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児童虐待の被害届を出されたら逮捕? 犯罪になり得る行為と量刑
児童虐待は家庭内という閉ざされた空間で行われるため、なかなか発覚に至らないというケースも少なくありません。
しかし暴力を受けた児童が警察署にかけこんで被害届を提出したり、児童虐待を見聞きした学校や病院、近隣住民など周囲の大人が警察に通報したりして、児童虐待が発覚し、警察が捜査を開始して保護者の逮捕に至る場合があります。
本コラムでは児童虐待の定義を確認しながら、どのような行為がどの犯罪に該当するのか、また罰則はどのくらいかについて解説します。
1、児童虐待とは
最初に、児童虐待の定義やしつけとの違いについて解説します。
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(1)児童虐待の定義
児童虐待の定義は、児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」といいます。)の第2条に示されています。児童虐待防止法では、児童虐待について、保護者が、その監護する18歳未満の児童に対して行う以下の4つの行為のことであると定義しています。
- ① 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること(以下「身体的虐待」といいます。)
- ② 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること(以下「性的虐待」といいます。)
- ③ 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による身体的、性的、心理的虐待と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること(以下「ネグレクト」といいます。)
- ④ 児童に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力、その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(以下「心理的虐待」といいます。)
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(2)しつけとの違い
児童虐待を行った保護者が警察などに対し、しばしば「しつけのつもりだった」と述べるケースがあります。しつけに関する法律上の定めには、民法第820条・822条が定める親権者の「懲戒権」があります。
令和2年4月に施行された改正後の児童虐待防止法第14条第1項は、親権者に対して、「児童のしつけに際して、体罰を加えることその他民法第820条の規定による監護および教育に必要な範囲を超える行為により当該児童を懲戒してはならず」と述べています。
つまり、親権者が児童に対し「体罰を加えること」は明白に禁止されています。また、体罰以外でも「監護や教育に必要な範囲を超える行為」が禁止されています。「監護や教育に必要な範囲を超える行為」とは具体的に何をさすのか明文化されていませんが、たとえば食事を与えない、屋外に放り出して家に入れないなどの行為があれば、それは必要な範囲を超えていると言わざるを得ないでしょう。
また、同条第2項では「児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない」としています。すなわち、保護者だからといって刑事責任を免れることはできません。
なお、懲戒権についてはしつけを口実にした虐待がなくならないことから、民法の規定から削除するよう議論が進められています。
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2、児童虐待で犯罪になり得る行為
児童虐待はさまざまな犯罪に該当する行為なので、被害届の提出の有無を問わず逮捕されるおそれがあります。
前述のとおり児童虐待は「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4種類に分類されます。それぞれどのような行為が犯罪にあたるのかについて、具体例を挙げながら確認しましょう。
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(1)身体的虐待
身体的虐待の具体例としては、殴る、蹴る、首を絞める、激しく揺さぶる、熱湯をかける、たばこの火を押しつけてやけどさせる、屋外にしめだす、縄で縛りつけて拘束するなどの行為があります。
身体的虐待は打撲傷やあざなど虐待行為の客観的証拠が残るため周囲の大人が気づきやすく、児童の生命に危険が迫っていることから緊急性も高いため、逮捕されるおそれが大きいでしょう。
身体的虐待で逮捕されるケースとしては、泣き叫ぶ児童の声を聞いた近所の人が通報し、駆けつけた警察官に現行犯逮捕されるケース、搬送先の病院で医師が外傷の状況から児童虐待を疑って通報し、通常逮捕に至るケースなどがあります。 -
(2)性的虐待
性的虐待にあたるのは、児童への性交・性交類似行為、性器や胸などを触る・触らせる行為、これらの行為の強要・教唆、性器や性交・性交類似行為を見せる行為、児童の裸を撮影するなどの行為です。
