、高等裁判所で裁判が行われます。控訴審ともいいます。 - 第三審
第二審の判決に不服申し立てがあった場合は、最高裁判所で裁判が行われます。上告審ともいいます。
- 第一審
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(2)上訴とは
上訴とは、不利益な裁判を受けた人が、裁判が確定する前に上級の裁判所に対して不服を申し立て、原裁判の変更または取り消しを求めることです。
個々の裁判所は独立した裁判権があるため上級裁判所の指揮監督を受けることはありません。しかし上訴があったときは、上級裁判所は下級裁判所がした判決内容を審理する権限を有します。
上訴は裁判の誤りを防ぎ、不利益な判断を受けた人の人権を守るために存在する制度です。裁判の当事者が希望すれば反復審理が受けられることにより、正しい裁判が実現され、えん罪の防止にもつながります。 -
(3)上訴の種類
上訴には「控訴」と「上告」のほかに、「抗告」があります。抗告は裁判所の決定に対する不服申し立てであるのに対して、「控訴」と「上告」は裁判所の判決に対する不服申し立てという違いがあります。以下では、控訴と上告について詳しくみていきます。
控訴とは、第一審判決に不服がある場合に、第二審を担当する裁判所に対して再度の審理を求める手続きのことです。控訴審は裁判官3人の合議体によって審理が行われます。
上告とは、第二審の判決に不服がある場合に、第三審を担当する裁判所に対して再度の審理を求める手続きのことです。民事事件と異なり、刑事事件では上告審は必ず最高裁判所が管轄を有することになります(裁判所法第16条3号)。なお、最高裁判所には15人の裁判官がいますが、そのうち5人の裁判官による判決を最高裁小法廷判決、15人全員による判決を最高裁大法廷判決といいます。
2、控訴とは
前述のとおり、控訴は第一審がした判決に納得できない場合に行う不服申し立ての手続きです。控訴の特徴や要件、手続きについて解説します。
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(1)控訴できる人
控訴の申し立てができるのは第一審の当事者である被告人と検察官です。犯罪の被害者が控訴することはできません。
被告人から控訴するケースが大半ですが、検察官が控訴する場合もあります。たとえば第一審で無罪判決だった場合に、検察官がこれを不服として控訴し、控訴審で有罪判決に覆るケースもあり得るということです。
なお、被告人の弁護人も控訴できますが(刑事訴訟法第355条)、被告人の明示の意思に反して控訴することはできません(同法第356条)。また控訴した後に被告人が控訴を取り下げる意思を示した場合には、弁護人は控訴を取り下げなければなりません。 -
(2)不利益変更禁止の原則
被告人のみが控訴した場合は、第一審の判決より控訴審の判決を重くすることは法律上禁止されています。これを「不利益変更禁止の原則」といいます(刑事訴訟法第402条)。
被告人が控訴しても第一審より量刑が重くなるおそれがあれば、それを理由に控訴をやめてしまうケースが増えてしまうでしょう。それでは三審制のもとで正しい裁判を受けることができなくなってしまうため、被告人に控訴をためらわせないことを目的として設けられている規定です。
ただし検察官が控訴した場合は、第一審の判決より重くなる場合があります。 -
(3)控訴審は「事後審」
事後審とは、第一審の判断や手続きに誤りがなかったかどうかを審査することをいいます。控訴審の裁判官が事件をどのように考えるのかではなく、第一審の判断に論理則、経験則違反がないかを審査するのが控訴審です。裁判を最初からやり直し、第一審と同じように事件の内容について審理するわけではありません。
そのため第一審と異なり、証拠の取り調べや証人尋問が行われるケースはまれです。 -
(4)控訴が認められる要件・理由
控訴が認められるためには理由が必要です。
控訴の理由には、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである場合に限って控訴理由となる「相対的控訴理由」と、その違反が判決に影響を及ぼしたかどうかにかかわらず控訴理由となる「絶対的控訴理由」があります。相対的控訴理由は刑事訴訟法第379条から382条に定められており、絶対的控訴理由は同法第377条および378条に定められています。後者はたとえば裁判所の管轄違いなどが挙げられますが、問題になるケースはほとんどありません。以下、相対的控訴理由について説明します。
● 訴訟手続きの法令違反(刑事訴訟法第379条)
