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取り調べで自白したら有罪? 自白の効力と撤回の可能性


警察や検察の取り調べ中に、自白してしまった場合に、どうしたらよいかお悩みではありませんか?犯罪の疑いをかけられている被疑者・被告人が取り調べで自白した場合、その自白は刑事裁判の証拠として取り扱われます。
ただし、自白だけで有罪になるわけではありません。圧力や誤解によって事実とは異なる自白をした場合には、無罪となる可能性もありますので、弁護士と協力してその後の対応を検討しましょう。
本記事では、刑事裁判で自白がどう扱われるか、自白した後に無罪とされた事例、自白後に弁護士にできることなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事で分かること
- 自白にどの程度の証拠能力があるか、裁判への影響
- 示談交渉を弁護士に頼むべきメリット
- 自白の撤回のためにできること
1、自白の効力は? 刑事裁判でどう扱われるか
刑事裁判では自白が重要視されているため、警察官や検察官はどうにかして被疑者(被告人)の自白をとろうとします。しかし、自白だけで自動的に有罪が決まるわけではありません。
また、罪を犯したことが事実であった場合、正直に自白することで量刑が軽くなるなど、有利に働くケースもあります。
自白が不利にも有利にもなり得ることを理解し、冷静に対応することが大切です。
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(1)刑事裁判では、自白が重要視される
刑事事件における「自白」とは、被告人が自分にとって不利益な事実を認めることを指します。たとえば、取り調べで「自分がやりました」といった内容を話した場合が自白にあたります。
自白は「証拠の王」などと呼ばれることがあり、刑事裁判では重要な証拠として取り扱われます。刑罰を受けることになるにもかかわらず、やってもいない罪を自ら認めることは通常考えにくいためです。
そのため、自白の内容に信用性があると判断された場合、有罪となる可能性は非常に高くなります。 -
(2)自白のみでは有罪にならない
自白は重要度の高い証拠ですが、自白証拠だけで有罪にはなりません。
刑事訴訟法第319条第2項では、自白以外の証拠がなければ有罪にできないと定められています。これを「補強法則」といいます。
補強法則とは
「補強法則」は自白を補強する客観的な証拠(=補強証拠)があるということを、有罪認定の条件とするものです。
補強法則は、警察や検察が自白をとることに偏り、客観的な側面からの捜査を怠ることで冤罪が生まれるのを防ぐことを目的としています。
なお、補強証拠が必要なのは、事件が実際に起きたことを示すような事実についてです。
たとえば「どこで、いつ、何があったのか」といった部分には、自白以外の証拠が求められます。
一方で、「わざとやったのかどうか」などの主観的な部分については、自白だけでも証拠として使われることがあります。 -
(3)自白が有利に働くケースもある
自白は、基本的には自分に不利な証拠になります。
そのため、刑事裁判で有罪か無罪かを判断する際には、マイナスに働くことが多くなります。
しかし、罪を認めたうえで情状酌量を求める場合は、量刑(どれくらいの刑になるか)を決める際に、自白したことが有利に考慮される場合があります。
たとえば、早い段階で自白し、捜査にも協力していれば、深く反省をしているとみなされ、刑を軽くしてもらえる可能性があるのです。
とはいえ、自白がよい結果につながるかどうかはケースバイケースです。
自白するか、否認や黙秘をするかは、弁護士とよく話し合って、慎重に対応方針を決めましょう。
2、自白に証拠能力が認められないケース
自白は取り調べの方法によっては、刑事裁判において証拠として使えない場合があります(=自白法則。刑事訴訟法第319条第1項)。
たとえば、次のようなケースでは「証拠能力」が認められません。
② 長時間、休ませてもらえずに取り調べを受けて疲れ切った状態での自白
③ その他、任意にされたものでない疑いのある自白
(例)
- 警察官が被疑者に対し、罪を認めれば便宜を図ると伝えた後に自白した場合
- 障害や健康状態の悪化などにより、判断能力が低下した状態で自白した場合
実際に、過去には警察官が被疑者に強い言葉を浴びせたり、長時間にわたって取り調べを行ったりして、自白を引き出したケースがあります。
こうした「無理に引き出された自白」は、刑事裁判では証拠として認められないのが原則です。
- ※お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
3、自白の撤回は可能? 自白後にとるべき行動
取り調べの中で自白をした場合でも、後から自白を撤回することは可能です。
もし事実と違う内容を話してしまった場合は、すぐに弁護士に相談し、撤回に向けた準備を始めましょう。
ただし、一度自白をした後に撤回をした場合、「どちらの供述が正しいのか」が刑事裁判で争われることになります。
間違った自白を取り消したい場合は、以下のような対応を行いましょう。
- 捜査機関に対して取り調べの録音・録画の開示を求め、「強引な取り調べがあったかどうか」を検証する
- 自白について書かれた供述調書への署名捺印を拒否する
- 黙秘権を行使し、余計な供述をしないようにする
- 弁護士と協力して、「自白が誤りであること」を説明する文書や証拠を準備し、裁判所へ提出する
このように、正しい知識と弁護士のサポートがあれば、誤った自白を正す道もあります。
不当に重い罪になることを防ぐためにも、できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。
4、被告人が自白した後、無罪になった事例
取り調べで自白をしたにもかかわらず、最終的に裁判で無罪判決が言い渡されたケースも存在します。
ここでは、そうした事例をいくつか紹介します。
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(1)袴田事件(強盗殺人罪など、再審無罪)
