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執行猶予付き判決には示談の成立が不可欠? 実刑を避ける方法
刑事裁判で懲役刑や禁錮刑を言い渡されても、執行猶予が付けば直ちに服役する必要はなく、早期に社会復帰することができます。暴行や傷害、性犯罪などの重大犯罪であっても、被害者との間に示談が成立していれば執行猶予付き判決となる可能性が高まります。
執行猶予が認められるためには、刑法が定める条件を満たすとともに、裁判で酌むべき情状を立証・主張する必要があり、示談の成立は情状についての考慮要素の一つであるといえます。
今回は、執行猶予の意味や条件を確認しながら、示談成立が判決に与える影響や示談交渉が進まないときの対応などについて、弁護士が解説します。
1、執行猶予とは
まずは、執行猶予の定義や内容について説明します。
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(1)執行猶予の定義
執行猶予とは、刑事裁判で裁判官が有罪判決を言い渡すにあたって、情状により、一定の期間、刑の執行を猶予し、その言い渡しを取り消されることなく猶予期間が満了した場合には、刑の言い渡しが効力を失うものとする制度です。刑法の第4章に執行猶予の要件や執行猶予が取消しになる要件などが定められています。
執行猶予制度の目的は、刑務所に収容すること(施設内処遇)ではなく、仕事や学業などの社会生活を送ることや更生プログラムに参加することなど(社会内処遇)を通じ、被告人の自律的な更生を促して再犯を防止することです。
再び罪を犯すことなく猶予期間を無事に過ごし終えれば、刑の執行は免除されて刑務所への収容を回避することができます。ただし、有罪判決を受けた事実は消えませんので前科が付きます。前科が付くことで、医師や公務員、宅地建物取引主任者などの一定の職業や資格が制限される場合があります。 -
(2)執行猶予は取り消されることがある
執行猶予期間中に犯した罪や執行猶予付き判決の前に犯した罪で実刑判決となった場合には、執行猶予は必ず取消しとなります(刑法第26条)。また、執行猶予期間中に罰金刑を受けた場合や保護観察付の執行猶予で保護観察の遵守事項に違反した場合などには、裁判所の裁量によって取消しとなることがあります(刑法第26条の2)。執行猶予が取り消されると刑が執行されることになります。
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(3)執行猶予の期間
裁判が確定した日から「1年以上5年以下」です(刑法第25条第1項)。この期間内であれば裁判官は裁量によって長さを決めることができます。
実際には、執行猶予期間が言い渡された懲役または禁錮刑より短くなることはほとんどなく、言い渡された刑期の1.5倍から2倍の期間となるケースが多数です。たとえば懲役2年の場合には執行猶予期間は3年~4年となります。
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2、執行猶予が認められるための条件
令和3年版犯罪白書によれば、令和2年に刑事裁判で有期の懲役刑・禁錮刑を言い渡された4万6997人のうち、約63.3%の2万9743人が全部執行猶予付判決を受けています。比較的高い割合ではありますが、どんな犯罪でも執行猶予が付くわけではありません。
執行猶予付き判決を得るためには、刑法第25条で定められている条件を満たさなければなりません。条件を満たしていれば、初犯の場合だけでなく、過去に実刑判決を受けている場合や執行猶予期間中の再犯の場合でも執行猶予付き判決となる可能性があります。
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(1)判決の内容
言い渡される判決が「3年以下の懲役もしくは禁錮」または「50万円以下の罰金」である場合に対象となります(刑法第25条第1項)。しかし、実際には罰金刑に対して執行猶予が付くことはほとんどありません。
ここで「3年以下の懲役もしくは禁錮」とは、法定刑ではなく言い渡し系が基準ですから、殺人罪や強盗罪、現住建造物等放火罪、強制性交等罪のように有期懲役の法定刑の下限が3年を超えている犯罪であっても、未遂の場合(刑法第43条)や犯罪の情状に酌量するべき事情がある場合(刑法第66条)、心身耗弱の場合(刑法第39条2項)、自首した場合(刑法第42条)などの理由によって刑が減軽された上で「3年以下の懲役または禁錮」となった場合には執行猶予を付けることができます。介護や育児疲れによる殺人や殺人未遂などの事件で、執行猶予付き判決が言い渡されたニュースを目にしたことがある方もいるかもしれません。 -
(2)実刑判決を受けたことがない場合
判決の内容が(1)の条件を満たし、かつ酌むべき情状があり、過去に懲役・禁錮の実刑判決を受けていない場合には執行猶予付き判決となる可能性があります(刑法第25条第1項第1号)。
ここでいう情状とは、犯情(行為態様)、動機、年齢、精神障害の存在等の犯罪自体の情状のほか、犯罪後の改悛(かいしゅん)の情状、被害弁償、被害者による宥恕(ゆうじょ:赦すこと)、保護者による被告人の保護監督といった事情を含みます。
したがって、次のようなケースでは、初犯であっても執行猶予付き判決を得られにくくなります。- 犯罪の動機・手口が悪質
- 計画性がある
- 被害が大きい
- 反省や謝罪の意思を示していない
- 被害者の処罰感情が強い
- 更生の可能性が低い
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(3)実刑判決を受けたことがある場合