第一審で行われた訴訟手続きに法令違反があった場合を理由とするものです。
たとえば被告人の自白のみによって犯罪事実を認定したようなケースが該当します。
● 法令適用の誤り(刑事訴訟法第380条)
第一審で認定された事実に対する法令の適用に誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由とするものです。刑罰法令の解釈や適用する条文の誤りなどを指します。
たとえば窃盗罪を適用するべきところ強盗罪を適用したケースなどです。
● 量刑不当(刑事訴訟法第381条)
第一審で言い渡された量刑が不当であることを理由とするものです。量刑が不当に重い、または軽い場合が該当します。
たとえば、執行猶予つき判決が相当であるのに実刑判決が言い渡された、懲役1年が相当なのに懲役3年になったなどのケースです。量刑が不当かどうかの判断は非常に難しい問題ですが、通常言い渡されるであろう量刑基準から、どの程度乖離(かいり)しているのかという基準で判断されることが多いといえます。
● 事実誤認(刑事訴訟法第382条)
第一審の判決に事実誤認があり、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由とするものです。
たとえば犯罪行為を間接的に援助したほう助犯であるのに、犯罪行為を直接実行した正犯と判断したようなケースが該当します。
● 判決後の情状(刑事訴訟法第393条2項)
第一審の判決後に量刑に影響を及ぼす情状事実が生じた場合、その事実は量刑不当の控訴理由にはなりませんが、裁判所の職権による取り調べを求めることができます。裁判所の職権によってのみ取り調べられるため、弁護人から請求しても必ずしも取り調べられるわけではなく、あくまで裁判所の職権を促す効果しかありません。判決後の情状とは、たとえば被害者との示談が成立した、依存症で入通院が必要であると判明したなどの事情を指します。 -
(5)控訴に必要な手続き
控訴できるのは、第一審の判決の宣告があった日の翌日から14日以内です(刑事訴訟法第373条)。この期間内に第一審の裁判所に対して「控訴申立書」を提出します(同法第374条)。
さらに、第一審のどの部分が不服なのかを指摘するための「控訴趣意書」を提出します(同法第376条)。控訴趣意書の提出期限は個別に裁判所が決定します。
期間内に控訴しなければ控訴権は消滅し、判決が確定します。また期限内に控訴趣意書を提出しなければ控訴棄却が決定されます(同法第385条1項)。 -
(6)控訴から判決までの流れ
控訴の申し立てから控訴審の判決までのおおまかな流れは以下のとおりです。
- 控訴申立書の提出
- 控訴趣意書の提出期限の指定
- 控訴趣意書の提出
- 控訴審での審理
- 控訴審の判決
控訴すると、1か月程度で裁判所から控訴趣意書の提出期限の指定があります。提出期限は指定から1か月程度のケースが多いですが、期限内の提出が困難な事情があれば延長が認められる場合もあります。
控訴審の期日は事案の内容を勘案して裁判長が決定します。控訴趣意書の提出から1~2か月となるケースが多いでしょう。控訴審の審理は1回で終わるケースが多く、大半が書面審理なのでごく短時間で行われます。そこから1か月前後で判決になるのが通常です。
そのため、控訴の申し立てから控訴審の判決までにかかる期間は4~6か月程度が目安となります。 -
(7)控訴審の判決
控訴審の判決は「控訴棄却」と「原判決破棄」があります。
【控訴棄却】
第一審の判決に誤りがなかったとして、第一審の判決を維持する場合の判決です。以下の2つがあります。- 控訴の申し立て手続きが法令で定められている方式と異なっていた場合や、控訴期間経過後に控訴の申し立てがなされた場合には、控訴棄却の判決をすることになります。
- 控訴審が審理をした結果、当事者の主張する控訴理由が認められない場合にも控訴を棄却する判決をします。
【原判決破棄】
原判決破棄とは、第一審の判決に誤りがあったとして、原判決を取り消す判決のことです。
以下の2つがあります。- 破棄自判
控訴裁判所での審理によってすぐに結論が出る場合は、控訴裁判所が自ら判決を言い渡します。 - 破棄差し戻し・移送
控訴裁判所ですぐに結論が出せない場合は、第一審に差し戻して審理させる「破棄差し戻し」か、第一審と同等の裁判所に移送して審理させる「破棄移送」を行います。この他にも、管轄があるのに管轄違いの判決をした場合や、事由がないのに控訴棄却の判決をした場合にも破棄差し戻しや移送の判決をします。
