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監護者性交等罪とはどんな罪? 行為態様、強制性交等罪との違いを解説
幼い子どもは自ら生計を立てることができないため、大人の庇護のもとにあります。大人たちは子どもが健康で文化的な生活を送れるよう配慮すべきです。
しかし、中には養育する立場を私欲のために利用し、子どもを支配しようとする大人もいます。とりわけ性的な支配については、家庭や施設などの密室で行われれば露見しにくいこともあり、法律で処罰する必要性の高い犯罪と言えるでしょう。
今回取り扱う監護者性交等罪は、子どもを監護すべき立場にある者が、その立場を利用して性交などを行った場合に成立する罪であり、その悪質性から非常に重く処罰される犯罪です。具体的にどういった行為が処罰対象となり、どのような刑罰が科されるのか、また逮捕された場合にどうなるのかといった点について弁護士が解説を行います。
令和5年7月13日に強制性交罪は「不同意性交等罪」へ改正されました。
1、監護者性交等罪とは
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(1)処罰対象となる行為
監護者性交等罪については刑法第179条第2項に、被害者と加害者が明示されているほか、行為態様も規定されています。具体的には、18歳未満の子どもに対し、その者を実際に監護している者が、その影響力を利用して、姦淫(かんいん)や肛門性交、口腔性交をすることです。 ポイントは3つあります。
- 単なる未成年者(20歳未満)ではなく、18歳未満の子どもが被害者であること
- 監護者が、その影響力を利用して性交などをした場合に成立すること
- 性交のみならず肛門や口腔での性交も含むこと
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(2)近年の法改正による厳罰化
平成29年の刑法改正によって、性犯罪が厳罰化されました。強姦(ごうかん)罪と呼ばれていた犯罪は強制性交等罪と改名され、処罰対象や被害者の範囲が拡大されたほか、刑罰も重くなりました。監護者性交等罪はそのときに新設された犯罪です。
改正以前は、強姦(ごうかん)罪が3年以上の懲役刑を定めていましたが、改正後の強制性交等罪では5年以上の有期懲役となりました。監護者性交等罪も同様に5年以上の有期懲役と定められています。また、かつての強姦(ごうかん)罪は被害者の告訴を要する親告罪とされていたところ、現行の監護者性交等罪は非親告罪なので被害者からの告訴がなくても成立し、起訴される可能性があります。 -
(3)強制性交等罪と監護者性交等罪の違い
強制性交等罪(強姦)と大きく異なるのは、手段が「暴力・脅迫」でなくとも監護者性交等罪は成立するところです。手段が限られていないため、たとえ穏やかな態様で性交などを行った場合でも犯罪となります。
2、監護者性交等罪の加害者
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(1)どのような立場の者が加害者となるのか
監護者性交等罪の加害者は、子どもを現に監護する者、すなわち「監護者」です。監護とは、簡単に言うと生活を共にし、身の回りの世話をすることを言います。監護者の典型としては、同居している親が挙げられます。実の親ではなく、再婚相手の連れ子という関係性や養親・養子の関係でも監護者には該当します。
また、親以外では養護施設の管理者などが含まれる場合があります。 -
(2)「監護者」に当たるか否かの判断基準
監護者に当たるか否かの判断基準は、実際に親と同程度に監護しているかどうかです。共に暮らしているか、生活費を負担しているか、その他の世話を行っているか、などの実質的な観点から総合的に判断されます。したがって、たとえば顧問の教師やアルバイト先の雇用主などは、親密な関係や指揮監督する関係にあったとしても監護者には該当しません。これは、監護者性交等罪があくまでも生活圏内での性的虐待を処罰する趣旨だからと考えられます。
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(3)非監護者が性交などを行った場合
性交などを行った者が監護者に当たらなければ、監護者性交等罪は成立しません。だからといって、もちろん無罪になるわけではなく、暴行や脅迫を用いていた場合は強制性交等罪が成立します。
また、暴行・脅迫を用いなかった場合でも、18未満の子どもに対する性交渉は、児童福祉法違反として10年以下の懲役か300万円以下の罰金、またはこれらの併科となる可能性があります(児童福祉法第60条第1項、第34条第1項第6号)。
3、監護者性交等罪の被害者
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(1)被害者となる子ども
監護者性交等罪の被害者は、18歳未満の子どもです。性別は限定されておらず、男女共に被害者となり得ます。被害者となり得る者の性別を問わないのは、強制性交等罪を始めとする改正後の性犯罪に共通しています。
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(2)監護者との関係性
上述したように、監護者性交等罪では強制性交等罪と異なり、性交などの手段としての暴行・脅迫が要求されていません。それは、以下のような監護者と子どもの間に見られる特別な関係性から、暴行や脅迫がなかったとしても犯罪としての悪質性が高いと考えられるためです。
まず、被害者は加害者に監護されている状況にあり、経済的にも心理的にも依存関係にああります。それゆえ、暴行や脅迫をわざわざ用いなくとも、加害者による性交などの要求を断りにくい状態にあります。
次に、家庭内や施設内で日頃から加害者に暴力を振るわれているような場合、性交などを持ちかける際には暴行・脅迫がなかったとしても、断れば暴行されるという恐怖心から応じてしまう可能性が高いと言えます。
さらに、被害者が幼い子どもである場合は、そもそも性行為や性犯罪に関する知識がなく、自分が被害に遭っているという自覚がないため、抵抗しないこともあります。
以上のような監護者と子どもの間に見られる特別な関係性から、暴行・脅迫がなかったからといって当該性交などが被害者の意に沿った行為だったとは言えません。そのため、暴行・脅迫は犯罪成立に不要とされているのです。
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4、監護者性交等罪で逮捕されてしまったら……
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(1)非親告罪化の影響
かつての強姦(ごうかん)罪は、被害者のプライバシーを尊重し、親告罪とされていたため、告訴がなければ起訴されることはありませんでした。しかし、性犯罪が非親告罪とされたことにより、告訴なしでも起訴され、有罪となる可能性があります。
そのため、万一、監護者性交等罪の容疑で逮捕されてしまった場合は、早急に対処する必要があります。 -
(2)逮捕された場合の対処法
逮捕された場合、差し当たり身柄拘束からの解放を求めることになりますが、最終的には不起訴を目指します。そのためには、反省の意をしっかりと示し、再犯防止策もきちんと考えておくことが重要です。
監護者性交等罪の場合、加害者が監護者の立場にあるため、一般の犯罪と比べて被害者との示談といった方法は採りにくいこともあります。
しかし、新たな監護者を探す、子どもの心身のケアを取り計らうなどにより、できるだけ被害の回復に努めることはできるでしょう。デリケートな問題でもあるため、詳しくは弁護士にご相談ください。
5、まとめ
性犯罪に対する世間の目は厳しく、法律上も厳罰化されており、逮捕されて有罪になると社会生活を送るうえで厳しい状況に陥りかねません。特に監護者性交等罪は、たとえ暴行や脅迫がなかったとしても、有罪となれば懲役5年以上、最長で20年という重い刑罰が科される犯罪です。犯してしまった罪は取り返しがつかないものですが、できるだけ反省の意を示し、被害の回復に努めることで、不起訴処分の獲得を目指すことはできます。
もし監護者としての立場で18歳未満の子どもに性交などを行ってしまったのであれば、なるべく早めに、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。被害を受けた子どものケアも含めて、より望ましい解決方法を模索し、助力いたします。
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