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死刑に執行猶予はある? 死刑判決の判断基準についても説明
わが国の刑罰制度には、最高刑として「死刑」が存在します。まさに「生命」という何事にも代えられない最大の財産をもって償う刑罰です。
海外に目を向けると、死刑制度が存在する国があればすでに制度を廃止している国がある一方で、懲役・禁錮などと同じように「執行猶予」が存在する国もあります。このような流れのなかで、わが国ではどのような犯罪で死刑が言い渡されているのか、どのくらい死刑が執行されているのか、海外と同じように「執行猶予」が存在するのかといった疑問をもつ方も少なくないでしょう。
本コラムでは、わが国における「死刑制度」の概要や現状を確認しながら、世界の死刑制度に対する考え方や姿勢について解説します。
1、日本における死刑制度とは
まずはわが国における「死刑制度」について解説しましょう。
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(1)わが国における死刑制度の内容
わが国における刑罰は、刑法第9条「刑の種類」において次の6つを主刑と定めています。
- 死刑
- 懲役
- 禁錮
- 罰金
- 拘留
- 科料
懲役・禁錮・拘留は強制的に社会から隔離して刑事施設に収容する「自由刑」に、罰金・科料は強制的に金銭を徴収する「財産刑」に分類されます。死刑は、自由刑でも財産刑でもなく「生命刑」と呼ばれ、受刑者の生命を絶つ刑罰です。
死刑の方法は刑法第11条の「死刑」において次のように定められています。【刑法第11条(死刑)】
- 1 死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。
- 2 死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。
つまり、刑事裁判で死刑判決を言い渡されると、死刑が執行されるその日まで刑事施設において拘置され、当日には「絞首」によって生命を絶たれるわけです。時代劇などでも描かれるように、過去には斬首による死刑が執行されていた時代もありましたが、残虐性が高いとの批判が強く絞首のみに限られることになりました。
なお、現行の刑法が定められた時代、海外における死刑の執行方法も絞首でしたが、現代では死刑囚に苦痛を与える時間が長いうえに、執行に失敗するおそれもあるため、ほかの方法を選択する国が増えています。たとえば、わが国と同様に死刑制度が存続するアメリカでは、電気椅子・薬物注射による執行が主流です。
また、過去には公の場で死刑を執行する、いわゆる「公開処刑」の方法もありましたが、現行の制度では検察官・刑事施設長の許可を受けた者のみが刑場への立ち入りを許されており、死刑執行の状況が公開されることはありません。 -
(2)死刑が規定されている犯罪の種類
わが国の法制度では「罪刑法定主義」が採用されています。これは、法律において犯罪とされる行為の内容や刑罰をあらかじめ明らかにするというものです。つまり、どんなに残虐・非道な内容の事件でも、あらかじめ法律によって死刑が規定されている犯罪でなければ死刑判決を受けることはありません。
現行の日本法のうち、死刑が定められているのは次の19種類の犯罪に限られます。- 内乱罪(刑法第77条1項)
- 外患誘致罪(同第81条)
- 外患援助罪(同第82条)
- 現住建造物等放火罪(同第108条)
- 激発物破裂罪(同第117条)
- 現住建造物等浸害罪(同第119条)
- 汽車転覆等致死罪(同第126条3項)
- 往来危険汽車転覆等致死罪(同第127条)
- 水道毒物等混入致死罪(同第146条)
- 殺人罪(同第199条)
- 強盗致死罪(同第240条)
- 強盗強制性交等致死罪(同第241条)
- 決闘殺人罪(同199条・決闘罪ニ関スル件第3条)
- 組織的殺人罪(組織犯罪処罰法第3条)
- 爆発物使用罪(爆発物取締罰則第1条)
- 航空機強取等致死罪(航空機の強取等の処罰に関する法律第2条)
- 航空機墜落等致死罪(航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律第2条3項)
- 海賊行為致死罪(海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律第4条)
- 人質殺害罪(人質による強要行為等の処罰に関する法律第4条)
死刑が規定されているのは、日本国の転覆や危機を招く犯罪、故意に人の生命を奪う犯罪、鉄道・航空機・船舶などへの危害によって一度に多数の生命を奪う犯罪などに限られています。
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(3)死刑判決が下される判断基準
たとえ死刑が規定されている罪を犯したとしても、死刑判決が言い渡されるケースは多くありません。法定刑に死刑のみが規定されている、つまり「必ず死刑になる」のは外患誘致罪だけです。ただし、外患誘致罪は外国と通謀して日本国に対して武力を行使させた場合に適用される犯罪であり、しかも過去にこの罪で起訴された事例は存在していません。つまり、ほかの犯罪では、無期懲役・無期禁錮などの選択肢が残されているのです。
では、死刑が規定されている犯罪について、どのような基準で最高刑となる死刑が選択されるのかといえば、そこには「永山基準」という判断基準が存在します。
永山基準とは、昭和43年、当時19歳だった永山則夫による4名射殺事件において、最高裁判所が死刑判決を下した際に示されたものです。次の9つの情状を考察し、その罪責が重大で、同種のほかの事件との均衡や今後の犯罪予防といった立場から「極刑がやむを得ない」と認められる場合に限って、死刑の選択が許されます。- 犯行の罪質
