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殺人罪でも情状酌量は認められる? 減軽の判断基準と事例を紹介
「情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)」という言葉を、報道などで耳にしたことがある方は多いかもしれません。
しかし、被告人に有利な事情を考慮してもらうこと、という程度はイメージできても、具体的にはどのような場合に情状酌量が認められるのでしょうか。また、殺人罪のような重大犯罪の場合でも、情状酌量が認められことはあるのでしょうか。
本コラムでは情状酌量の意味や、情状酌量されるための具体的な事情を確認しながら、殺人罪における情状酌量の可能性について解説します。
1、情状酌量とは
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(1)情状と情状酌量の意味
情状とは量刑を決定する際の基礎となる事実のことをいい、被告人に有利な事情、不利な事情の両方を含みます。情状酌量というときの情状は被告人に有利な事情を指し、裁判官が被告人に有利な事情を酌み取って量刑を軽くすることを情状酌量といいます。
量刑とは、法定刑ないし処断刑の範囲内で宣告する刑を裁判官が決定することです。 -
(2)酌量減軽とは
情状酌量と似たものに、刑法第66条が定める「酌量減軽(しゃくりょうげんけい)」があります。酌量減軽は、法律上の減軽理由にはあたらないものの、情状を考慮して裁判官の判断で刑を減軽することができる場合をいいます。
条文では「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる」と書かれています。
ここで注目すべきは「減軽することができる」の部分です。「できる」とあるように、酌量減軽は任意的な減軽事由にとどまり、実際に減軽するべきかどうかは裁判官や裁判員が評議のうえで決定します。
つまり、『情状を考慮した結果、減軽される』のか『情状を考慮しても減軽されないのか』は、裁判官や裁判員の判断に左右されることになります。
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2、情状の考え方
情状には大きく分けて「犯情」と「一般情状」があります。具体的にどのような事情がこれにあたるのかを、事例とあわせて見ていきましょう。
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(1)犯行の動機などの「犯情」
犯情とは、犯罪事実に関する事情のことです。たとえば、次のような事情が該当します。
● 犯行の動機、犯行に至った背景
私利私欲のための犯行だったのか、被害者にも一定の落ち度があったのかなど。
● 犯行様態、犯行の手段・方法
凶器の有無や種類、攻撃回数、攻撃部位、単独犯か共犯者がいたかなど。
● 被害の程度
被害者の生死、ケガの程度。
● 共犯者がいる場合の関係性
主犯格か、従属的立場かなど。
(例)主犯格の命令に逆らえない立場にあった、関与の度合いが低いなどの事情があれば情状酌量が認められやすくなります。
● そのほか
被害者の人数や犯行直後の状況(犯行の隠ぺい、逃走経路など)、被害者との関係性、社会に対する影響など。 -
(2)被告人の生い立ちなどの「一般情状」
一般情状とは、犯情以外の一般的な事情のことです。具体的には次のような事情を指します。
● 被告人の生い立ち、生活環境
生活苦や周囲のサポートを得られなかったなど、生い立ちに関する事情。
● 被告人の性格、年齢
犯罪傾向が進んでいない、年齢が若く更生の可能性が高いなど。
● 被告人の後悔や反省の状況
捜査に協力している、事件の直後から謝罪の言葉を述べ、反省しているといった状況。
● 被害弁済の有無、示談の有無、被害の回復状況
被害者や遺族に謝罪と賠償を尽くしている、賠償により被害者の被害が回復しているなどの場合。
● 被害者の処罰感情
被害者や遺族が厳罰を望んでいないケース。
● 更生の可能性
適切な身元引受人や監督者がいる、再犯のおそれが排除されている。
● そのほか
前科前歴の有無、実刑判決による被告人・家族への影響(養育すべき子どもがいるなど)、犯罪により社会的な制裁(会社をクビになるなど)を受けたなど。 -