なお、第一審の裁判所は最初に下した判決と同じ内容の判決を言い渡すことはできません。
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3、上告とは
上告審の特徴や要件、手続きなどについて解説します。
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(1)上告審の特徴
上告は第二審がした判決に納得できない場合に行う不服申し立ての手続きです。上告できるのは、第二審の当事者である被告人(または被告人の弁護人)、検察官です。
上告審は法律上の問題のみを審理する「法律審」です(刑事訴訟法第405条、406条)。控訴審では一部証拠の取り調べが行われる場合がありますが、上告審は事実の審理はしないので証拠の取り調べは実施されません。もっとも、上告審も裁判所になりますので、判決をするには公判の期日を開く必要があります(同法第43条1項)。そのため、特別の定めがある場合を除いて、検察官と弁護人が公判において自己の言い分を主張する弁論を経て、判決を言い渡すことになります。 -
(2)上告が認められる要件・理由
上告が認められる理由は、控訴と比べて非常に限定されています(刑事訴訟法第405条)。
- 憲法違反
原判決に憲法違反があること、または憲法の解釈に誤りがあることを理由とした上告です。 - 判例違反
原判決が最高裁判所の判例と異なる判断をしたことを理由とした上告です。最高裁判所の判例がない場合は、最高裁判所の前身である大審院や高等裁判所の裁判例と異なる判断をしたことが理由になります。
上告理由は原則として憲法違反または判例違反に限られます。ただし、最高裁判所は法令の解釈に関する重要な事項を含む事件について上告を受理することができます(同法第406条)。法令解釈における統一的な判断をする必要がある場合に最高裁判所の判断を仰ぐことができるように上告受理の制度になります。また、量刑不当や事実誤認など同法第411条各号に定められた事由があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、職権で破棄判決をすることができます。具体的事件の救済のために設けられている規定です。
- 憲法違反
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(3)上告に必要な手続き
控訴審の判決の宣告があった日の翌日から14日以内に、控訴裁判所(高等裁判所)に対して「上告申立書」を提出する必要があります。
上告にはその理由に応じて「上告提起」と「上告受理申し立て」の2つの手続きがあります。- 上告提起(刑事訴訟法第405条)
原判決に憲法違反や判例違反が存在することを理由として上告をするもの - 上告受理申し立て(刑事訴訟法第406条)
原判決に法令の解釈に関する重要な事項を含むことを理由として、最高裁判所に上告の受理を促すもの
上告期間内に上告しなければ上告権は消滅し、控訴審の判決が確定します。上告した後は最高裁判所が指定した期限までに「上告趣意書」を提出します。
- 上告提起(刑事訴訟法第405条)
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(4)上告から判決までの流れ
上告から判決までの流れは基本的に控訴と同じです。
- 上告申立書の提出
- 上告趣意書の提出期限の指定
- 上告趣意書の提出
- 上告審での審理
- 上告審の判決
上告趣意書の提出期限は、事件の内容によって裁判所が決定しますが、上告の申し立てからおよそ2か月後になるケースが多いでしょう。そこから判決が出るまで要する期間は事件によって大きく異なります。短いケースでは1週間程度、長いケースでは数年を要する場合がありますが、ほとんどの事件は3か月以内には終局しています。
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(5)上告審の判決
上告審の判決は以下の2つです。
【上告棄却】
上告に理由がないと判断された場合の判決です。原判決がそのまま維持されます。- 上告棄却決定
上告の申し立てが上告期間を過ぎてからなされていたり、法令上の方式に違反したりしていた場合には、何ら審理することなく決定により棄却されます(刑事訴訟法第414条、385条)。 - 上告棄却判決
審理をしたうえで憲法違反や判例違反ではないと判断された場合は判決により棄却されます(同法第414条、396条)。また憲法違反や判例違反でないことが上告申立書や上告趣意書から明らかである場合には、何ら審理することなく判決により棄却されます(同法第408条)。
