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万引きは軽犯罪ではなく窃盗罪! 罪の重さは? 刑を軽くするには?


令和6年の犯罪白書によると、全刑法犯の中で7割を占めるのが窃盗で、その窃盗の中でも万引きは19.3%と多くの割合を占めています。これだけ多発していることからも、万引きを「軽犯罪」や「ちょっとした悪さ」だと思い犯行に及んでしまうケースも少なくないでしょう。
しかし、万引きは「軽い犯罪」ではなく、最大10年の刑が科される「窃盗罪」です。初めての犯行か、被害額はいくらか、示談は成立しているかなど、さまざまな要素が刑の重さに影響します。
本記事では、万引きで捕まった場合の刑罰や量刑が軽くなるポイント、弁護士ができることなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事で分かること
- 万引きは典型的な窃盗罪になる
- 悪質な場合は、さらに刑が重くなる可能性あり
- 前科をつけないためには、早期示談・弁護士への相談が有効
1、万引きは軽犯罪ではなく「窃盗罪」!
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(1)「窃盗罪」とは?
万引きは、刑法上の「窃盗罪」に該当し、処罰の対象となります。
窃盗罪とは
他人の財物を不法に取得する行為を指し、これに該当すれば処罰されます(刑法
第235条)。
万引きはその典型例であり、ほかにも下着泥棒やスリ、車上荒らし、空き巣なども含まれます。
近年では広く知られるようになった振り込め詐欺において、「出し子」と呼ばれる、他人のキャッシュカードで預金を引き出す実行犯も、窃盗罪で処罰されるケースがあります。
万引きは軽犯罪ではない!
一方、のぞき行為や落書きなど比較的軽微な秩序違反行為を規制する「軽犯罪法」という法律がありますが、万引きはこれに該当せず、明確に刑法犯として取り扱われます。 -
(2)窃盗罪の刑罰は?
窃盗罪の法定刑は以下の通りです。
- 10年以下の拘禁刑
- または50万円以下の罰金
窃盗罪で有罪になると、最長で10年の拘禁刑となり、刑務所へ収監される可能性があります。ただしこれは法律が決めた上限ですので、事件ごとの事情を踏まえて裁判官が量刑(罰の種類、重さ)を判断します。
犯行の悪質性や被害額、示談の有無、反省の有無など、さまざまな事情が考慮され、適切な処分が決まります。 -
(3)窃盗罪よりも重い罪になる可能性も
万引きの態様によっては、単なる窃盗罪ではなく、さらに重い罪に問われることもあります。
窃盗罪の発展形として、あるいは窃盗罪に付加して刑罰を科されることが多い罪として、以下のような犯罪が挙げられます。
これらが適用されると、窃盗罪単独よりも量刑が加重されることがあります。
犯行の内容の例 罪名 刑罰 - 万引きをして逃げる際、追いかけてきた店員を突き飛ばす
- 追いかけてきた警備員にナイフを見せて威嚇する
事後強盗罪
(刑法第238条)5年以上20年以下の拘禁刑 - 万引きした際に、相手にケガを負わせる
強盗致傷罪
(刑法第240条)無期または6年以上の拘禁刑 - 最初から窃盗目的で店舗に進入した
建造物侵入罪(刑法第130条) 3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 - 防犯タグを壊して商品を盗む
- CDケースを開けて中身だけを抜き取る
器物損壊罪
(刑法第261条)3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料 - 他の客と共謀して、店員の注意をそらして盗む
偽計業務妨害罪
(刑法第233条)3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
2、量刑が軽くなるポイント6つ
万引きで刑罰を科される場合でも、すべてが厳罰に処されるわけではありません。
事件の内容や被疑者の対応によって、量刑が軽くなる可能性もあります。
ここでは、刑が軽くなるとされる主な要素を6つご紹介します。
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(1)初犯である