(3)酌量減軽が認められた事例
酌量減軽が認められた事件について、その背景を報道ニュースから読み取ります。
【介護疲れの果てに祖母を殺害した事例】
令和2年、同居していた祖母を殺害して殺人罪に問われた女性の裁判で、神戸地裁は懲役3年、執行猶予5年を言い渡したと報道されました。
認知症の祖母には女性のほかに複数人の親族がいたにもかかわらず、女性は祖母の介護をほぼ1人で担っていたという事情がありました。さらに自首をしており反省も深かったため、社会内での更生が期待できるとして執行猶予が付されたとされています。
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3、殺人罪でも酌量減軽が認められる可能性はある
刑法第199条が定める殺人罪は、殺意をもって人の生命を奪う重大犯罪です。いうまでもなく、人の生命はもっとも保護されるべき個人的法益のため、結果の事実にのみ着目すれば情状酌量の余地はないように思えるでしょう。
しかし、殺人といっても保険金殺人や無差別殺人、ストーカー殺人など極めて残忍・凶悪な事件から、事例のように介護殺人や無理心中など事件を起こすに至ってしまうやむを得ない事情が存在するような事件まで、さまざまです。また、法定刑も「死刑」「無期懲役」「5年以上の懲役」の3種類があり、意外にも刑罰の幅が広く、事件の背景などが重要視され得る犯罪ともいえます。
そのため、殺人罪に問われた場合でも、ほかの犯罪と同じように情状を酌量し、酌量減軽が認められる可能性はあるでしょう。
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4、殺人罪の場合は、原則執行猶予はつかない
殺人罪でも酌量減軽が認められ得るということは、人を殺害しても執行猶予がつき、実刑を回避できる場合があると言えるのでしょうか。
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(1)酌量減軽で減軽される範囲は
酌量減軽が認められた場合に、どの様に刑が減軽されるのかを確認しておきましょう。
減軽の方法は、次のとおり定められています(刑法第68条、71条)。- 死刑……無期の懲役・禁錮または10年以上の懲役・禁錮
- 無期懲役・無期禁錮……7年以上の有期懲役・有期禁錮
- 有期懲役・有期禁錮……長期および短期の2分の1を減ずる
- 罰金……上限および下限の2分の1を減ずる
- 拘留……長期の2分の1を減ずる
- 科料……上限の2分の1を減ずる
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(2)殺人罪は情状酌量が認められても原則、実刑判決に
殺人罪の法定刑は、次のとおり規定されています。
死刑または無期もしくは5年以上の懲役
これに対し、執行猶予がつくには前提として「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」の言い渡しを受ける必要があります(刑法第25条1項)。したがって、最低でも5年の懲役が規定されている殺人罪では、原則として執行猶予はつきません。
しかし、殺人罪でも「3年以下の懲役」に減軽されれば、で執行猶予がつく場合があります。
殺人罪の法定刑の下限は、5年の懲役です。これを減軽の方法に照らすと2分の1、つまり2年6か月までは減軽が可能なので、執行猶予もあり得るのです。
もっとも、情状酌量されても、必ず減軽されるわけではありませんし、確実に3年以下にまで減軽されるわけでもありません。さらに、3年以下に減軽されたとしても必ず執行猶予がつくわけでもないのです。
そもそも、殺人罪では死刑や無期懲役が選択される場合もあり、その場合は減軽されても前記のとおりそれぞれ短くとも10年又は7年の懲役となり、執行猶予の対象外となります。執行猶予がつくのは極めてまれなケースだと思っておくべきです。
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5、情状証人の役割
情状酌量され、刑の減軽や執行猶予につなげるために重要な役割を果たすのが「情状証人」と呼ばれる人です。
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(1)情状証人(じょうじょうしょうにん)とは