【原判決破棄】
上告に理由がある、すなわち原判決に誤りがあると判断された場合の判決です。- 破棄自判
原判決を破棄し、最高裁判所が自ら判決を言い渡します。 - 破棄差し戻し・移送
原判決を破棄し、原裁判所へ差し戻して再び審理させる「破棄差し戻し」か、原裁判所もしくは第一審裁判所または同等の裁判所へ移送して審理させる「破棄移送」を行います。
- 上告棄却決定
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(6)上告が棄却された後の不服申し立て
最高裁判所は最上位の裁判所なので、判決に不服があっても、これより上級の裁判所に上訴することはできません。しかし、最高裁判所に対して訂正を申し立てる制度があります(刑事訴訟法第415条)。
判決により棄却された場合は、判決の宣言から10日以内に、判決訂正の申し立てを行うことができます。また決定により上告が棄却された場合には、決定の送達から3日以内に異議申し立てをすることが可能です(同法第414条、386条2項)。
4、上訴における弁護活動とは
上訴(控訴、上告)の弁護活動について解説します。
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(1)控訴審の弁護活動
控訴審は第一審のように一つひとつの証拠を精査しながら時間をかけて事実を審理するわけではなく、被告人側が主張する控訴理由が存在するかどうかを中心に検討します。そのため第一審の判決を精査して書類にまとめる弁護活動、すなわちどのような控訴趣意書を作成できるのかが重要となります。
控訴趣意書は、第一審で明らかにされた事実と証拠をもとに具体的に控訴理由に該当する事実を記載する必要があります。
第一審で考慮するべき事項が検討されていない、考慮されていても過大・過小に評価しているなど、第一審とは異なる視点から指摘する必要もあります。第一審の判決を的確に分析して説得力のある控訴趣意書を作成できるのかは、弁護士の経験と力量にかかっているといえるでしょう。
また控訴審では基本的に新たに事実の取り調べをすることは認められていませんが、例外的にやむを得ない事由が認められると、裁判所が証拠を取り調べる可能性があります(刑事訴訟法第382条の2)。第一審の判決に影響を及ぼすような証拠を収集し、裁判所に事実取り調べ請求を促すのも弁護活動のひとつです。
たとえば、第一審の判決後に被害者と示談を成立させるなどした場合には、同法第381条の量刑不当や同法382条の事実誤認を理由として控訴の申し立てをします。 -
(2)上告審の弁護活動
上告審でも、第一審と控訴審の裁判記録を徹底的に調査し、説得力のある上告趣意書を作成することが重要です。新たな証拠が発見された、新たな鑑定結果が出たといったケースでは、刑事訴訟法第411条による最高裁判所の職権発動を促す内容の上告趣意書を作成し、破棄判決を求めることも考えられます。
また上告審にまで至るケースでは身柄拘束期間が長引くおそれが大きいため、保釈を請求して被告人の心身の負担を軽減させるのも弁護士の役割です。
上告の理由は憲法違反と判例違反に限定されるため、弁護士には刑事訴訟法のみならず憲法にも深い理解がある、判例についての豊富な知識、調査能力といったものが求められます。これらを駆使して上告趣意書に説得力をもってまとめる力が重要になるため、控訴審以上にどの弁護士を選ぶのかが鍵となります。
5、まとめ
上訴は、裁判の結果に納得できない場合に、上級の裁判所に対して行う不服申し立ての手続きです。裁判に精通する裁判官がした判断に誤りがあることを指摘・主張する必要があるため、一般の人には困難であるのはもちろん、弁護士であっても希望の結果を得るには高いハードルがあります。決して簡単なことではないため、第一審から弁護人である弁護士としっかり話し合いながら望む結果が得られるように進めていくことが重要です。そのためには、刑事事件の経験が豊富な弁護士に依頼することも大切になってきます。民事事件の経験しかない、刑事事件でも第一審の経験しかない弁護士では難しいでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、刑事事件の経験豊富な弁護士が力を尽くします。上訴をご検討中の方はご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
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