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公文書偽造罪の時効は何年? 罪の構成要件や類似する罪も解説
令和3年12月、運転免許証を偽造した容疑でパート従業員の女が逮捕されました。容疑は「有印公文書偽造罪」です。逮捕当時、女の年齢は53歳でしたが、免許証の生年月日は24歳も若く偽造されていました。
公文書偽造罪は、厳しい刑罰が科せられる犯罪です。しかし「時効」が成立すれば罪を問われることはありません。
公文書偽造罪の時効は何年なのでしょうか?犯罪が成立する要件や類似する罪との違いとあわせて解説します。
1、公文書偽造罪とは
「公文書偽造罪」とはどんな犯罪なのでしょうか?法律上の根拠や刑罰、時効の年数などを確認します。
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(1)公文書偽造罪の法的根拠
公文書偽造罪は刑法第155条に規定されている犯罪です。行使の目的で、公務所や公務員の印章・署名を使って、公務所や公務員の作るべき文書・図画を偽造した者、または偽造した公務所もしくは公務員の印章・署名を使用して、公務員の作成すべき文書もしくは図画を偽造した者を罰する旨が規定されています。
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(2)公文書偽造罪における「有印」と「無印」の違い
公文書偽造罪は「有印」と「無印」で区別されています。
- 有印公文書偽造罪(刑法第155条1項)
公務所もしくは公務員の印章・署名を用いて公文書を偽造する行為 - 無印公文書偽造罪(刑法第155条3項)
公務所もしくは公務員の印章・署名を用いず、公文書を偽造する行為
有印と無印を区別するのは、公務所もしくは公務員の「印章」「署名」の有無です。
- 印章とは
人格の同一性を表章する印のことです。公務所または公務員を表象するもので、官公庁の公印や公務員の職印のほか、認印なども含まれます。 - 署名とは
官公庁の名称・呼称や公務員の職名・氏名などを表記することです。署名には記名も含まれます。
印章・署名が記された文書のほうがより信頼性の高い文書と評価されるため、有印公文書偽造罪のほうが厳しく処罰されます。
- 有印公文書偽造罪(刑法第155条1項)
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(3)公文書偽造罪の刑罰
公文書偽造罪の刑罰は、有印・無印で差があります。
- 有印公文書偽造罪の刑罰……1年以上10年以下の懲役
- 無印公文書偽造罪の刑罰……3年以下の懲役または20万円以下の罰金
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(4)公文書偽造罪の時効年数
刑事事件における「時効」とは、正しくは「公訴時効」といいます。犯罪が終了した時点から公訴時効が進行するため、公文書偽造罪における時効計算は「公文書を偽造したとき」が起算点です。公訴時効が完成すると、検察官が刑事裁判を提起できなくなるので罪を問われません。
公訴時効の年数は各犯罪に予定された法定刑に応じて定められています。- 有印公文書偽造罪の公訴時効……7年
- 無印私文書偽造罪の公訴時効……3年
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(5)公文書変造罪との違い
刑法第155条には、公文書偽造罪とあわせて「公文書変造罪」も定められています。ここでいう「変造」とは、文書の非本質的な部分に変更を加える行為を指し、本質的な部分に変更を加えた場合は偽造となります。
有印・無印で区別されるという点は公文書偽造罪と同じです。ただし、偽造・変造の刑罰に差はないので、有印公文書変造罪は有印公文書偽造罪と、無印公文書変造罪は無印公文書偽造罪と同じ法定刑の範囲で処罰されます。
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2、公文書偽造罪の構成要件
公文書偽造罪が成立するための構成要件を確認しましょう。
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(1)行使の目的があること
公文書偽造罪における行使とは、偽造文書を真正な文書であると誤信させることをいいます。交付・提示などの方法を問わず他人に差し向けて積極的に誤信させようとする意思さえあれば、「行使の目的」が成立し、実際に行使したかどうかは問題になりません。