過去に懲役・禁錮の実刑判決を受けたことがある場合でも、判決の内容が(1)の条件を満たし、酌むべき情状があり、刑の執行が終わった日または執行の免除から5年以内に実刑判決を受けていなければ、執行猶予付き判決となる可能性があります(刑法第25条第1項第2号)。
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(4)執行猶予期間中に再犯してしまった場合
執行猶予期間中に再犯してしまった場合でも執行猶予付き判決となる可能性はあります。このように執行猶予期間中に再び執行猶予付き判決を受けることを「再度の執行猶予」といいます。
条件は次のとおりです(刑法第25条第2項)。- 今回の判決で言い渡される刑が「1年以下の懲役または禁錮」である
- 情状に「特に」酌量すべきものがある
- 前回の執行猶予付き判決で保護観察に付されていない
酌量すべき情状について「特に」という文言が付いていることからもわかるように、再度の執行猶予の条件は初度の執行猶予と比べると厳しいものとなります。また、再度の執行猶予付き判決を受けると保護観察が付されます(刑法第25条の2第1項)。
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3、示談が判決に与える影響とは
執行猶予判決を得るためには、前提条件を満たすとともに、「酌むべき情状がある」と裁判官に認められなくてはなりません。情状とは、裁判での量刑や起訴・不起訴が判断される上で考慮される事情のことです。
情状には、犯行の悪質さや計画性、被害の大きさなど事件に関する情状(犯情)のほか、被告人の性格や年齢、反省の程度、示談成立の有無、被害者の処罰感情、更生の可能性などの一般情状があります。
一般情状の中でも、性犯罪や窃盗、暴行、傷害といった被害者がいる事件では、示談成立の有無が執行猶予判決を得る上で重要な鍵を握ります。
示談とは、民事上の争いを裁判によらないで、当事者間の話し合いによって解決する手続きのことです。
加害者である被告人は示談を通じて被害者に真摯(しんし)に謝罪し、慰謝料や治療費などを示談金として支払うなど賠償を尽くします。そして、成立時に交わす示談書には、反省や謝罪を示す文言のほか、通常は「処罰感情を有しない」「厳罰を求めない」といった宥恕文言が記載されます。「宥恕」とは、「許す」という意味です。
示談の成立は、被告人に反省や謝罪の意思があること、被害弁償が行われたこと、被害者の処罰感情がなくなったことの証しとなります。判決までに示談が成立すれば、執行猶予の有無や刑の長さなどが決まる際に有利な情状として扱われるでしょう。また、早期に示談が成立していれば、起訴猶予による不起訴となる可能性や、保釈請求が認められる可能性も高まります。
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4、示談に応じてもらえない場合は?
示談の成立は被告人にとって有利な情状となりますが、刑事事件では加害者本人やその家族が示談交渉を進めようとしても、処罰感情の強さから被害者に交渉を拒否されてしまうケースも珍しくありません。また、被害者の氏名や住所などの個人情報を知らない場合には、そもそも示談交渉を始めることすらできません。
しかし、弁護士に示談交渉を一任すれば早期に示談が成立する可能性が高まります。被害者の個人情報が不明な場合でも、弁護士なら警察官や検察官に問い合わせて被害者の了承が得られれば、個人情報を知ることができます。
示談交渉は、法律の知識だけでなく交渉経験も求められます。弁護士は示談交渉の経験があるので、被害感情にきめ細やかに配慮しながら丁寧に交渉を進めるとともに、相場に照らした適切な示談金額や示談条件を示し、スムーズに示談を成立させることが期待できるでしょう。
また、被害者側が示談交渉を弁護士に依頼した場合でも、被害者側の弁護士との対等な交渉が可能なので、一方的に不利な内容で示談を締結することを回避できます。
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5、被害者がいない事件のときにできること
薬物犯罪や賭博罪、贈収賄罪、公務員に対する犯罪などの被害者のいない事件では示談交渉を行うことはできません。被害者がいない事件では、執行猶予付き判決を得るために次のような方法により情状を立証・主張します。
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(1)贖罪(しょくざい)寄付
贖罪寄付とは、被告人の事件に対する反省と謝罪の気持ちを示すために公的な団体に寄付をすることです。贖罪寄付を受けている公的な団体には、日本弁護士連合会や都道府県の弁護士会、日本司法支援センター(法テラス)などがあります。
贖罪寄付は、一般的には弁護士を通じて行い、寄付の証明書を裁判所に提出します。 -
(2)家族などの監督者に協力してもらう
家族や会社の上司などが監督者(身元引受人)となり、被告人と同居することや被告人を引き続き雇用すること、更生プログラムに参加させることなどを通じて被告人を管理・監督してもらいます。
適切な監督者に更生させていく旨を誓約してもらうことで再犯のおそれを否定できるため、有利な情状となるでしょう。弁護士は監督者による誓約書を裁判所に提出したり、裁判で情状証人として証言してもらったりします。
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6、まとめ
執行猶予付き判決を得るためには、刑法が定める条件を満たした上で情状が認められなければなりません。被害者との示談を成立させることは有利な情状となり、執行猶予判決を得る可能性が高まります。被害者がいない事件でも、贖罪寄付や情状証人の証言などにより情状酌量を訴えることができます。
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