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家族が性的虐待の加害者に! 実際の判例を交えて逮捕後の流れや刑罰を解説
平成29年度「児童相談所での児童虐待相談対応件数」(厚生労働省)によると、児童相談所では児童に対する性的虐待についての相談をおよそ1540件も受けています。
このように性的虐待は子どもに対して行われるケースが多く報告されています。しかし、そもそも「性的虐待」とは、上下関係などを悪用し、地位が上の者が下の者の同意を得ずに性的な行為をする、もしくはそのような行為を強要することなど広く指します。したがって、親が子どもに対して、夫が妻に対して、さらには上司が部下に対して行うなどのケースもあり、家族が加害者になってしまうことも起こりうるものであるといえるでしょう。
ここでは家族が性的虐待を行ってしまったら逮捕されるのか、また、逮捕されてしまった場合の流れはどのようになるのかについて解説します。
1、性的虐待とは? その心理や原因を知るためにできること
そもそも性的虐待に当たる行為とはどのような行為を指すのか、また、性的虐待を行ってしまった原因、性的虐待を行った加害者に対してはどのように対処するべきかについて、知っておきましょう。
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(1)性的虐待によって問われる罪は
性的虐待とは犯罪名ではありません。冒頭で述べたとおり、本心から同意していない相手などに対して上下関係を利用して拒否できない状況下で性的な行為をする、もしくはそのような行為を強要することなどを広く指す言葉です。性的な行為の内容としては、レイプ、セクシュアルハラスメント、痴漢、嫌がる相手にアダルトビデオを見せるなどが挙げられます。
性的虐待の被害者となりうるのは子どもだけに限らず、配偶者や仕事関係者、恋人同士、高齢者、障害者など、あらゆる層が考えられ、それぞれあてはまる罪状や罰則が変わってきます。-
●強制性交等罪(刑法第177条)
13歳以上の者に対して、暴行や脅迫を用いて性交、肛門性交または口腔性交をすること、13歳未満の者に対しては単に性交等を行ったケースなどが該当します。
強制性交等罪は、平成29年に強姦(ごうかん)罪から改正されています。かつての強姦罪では、被害者の性別を「女子」に限っていたのですが、改正によって男子への性交等も対象とされるようになりました。また、強姦罪では親告罪としていて、被害者が告訴しなければ罪に問われない犯罪でしたが、強制性交等罪となってからは、被害者の告訴がなくても罪に問えるようになり、処される刑罰もさらに重いものとなりました。 -
●準強制性交等(刑法178条)
物理的・心理的に人を抵抗できない状態、または意識がない状態に乗じて性交等をすると、準強制性交等罪に問われる可能性があります。
具体的には、睡眠、泥酔、精神疾患などにより、正常な判断が行えず抵抗できない状態にある被害者へ加害者が性交等を行った場合に適用されます。また、被害者が物理的に抵抗できない状態、恐怖などによって抵抗できない状態に乗じて性交等を行った場合も含まれる可能性があるでしょう。 -
●強制わいせつ(刑法第176条)
13歳以上の者に対して暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合、もしくは13歳未満の者に対してわいせつな行為をしたケースなどで問われる罪です。
強制わいせつ罪も、強制性交等罪同様、かつては被害者による告訴が起訴に必要な親告罪でしたが、平成29年の改正で親告罪ではなくなりました。したがって、被害者の告訴がなくても加害者を起訴することができるようになりました。 -
●高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年11月9日法律第124号)
65歳以上の高齢者などに対して傷害、暴行、養護義務の放棄、わいせつ行為などが行われたケースは、この法律を根拠に罪が問われることもあるでしょう。
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●障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)
障害者に対して暴言、暴行、わいせつ行為、養護義務の放棄などが行われたケースは、この法律を根拠に罪が問われることもあるでしょう。
上記に挙げた法律以外にも、加害者が性的な行為をした際に被害者に暴力行為や脅迫などをしたことがみなされれば、傷害罪、暴行罪、脅迫罪などが適用されることもあるでしょう。
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(2)なぜ性的虐待をしてしまうのか
器質的な問題か加害者が育った家庭環境にあるともいわれています。しかし、性的虐待の加害者になってしまう原因が明確に解明されているわけではありません。いわゆる機能不全家庭で育ったり、精神的虐待を受けていたりしたからといって、必ず性的虐待をするとは限らない点に注意が必要です。
ただ、多くの性的虐待事件において、加害者と被害者は顔見知り以上の関係性があり、加害者の立場が被害者よりも強い傾向もあるようです。たとえば、性的虐待の主たる虐待者は35%が実父で、続いて養(継)父が25%を占めているという調査結果もあります。さらに、性的虐待をする際、加害者が被害者に対して支配的発言をしたというケースは全体の33%を占めていたとも報告されています。