情状証人とは、裁判で被告人に酌むべき事情があることを証言する人をいいます。
刑事裁判では検察側、弁護側のそれぞれに情状証人が出廷する場合がありますが、弁護側で情状証人を準備するときは、被告人にとってよい事情を証言することで刑の減軽や執行猶予につなげる狙いがあります。
弁護側の情状証人になるケースが多いのは、家族、親族や職場の上司・同僚、友人などです。出廷した情状証人は、弁護人や検察官の質問に答えるかたちで被告人の更生可能性が高いこと、再犯のおそれがないことを裏付けるための証言をおこないます。 -
(2)情状証人が証言する内容
弁護側の情状証人が証言するのは、主に2つです。
● 被告人の事情や性格
たとえば親族が『献身的に介護をしてくれていた』、職場の上司や同僚が『普段から真面目で人望も厚い』などと証言することにより、情状酌量の余地があると示すことができます。
● 社会復帰後のサポート
親族や身元引受人が情状証人として出廷する場合は、被告人を監督し、更生を支援する旨を証言するケースが多くあります。具体的には『同居して本人をしっかり監督します』『依存症の施設に付き添い、再犯を防止するよう支援します』などと証言します。
適切な監督者・支援者がおり、社会の中で更生できる可能性があると示せば、刑期が短くなる、場合によっては他の有利な情状とも総合的に考慮され執行猶予がつく可能性も期待できるでしょう。
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6、法律上の減軽とは
情状酌量以外にも、刑が減軽される場合があります。「法律上の減軽」といい、該当すれば必ず減軽される必要的減軽事由と、裁判官の裁量で減軽され得る任意的事由があります。
刑法で規定されている法律上の減軽事由は、次のとおりです。
正当防衛として許される防衛の程度を超えた行為は過剰防衛となりますが、情状により、刑が減軽または免除される場合があります(刑法第36条2項)。
● 緊急避難
自分や他人の生命・身体・自由・財産に対する危害を避けるためやむを得ずした行為で、生じた害を避けようとして発生した害がそれを超えてしまった場合でも、刑が減軽または免除される場合があります(刑法第37条1項)。
● 心神耗弱
精神障害の影響で判断能力を著しく欠き、心神耗弱が認められた場合は減軽されます(刑法第39条2項)。
● 自首
犯罪事実や犯人であることが捜査機関に発覚する前に自首をすると、減軽される可能性があります(刑法第42条)。
● 中止犯・未遂犯
自分の意思で犯罪を中止した場合は刑が減軽または免除され、外部的要因で未遂にとどまった場合は減軽される可能性があります(刑法第43条)。
● 従犯
正犯による犯罪の実行を手助けした場合は従犯として、正犯の刑から減軽されます(刑法第63条)。
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7、殺人事件で酌量減軽を得たいときは弁護士に相談を
殺人罪で酌量減軽が認められるには高いハードルがあるため、弁護士のサポートは欠かせません。弁護士は被告人にとって有利な情状を調査し、法廷で裁判官、裁判員に主張する重要な役割を担います。
具体的には弁護士は、次のような活動を通じて情状酌量を求めます。
- 情状証人に出廷を依頼し、検察官や裁判官からの質問に適切に答えられるよう打ち合わせ、準備をする
- 本人の深い反省を促し、反省文を作成させて裁判所に提出する
- 被害者から虐待を受けていた、介護をしていたが周囲の助けは得られなかったなど、加害者に同情するべき事情を裁判で示す
ほかにも、弁護士は逮捕直後に本人と面会し、取り調べにおいて不利な発言をしないよう法的なアドバイスをおこなう、勾留の回避や保釈に向けた活動をするなど多方面からサポートします。殺人事件は裁判員裁判の対象なので、一般国民である裁判員に対してわかりやすく説明を尽くすことも重要な活動です。
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8、まとめ
殺人罪等の重い法定刑が定められている罪であっても、情状が酌量され、刑が減軽される可能性は残されています。しかし、そのハードルは高く、刑事弁護の経験がある弁護士のサポートは不可欠でしょう。
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