初犯の場合は再犯と比べて更生の可能性が高いため、減刑されるためのひとつの材料になります。初犯で被害額も少ないケースであれば、不起訴処分となり、前科がつかない可能性もあるでしょう。
悪質性が高い場合は厳しい処分に
ただし、「初犯=軽い処分」とは限らず、計画性や常習性が疑われるなど、悪質性の高い場合には厳しい処分が下されることもあります。 -
(2)被害額が高額でない
被害額が少額である場合、量刑において有利に働く可能性があります。
一般的に、被害金額が小さいほど社会的影響が小さいとみなされ、それに応じて量刑も軽くなる傾向があります。
たとえば、数百円程度の商品の万引きと、数万円以上の高額商品の窃盗では、後者の方が重い処分を受けることがあり得ます。
悪質性が高い場合は厳しい処分に
ただし、少額であっても繰り返し犯行を行っている場合や、万引きの態様などからして悪質性が高いと判断される場合は、軽減されないこともあります。 -
(3)悪質性が低い
犯行の悪質性が低いと判断される場合も、刑が軽くなる要素となります。
具体的には、計画性がなく衝動的な犯行だった場合、生活困窮などやむを得ない事情があった場合、あるいは万引き防止タグを外すなどの特殊な手段を用いていない場合などが該当します。
また、組織的な犯行ではなく単独犯であることや、窃盗の常習性がないことも悪質性の低さを示す要素です。
裁判所は犯行に至った経緯や動機も含めて総合的に悪質性を判断し、量刑に反映させます。 -
(4)被害を弁償し、示談が成立している
被害者と示談が成立していると、被害者が加害者を許し、処罰を望まないという証明になるため、検察官や裁判官もこれを重視します。
示談にしてもらうためには、被害者へ真摯(しんし)に謝罪をすること、被害額の弁済を行うことが大切です。
精神的苦痛を与えている場合は、慰謝料も含めた示談金を支払いましょう。
加害者が、被害者と直接示談するのは困難
ただ、加害者本人から直接被害者に示談を行うのは難しいケースも少なくありません。
連絡先を教えてもらえないケースでは、そもそも交渉を始めることさえできません。
弁護士であれば、捜査機関を通じて条件付きで被害者の連絡先を教えてもらえる可能性があります。なるべく弁護士に相談して、早めに示談を成立させておくべきでしょう。 -
(5)反省の態度を示している
万引きの犯行を深く反省していることは、処分を軽くする上で重要な情状となります。
① 罪は素直に認める
証拠があり犯行が明らかなのに否認してしまうと、反省していないような印象を与えるため、すぐに罪を認めたほうがよいでしょう。
② 犯罪の痕跡を隠さない、逃げない
犯行の痕跡を隠そうとしたり、逃げまわったりしているのも検察官や裁判官の心証を悪くするため、避けるべきです。
誠意を持って謝罪し、二度と同じ過ちを繰り返さないという強い意志を示すことが、処分の軽減につながります。
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(6)再犯防止策を講じている
再犯防止策を講じることも重要です。
家族や周囲の協力を得て、生活環境を改善したり、本人を見守る体制を整えたりすることで、再犯のリスクが下がると評価されます。
精神的要因の万引きの場合は、カウンセリングも視野に
万引きを繰り返す背景に「クレプトマニア(窃盗症)」と呼ばれる精神的要因がある場合も考えられます。
この場合はカウンセリングやクリニックに通うことも視野に入れ、治療に向けて努力することが大切です。
本人が買い物に行く際には、家族が同行するといった日常生活での具体的な防止策を実践しているかどうかも、裁判官や検察官の判断に影響を与える要素となります。
- ※お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
3、未成年の子どもが万引をしたら
18歳未満の未成年が万引きした場合、14歳未満・14歳以上でどう処分されるかが変わります。
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(1)14歳未満の未成年の場合
14歳未満の場合は「刑事責任年齢」に達していないため、刑法上の責任を問われません。(刑法第41条)しかし、これは何の処分も受けないということではありません。