袴田事件は、みそ工場の従業員で元プロボクサーの袴田巌氏が、昭和41年に一家4人を殺害した疑いで逮捕・起訴され、昭和55年に死刑判決が出たものの、再審により44年後に無罪が確定した事案です。
袴田さんは当初から無実を主張していましたが、連日の過酷な取り調べによって、勾留期限の直前に自白を引き出されたとされています。
取り調べでは、深夜までの長時間尋問や、トイレすら自由に使わせない状態が続き、自白調書は45通にのぼりました。
そのうち44通は違法な取り調べによるものとして証拠能力が否定されましたが、唯一採用された1通の調書に基づき、昭和55年に一度は死刑判決が確定しています。
しかしその後、現場に残された衣類が袴田さんのものとは考えにくいという事実などから、冤罪の可能性が高まって再審開始が認められました。
令和6年には静岡地裁が「自白の信用性はない」と判断し、無罪判決を言い渡しました。検察官は控訴を断念し、無罪が正式に確定しています。 -
(2)宇都宮事件(強盗罪)
宇都宮事件は、平成16年に2つの強盗事件で逮捕・起訴された男性が、真犯人が判明したことにより無罪とされた事案です。
男性は知的障害があり、相手の話に合わせてしまう傾向がある人物でした。
捜査機関は、被害者の供述内容に合わせて誘導的な取り調べを行い、虚偽の自白調書を作成したと認定されています。
最終的に真犯人が判明したことにより、男性の無罪が確定しました。
その後の国家賠償請求訴訟では、警察の取り調べ手法に問題があったことが明確に認定されています。 -
(3)貝塚放火事件(現住建造物等放火罪)
貝塚放火事件は、平成22年に現住建造物等放火事件で逮捕・起訴された男性に対する公訴が棄却された事案です。男性は中度知的障害を有していました。
公判前整理手続きの段階で、検察官が自白を誘導している様子が取り調べの録画に映っていることが判明しました。
検察官は裁判の中で自白の信用性を維持できないと判断し、公訴を取り下げました。
これにより、裁判所は訴追自体を打ち切り、公訴棄却の決定を下しました。 -
(4)志布志事件(公職選挙法違反)
志布志事件は、選挙で当選した県議会議員が住民に対して現金を配ったとして、県議会議員とその妻、および住民11名が公職選挙法違反の疑いで逮捕・起訴された事案です。
被告人13名のうち、公判中に病死して公訴が棄却された1名を除き、12名全員が無罪となりました。
住民のうち6名は取り調べにおいて自白しましたが、いずれも暴力的・威圧的な取り調べによって得られたものであり、裁判では信用性が否定されています。
検察官は物的証拠を提出することができず、取り調べ段階における自白に頼って有罪を主張しましたが、裁判所は自白調書の信用性を否定して無罪判決を言い渡しました。
5、自白した被疑者・被告人のために弁護士ができること
自白してしまった場合でも、弁護士に相談することで、状況に応じた適切な対処が可能です。
自白した被疑者や被告人のために、弁護士ができるサポートについてご紹介します。
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(1)取り調べに向けたアドバイスを受けられる
弁護士は、今後の取り調べにどう対応すべきか、具体的なアドバイスを行います。
たとえば、「黙秘権の使い方」や「話すべきこと・話さないほうがよいこと」の整理、警察官の質問への向き合い方などです。 -
(2)自白を撤回すべきか、維持すべきかを一緒に判断する
一度自白した内容を裁判で撤回するべきか、それとも維持したほうがよいかは、事件の内容や証拠関係によって変わります。
弁護士は、事件全体の見通しを踏まえて、自白の扱い方について助言し、最善の方針を一緒に考えます。やみくもに自白を撤回しても不利になることがあるため、弁護士の判断が非常に重要です。 -
(3)自白の信用性を争うための法的主張を組み立てる
弁護士は、自白が違法・不当な方法で引き出されたものである場合、その内容の信用性を裁判で争います。
録音・録画記録の分析、取り調べの任意性に疑問がある点の指摘などを行い、供述調書の証拠能力を否定するための準備をします。 -
(4)被害者との示談交渉を行う
実際に罪を犯しており、それを認めた場合でも、被害者に対する謝罪や賠償の意志を示すことで、刑の軽減につながる可能性があります。
弁護士は、加害者側の代理人として、被害者の方との示談交渉を適切に行います。 -
(5)裁判に向けた証拠収集や主張の準備を行う
弁護士は、必要に応じて証拠を集めたり、反論を裏付ける資料を整理したりしながら、裁判に備えた準備を進めます。
「自白は誤りだった」と主張するためには、客観的な事実や証拠による裏付けが必要です。
取り調べ時の録音データや、物的証拠との矛盾点などが自白の信ぴょう性を否定する材料になります。
弁護士が答える、事件解決へのヒント
これまで刑事事件を数多く担当してきましたが、取り調べ段階での自白が事件の行方を左右することは少なくありません。
しかし、一度誤った内容の自白をしてしまったからといって、必ず有罪になってしまうのだと諦めてしまう必要はないです。
実際に私が過去に担当した事件でも、適切な法的戦略と冷静な対応によって、自白後に不起訴を勝ち取ったケースがあります。冤罪や不当に重い処罰を避けるためにも、できるだけ早い段階で弁護士に相談いただきたいと思います。
6、自白の撤回を主張することは可能。慎重に判断を
自白は刑事裁判で重視される証拠ですが、それだけで有罪になるわけではありません。
不当な取り調べによる自白は、裁判で証拠として認められないことがあります。
また、実際に罪を犯していたとしても、自白や示談、反省の姿勢が量刑に有利に働くケースもあります。事件全体の見通しを踏まえて、弁護士と慎重に方針を決めましょう。
自白をした後でもできることはあります。
ベリーベスト法律事務所は、ご本人やご家族が不当に重い刑罰になることを回避するため、誠心誠意サポートいたします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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