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家宅捜索には令状が必要? 令状が必要な捜査、そうでない捜査とは
世間の注目度が高い事件では、容疑者の自宅や勤務先といった関係各所への「家宅捜索」が行われたことが大々的に報道されます。特に、選挙違反・贈収賄・横領・背任といった不正事案での報道が目立ちますが、窃盗・詐欺・傷害・恐喝・薬物事犯などでも家宅捜索を受けることがあります。
ドラマなどで家宅捜索の様子が登場する際には、出入り口で捜査員が令状を示して捜査を始めるシーンが描写されていますが、なぜ捜査のために令状が必要なのでしょうか?令状さえあれば、どんな捜査も許されるのでしょうか?
本コラムでは、家宅捜索と令状の関係に注目しながら、令状が必要となる捜査と必要としない捜査について解説します。
1、捜査とは
警察や検察官には「捜査」の権限が与えられています。しかし、捜査だからといって無制限で何でも調べられるわけではありません。
まずは「捜査」の定義や種類について確認していきましょう。
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(1)捜査とは
捜査とは、警察・検察官といった捜査機関が犯人を発見・確保し、犯罪を証明する証拠を収集・保全する活動全般を指すものと解釈されています。法治国家であるわが国において、罪を犯した者を罰することができるのは法律に基づく場合です。捜査は、法律で定められた刑事手続きのレールに乗せて適切な罰を受けさせるための手段として用いられています。
捜査の権限が与えられているのは次の職にある者です。- 警察(刑事訴訟法第189条1項)
- 海上保安官・労働基準監督官・麻薬取締官などの特別司法警察職員(同法第190条)
- 検察官・検察事務官(同法第191条)
たとえば探偵や興信所の調査員などはこれらの職にあたらないため捜査権は認められていません。
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(2)捜査の種類
捜査には2つの種類があります。
- 任意捜査
- 強制捜査
任意捜査とは、任意の方法によって進められる捜査を指す用語です。ここでいう「任意」とは法的な強制力がないことを指すので、街頭での職務質問や交通取り締まり、事件発生時の聞き込み・張り込み・尾行などが該当します。
また、呼び出しに応じて警察施設などに赴き、用件が終了すれば帰宅を許される場合の取り調べ・事情聴取も任意捜査の範囲です。
一方で、法的な強制力をもって行われる捜査を強制捜査と呼びます。逮捕・勾留・捜索・差押え・検証などは、原則として権限のある司法官憲が発した令状に基づいて行われるため、原則として個人の事情などで捜査を拒否することは許されません。
また、令状がない場合でも、現行犯逮捕や逮捕現場における捜索・差押え・検証が認められているほか、後に令状を請求することを条件に被疑事実と急速を要する理由を容疑者に告げて無令状で逮捕する緊急逮捕も適法とされています。 -
(3)「捜索」とは
捜査とまぎらわしい用語として「捜索」があります。
捜索と聞くと、行方不明者や遭難者の居所を探す活動をイメージしがちですが、法律用語としての捜索には「犯人や証拠物を発見するために、住居や建物内を調べること」という意味があります。捜索は、捜索許可状を要する強制捜査です。たとえ捜査の目的があっても、日本国憲法第35条によって住居の不可侵が保障されているため、無令状の捜索は違法となります。
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2、令状が必要な捜査とは
捜索などの強制捜査には「令状」が必要です。刑事ドラマなどでも、逮捕や捜索を拒む容疑者が「令状はあるのか?」と言って抵抗するシーンが描かれているので「捜査」と「令状」が深い関係にあることは容易に想像できるでしょう。
ここでは「令状」の意味や、令状を必要とする捜査、必要としない捜査について解説します。
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(1)「令状」とは
令状とは、裁判所または裁判官が下した命令・許可を示す書面です。警察などの捜査においては、主に裁判官が強制捜査を許したことを証明する許可状として用いられています。
