新型コロナウイルスの流行による国民生活の保護を目的に、世帯員1人あたり10万円の「特別定額給付金」の支給が決定し、多くの自治体ではすでに給付が始まっています。
この騒動のなかで、厚生労働省などを装った「給付金詐欺」が横行しており、警察庁をはじめ各都道府県警察が注意を呼びかけています。
コロナ禍に乗じた給付金詐欺は、詐欺罪のなかでも「特殊詐欺」と呼ばれる手口に分類されます。特殊詐欺の主犯格が重い罪に問われるのは当然でしょう。一方で、受け子・出し子・架け子と呼ばれる共犯者の多くが「割の良いアルバイト」感覚で巻き込まれているという現状に大きな問題があります。
本コラムでは、給付金詐欺の被疑者として逮捕された場合にどのような刑事手続きや刑罰を受けるのかを解説します。
1、特殊詐欺とはどのような詐欺? 手口や事例
コロナ禍に乗じた給付金詐欺は、詐欺の手口に当てはめると「特殊詐欺」に分類されます。
特殊詐欺とはどのようなものなのでしょうか?
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(1)特殊詐欺とは
特殊詐欺とは、電話や手紙などの方法で対面することなく被害者をだまし、指定した預貯金口座への振り込みや郵送などの方法で、不特定多数の人から現金などを交付させる詐欺行為を指します。
平成11年頃には「オレオレ詐欺」をはじめとした、非対面での詐欺が流行するようになりました。
さらに社債や未公開株などへの投資を名目とした非対面の詐欺被害が全国で続出したことから、これらを総じて「特殊詐欺」と呼ぶことになったという背景があります。 -
(2)特殊詐欺の各類型
特殊詐欺は、次の類型にわかれています。
- オレオレ詐欺
- 架空請求詐欺
- 融資保証金詐欺
- 還付金等詐欺
- 金融商品等取引名目
- ギャンブル必勝法情報提供名目
- 異性との交際あっせん名目
- その他の名目
もともとは、オレオレ詐欺・架空請求詐欺・融資保証金詐欺・還付金等詐欺の4類型を総称して「振り込め詐欺」と呼んでいました。
これに、社債や未公開株といった金融商品等取引名目、パチンコ必勝法などのギャンブル必勝法情報提供名目、異性の紹介や「デートするだけでお金がもらえる」などの異性との交際あっせん名目などが加わって、特殊詐欺と呼ばれるようになったのです。
さらに、これらの類型のなかにもさらに「劇場型」や「移動型」など、さまざまな犯行形態が存在しています。
2、コロナに便乗! 給付金の給付を装った特殊詐欺とは?
令和2年5月現在、警察庁や各都道府県警察、自治体などが「新型コロナに乗じた給付金詐欺」に対する注意喚起を広報しています。
テレビでも広報CMが流れているので、目にしたことがある方も多いでしょう。
いわゆる「コロナ禍」に乗じた特殊詐欺とはどのような犯行なのでしょうか?
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(1)給付金詐欺の事例
コロナ禍に乗じた特殊詐欺の事例としてもっとも強く警戒されているのが「給付金詐欺」です。
特別定額給付金の給付をダシにして、次のような犯行が想定されます。
- 特別定額給付金の給付手数料を名目にATMを操作させて現金を振り込ませる 特殊詐欺のなかでも「還付金等詐欺」に分類される類型の犯行です。
- コロナ禍への義援金・寄付金の募集 新型コロナの罹患(りかん)者や損害を受けている業界・団体への義援金や寄付金を名目に、指定口座へ現金を振り込ませる手口です。
まず電話や手紙などで被害者をだまし、電話で指示しながらATMで指定口座に現金を振り込ませます。
振り込まれた被害金は、さらにコンビニATMなどで出金するため、架け子・出し子として犯行に巻き込まれるおそれがあります。
特殊詐欺の類型としては「その他の名目」にあたるでしょう。
震災・水害などの大災害が発生した際には、この種の詐欺被害が必ずといっていいほどに発生しています。
やはり架け子や出し子として詐欺グループの一員とみなされてしまうでしょう。 -
(2)そのほかのコロナ禍に乗じた詐欺の事例
給付金を名目とした特殊詐欺のほか、コロナ禍に乗じた詐欺としては次のような事例も想定されます。
- 給付金・助成金がでるので振込先口座の情報を教えてほしい
- 新型コロナの治療薬を開発している会社の社債購入を勧める
- コロナ対策として高額な浄水器を売りつける
直接的な詐欺も問題ですが、今回のコロナ禍を口実に預金口座の情報やキャッシュカードの暗証番号、マイナンバー、氏名・住所・電話番号などの個人情報収集を目的とした犯行も確認されています。
自治体のウェブページをそっくりそのまままねたフィッシングサイトの存在も確認されており「情報処理・事務作業のアルバイト」などで詐欺グループに巻き込まれてしまうおそれもあるでしょう。
3、特殊詐欺の法定刑。必ず懲役刑になる?
