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控訴審とは? 刑事事件における控訴審の流れや概要、特徴を解説
「控訴審」とは、第一審裁判所の判決に対する不服申し立てについて、上級の裁判所が審理することをいいます。日本が採用する三審制のうち2回目の裁判にあたるものですが、「上告」や「上訴」、「抗告」などまぎらわしい用語がいくつもあるため、正確な内容や第一審の裁判との違いなどが分からないという方も少なくありません。
また控訴が認められるには刑事訴訟法が定める控訴理由が必要ですが、具体的にどのような理由があれば控訴できるのでしょうか?
本コラムでは控訴の概要や控訴理由について説明するとともに、第一審から控訴審までの流れ、控訴審における弁護活動についても解説します。
1、控訴とは
「控訴」とは、地方裁判所又は簡易裁判所がした判決に不服がある場合に、上級の裁判所に対してその変更・取り消しを求める手続きのことです(刑事訴訟法第372条)。まずは控訴の概要を確認しましょう。
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(1)三審制と控訴
日本では公平な裁判の実現のために三審制が採用されています。三審制とは、当事者が希望すれば原則3回までの反復審理が受けられる仕組みのことです。
【三審制の仕組み(刑事訴訟の場合)】- 第一審……地方裁判所または簡易裁判所
↓控訴 - 第二審……高等裁判所
↓上告 - 第三審……最高裁判所
刑事事件において第一審裁判所となるのは、原則として地方裁判所または簡易裁判所です。多くの事件では地方裁判所が第一審裁判所となり、簡易裁判所は罰金以下の刑にあたる罪や窃盗・横領などのうち比較的軽微な罪の刑事事件について第一審の裁判を担当します。
第二審裁判所(控訴裁判所)となるのは高等裁判所です。刑事事件では、第一審が地方裁判所、簡易裁判所のどちらで行われた場合でも、第二審は高等裁判所が担当します(裁判所法第16条1号)。
なお、刑事事件のうち少年事件については家庭裁判所がこれを取り扱います。少年事件では家庭裁判所が出した保護処分決定に対して高等裁判所に不服申し立てができますが、これは「抗告」といい、控訴とは異なる制度です。 - 第一審……地方裁判所または簡易裁判所
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(2)上告との違い
「上告」とは、高等裁判所の判決を不服として、さらに上級の裁判所に新たな判決を求めることをいいます(刑事訴訟法第405条)。刑事事件で上告審を担当するのは最高裁判所です。
上告が認められるのは原則として第二審の判決に憲法違反または判例違反があった場合に限られています。控訴よりも上告が認められる可能性は低いため、三審制ではあるものの事実上は控訴審が最後のチャンスであると言われる場合があります。
なお、控訴や上告はいずれも「上訴」にあたります。上訴とは裁判所の判決や命令に不服がある場合に上級の裁判所に新たな判断を求めることです。 -
(3)控訴する権利がある人
控訴できるのは第一審裁判の当事者である被告人と検察官です(刑事訴訟法第351条)。被告人の法定代理人、保佐人、弁護人も控訴できますが、被告人の明示した意思に反して控訴することはできません(同第356条)。
また、犯罪の被害者は判決の内容に不服があっても控訴することはできません。 -
(4)控訴を申し立てるには理由が必要
控訴を申し立てる際には、控訴趣意書という書面に控訴理由を示して提出します。刑事訴訟法に定められた控訴理由がなければ控訴が認められないため、控訴理由の検討は極めて重要な活動です。
主な控訴理由は以下の四つです。
● 訴訟手続きの法令違反(刑事訴訟法第377条~379条)
第一審の裁判の訴訟手続きに法令違反があった場合を指します。例えば被告人の自白のみによって犯罪事実を認定したケースがこれにあたります。
訴訟手続きの法令違反は、その違反が判決に影響したかどうかにかかわらず控訴を認める「絶対的控訴理由」(例:裁判所の管轄違いなど)と、その違反が判決に影響をおよぼしたことが明らかな場合に限り控訴を認める「相対的控訴理由」があります。
● 法令適用の誤り(同第380条)
第一審で証拠により認定された事実に対して、刑罰法令の解釈や適用条文に誤りがあった場合のことをいいます。例えば背任罪が適用されるべきところ横領罪が適用されたケースなどが該当します。
● 量刑不当(同第381条)
第一審で言い渡された量刑が、事件の性質や過去の同種の事例などと比べて不当に重い、もしくは不当に軽い場合を指します。例えば懲役3年が妥当なところ懲役5年が言い渡された、執行猶予がつくべきところ実刑判決だったといったケースです。
● 事実誤認(同第382条)
第一審で事実認定に誤りがあった場合の理由です。無罪になるべきところを有罪にされてしまったようなケースがこれにあたります。また第一審の裁判の弁論終結後、判決確定前に明らかになった事実も事実誤認としての控訴理由に含まれます。
上記のうち、法令適用の誤り、量刑不当、事実誤認については、判決に影響をおよぼすことが明らかな場合に限り控訴理由になります。