犯罪を明らかにするための捜査活動には、日本国憲法において保障されたさまざまな権利を制限しないと達成できないものも少なくありません。被疑者の身柄を拘束したり、証拠物を押収したりといった活動は、たとえ捜査の目的があったとしても無制限に許されるものではないのです。
そこで、捜査機関は、国民の権利を制限しないとその目的を達成できない捜査について、事前に裁判官の審査を受けて許可状の発付を求めます。これを「令状請求」といいます。 -
(2)令状を必要とする捜査の種類
強制捜査には令状が必要です。
令状を必要とする捜査のうち、もっとも典型的なものが「逮捕」でしょう。日本国憲法第33条は、現行犯の場合を除いて令状がなければ逮捕できないという「令状主義」を定めています。逮捕の際には、裁判官が発付した「逮捕状」が必要です。
そのほか、令状を必要とする強制捜査には次のようなものがあります。- 捜索差押え
人の住居や建物などに立ち入って証拠品を押収する捜査で、捜索差押許可状が必要です。自家用車などの中を強制的に調べる際にも令状が必要となります。 - 身体検査
人の身体や衣服を調べる捜査で、身体検査令状の発付を必要とします。容疑者がポケットの中身の開披を拒む場合に強制的に調べるなどのシーンが想定されます。 - 勾留による身柄拘束
検察官の請求によって被疑者を勾留する際には、裁判官が発付した勾留状が必要です。
- 捜索差押え
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(3)令状を必要としない捜査
強制捜査であっても、現行犯逮捕や逮捕現場における捜索差押えは令状の発付を要しません。また、任意での取り調べや事情聴取、犯罪現場における実況見分、情報を得るための照会といった捜査は任意捜査であるため、無令状で進められます。
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3、家宅捜索が行われるケース
犯罪の嫌疑をかけられると、自宅や勤務先などの「家宅捜索」を受けることがあります。
家宅捜索の意味や目的、家宅捜索を受けやすいケースなどを確認していきましょう。
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(1)家宅捜索とは
ニュースなどでも耳なじみのある「家宅捜索」という用語は、実は報道機関が使うマスコミ用語です。法律上の手続きとしては「捜索」であり、証拠品が押収される場合は「差押え」となるため、捜査機関は裁判官から「捜索差押許可状」の発付を受けたうえで執行します。
被疑者が住む自宅のほか、被疑者の勤務先、恋人の自宅、自家用車などが捜索先となることもあります。
家宅捜索は、逮捕と連動して行われるケースも多数です。被疑者の自宅を訪ねて、まずは被疑者に立ち会いを求めたうえで家宅捜索が実施され、警察署に任意同行の後に逮捕する、あるいは容疑者を逮捕・連行したうえで家族などを立会人として家宅捜索が実施されるといった流れになるでしょう。 -
(2)家宅捜索を行う目的
家宅捜索の目的は、犯罪の証拠の捜索・押収です。そのため、証拠品が現存する可能性が高いとされる客観的な状況がない限り、裁判官が令状を発付することはありません。
証拠の捜索・押収を目的としているため、証拠隠滅を防ぐために連絡もなく突然実施されるケースが一般的です。 -
(3)家宅捜索を受けやすい犯罪の種類
家宅捜索は、被害届の提出や告訴などによって警察が犯罪事実を知ることをきっかけに行われます。次のような事件では、家宅捜索が実施されるおそれが強いでしょう。
- 銃器・薬物事件
- 性犯罪・児童買春事件
- 贈収賄事件
- 選挙違反事件
- 窃盗事件
- 詐欺・横領事件
ここで挙げたのは、いずれも犯罪に使用した道具や被害品などが捜索先に保管されている可能性が高い犯罪です。基本的に、自宅や勤務先などに証拠品が現存する可能性が高ければ、どんな犯罪であっても家宅捜索を受けるおそれがあるといえます。
反対に、万引きや置き引きなどで現行犯逮捕されて被害品がすでに押収されている場合や、ケンカに端を発した偶発的な暴行・傷害事件などのような自宅や勤務先などに物的な証拠が存在しない事件では、家宅捜索が実施される可能性は低いでしょう。 -
(4)家宅捜索の流れ
家宅捜索が実施される際は、まず立ち入りに先立って令状の提示と説明が行われます。どのような事件について何を捜索するのかという目的と、裁判官が許可した令状があるという事実を示せば足りると解釈されているため、令状を手渡されたり、コピーを渡されたりすることはありません。