海外でも研究が進んでいるようですが、加害者を確実に治療する方法は、残念ながらまだ見つかっていません。
2、性的虐待で逮捕されてしまった場合の流れ
前述のとおり、性的虐待はさまざまな罪に問われる可能性があります。では、家族が性的虐待の容疑で逮捕されてしまった場合はどのようにしたらいいのかを知るためにも、逮捕後の流れを知っておきましょう。
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(1)逮捕後
性的虐待の加害者が被疑者として逮捕されたあと、警察署では取り調べを行うと同時に、必要に応じて捜査が行われ、その間、留置場などで身柄を拘束されることになります。この取り調べは逮捕日時から最長48時間までとされており、その後検察官へ送致されます。罪を犯した事実がないと判断されるケース、逃亡や証拠隠滅の可能性がなく身元引受人がいるケースなどでは、「在宅事件扱い」として身柄の拘束が解かれることもあるでしょう。ただし、在宅事件扱いとなったときでも、検察官の呼び出しがあれば、基本的にそれに応じて取り調べに協力しなければならないでしょう。
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(2)検察官への送致
警察から被疑者の身柄が送致されると、検察官は24時間以内に、そのまま身柄を拘束したまま取り調べを行う「勾留」を行う必要があるかどうかを判断します。勾留が必要と判断したときは、裁判官へ勾留請求を行います。勾留が認められると10日、最長20日間も身柄を拘束される可能性があります。検察官は、勾留中であれば勾留期間内に、在宅事件扱いとなっているときは取り調べが終わり次第、起訴をするか不起訴とするかを決定します。
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(3)起訴
検察官が起訴と決定した場合は刑事裁判を受けることになります。日本の司法制度においては、起訴となったケースでは有罪判決が下り、懲役もしくは罰金刑を受ける確率が高いです。有罪になればもちろん前科がつくことになります。捜査機関の記録に残るだけでなく、外国へ入国できない、特定の職業に就くことができなくなる、部屋を借りる際に断られるなど、今後の日常人生において、さまざまな制約を受ける可能性があります。
3、性的虐待の刑罰、時効、懲役について
性的虐待の行為にも、さまざまな種類がありますが、法律的には、行為の外形によって区分されます。それぞれ問われる可能性がある罪とともに、有罪となったときの刑罰について解説します。
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(1)性的虐待の刑罰
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●強制性行為等罪
強制性行為等罪の法定刑は、5年以上の懲役を科せられます。非常に重い刑として定められており、初犯だとしても執行猶予がつかないケースもあるでしょう。
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●準強制性交等(刑法178条)
強制性行為等罪と同じく5年以上の懲役を科せられます。
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●準強制性交等
13歳以上の者に対して暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合、もしくは13歳未満の者に対してわいせつな行為をしたケースなどで問われる罪です。
強制わいせつ罪も、強制性交等罪同様、かつては被害者による告訴が起訴に必要な親告罪でしたが、平成29年の改正で親告罪ではなくなりました。したがって、被害者の告訴がなくても加害者を起訴することができるようになりました。 -
●監護者性交等罪
平成29年の刑法改正によって、閉ざされた家庭内で起こる性的虐待を防ぐことを目的とし、新たに「監護者性交等罪(刑法179条第2項)」が設けられました。18歳未満の者に対して、監護者が性行為をした場合に成立します。監護者とは、実の親や、義理の親など、未成年者を継続して保護監護している方などを指します。
監護者性交等罪では、そもそも子どもは親の支配下にあることなどから、子どもの同意については基本的に重視されません。法定刑は、強制性行為等罪と同じく5年以上の懲役を科せられます。 -
●強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は、6ヶ月以上10年以下の懲役を科せられます。強制わいせつ罪に該当すると考えられる範囲は広いものの、強姦未遂に値するなどのわいせつ行為であれば、決して軽い量刑になるとはいえません。5年以上の実刑判決を受ける可能性も考えられます。
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●高齢者の虐待の防止法及び障害者虐待の防止法違反
1年以下の懲役または100万円以下の罰金などが科せられます。
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(2)執行猶予
原則、3年を超える懲役刑には執行猶予がつかないと考えられます。起訴されていても、被害者との示談成立、深い反省の意、叙情酌量の余地を裁判所へ訴えることで、執行猶予がつく可能性があります。
