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拘禁刑とは? 懲役刑・禁錮刑との違い、創設の背景をわかりやすく解説
令和4年6月13日、懲役刑と禁錮刑を廃止して、新たに「拘禁刑」を創設する内容の改正刑法が参議院本会議で賛成多数により可決・成立しました。明治40年に刑法が制定されてから、刑の種類が変更されるのは初めてとなります。
今回の改正により新設された拘禁刑とはどのような刑で、そもそも、なぜ改正に至ったのでしょうか。
今回は、拘禁刑とは何か、懲役刑・禁錮刑との違いや創設の背景などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、拘禁刑とは
拘禁刑とはどのような刑罰なのでしょうか。以下では、拘禁刑の概要について説明します。
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(1)拘禁刑とはどのような刑罰?
現行刑法では、刑罰の種類として、以下の6種類が存在しています。
- 死刑:唯一の生命刑。受刑者の生命を奪う刑事罰。
- 懲役:自由刑。受刑者を刑務所に収容して刑務作業を強いる刑事罰。
- 禁錮:自由刑。刑務所に収容されるが、刑務作業は強いられない刑事罰。
- 罰金:財産刑。国に対して金銭を納めさせる刑事罰で、金額の下限は1万円。
- 拘留:自由刑。1日以上30日未満の短期に限って刑務所に収容される刑事罰。
- 科料:財産刑。1000円以上1万円未満の金銭を国に対いて納めさせる刑事罰。
なお、これら6つの刑罰と一緒でなければ科すことができない刑(=付加刑)として、「没収」があります。没収とは、犯罪で得た財産や報酬、犯罪に使用された凶器などを強制的に奪う刑罰のことをいいます。
このうち、懲役と禁錮を一本化したものが「拘禁刑」になります。
拘禁刑は、受刑者の身体を刑務所などに収容する「自由刑」と呼ばれる刑罰になります。後述するように拘禁刑では、刑務作業が義務ではありませんので、受刑者の個々の特性に応じた柔軟な処遇が可能になっています。 -
(2)拘禁刑の創設により変わること
拘禁刑が創設されたことによって、主に以下の3つの点が変わります。
① 懲役刑や禁錮刑が拘禁刑に統一される
上述のとおり、拘禁刑とは、懲役と禁錮を一本化したものです。そのため、拘禁刑が施行されると同時に懲役刑と禁錮刑は廃止され、これまで法定刑で懲役や禁錮が定められていた罪に関しては拘禁刑により処罰されます。
多くの犯罪の法定刑に「懲役」が定められていますので、改正刑法の施行により、法定刑が変わる犯罪が数多くあります。
② 刑務作業が義務ではなくなる
従来の懲役刑は、受刑者に対して刑務作業が義務付けられているため、受刑者は所定の労働を行っています。
これに対して、拘禁刑では受刑者の刑務作業が義務ではなくなりました。ただし、刑務作業そのものが廃止されたわけではありません。したがって、拘禁刑受刑者の改善更生に必要な場合には刑務作業が行われることもあり得ます。
③ 受刑者に応じた柔軟な処遇が可能になる
自由刑は、受刑者の自由を剝奪し、刑務所に強制的に収容する刑罰ですが、出所後の社会復帰に向けて教育や矯正を行うことも目的としています。
受刑者は、性格、価値観、受刑態度、犯罪歴など人それぞれですので、受刑者に合わせて最適な処遇を考えていかなければなりません。拘禁刑では、上述のとおり、刑務作業が義務ではなくなりましたので、受刑者の特性に応じて、刑務作業、更生プログラム、教科指導などを柔軟に行うことができるようになりました。これにより高い再犯防止効果が期待されています。 -
(3)拘禁刑の施行時期はいつ?
令和4年6月13日、懲役刑と禁錮刑を廃止して、新たに「拘禁刑」を創設する内容の改正刑法が参議院本会議で賛成多数により可決・成立しました。そして、拘禁刑が実際に施行されるのは、令和7年6月1日です。
同日以降に起きた事件で起訴され、懲役刑や禁錮刑が定められている罪で有罪になれば拘禁刑の対象となります。
2、刑法改正により拘禁刑が創設された背景
刑法改正により拘禁刑が創設された背景には、主に以下の3つがあるといわれています。
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(1)懲役刑と禁錮刑を分ける実益がほとんどない
懲役刑と禁錮刑は、刑務作業が義務付けられているかどうかによって区別されます。しかし、実際には両者を区別する実益はほとんどありません。
令和5年犯罪白書によると、令和4年中に刑務所に入所した受刑者における刑の種類と人数は以下のようになっています。
- 懲役:1万4410人(99.7%)
- 禁錮:44人(0.3%)
- 拘留:5人
このように禁錮刑により刑務所に収容された受刑者は、全体のわずか0.3%しかいません。また、禁錮刑で収容された受刑者であっても希望することにより刑務作業を行うことができ、実際には禁錮刑受刑者のほとんどが刑務作業をしています。
このような状況からもわかるとおり、懲役刑と禁錮刑を区別する実益がほとんどないことが、拘禁刑が創設された理由のひとつです。 -
(2)社会復帰後の再犯防止を図る必要性
令和5年犯罪白書によると、令和4年の再犯者数は8万1183人で、再犯率は47.9%でした。再犯者数は、平成18年をピークに減少傾向にありますが、再犯率は平成9年以降上昇傾向にあることから社会復帰後の再犯防止が重要な課題となっています。
刑務所内においても再犯防止に向けた取り組みに重点を置く必要性が意識されるようになりました。刑務作業の義務の有無という懲役と禁錮の区別だけでは、受刑者の特性に応じた柔軟な処遇が図れないため、刑務作業の義務を撤廃し、新たに拘禁刑が創設されました。