警察に補導された後、児童相談所による調査が行われ、問題が深刻な場合は「児童福祉法」に基づいて児童自立支援施設などへの入所措置が取られることがあります。
また、親が「民法上の監督責任」を問われ、損害賠償を求められる可能性もあります。 -
(2)14歳以上の未成年の場合
14歳以上18歳未満の少年は、刑事責任能力があるとみなされる年齢ですが、すべての場合に成人と同じ刑事手続きを行うわけではなく、原則として「少年法」が適用されます。
少年法が適用されると、原則としてすべての事件が家庭裁判所に送致され、少年審判を受けることになります。
審判の結果、不処分・保護観察・少年院送致などの処分が決まります。
特に悪質な事件では、検察官送致(逆送)となり、刑事裁判を受ける場合もありますが、初犯の万引きではまれでしょう。
未成年の場合は、更生の可能性が高いと考えられるため、教育的な観点から処分が決められます。保護者の協力姿勢や、本人の反省態度、生活環境の改善なども重視されるので、早期に弁護士に相談し、適切な対応をとることが重要です。
4、万引きで逮捕された後の流れ
万引きで逮捕された場合、以下のような流れで事件が進みます。
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(1)逮捕~送致(最大72時間)
逮捕後、警察で取り調べが行われ、最大48時間は警察署に留置されます。
その後、事件が検察官に送致され、さらに最大24時間、検察庁での留置が続く可能性があります(刑事訴訟法第203条〜205条)。 -
(2)勾留(最大20日間)
検察官が裁判所に対して勾留請求を行い、裁判官が勾留の必要性を判断します。
裁判官が必要性を認めた場合には、最初に10日間の勾留によって身体を拘束され、必要に応じてさらに10日間延長されることがあります(同法第208条)。 -
(3)処分の決定
勾留期間中に、検察官が起訴するか不起訴とするかを判断します。
起訴された場合には裁判所において刑事裁判が行われることになります。
特に軽微な事件の場合は、警察の段階で送致されずに終結する「微罪処分」となる可能性もあり、早めに弁護士に相談することで、適切な対処が可能になります。
略式手続きになるケースも
なお、事案の内容によっては、裁判所で公開の裁判期日を行わない略式手続という手続きが行われることもあります。
逮捕後の流れについて下記の記事をご覧ください。
5、万引きで有罪を回避できる確率は?
万引きで逮捕された場合、有罪になるのを回避できる確率はどれくらいでしょうか?
統計データから、微罪処分になる確率と不起訴処分になる確率をご紹介します。
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(1)万引きで「微罪処分」になる確率
微罪処分を受けた場合は、刑事裁判には進まず、有罪判決が下されることもないため、前科はつきません。
微罪処分とは
前科がなく、被害額も少額で弁償や謝罪も済んでおり、犯行も悪質でない場合など、軽微な犯罪に対して、警察が検察に送致せずに事件が終了させる処分のことを「微罪処分」といいます。
令和6年版犯罪白書によれば、令和5年の万引きによる検挙人数4万9399人のうち、微罪処分となったのは2万1044人で、全体の42.60%を占めています。
男女別の詳しい数値は以下の表をご覧ください。
区分 万引きの検挙人数 微罪処分の人数(微罪処分率) 男性 2万9171人 1万1238人(38.52%) 女性 2万0228人 9806人(48.48%) 合計 4万9399人 2万1044人(42.69%)
刑法犯の全検挙人員に占める微罪処分の比率は26.4%となっており、万引きは他の犯罪に比べて微罪処分となる割合が高い傾向にあります。
参考:「令和6年版犯罪白書|万引き 送致別検挙人員・微罪処分率の推移(男女別)」(法務省) -
(2)窃盗罪で「不起訴処分」になる確率
不起訴になれば、有罪判決を受けないため前科はつかず、事件は正式に終了します。
不起訴処分とは
検察官が事件を起訴せず、事件を終了させると判断した場合に下される処分です。
不起訴処分の理由には
・嫌疑不十分:証拠が不十分である
・嫌疑なし:そもそも犯罪が成立しない
などがありますが、もっとも多いのは「起訴猶予」です。
起訴猶予が適用される場合とは
