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刑事事件で弁護士をつけないとどうなる? 弁護士の役割と必要性
弁護士をつけるのは被疑者・被告人に認められた権利ですが、一方で弁護士をつけない選択を検討している方もいるでしょう。
弁護士をつけない理由として主に挙げられるのが経済的な理由です。しかし費用負担と弁護士を利用するメリットを天秤にかけたとき、後者のメリットが格段に大きいことをぜひ知っておいてください。
刑事事件の被疑者・被告人になったときに弁護士をつけないとどうなるのでしょう。本コラムでは刑事事件で弁護士を頼らないことのデメリットや弁護士費用の内訳、経済的な理由で弁護士を依頼が難しい場合に利用できる制度について解説します。
1、逮捕後も弁護士をつけない選択はできる
刑事事件の被疑者として逮捕された後、どのような事件であっても、検察官に起訴される前は弁護士をつけるかどうかを自由に選択できます。また、起訴された後であっても、「必要的弁護事件」を除けば、弁護士をつけなくても刑事裁判を受けることができます(任意的弁護事件)。
必要的弁護事件とは以下に該当する事件をいいます。
- 法定刑が死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁錮にあたる事件
- 公判前整理手続きもしくは期日間整理に付された事件
- 即決裁判手続きによる事件
必要的弁護事件では弁護士をつけなければ開廷できないため、裁判所はすでに私選弁護人が選任されているケースを除き、職権で国選弁護人を選任します。
確かに、弁護士費用がかからない点のみに着目すれば、弁護士をつけないことにメリットがあると考えても不思議ではありません。しかし、費用の問題は国選弁護人制度をはじめとした制度の利用によって解決できますし、刑事手続きの負担や成果を考えれば弁護士をつけないでいるのは賢明な選択とはいえません。
2、刑事事件で弁護士を頼らないデメリット
刑事事件で弁護士をつけないことにはさまざまなデメリットがあります。
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(1)身柄の釈放が遅くなるおそれがある
逮捕・勾留されると、逮捕から最長で23日間もの長期間にわたる身柄拘束を受けるため、会社や学校、家庭といった日常生活への影響は避けられないでしょう。
早期に弁護士がつけば検察官や裁判官に意見書を提出し、逃亡・証拠隠滅のおそれが存在せず身柄拘束の必要性がないことを主張してもらえます。結果として勾留を受けず、早期に身柄を釈放されるケースも少なくありません。
弁護士をつけなければこのようなサポートを得られないため、釈放が遅くなり、日常生活への影響も大きくなってしまいます。 -
(2)被害者との示談交渉が難しくなる
被害者がいる事件では、被害者との示談交渉が極めて重要です。示談を成立させることで一定の被害回復が図られたと判断されるため、不起訴処分や刑の減軽につながる可能性が高まります。
刑事事件の示談交渉では、被害者からかたくなに拒否される、そもそも被害者の連絡先が分からないといった問題に直面するでしょう。弁護士が被疑者・被告人の代理人として判例の知識や経験にもとづく示談交渉を行うことで、示談に応じてもらえる可能性を高められます。
一方、弁護士をつけないと被害者との示談交渉が難しくなり、不起訴処分や刑の減軽となる可能性も小さくなってしまいます。 -
(3)取り調べで不当な扱いを受けているかどうか判断できない
捜査機関は被疑者を犯人だという前提で取り調べに臨むため、誘導的な質問や強い口調などによって、捜査機関が思い描く展開で供述をさせられてしまうおそれがあります。
弁護士をつけないと、そもそも不当な扱いを受けているのか判断できずに誘導に乗って不利な供述をしてしまうおそれがあります。捜査機関への抗議など強引な取り調べへの対抗策をとってもらうこともできません。 -
(4)手続きを自分でやらないといけない
刑事事件の被疑者・被告人には勾留理由開示請求や保釈請求などさまざまな請求権がありますが、これらの手続きには裁判所への申し立てが必要です。請求書類などは被疑者・被告人が自分で作成できる運用にはなっているものの、正しく的確に作成できるかは別の問題です。手続きの経験がない一般の方が進めるには大変な労力や時間がかかる可能性があります。
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(5)専門的な知識や経験がないため不利な立場に置かれる