実際の捜索では、証拠品の捜索、写真撮影、記録といった役割分担があるので、複数の捜査員が訪れるのが一般的です。
捜索が終了すると、押収品の確認が行われたうえで、押収品のリストである「押収品目録交付書」が交付されます。
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4、家宅捜索を求められた場合の対応
自宅などに家宅捜索を目的とした捜査員が訪ねてきた場合の対応を確認しておきましょう。
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(1)令状の有無を確認する
家宅捜索には裁判官が発付した捜索差押許可状が必要です。まずは捜査員に令状の有無を確認し、無令状の場合は屋内への立ち入りを断りましょう。「室内を見せてほしい」といった求めにも応じる必要はありません。
令状が発付されている場合は、捜索先・捜索の目的・差し押さえるものを事後でも確認できるように、捜査員が捜索差押許可状の記載内容を読み上げている状況を録音しておきましょう。
令状に記載のない物品を押収された、捜索すべき目的物が明らかに存在しない場所をむやみに捜索・撮影したといった状況があれば、捜索の違法性を証明するために写真・動画などで撮影しておくことも大切です。
違法な捜索によって得られた証拠は「違法収集証拠」となり、有罪の決め手とはなりません。もし、違法収集証拠を有罪の決め手として事件が進んでいる場合は、無罪を主張できる有利な材料となるでしょう。
一方で、適法に行われている捜索を妨害すれば、現行犯逮捕される危険があります。捜索現場で暴れたり捜査員に暴行を加えたりすれば公務執行妨害罪などに、令状を毀損すれば公用文書等毀棄(きき)罪にあたり、厳しく罰せられるので注意が必要です。 -
(2)証拠品が発見された場合
家宅捜索によって証拠品が発見・押収された場合は、捜査機関が有罪を立証するための材料を確保したと考えなければなりません。
ただし、証拠品が押収されれば逮捕・勾留の要件のひとつである「証拠隠滅のおそれ」が解消されたとも考えられます。証拠保全を目的とした身柄拘束は必要ではなくなるため、弁護士が釈放の妥当性を主張することで身柄拘束が解かれる可能性を高めることもできるのです。
また、無実であるのに嫌疑をかけられている場合は、すでに発見されている証拠は有罪を決定づけるものでないことを裁判所に的確に伝える必要があります。捜査機関の立証方針を整理・理解して対策を講じる必要があるので、やはり弁護士の助けが必要となるでしょう。 -
(3)証拠品が見つからなかった場合
家宅捜索においても証拠品が発見されなかった場合でも「差し押さえるべきものはなかった」旨の押収品目録交付書の交付を求めましょう。捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)する危険もあるため、その捜索において証拠品は発見されなかったことを証明する材料となります。
もし証拠が発見されなかった場合でも油断は禁物です。ほかの関係先に対する家宅捜索で押収された証拠や、関係者が任意提出した資料のほか、警察・検察官による捜査で客観的に立証された状況証拠などをもとに、犯罪を証明することはできます。
証拠の有無にかかわらず、弁護士に相談して不起訴や刑罰の軽減といった有利な処分が得られるための弁護活動を依頼しましょう。
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5、まとめ
家宅捜索には、裁判官が発付した「捜索差押許可状」が必要です。捜査員が無令状のまま自宅などに上がりこんで捜索したり、捜索差押許可状に記載されていない場所やものに対する捜索や「差し押さえるべきもの」に記載されていない物品を押収したりすれば、違法捜査となる可能性があります。
家宅捜索は裁判官が許可した範囲で適法のうちに実施されなければなりません。しかし、容疑をかけられてしまった本人や家族だけでは捜査機関による家宅捜索が適法なのか、捜索差押えの方法に問題がなかったかなどを判断するのは難しいでしょう。
家宅捜索を受けるおそれがある、すでに家宅捜索を受けたが捜索・押収の方法に疑問があるといった悩みがあれば、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にぜひご相談ください。
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