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不同意わいせつ罪とは? 構成要件や旧強制わいせつ罪との違い、法定刑を解説
強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪は、令和5年(2023年)7月13日に改正刑法が施行され、不同意わいせつ罪へ改められました。
不同意わいせつ罪とは、相手がわいせつな行為について同意していない状況、または自らの意思を示すことができない状況において、わいせつな行為をした場合に問われる罪です。
では、具体的にどのような行為が不同意わいせつ罪にあたる可能性があるのでしょうか。また不同意わいせつ罪の疑いで逮捕されるとどのような処罰を受けるのでしょうか。
本コラムでは、不同意わいせつ罪の構成要件や罪にあたる具体的な行為、法定刑などをベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
1、不同意わいせつ罪とは? 構成要件を解説
刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律によって、強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」に改正されました。同法は令和5年(2023年)6月16日に発布され、令和5年7月13日から施行されています。なお、この改正に伴い、従来の強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が統合されたため、準強制わいせつ罪を定めていた刑法178条は削除されました。
では、不同意わいせつ罪とはどのような行為をした場合に成立するのでしょうか。ここでは、不同意わいせつ罪の構成要件について解説します。
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(1)わいせつな行為とは
そもそも「わいせつな行為」とはどのような行為を指すのかを解説します。
わいせつな行為とは、「いたずらに性欲を興奮・刺激させ、かつ普通の人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」とされています。
簡単にいえば、一般的に「いやらしい」「恥ずかしい」などと感じる行為のことです。
具体的には以下のような行為はわいせつ行為として考えられます。
- 相手の胸や尻などをまさぐる
- 相手の陰部を触る
- 衣服を脱がす
- 無理やりキスをする など
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(2)不同意わいせつ罪の構成要件
不同意わいせつ罪は、一定の原因のもとで、「同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした」場合に成立します(刑法第176条1項)。
不同意わいせつ罪の成立要件となる一定の原因とは、次の8つの行為および事由その他これらに類する行為または事由です(同条項1号~8号)。
- 暴行もしくは脅迫を用いる、または被害者がそれらを受けたこと
- 心身の障害を生じさせる、または被害者にそれがあること
- アルコールもしくは薬物を摂取させる、または被害者にそれらの影響があること
- 睡眠やその他意識が不明瞭な状態にさせる、または被害者がその状態にあること
- 同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがない
- 予想と異なる事態に直面させて、恐怖または驚愕(きょうがく)させる、または被害者がその状態に直面していること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせる、または被害者がその状態にあること
- 経済的または社会的の地位に基づく影響力による不利益を憂慮させる、または被害者が憂慮していること
従来の強制わいせつ罪における要件は「暴行・脅迫」を用いてわいせつな行為をした場合とされていましたが、刑法改正により、不同意わいせつ罪では処罰の対象となる要件が拡大されています。
これらの8つの行為および事由その他これらに類する行為または事由によって、相手が同意していない・自らの意思を示すことができない状況でわいせつな行為をはたらいた場合、罪に問われることになります。 -
(3)相手の誤信を利用したわいせつ行為も処罰される
不同意わいせつ罪は、相手の誤信を利用してわいせつな行為をした場合にも成立します(刑法176条2項)。被害者に対して、その行為がわいせつなものではないと勘違いをさせたり、人違いをさせたり、勘違いや人違いをしていることに乗じてわいせつな行為をはたらくと不同意わいせつ罪として処罰されます。
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(4)性交同意年齢が16歳に引き上げ
刑法改正により、性交同意年齢がこれまでの「13歳」から「16歳」に引き上げられています。
性犯罪は、自由な意思決定が困難な状態でおこなわれた性的行為を処罰することにあり、前提として「① その行為がもつ性的な意味を理解する能力」と「② その行為が自分に与える影響を自ら理解したり、その結果に基づいて相手に対して対処したりする能力」が必要であると考えられています。