- 犯行の動機
- 犯行の態様、ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性
- 結果の重大性、ことに殺害された被害者の数
- 遺族の被害感情
- 社会的影響
- 犯人の年齢
- 前科
- 犯行後の情状など
永山基準でもっとも注目されたのが「殺害された被害者の数」という項目です。この項目の存在によって「殺害した相手が1人の場合は死刑にならない」という誤解が生じるようになりました。
しかし、この考え方は間違いです。たとえば、平成14年に静岡県で発生した「三島女子短大生焼殺事件」では、被害者が1人で、しかも経済的な利欲目的ではない殺人事件について、死刑が言い渡されています。
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2、中国では執行猶予付き死刑判決が存在
懲役・禁錮には、その刑の執行を猶予し、一定期間が経過すれば刑の効力が消滅する「執行猶予」という制度があります。わが国の法制度では、死刑に対する執行猶予は存在しません。死刑が執行されるまでの期間は拘置所で過ごすことになり、その期間は数年に及ぶこともめずらしくありませんが、これは死刑執行までのプロセスが非常に慎重かつ複雑であるためで、執行猶予制度とは異なった事情によるものです。
海外の例をみても死刑の執行猶予はほとんど存在しませんが、唯一、中国においては死刑に執行猶予を付する制度が存在しています。
執行猶予の期間中に模範囚として過ごせば、2年後の再判断において死刑から無期・有期の懲役へと減刑される可能性がある制度です。再判断においても死刑が言い渡されるおそれがあるため、強い反省を促す最後の機会を与える制度として活用されています。
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3、執行猶予付き死刑判決の事例
実際に中国で執行猶予付きの死刑判決が下された事例を見てみましょう。
- 平成24年に判決が下された、議員の妻によるイギリス人実業家の毒殺事件
- 平成22年に判決が下された、日本人による麻薬密輸事件
- 平成26年に判決が下された、産科医による新生児誘拐・人身売買事件
- 平成26年に判決が下された、不倫を疑って自身の妻を包丁で刺殺した事件
ここで注目したいのは、執行猶予付き死刑判決が言い渡された死刑囚の立場です。中国の制度では、執行猶予付きの死刑判決が言い渡されて2年の間に故意の犯罪がなかった場合は判決が無期懲役へと変更され、その期間にきわめて優秀な行いがあったと判断されれば15~20年の有期懲役へと減刑されます。
ただし、悪質な汚職による受刑者の場合は終身刑となり釈放は認められません。政治犯などに対しては、実質的な終身刑として執行猶予付きの死刑判決が言い渡される傾向もあるようです。
なお、不倫を疑って自身の妻を包丁で刺殺した事件では、執行猶予中に刑務所内でほかの受刑者や刑務所職員に対して暴力を振るったなどの行為を繰り返し、有罪判決を受けました。このようなケースでは、日本の最高裁にあたる最高人民法院の許可を経て執行猶予が取り消され、死刑が執行されます。
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4、世界では死刑制度廃止の方向へ
実は、海外に目を向けると死刑を存続している国は少数です。令和元年末の段階で、死刑制度を廃止している国は142か国、存続している国は56か国に過ぎません。もちろん、存続している56か国のなかにはわが国も含まれています。
ヨーロッパ諸国を中心に日米を含めた38の先進国で構成する経済協力開発機構(OECD)の加盟国のうち、死刑制度を存続しているのは日本・アメリカ・韓国の3か国のみです。しかも、アメリカは22の州で廃止、3つの州で執行停止、韓国では事実上の廃止に分類されており平成9(1997)年を最後に死刑が執行されていません。つまり、国家として統一して死刑を執行している国は日本だけ、ということになります。
さらに、死刑制度そのものの廃止には至らないものの、サウジアラビアではテロ関連の罪を除いて18歳未満の被告人に対する死刑適用の廃止、スーダンでは背教罪への死刑適用が廃止されており、死刑が選択される範囲は確実に狭まっているのです。
令和2(2020)年中の世界の死刑執行数は前年比でマイナス26%となり、過去10年間でもっとも少ない数字になりました(アムネスティ調べ)。死刑制度を存続することの是非は活発に議論されており、わが国においても政府に対して死刑制度廃止を求める声が高まっています。
とはいえ、わが国では永山基準にもとづいて「極刑はやむを得ない」と判断される事件がなくならないのも事実です。今後、日本が世界の情勢に照らして死刑制度を廃止するのか、それとも死刑存続を選択するのかは、世界が注目する関心事だといえます。
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5、まとめ
わが国の法制度において究極の刑罰とされる「死刑」は、ながらく「生命をもって償うしかない」としてやむを得ないものだと考えられていました。しかし、世界の流れに目を向けると死刑制度を廃止している国が多数であり、廃止あるいは対象を縮小する動きが活発化しています。
死刑が規定されている重罪を犯してしまった場合に極刑を回避するには弁護士の助けが必要です。ただちにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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