被疑者や被告人の多くは、犯罪の専門的な知識や刑事事件の経験がない一般の人です。また検察や警察には強力な捜査権限が認められているのに対し、身柄を拘束されている一個人ができることは限られます。そのため被疑者・被告人は刑事手続きを受けるうえで不利な立場に立たされてしまいます。
被疑者や被告人には、資格をもつ弁護士に依頼し、さまざまな活動をしてもらう権利があります(憲法第37条3項)。弁護士をつけないということは、刑事手続き上不利な立場にある自分をサポートしてもらえる権利を放棄するものです。 -
(6)逮捕・勾留中の接見に支障が出る
逮捕後72時間は、被疑者は外部の人と接見できません。ご家族が本人から話を聞き、様子を確認したくても、かないません。また、裁判所は検察官の請求や職権によって、被告人と弁護人以外の人との接見を禁止できるため、72時間を過ぎて勾留段階に入ってもご家族が面会できないケースがあります。
このような制限を受けない唯一の存在が弁護士です。
逮捕直後から弁護士がつけば、ご家族と本人との橋渡しができるほか、取り調べで何を供述するべきか、黙秘権などの重要な権利をどのように行使すればよいのかといったアドバイスが可能です。 -
(7)不起訴処分を得られる可能性が小さくなる
検察官が不起訴処分をくだせば刑事裁判が開かれず、前科がつくこともありません。しかし、不起訴処分を得るためには証拠の収集や検察官に対する働きかけといった活動が必要です。
こうした活動は身柄を拘束された本人はもとより、一般の方であるご家族にも難しいでしょう。弁護士をつけないと不起訴処分を得られる可能性が低くなり得ます。
弁護士との電話相談が無料でできる
刑事事件緊急相談ダイヤル
- お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
3、刑事事件の弁護士依頼でかかる費用
弁護士の必要性は理解できても、費用面に不安に感じてしまうケースも少なくありません。どのような項目で弁護士費用が発生するのかを知っておきましょう。
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(1)相談費用
弁護士に相談し、法律的な解決方法や今後の見通しのアドバイスを受けるための費用です。相場は30分あたり5000円~数万円ですが、相談内容によって初回30分~1時間無料の事務所も多数あります。時間単価で設定している事務所が多いため、事前に相談内容を整理しておくとスムーズです。
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(2)着手金
正式な依頼をするにあたり、最初に支払う費用が着手金です。処分や刑事裁判の結果に関係なく発生する費用なので、どのような結果になっても返還されません。
着手金の額は法律事務所や事件の内容などによって違いがありますが、刑事事件で逮捕されたケースでは30万~50万が相場です。また起訴後の弁護も依頼する場合は別途費用が発生します。
否認事件や裁判員裁判、無罪判決を目指す場合など、難易度が高く、多くの時間を費やす事件であればその分高額になります。 -
(3)成功報酬金
依頼内容が解決した際に発生する費用です。着手金と異なり、成功しなければ支払う必要がありません。
ただし100%思った結果にならなくても、一部でも解決すれば支払う必要があります。また、不起訴なのか刑の減軽なのか、執行猶予つき判決の獲得なのか、何をもって成功といえるのかは事件ごとに異なります。どの結果になった場合にいくら(どの割合で)支払う必要があるのかは事前に確認しておきましょう。 -
(4)日当
弁護士が事務所外で活動した場合に支払う費用です。たとえば被害者との示談交渉や裁判への出廷、留置場・拘置所の面会などの活動が挙げられます。
このような活動をしている間、弁護士はほかの業務ができずに拘束されるため、その対価として日当を支払います。1万円~2万円が相場ですが、事務所ごとに異なります。 -
(5)実費
弁護活動の過程で発生する事務処理にかかる費用です。鑑定を依頼した場合の費用、弁護士が接見に行く際の交通費や宿泊費、資料のコピー代、電話代といったものがあります。被害者と示談をする場合は示談金が別途必要です。
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(6)手数料
そのほかに接見手数料や保釈請求手数料といった手数料が発生する場合もあります。手数料は求めない法律事務所も多くあり、それぞれ運用が異なります。
4、弁護士を頼みたいけどお金がないときは?