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2、控訴審の特徴
控訴審は第一審の裁判とは異なる部分が多くあります。控訴審の特徴を見ていきましょう。
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(1)控訴審は「事後審」
第一審では起訴状に記載された事件について審理されます。証拠の取り調べや証人尋問などを直接行って心証を形成する直接主義、口頭主義がとられており、公判期日に1~3時間を要する場合もあります。
一方、控訴審は審理をはじめからやり直すのではなく、第一審判決の当否を判断します。第一審の記録と控訴趣意書、答弁書などの書類を審査する形で進められます。原則として証拠書類のやり取りや証人尋問などの証拠調べは行われず、新たな裁判資料の提出も認められません。そのため控訴審は5分程度の短時間で審理が終了することもあります。
控訴審は第一審の裁判をやり直すのではなく、第一審の判断や手続きに誤りがないかどうかを事後的に審理することから「事後審」と呼ばれています。 -
(2)被告人に出頭の義務がない
第一審では被告人の出頭は義務なので、公判期日に必ず出頭しなければなりません(刑事訴訟法第273条2項)。一方、控訴審では被告人は公判期日に出頭する義務はありません(同第390条)。
ただし、裁判所が必要とした場合は被告人が出頭し、事実確認が行われる場合があります。 -
(3)合議体によって審理される
第一審は裁判官が一人だけで審理する事件と、裁判官3人の合議体によって審理する事件があります。これに対し、控訴審は必ず裁判官3人の合議体によって審理されます(裁判所法第18条)。
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3、控訴審判決の種類
控訴審の結論には「控訴棄却」と「原判決破棄」があります。それぞれどのような結論なのかを解説します。
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(1)控訴棄却
控訴棄却とは、第一審の判決が正当であるとして控訴を認めないことをいいます。「決定による控訴棄却」と「判決による控訴棄却」の2種類があります。
決定による控訴棄却とは、形式上の不備があるために控訴を認めないことです。控訴期間が経過した後に控訴された場合や控訴趣意書に方式違反がある場合などに控訴棄却決定となります。
「決定」によるため、法廷は開かれず文書で言い渡しがなされます。いわゆる門前払いです。
判決による控訴棄却とは、控訴申し立てが不適法な場合や控訴理由がないことを理由として控訴を認めないことです。法廷での審理を経て控訴棄却判決が宣告されます。
なお、同じ読み方で「公訴棄却」という用語がありますが、これは有罪・無罪を判断せずに裁判を打ち切る仕組みのひとつです。例えば被告人が亡くなった場合などに公訴棄却されます。 -
(2)原判決破棄
「原判決破棄」とは、第一審の判決に誤りがあったとしてその判決を破棄することをいいます。控訴を申し立てる側としては当然ながら原判決破棄を目指すことになります。
破棄の判決が下されると原判決がなかったことになるため、控訴審は以下のいずれかの措置をとります。● 破棄差し戻し
事件を第一審に差し戻して裁判をやり直させる措置です。第一審の裁判所は控訴審の判断に拘束されますが、例えば無罪判決が破棄差し戻しされた場合に必ずしも有罪判決をしなければならないわけではありません。
● 破棄移送
第一審と同等の裁判所に移送して審理させることです。
● 破棄自判
控訴審の審理の結果、すぐに結論が出せる場合には高等裁判所が自ら判決を言い渡します。これを破棄自判といいます。 -
(3)不利益変更禁止の原則
「不利益変更禁止の原則」とは、被告人が控訴した場合に、原判決よりも重い刑を言い渡すことができないとする原則をいいます(刑事訴訟法第402条)。
被告人が控訴したにもかかわらず原判決よりも重い刑を言い渡すことが許されるとしたら、被告人はそのことをおそれて控訴できなくなってしまうでしょう。不利益変更禁止の原則はこのような不利益を回避するために設けられてきた規定です。
もっとも、この原則は被告人や法定代理人、弁護人など被告人側から控訴した場合に採用されます。したがって、検察官が控訴した場合は該当せず、原判決よりも刑が重くなる場合があります。また、禁止されるのは原判決より重い刑を言い渡すことであって、事実認定を被告人に不利益に変更することは可能です。
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4、刑事事件における控訴審の流れ
第一審判決後から上告審の申し立てまでの流れを確認しましょう。
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(1)控訴の申し立て
第一審裁判所の判決を受けた日の翌日から起算して14日以内に、高等裁判所宛ての「控訴申立書」を提出します。申立書の提出先は高等裁判所ではなく、第一審の裁判所です。提出からおおむね1カ月以内には第一審の裁判所から高等裁判所に事件の記録が送られます。