性的虐待は、心理的・経済的に頼らざるを得ない相手からの行為であること、もうひとりの親へ知られることで家庭が崩壊することへの不安などから、児童自身が申告するケースはまれです。脅迫を受けている場合もあります。そのため虐待の中でもっとも発覚しにくいといっていいでしょう。
しかし、配偶者や交際相手の行動を不審に思った母親が警察に相談する、保育士や幼稚園教員が児童の言動で気づいて通報するなどして、逮捕に至るケースがあります。 -
(3)ネグレクト
ネグレクトとは、育児放棄・育児怠慢のことです。たとえば、食事を与えない、極端に不衛生な環境の中で生活させる、車内に放置する、家に閉じ込めて学校に行かせない、乳幼児を家に残したまま度々外出するなどの行為です。
ネグレクトは、児童が毎日同じ服を着ている、服装が不潔で悪臭がする、学校を休むことについて保護者から適切な説明がないなどのきっかけから学校側が不審に思い、発覚するケースがあります。毎年のように発生する車内放置の事例では、駐車場にいた警備員や通行人が通報し、駆けつけた警察官に逮捕されるケースも考えられます。 -
(4)心理的虐待
心理的虐待とは、言葉や行動によって児童の心を著しく傷つける行為のことです。具体的には、「○○しないと殴るぞ」と脅す、児童を無視する、人格を否定する言葉を繰り返し言う、ほかのきょうだいと差別する、正座など義務のないことをさせる行為などが該当します。
児童の面前で児童の親やその他の家族に暴力をふるうといった行為も、それを見た児童に心理的な影響をおよぼすことから心理的虐待にあたります。心理的虐待は発覚しにくいように思えますが、厚労省の調べによると児童相談所に寄せられる児童虐待の相談件数でもっとも多いのは心理的虐待です。
令和2年度は全体の59.2%が心理的虐待に関する相談でした。その理由として、同居配偶者などへの暴力が発覚し、それにともなって児童への心理的虐待も発覚するケースが多いことが挙げられています。
心理的虐待は外見で判断するのが難しいため逮捕の直接の理由になるケースは多いとはいえませんが、配偶者への暴力や児童に対するほかの虐待行為がともなうケースでは逮捕されるおそれが高まるでしょう。
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3、児童虐待が該当し得る犯罪と罰則
児童虐待は深刻な社会的問題となっていることから、警察は積極的に捜査を行います。
以下、児童虐待の類型別に、どのような犯罪に該当するのか確認しましょう。
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(1)身体的虐待
身体的虐待は傷害罪(刑法第204条)や暴行罪(同第208条)にあたるケースが多数です。これらの罪を犯して児童を死なせると傷害致死罪(同第205条)に、客観的状況から児童への殺意が認められると殺人罪(同第199条)が成立します。
罰則は以下のとおりです。- 傷害罪:15年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 暴行罪:2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
- 傷害致死罪:3年以上20年以下の懲役
- 殺人罪:死刑または無期もしくは5年以上の懲役
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(2)性的虐待
性的虐待は強制わいせつ罪(同第176条)や強制性交等罪(同第177条)で処罰されるおそれがあります。
児童の監護者であることの影響力を利用して性的虐待をした場合は、監護者わいせつ罪(同第179条1項)、監護者性交等罪(同第2項)にあたる可能性があります。- 強制わいせつ罪、監護者わいせつ罪:6カ月以上10年以下の懲役
- 強制性交等罪、監護者性交等罪:5年以上20年以下の懲役
このほかに、児童福祉法に違反する「児童に淫行をさせる行為」(第34条1項6号)があり、「10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または併科」(第60条1項)となる可能性もあります。
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(3)ネグレクト
保護責任者遺棄罪(刑法第218条)が成立するおそれがあります。保護責任者遺棄によって児童に傷害を与えたり死なせたりした場合は保護責任者遺棄致死傷罪(同第219条)が成立します。
- 保護責任者遺棄罪:3カ月以上5年以下の懲役
- 保護責任者遺棄致傷罪:3カ月以上15年以下の懲役
- 保護責任者遺棄致死罪:3年以上20年以下の懲役
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(4)心理的虐待
脅迫罪(同第222条)や強要罪(同第223条)に該当する可能性があります。
心理的虐待によって児童にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症させると傷害罪にあたる場合もあります。- 脅迫罪:2年以下の懲役または30万円以下の罰金
- 強要罪:3年以下の懲役
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4、児童虐待で逮捕された場合の流れ
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(1)逮捕された後
逮捕後は警察で取り調べを受け、48時間以内に検察官へ送致されます。検察官から取り調べを受け、必要に応じて勾留されます。