弁護士を依頼すると決して安くない費用がかかります。経済的な余裕がない場合は以下の方法を検討しましょう。
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(1)国選弁護人制度
国選弁護人とは、資力がなく弁護士を利用できない人に対して国がつけてくれる弁護人のことです。
以前は被疑者国選弁護人を利用できるケースが一定の重大事件に限定されていました。そのため、それ以外の事件の被疑者は国選弁護人を利用できず、自力で私選弁護人を選任できない場合は弁護士のアドバイスを受けて取り調べに臨むことができませんでした。
しかし平成30年6月施行の改正刑事訴訟法により、勾留状が発せられているすべての被疑者は国選弁護人を利用できるようになりました。また、起訴された被告人が貧困その他の理由により弁護士を依頼できない場合も、裁判所に国選弁護人の利用を請求できます。
国選弁護人の費用は国庫から支出されるため、基本的に依頼者が費用を支払う必要はありません。ただし資力要件があり、具体的には資産が50万円未満の人が対象です。もっとも、資力要件を満たさなくても私選弁護人を選任できなければ国選弁護人が選任されます。 -
(2)刑事被疑者弁護援助制度
国選弁護人を利用できるのは、被疑者として勾留された後か、起訴され被告人となった場合です。そのため逮捕後・勾留される前は国選弁護人を利用できません。しかし、勾留前にこそ取り調べに対するアドバイスなどのサポートが不可欠です。
そこで利用できるのが無料の当番弁護士制度ですが、一度に限っての利用になるため、引き続き弁護を依頼するためには私選弁護人として選任する必要があります。このとき資力がなければ私選弁護人として選任できませんが、日弁連の「刑事被疑者弁護援助制度」を利用することができます(法テラスへの委託事業)。
費用の支払いが困難な人でも法律家によるサポートを受けやすくすることを目的とした制度で、法テラスが弁護士費用を立て替え払いしてくれます。後日に返済する必要がありますが、経済的な理由で返済が困難な場合は返済の免除を受けることもできます。 -
(3)分割払いを申し出る
国選弁護人は勾留後の被疑者または被告人であること、刑事被疑者弁護援助制度は身柄拘束を受けていることが条件なので、在宅事件として扱われている場合にはいずれの制度も利用できません。しかし在宅事件であっても身柄事件と同様に起訴されるおそれがあるため、弁護士のサポートが必要です。
事務所の方針次第ですが、分割払いに応じてもらえる事務所も少なくありません。まずは相談してみるのがよいでしょう。
5、刑事被疑者弁護援助の申し込み方法
被疑者が勾留されるまでの逮捕段階の弁護活動について、経済的に弁護費用が支払えない場合は、刑事被疑者弁護援助を利用できる可能性があります。申し込めば必ず利用できるわけではなく審査がありますが、資力に乏しい場合は返済の免除も受けられるため利用を検討しましょう。
制度の申し込みに先立ち、まずは弁護士会に当番弁護士の派遣を要請するのが一般的です。当番弁護士の依頼は、逮捕された被疑者本人にも、ご家族にもできます。
被疑者本人が依頼する場合は逮捕された警察署の留置係に声をかけると手続きしてくれます。ご家族が依頼する場合は、逮捕された場所の弁護士会へ連絡します。
刑事被疑者援助制度の申し込みは、弁護士によって作成された刑事被疑者援助利用申込書を提出して行います。当番弁護士が本人と接見する際、本人に対して刑事被疑者弁護援助制度の存在や内容を告知するので、援助制度を利用したい旨を伝えると手続きを進めてくれるでしょう。被疑者は刑事被疑者援助利用申込書の申込者欄に署名指印し、弁護士がその他の欄を記入し、援助事務センターへ申し込みを行います。
なお、刑事被疑者援助制度は逮捕後、かつ勾留前にのみ利用できるため、被疑者が勾留されるか、被疑者が釈放されると制度の利用が終結します。勾留された場合は被疑者国選弁護人制度へ切り替えることができるため、担当の弁護士へ手続きを依頼しましょう。
6、まとめ
刑事事件で逮捕された場合、起訴前や起訴後の任意的弁護事件であれば弁護士をつけないことができます。しかし弁護士をつけないことは被疑者・被告人にとって不利益が大きいため、弁護士をつけるのが最善の方法です。
たとえ経済的な余裕がなくても、「刑事被疑者弁護援助制度」や「国選弁護人」などの制度を利用できる場合もあります。刑事事件の被疑者・被告人になってしまったらぜひ制度の利用を検討してください。
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