このように、犯罪の成立に具体的な危険の発生は求められず、その危険さえあれば罪となる犯罪のことを「抽象的危険犯」といいます。 -
(2)公務所もしくは公務員の印章や署名を使用したこと
有印公文書偽造罪に限っては、公務所もしくは公務員の印章・署名を使用することが求められます。
印章は公印・職印だけでなく、文書を作成した公務員の認印なども含まれると考えるのが通説です。ただし、しばしば公文書に見られる「公印省略」という表記は印章には含まれません。
署名とは、本来は「自署のみ」を指す用語ですが、本罪では、プリンターで出力した、あるいは官職氏名などのゴム印を押したなどの「記名」も含むと解されています。
なお、公務所もしくは公務員の印章・署名の使用が求められるのは有印公文書偽造罪だけであり、これらがないからといって犯罪が成立しないわけではありません。印章・署名がない場合でも、無印公文書偽造罪に問われます。 -
(3)公務所もしくは公務員の作成すべき文書であること
公文書とは、国や都道府県・市区町村などの地方公共団体、あるいはこれらに所属する公務員が作成する書類を指します。公務所・公務員が職務上作成し、または取得した文書が対象であり、戸籍や登記の証明書、公証人が作成する契約書や遺言書などが考えられます。
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(4)偽造行為があること
公文書を作成する権限のないものが公務所・公務員名義で文書を作成すると「偽造行為があった」と判断されます。
また、たとえ公務員でも、職務のうえで行使作成権限をもたない者が無断で文書を作成すれば偽造行為です。
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3、公文書偽造罪と私文書偽造罪との違い
公文書偽造罪と近い存在の犯罪として、刑法第159条の「私文書偽造罪」が存在します。
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(1)公文書と私文書の違い
公文書とは公務所もしくは公務員が職務上作成または取得した文書を指しますが、一方の「私文書」とは公務員にあたらない一般の私人が作成した文書を指します。一個人に限らず、公務所にあたらない一般企業などの法人名義で作成された文書も私文書です。
私文書にあたるものは、刑法第159条のなかで「権利・義務もしくは事実証明に関する文書」と明記されています。権利や義務の発生・変更・消滅を生じさせる文書や、社会生活に交渉を有する事項を証明するための書類が該当します。個人と法人の間で交わされた契約書や、郵便局に提出する転居届、私立大学の答案用紙などが典型例です。
なお、文書偽造には「有形」と「無形」が存在します。刑法が定める文書偽造は、作成権限のない者が無断で文書を作成する「有形偽造」ですが、作成権限をもつ者が内容虚偽の文書を作成すると「無形偽造」です。
内容虚偽の公文書を作成した公務員は虚偽公文書作成等罪(刑法第156条)が成立します。これに対して私文書における無形偽造は、虚偽診断書作成罪(刑法160条)を除いて罪に問われないという違いもあります。 -
(2)私文書偽造罪の刑罰と時効年数
私文書偽造罪も有印・無印で区別され、刑罰と時効年数にも差があります。
- 有印私文書偽造罪……3か月以上5年以下の懲役、公訴時効5年
- 無印私文書偽造罪……1年以下の懲役または10万円以下の罰金、公訴時効3年
いずれも公文書偽造に比べると刑罰が軽く、特に有印の場合は公訴時効も短くなります。これは、私人間で交わされる私文書よりも公文書のほうが高い信用性をもち、保護の必要性も強いためです。
とはいえ、私文書偽造罪も決して軽い罪とはいえません。私文書偽造罪は詐欺罪などとあわせて責任を問われるケースが多いため、厳しい刑罰を受けることになるでしょう。
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4、公文書偽造罪に類似する罪と時効年数
公文書偽造罪に類似する犯罪を挙げながら、各犯罪の刑罰と時効年数を確認していきましょう。
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(1)詔書偽造罪
文書偽造の罪のうち、もっとも重い刑罰が設けられているのが刑法第154条1項の「詔書偽造罪」です。天皇文書を偽造した場合に成立し、無期または3年以上の懲役が予定されています。時効年数は15年です。
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(2)虚偽公文書作成罪