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(3)時効
過去に性的虐待行為をしていたというケースで、この事実が事件化してしまうことをおびえているという方もいるかもしれません。強制性行為等罪は犯罪のときから10年、強制わいせつ罪は7年で時効が成立します。しかし、起算日(いつの時点から時効の開始日)をどの時点とするかはケースによって異なります。自己判断でもう大丈夫だと考えるのは危険であるといえるでしょう。
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4、性的虐待の判例・事例を紹介
性的虐待で裁判になった判例や事例を紹介します。
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(1)不起訴処分になった事例
Aさんはある日突然警察に呼び出され、数年前の強制わいせつ行為に対する容疑について取り調べを受けたため、弁護士に相談しました。しかし、すでに警察でとられた調書がAさんの意と異なるものになっていたため、弁護士はAさんに取り調べで誤った調書が作成された場合は即座に訂正するようアドバイスをすると同時に、強制わいせつには当たらないことを何度も警察に訴えかけたことにより、Aさんは不起訴処分となりました。
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(2)実刑判決が下った事例
まだ数少ない、法改正に伴う監護者性交等罪容疑による裁判の判決が、平成30年7月31日、大津地裁で下されました。実の娘と小学生のころから性交を続けていた父親が起訴されたもので、地裁による判決は「懲役6年の実刑」だったと報道されています。この件で着目されたのは、被害者である実の娘から、執行猶予を求める嘆願書が出されていたものの、量刑に大きく影響はされなかったという点でしょう。
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5、逮捕後に加害者の家族ができることとは
性的虐待で加害者が逮捕された場合、残された家族は加害者や被害者のために、どのようなことができるのでしょうか。
まず考えるべきことは、被害者への謝罪です。とはいえ、被害者の感情としても加害者に直接会うことはできないでしょう。そのような場合、弁護士に依頼することで、加害者が十分に反省し、その気持ちを被害者に伝えたいと考えたならば、弁護士を通して被害者に謝罪する機会を設けられる可能性はあります。
また、被害者へ謝罪の気持ちが伝わり、慰謝料や今後の接点に関する条件などが被害者の意見と合致した場合、示談が成立するケースもあり得るでしょう。示談が成立すれば、逮捕後であっても被害者の処罰感情が重視され、不起訴となる可能性が高まります。ただし、非親告罪化しているため、必ず不起訴になるとは限らない点に注意が必要です。それでも、示談を成立させることは、情状酌量の材料にはなると考えられます。
したがって、加害者の家族にできるもっとも重要なことは、弁護士への依頼であるといえるでしょう。
6、性的虐待で逮捕されたら弁護士に相談を
前述のとおり、性的虐待で逮捕・実刑判決が下った場合、いずれの罪に問われたとしてもその刑罰は重いです。
また、逮捕後に起訴となった場合、日本における起訴後の有罪確定率は非常に高いという事実もあります。量刑を少しでも軽く、また、不起訴になるよう働きかけるには、やはり早期の対応が不可欠です。
逮捕の段階で弁護士に依頼しておくことで、被害者に示談となるよう冷静に交渉を進めるなど不起訴となるよう動くこともできます。いずれの場合も、被害者でも加害者でもない第三者であり、実践的な法律の知識を持った弁護士だからこそできることです。
もちろん、弁護士なら誰でも良いわけではありません。性的虐待における刑事事件の経験豊富な弁護士に依頼することも重要です。ただし、弁護士が付くパターンには、国選、当番、私選のおよそ3パターンあります。当番弁護士が無料で接見を行えるのは1度だけ、国選弁護士は勾留が決定しなければ選任されないのが原則です。
逮捕から勾留が決定する前のタイミングからすぐに依頼でき、長期的な弁護を望むのであれば、私選弁護士を選ぶことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所には、性的虐待をはじめ、あらゆる分野で経験豊富な弁護士が多数在籍しています。もしあなた自身、あるいは身内が性的虐待で逮捕されてしまった場合は、なるべく迅速にベリーベスト法律事務所へ相談してください。
7、まとめ
性的虐待が起こる原因のひとつとして加害者が育った環境による心理的な要因があり、加害者自身も被害者であったケースもあるようです。だからといって、性的虐待を行っていいわけではありません。しかし、意味もなく長期にわたる身柄の拘束を受けたり、不当に重い刑罰に処されたりすることを黙って受け入れる必要はありません。
もしも、あなた自身や家族、身近な方が性的虐待で逮捕されてしまった場合、すぐに弁護士へ相談すると良いでしょう。刑事事件に対応した実績が豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士が、スピード解決を目指し、適切な弁護活動を行います。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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