申立期限の14日が過ぎると控訴できなくなり、第一審の判決が確定します。実刑判決の場合は刑務所で刑に服することになり、執行猶予つき判決の場合は執行猶予期間が開始されます。 -
(2)控訴趣意書の提出
控訴を申し立てると、高等裁判所から控訴趣意書の提出を求められます。このとき提出期限の指定があります。事件にもよりますが、標準的には指定から1カ月ほど後に設定されています。
裁判官は控訴審の期日までに控訴趣意書を見て心証を固めるため、控訴趣意書の内容が極めて重要です。第一審で提出する書証や弁論要旨以上に高度の専門知識が必要となるため、通常は弁護士が作成します。 -
(3)控訴を認めるか否かの判断
高等裁判所は第一審の裁判所から送られた訴訟記録や提出された控訴趣意書、相手方による答弁書を検討し、控訴を認めるかどうかを判断します。控訴権の消滅後に控訴が申し立てられた、期限内に控訴趣意書が提出されないなどの不備がある場合は、決定により控訴を棄却します。
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(4)控訴審・判決
控訴審の公判期日は控訴趣意書の提出から1カ月ほど後となるケースが標準的です。
控訴審では控訴趣意書にもとづく弁論、相手方の弁論が行われるほか、事実の取り調べが行われる場合もあります。審理の結果、判決が宣告されますが、これに不服があれば上告審への申し立てを行います。 -
(5)上告審への申し立て
控訴審の判決の言い渡し日の翌日から起算して14日以内に上告を申し立てます。上告申立書の提出先は高等裁判所です。また上告申し立ての理由を記載した上告趣意書を期限内に提出します。
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5、控訴審における弁護活動
控訴審における弁護活動の内容について解説します。
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(1)控訴審の経験がある弁護士に依頼するべき理由
控訴審は事件そのものではなく、第一審の判決の認定に誤りがないかを審理する事後審です。そのため事後審としてどのような指摘・主張をするのかを理解したうえで手続きに臨む必要があります。
第一審の判決が誤りであると認められるには、第一審判決の認定が論理則、経験則に照らして不合理であることを具体的に示す必要がありますが、法律家である裁判官の判断が間違っていることを主張・立証するのは容易ではありません。法律家ではない一般の方では困難なのはもちろん、弁護士であっても刑事訴訟の、それも控訴審の経験がある弁護士でなければ難しいでしょう。
そのため、控訴を検討している方は、まず刑事事件における控訴審の経験豊富な弁護士に依頼することが大切です。 -
(2)控訴趣意書の内容が重要
控訴審では証拠調べが実施されるケースがほとんどなく、書面での審理が中心となります。
そのため控訴趣意書に何を書くのかが極めて重要であり、控訴審の結果は説得力のある控訴趣意書を書けるかどうかにかかっているといえます。
これには控訴理由に対する理解や判例の知識、文章力などさまざまな知識・技術が必要となります。 -
(3)原判決破棄を目指した弁護活動
控訴する場合に目指すのは原判決破棄です。破棄には二つの理由があり「一項破棄」と「二項破棄」と呼ばれています。
一項破棄は控訴理由にあたる事由がある場合の破棄のことです(刑事訴訟法397条1項)。控訴理由に精通した弁護士が第一審の判決を分析し、判決に事実認定の誤りや不合理な部分がないかを明らかにしたうえで具体的に主張していきます。
新たな証拠を収集し、第一審で証拠調べを請求できなかったことにやむを得ない事情があることを示したうえで事実取り調べ請求を行うことも、重要な活動のひとつです。
二項破棄とは控訴理由にあたる事由がないものの、情状について取り調べをした結果、一審判決後に「原判決を破棄しなければ明らかに正義に反する」事情が生じた場合の破棄をいいます(同第2項)。
例えば、第一審判決前までは被害者が示談に難色を示していたものの判決後には示談に応じてくれた、第一審判決後に依存症(例:薬物犯罪や性犯罪など)の治療プログラムを開始したなど、被告人に有利な事情が生じた場合には第一審判決が破棄される可能性があります。事件の内容によっては、弁護士がこのような事情を積み上げるための弁護活動を行います。
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6、まとめ
刑事事件における控訴審とは、地方裁判所または簡易裁判所の判決に対する不服申し立てについて、高等裁判所が行う審理のことです。控訴理由が必要となるためどのようなケースでも認められるわけではありませんが、第一審の判決に不服があれば控訴を検討する意味はあります。
控訴すべきか否かは第一審判決日の翌日から14日以内という限られた時間で判断する必要があるため、控訴を検討する場合は早急に弁護士へ相談されることをおすすめします。
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