公務員が、その職務に関し、使う目的で内容虚偽の文書・図画を作成した場合は、刑法第156条の「虚偽公文書作成罪」が成立します。有印・無印で区別され、公文書偽造罪と同じ刑罰が予定されており、時効年数も同じです。
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(3)公正証書原本不実記載罪
公務員に対して虚偽の申し立てをして、登記簿・戸籍簿、そのほか権利もしくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせると、刑法第157条1項の「公正証書原本不実記載罪」に問われます。5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられるため、時効年数は5年です。
なお、同条2項には「免状不実記載罪」も規定されています。公務員に虚偽の申し立てをして、免状・鑑札・旅券に不実の記載をさせた場合に成立し、1年以下の懲役または20万円以下の罰金が予定されています。時効年数は3年です。 -
(4)虚偽公文書行使罪
詔書偽造・公文書偽造・偽造公文書作成・公正証書原本不実記載等にあたる行為による文書・図画を行使すると、刑法第158条1項の「虚偽公文書行使罪」に問われます。各偽造罪と同じ刑罰が科せられるため、時効年数も行使した偽造公文書の種類によって変化します。
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(5)虚偽診断書作成罪
医師が公務所に提出すべき診断書・検案書・死亡証書に虚偽の記載をすると、刑法第160条の「虚偽診断書作成罪」に問われます。3年以下の禁錮または30万円以下の罰金が予定されているので、時効年数は3年です。
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(6)印章偽造の罪
文書の偽造だけでなく「印章」を偽造した場合も罪に問われます。印章偽造の罪は、どのような印章を偽造したのかによって区別されます。
- 御璽偽造罪(刑法第164条1項)
御璽・国璽・御名を偽造した場合に成立し、2年以上の有期懲役が科せられます。有期懲役の上限は20年なので、時効年数は10年です。 - 公印偽造罪(同第165条1項)
公務所または公務員の印章や署名を偽造した場合に成立し、3か月以上5年以下という期間の懲役が科せられます。時効年数は5年です。 - 公記号偽造罪(同第166条1項)
公務所の記号を偽造した場合に成立し、3年以下の懲役が科せられます。時効年数は3年です。
なお、これらは偽造した本人だけでなく、これらを行使した者も各罪の「不正使用罪」として偽造と同じ刑罰が科せられます。不正使用罪については未遂でも罰せられるため、たとえば行使しようと提示したところ看破されたといったケースでも罪を免れられません。
- 御璽偽造罪(刑法第164条1項)
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5、公文書偽造罪を犯してしまったら弁護士へ相談を
公文書偽造罪では、偽造を受けた主体が公務所・公務員であり、犯罪を知ったときは告訴・告発するという義務を負っているため、事件化の回避は難しいでしょう。
厳しい刑罰が予定されている犯罪なので、事件化を回避できなければ、できるだけ軽い処分を目指して、捜査機関や公務所に働きかけることになるでしょう。検察官による不起訴や刑事裁判での減軽・執行猶予を得るには、弁護士によるサポートが必須です。
犯罪の容疑をかけられて逮捕されると、捜査段階で最長23日間にわたる身柄拘束を受けたうえで、保釈されなければ刑事裁判が終結するまで身柄拘束が解かれません。
身柄拘束が長期化すれば社会的な不利益も大きくなるため、弁護士に相談し、早期釈放に向けた弁護活動を依頼しましょう。
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6、まとめ
公文書偽造罪は厳しい刑罰が予定されている犯罪です。公務所・公務員には告発義務があるため、発覚すれば事件化は免れられません。
身柄拘束からの早期釈放や処分の軽減を実現するには、弁護士のサポートが必須です。公文書偽造罪の容疑をかけられてしまいお困りなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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