起訴猶予は、犯罪の証拠は十分そろっている場合でも、被疑者の性格や年齢、犯罪の軽重、情状などを考慮して、刑事裁判を開く必要がないと判断される場合に適用されます(刑事訴訟法第248条)。
令和6年版犯罪白書によると、令和5年の窃盗罪による不起訴の総数は37602人で、不起訴率は55.32%でした。
不起訴理由の内訳は以下のとおりです。
起訴総数(起訴率) 不起訴総数(不起訴率) 起訴猶予 その他の不起訴 30373(44.68%) 37602(55.32%) 29517 8085
参考:「令和6年版犯罪白書|資料2-2 検察庁終局処理人員(罪名別)」(法務省)
なお、この数値には万引き以外の窃盗罪で逮捕された人も含まれるため、万引きに絞った場合はさらに不起訴率が高くなる可能性があります。
初犯で示談が成立しているようなケースでは、不起訴処分を目指す弁護活動が非常に効果的です。
6、万引きで早期釈放・実刑回避のために弁護士ができること
万引きは軽い犯罪だからすぐに身柄を解放されるだろうと誤解されがちですが、被害額や犯行の悪質性によっては拘禁刑になる可能性も十分にある犯罪ですので、適切な対処が必要です。
特に逮捕・勾留されてしまった場合には、早期釈放や不起訴処分を目指すために、弁護士による迅速な対応が重要となります。
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(1)示談交渉を行う
弁護士は被害者との示談交渉を本人に代わって行うことができます。
万引き事件では、被害者は早期に被害回復を望むケースが多いため、早急な交渉は効果的です。被害者に対して謝罪の気持ちを適切に伝え、被害額の弁償だけでなく、必要に応じて慰謝料も含めた金額を提示します。
弁護士なら被害者と交渉できる
被害者と直接交渉することが難しい場合でも、弁護士であれば捜査機関を通じて条件付きで被害者の連絡先を教えてもらえる可能性があります。
示談成立により、不起訴や刑の軽減につながります。 -
(2)供述調書の内容確認
取り調べでの供述は、その後の起訴・不起訴の処分に関する判断に大きな影響を与えるため、供述内容に誤りや不利な記載があると不適切な処分につながる可能性があります。
弁護士は逮捕直後から接見(面会)ができるため、取り調べの注意点をアドバイスするとともに、供述調書の内容を確認し、不当な記載がないかをチェックすることが可能です。
特に事実と異なる内容や、不必要に責任を重く見せるような表現がないかは慎重に確認する必要があります。 -
(3)検察官との情状面での交渉
弁護士は検察官に対して、窃盗を犯した背景事情や情状面での考慮すべき点を説明します。
・初犯であること
・家族のサポート体制があること
・生活環境の改善策
など、再犯防止に向けた具体的な計画を提示することで、処分の軽減を求めます。
特に精神的な問題や経済的困窮など、犯行に至った特別な事情がある場合は、それを裏付ける資料などを提出し、情状酌量を強く働きかけることが可能です。 -
(4)不起訴処分や執行猶予を得るための活動
逮捕後、本人の早期釈放や不起訴処分、または起訴された場合に執行猶予付き判決を得るために、弁護士はさまざまな弁護活動を行います。
たとえば、
・本人の反省文の作成支援
・再犯防止計画の立案
・社会的な立場や家庭環境の説明
などです。
これらの弁護活動により、実刑回避や社会復帰への道が開かれる可能性が高まります。
7、万引きは窃盗罪! 実刑を回避するためにも早期の弁護活動が重要
万引きは、窃盗罪にあたり、最長で10年の拘禁刑となる可能性もある重大な犯罪です。
決して軽犯罪ではなく、特に逮捕された場合などには、今後の人生に大きな影響を与える可能性があります。
微罪処分や不起訴処分、執行猶予付き判決を目指すには、被害者との示談や反省の意思を伝えることなどが非常に重要となります。
こうした対応を速やかに進めるためには、弁護士による弁護活動が不可欠です。
被害者との示談成立には弁護士のサポートを要しますので、ぜひベリーベスト法律事務所までご連絡ください。
刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が、示談交渉から早期釈放のサポート、裁判になった場合には執行猶予の獲得などまで力を尽くします。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。