特殊詐欺は、法律に当てはめると刑法第246条の「詐欺罪」によって処罰されます。
特殊詐欺だから特別に刑罰が重くなるわけではなく、詐欺罪に規定されている法定刑の範囲内で刑罰が科せられることになります。
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(1)詐欺罪の法定刑
詐欺罪の法定刑は、刑法第246条の規定によると「10年以下の懲役」です。
実際に刑罰を受けることになった場合、10年以下の範囲内で懲役刑が科せられます。 -
(2)有罪になれば必ず懲役刑が下される
詐欺罪は刑法に規定されている犯罪のなかでも重い刑罰が用意されていると考えるべきでしょう。
なぜなら、詐欺罪には「懲役刑」しか規定されていないからです。
罰金刑の規定がないため、有罪となれば必ず懲役刑が下されます。
執行猶予がつかない限り、まず確実に刑務所へと収監されてしまい、長きにわたって社会生活から隔離されてしまうわけです。
会社・学校から去ることになるのは確実で、刑期を満了して出所しても事件前の生活に戻ることは困難でしょう。
4、特殊詐欺で逮捕されたらどうなる?
特殊詐欺の被疑者として警察に逮捕されてしまった場合、どのような刑事手続きを受けることになるのでしょうか?
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(1)逮捕・勾留
特殊詐欺に関与してしまうと、身柄の拘束なしで任意捜査となる可能性はまずないと覚悟する必要があります。
組織的な犯行が疑われるため、逃亡または証拠隠滅を防ぐために逮捕されてしまう可能性が高いでしょう。
警察に逮捕されると、まず警察署に留置されて取り調べを受けることになります。
この段階の取り調べでは、逮捕事実についての認否を確認する程度で、詳しい取り調べには至りません。
逮捕から48時間が経過するまでに、被疑者の身柄は検察官のもとへと引き継がれます。
この手続きを「送致」といいます。
送致を受けた検察官は、取り調べのうえで送致から24時間以内に起訴または釈放を判断します。
ただし、この段階では取り調べをはじめとした捜査が尽くされていないので、起訴・不起訴を判断する材料が足りません。
そこで検察官は、裁判官に対して身柄拘束の延長を求めます。
この手続きを「勾留請求」といいます。
裁判官が勾留を許可した場合、原則10日間、延長によってさらに10日間、合計で最長20日間の身柄拘束が認められます。 -
(2)起訴
勾留が満期を迎える日までに、検察官は再び起訴・不起訴を判断することになります。
検察官が「刑罰を科す必要はない」と判断すれば不起訴処分が期待できますが、特殊詐欺は社会的に断罪されやすいため、高い確率で起訴されてしまうでしょう。
なお、起訴をされると被疑者から「被告人」に立場が変わり、刑事裁判を待つ身となってさらに勾留が続きます。 -
(3)刑事裁判
検察官が起訴すると、刑事裁判に移行します。
刑事裁判では、検察官・弁護人が提出した証拠や被告人の供述をもとに裁判官が審理し、有罪・無罪を判断し、有罪であればどの程度の量刑が適切であるのかを決めます。
5、特殊詐欺で逮捕されたら早期に弁護士に依頼を
新型コロナに対する特別定額給付金を名目にした特殊詐欺で警察に逮捕されてしまったら、直ちに弁護士に相談しましょう。
また逮捕されていない段階でも、すぐに弁護士に相談して対策を講じる必要があります。
警察に逮捕されてしまえば、逮捕から72時間はたとえ家族であっても面会ができません。
この期間に被疑者と面会ができるのは弁護士だけです。
取り調べに際してのアドバイスを得るためにも、直ちに弁護士による接見を希望しましょう。
また、特殊詐欺事件で長期にわたる身柄拘束や重い刑罰を避けるには、被害者との示談成立がもっとも有効です。
被害者に謝罪のうえでだまし取った被害金相当の示談金を支払うことで、被害届の取り下げをお願いすることになります。
被害者との示談が成立すれば、検察官が不起訴処分を下す可能性が高まるほか、たとえ起訴されても量刑判断の面で有利になるでしょう。
被害者との示談交渉には弁護士のサポートが必須です。
詐欺事件の被害者は加害者本人やその家族との接触を嫌う傾向が強いので、公正な第三者として弁護士が代理人として交渉の場に立つのがベストです。
身柄を拘束されている本人では、充実した弁護活動が期待できる弁護士を自ら選ぶことは難しいでしょう。
実質的に、残された家族が手を尽くして弁護士を探すことになります。
家族が逮捕されてしまった場合は、直ちに残された家族が刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士を選任しましょう。
6、まとめ
大規模な災害が発生した場合や新たな政策・制度が始まったタイミングでは、必ずといっていいほど新たな手口の詐欺が誕生します。
このたびの新型コロナ対策として実施されている特別定額給付金についても、特殊詐欺の名目として利用されるおそれが強いでしょう。
詐欺被害への警戒はもちろんですが、さらに高収入のアルバイトだと思っていたら架け子・受け子・出し子として詐欺グループに巻き込まれてしまうおそれもあるので注意が必要です。
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