これにより柔軟な処遇が可能になりましたので、受刑者の改善更生による再犯防止が期待できます。 -
(3)受刑者の高齢化により刑務作業が困難
令和5年犯罪白書によると令和4年の高齢者(65歳以上)の入所受刑者数は2025人で、入所受刑者に占める高齢者の比率(高齢者率)は14.0%でした。
一般社会において高齢化が進んでいるように、入所受刑者も高齢化が進んでおり、年々高齢化率が増加しています。
高齢受刑者のなかには、老化などが原因で刑務作業をすることが困難な人もいますので、一律に刑務作業を科す従来型の刑では適切な改善更生が図れません。そこで、リハビリなどにより円滑な社会復帰を行えるようにするために、刑務作業の義務を撤廃した拘禁刑が創設されました。
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3、拘禁刑と懲役刑・禁錮刑との違い
新設された拘禁刑と従来の懲役刑・禁錮刑とでは、どのような違いがあるのでしょうか。以下では、それぞれの刑の違いについて詳しく説明します。
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(1)懲役刑とは
懲役刑とは、受刑者の身体を刑務所に拘束する刑のうち、受刑者に刑務作業が義務となっている刑罰です。
懲役刑には、有期と無期の2種類存在します。有期の懲役刑は、最短で1か月、最長で20年と定められています(刑法12条1項)。これに対して、無期の懲役は、その名のとおり刑期が定められておらず、20年を超えて刑務所に収容されることになります。
ただし、無期懲役であっても生涯にわたって釈放がされないという意味ではありません。 -
(2)禁錮刑とは
禁錮刑とは、受刑者の身体を刑務所に拘束する刑のうち、受刑者の刑務作業が義務ではない刑罰をいいます。
刑務作業が義務ではないという点で、懲役刑よりも軽い刑として位置づけられています。ただし、刑務作業が義務ではないため刑務所内で自由に過ごせるのかというと、そのようなことはありません。看守による監視のもと独居房で、ひとりで読書をしたり手紙を書いたりしながら過ごすことになります。そのため、ほとんどの受刑者が刑務作業を希望して行っているのが実情です。
4、刑事事件で有罪になるとどうなる? 罪を犯したら早期に弁護士に相談を
刑事事件で有罪になるとどうなるのでしょうか。以下では、刑事事件で有罪になった場合のリスクと刑事事件で弁護士ができることについて説明します。
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(1)刑事事件で有罪になった場合のリスク・影響
何らかの罪を犯して検察官により起訴されてしまうと、ほとんどの事件で有罪判決が言い渡されます。言い渡された判決が実刑判決の場合は、刑務所へ服役することになりますので、一定期間社会と隔絶されるという不利益が生じます。
また、執行猶予つきの判決であれば刑務所への収容は免れますが、前科がつくことに変わりありませんので、以下のような影響が生じます。
- 社会的な信用性を失う
- 一定の職業に就けなくなる
- 就職や転職活動で不利になる
- 海外渡航が制限される可能性がある
このように刑事事件で有罪になるとさまざまな影響が生じますので、少しでも有利な処分を獲得するためにも早めに弁護士に相談することが大切です。
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(2)刑事事件で弁護士ができること
弁護士は、刑事事件の依頼を受けた場合、以下のようなサポートをすることができます。
① 逮捕や起訴の回避
逮捕や勾留をされてしまうと最長で23日間もの身柄拘束を受けることになります。また、検察官により起訴されてしまうと、日本の刑事裁判では高い確率で有罪になってしまいます。
弁護士に依頼すれば、勾留や保釈に関する疎明資料を作成したり、早期に被害者と示談をまとめるなどの弁護活動により、逮捕や起訴を回避するためのサポートを行うことができます。
② 早期の身柄解放
警察により逮捕されたとしても、すぐに弁護士に依頼することで勾留を阻止し、早期の身柄解放を実現できる可能性があります。
また、勾留されてしまったとしても準抗告や勾留取消請求により少しでも身柄拘束期間を短くできるようサポートします。
③ 被害者との示談交渉
被害者が存在する犯罪であれば被害者との示談が重要になります。
しかし、加害者自身では被害者と示談交渉をしようとしても拒絶されてしまうケースが多く、そもそも被害者の連絡先すらわからないというケースもあります。
そのような場合でも、弁護士であれば、捜査機関を通して被害者の連絡先を教えてもらえる可能性があります。また、弁護士が示談交渉の窓口になることで、被害者が示談に応じてくれる可能性も高まり、早期の示談成立を期待できます。
5、まとめ
拘禁刑は、懲役刑と禁錮刑が一本化された刑のことをいいます。拘禁刑では刑務作業の義務が撤廃され、受刑者に対する柔軟な処遇を可能にするものとして、受刑者の改善更生が期待されています。
拘禁刑が施行されるのは、令和7年6月1日ですので、それ以降に起きた犯罪で有罪になれば、拘禁刑が適用されることになります。
何らかの罪を犯してしまった場合、そのままでは有罪となり重い刑罰が科される可能性があります。少しでも有利な処分を獲得するには、弁護士のサポートが不可欠となりますので、刑事事件を起こしまった場合にはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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