警察や検察官の取り調べの際に、何をどのように伝えるのかは、とても重要です。
逮捕される可能性がある場合、または、逮捕されてしまった場合には、すみやかに弁護士に依頼して、適切なアドバイスを受けて、慎重に対応しましょう。
逮捕・勾留された場合の身柄拘束期間は、最長で23日間にもおよびます。
この間、会社に出社することも、自分自身で会社に連絡することもできませんし、周囲の人に逮捕の事実を知られてしまう可能性が高いため、多方面への影響は避けられないでしょう。
逮捕後勾留されると、検察官は、勾留期間満了までに、起訴・不起訴を決定します。 -
(2)起訴後
検察官に起訴されると、被告人として公判が開かれるまで引き続き身柄を拘束され、判決が出るまで勾留が続きます。
勾留が続きますと、社会生活への影響は免れず、心身の負担も一層増えます。
そこで、負担を軽減するために保釈制度の利用が考えられます。
裁判官が保釈を認め、保釈金を支払うと、身柄の拘束が解かれます。
児童虐待で起訴されている場合、保釈されて戻る場所を自宅とすることが適切ではない場合も考えられますので、弁護士とよく協議する必要があるでしょう。 -
(3)判決
裁判官は、検察官が起訴状記載の公訴事実について、十分に立証していると判断すれば、有罪との判決を下すことになります。
有罪となる場合の量刑を判断する際には、結果の重さや行為態様の悪質さ、動機、常習性、反省の有無などさまざまな点が考慮されます。ほかの裁判結果との公平性という観点から、過去の量刑判断も考慮されます。
児童虐待は、本来であれば自分を守ってくれるはずの保護者から虐待を受け、家庭という閉ざされた空間で周囲の助けを得ることの困難な児童にとって、大変悪質な行為です。児童の心身に与える影響を考えれば結果は重大です。
児童虐待の背景には、親自身の虐待や、複雑な人間関係などさまざまな要因があり、そうしたことも判決の際には一定程度考慮されることもありますが、必ず刑が軽減されるわけではありません。初犯でも起訴され、懲役の実刑判決が下る可能性は十分にあります。
児童虐待は社会的な関心が強い犯罪なので、実名報道されるおそれもあります。実名報道されれば、虐待の事実が会社関係者に知られる可能性もありますので、判決の内容が懲役の実刑ではなかったとしても、懲戒処分を受けたり、職場に居づらくなったりする場合があるでしょう。
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5、被害者である児童はどうなるのか
児童虐待をした親が逮捕されると、ほかに養育に適した親族がいればその親族のもとで児童は養育されますが、そうでない場合には児童相談所に一時保護されます。
児童相談所の一時保護は原則2カ月以内ですが、事情によっては2カ月を超えて保護される場合があります。また、児童養護施設に預けられたり里親に委託されたりする場合もあります。
また、通報をきっかけに児童虐待が発覚した場合、保護者が逮捕にはいたらずとも一時保護されるケースがあります。児童の生命に危険がある場合や、保護者のもとに帰されることで明らかによくない影響がある場合などです。
一時保護がおこなわれると、児童との面会や通信が制限されます(児童虐待防止法第12条第1項)。自分の子どもと自由に会うことや、電話やメール、手紙などを送ることができなくなる可能性があります。
また、連れ戻して再び児童虐待がおこなわれるおそれがある場合には、児童がどこにいるのかも明らかにされません(児童虐待防止法第12条第3項)。
施設入所などの措置がとられ、面会や通信が制限されている場合には、児童への接近が禁止されることもあります(児童虐待防止法第12条の4第1項)。児童の居所や学校などに行ってつきまとうことや、近くをはいかいすることが禁止されるため、自分の子どもと会うことも、遠くから見ることもできません。
まだ逮捕されていないが、通報などによって子どもが一時保護された場合、児童相談所に対して虐待の疑いがないことや再発防止に向けて努力していることを説明し、理解を求める必要があります。たとえば、カウンセリングに通って暴力を振るわないように努力している、真面目に働き子どもをしっかり育てられる生活環境を整えているなど、具体的に示すことが大切です。
児童相談所にむやみに抗議しても、児童相談所に対して、子どもをこの状態で家庭にもどせばさらなる虐待のおそれがあると判断されかねません。弁護士と相談しながら、再犯防止策の構築も含め、誠意を見せながら時間をかけて働きかけることが大切です。
さらに児童虐待の程度や児童への影響が深刻なケースでは、児童本人やその親族、検察官などの請求により、家庭裁判所が親権停止や親権喪失の審判を行う場合もあります(民法第834条、834条の24)。
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6、まとめ
児童虐待が、何らかのきっかけで警察の知るところとなれば警察は捜査を開始し、悪質な事案では逮捕に至ることがあります。
児童虐待はどんな理由があっても許される行為ではありません。
もしも児童虐待をしてしまい逮捕されるかもしれないと不安に感じているのなら、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。今後の対応や処分の見込みも含めて適切なアドバイス・サポートを行います。
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