しかし、13歳未満の場合、① の能力についてはないわけではないものの、② の能力については十分とはいえないため、改正により性交同意年齢が引き上げられることになったのです。行為者との関係が対等でなければ、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力は認められないと考えられています。
ただし、わいせつな行為の相手方が13歳以上16歳未満の場合、行為者が5歳以上年長である場合に限り、罪が成立します。
2、不同意わいせつ罪が成立するケース
不同意わいせつ罪が成立するケースについて詳しく解説します。
不同意わいせつ罪において列挙されている8つの原因行為・事由について、どのような状況でわいせつ行為をはたらくと罪に問われるのか、詳しくみていきましょう。
暴行・脅迫とは、殴る・蹴るなどの有形力の行使や、「殺すぞ・殴るぞ」など相手を脅すことなどが典型例です。これらを用いてわいせつな行為をした場合、不同意わいせつ罪が成立します。
② 心身の障害
心身の障害とは、身体の障害や統合失調症などの精神疾患が典型例と考えられています。また一時的なものも含まれるため、被害者が体調不良などで抵抗できない状況でわいせつな行為をした場合も不同意わいせつ罪が成立します。
③ アルコールまたは薬物の影響
相手にアルコールや薬物を摂取させたうえでわいせつな行為をすることなどが挙げられます。またそもそも被害者が飲酒により酩酊(めいてい)状態の場合や、睡眠薬や覚せい剤などの影響で意思決定が困難な状態であったりする場合にわいせつ行為をはたらくことも罪が成立します。
④ 睡眠やその他の意識不明瞭
相手が寝ているときや、それ以外の状況で意識がもうろうとしているときにわいせつな行為をすることです。かつて準強制わいせつ罪が規定していた「抗拒不能に乗じて」から「意識が明瞭でない状態」と改められています。
⑤ 同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがない
被害者が他のことに意識を集中していたり、気をそらしたりしている際に、不意打ち的にわいせつ行為をする場合です。痴漢についてもこの要件に該当する限り、不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
⑥ 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕(きょうがく)
予想外の出来事に直面し、恐怖心を抱いたりショックを受けたりしてフリーズしている被害者に対してわいせつ行為をはたらくことです。
⑦ 虐待に起因する心理的反応
虐待による無力感や恐怖心を利用して被害者にわいせつ行為をはたらく場合などが考えられます。
⑧ 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
祖父母と孫、上司と部下、教師と生徒などの人間関係や地位・影響力を利用して、拒絶すれば「今後の生活や仕事に影響するかもしれない」など、不利益が生じるかもしれないと不安な状態にさせて、わいせつ行為をすることです。
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3、不同意わいせつ罪の法定刑と量刑
不同意わいせつ罪に問われた場合、どのような刑罰を受けることになるのでしょうか?
刑罰の規定と実際に下される量刑について考えていきましょう。
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(1)不同意わいせつ罪の法定刑
不同意わいせつ罪の法定刑は、「6か月以上10年以下の拘禁刑」です。
罰金刑は規定されていないため、有罪判決が下された場合は拘禁刑に処されることになります。
なお拘禁刑は、令和7年6月1日施行予定のため、それまでの期間は従来の懲役刑が法定刑となります。 -
(2)不同意わいせつ事件における量刑判断の基準
不同意わいせつ罪の法定刑は上記のとおり、6か月~10年の拘禁刑です。
実際に事件を起こしてしまうと、この範囲内で刑罰が下されますが、量刑判断はどのような基準にもとづいておこなわれるのでしょうか?
不同意わいせつ罪の量刑判断は、同罪が改正によって新設されたことから今後の裁判所の判断を注視していく必要がありますが、改正前の強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪における裁判所の判断を参考とするのであれば、次の事情などが影響すると考えられます。
- 行為の悪質性 実行行為が悪質である場合、たとえ初犯でも重い刑罰が科せられやすくなります。
- 結果の重大性 被害者が心的障害を負う、被害が多数に知られて日常生活に支障をきたしたなど重大な結果が生じた場合も、厳しい量刑判断が下されやすくなります。
- 加害者の反省の有無 犯罪の発生後、加害者が真摯(しんし)に反省し被害者に対して謝罪の意を示しているのかも考慮されうる事情です。
- 被害者との示談の有無 被害者との示談が成立していない場合や、賠償金・慰謝料の支払いができていない状態では、被害者の処罰感情が依然として強いと判断され、量刑判断はより厳しくなる傾向にあります。
また、計画性がある、常習性がある、被害が長時間におよんだなどの場合も「悪質だ」ととらえられやすいといえるでしょう。
4、不同意わいせつ罪における示談の重要性と弁護士のサポート
不同意わいせつ罪の被疑者として警察の捜査を受ける立場となった場合、弁護士のサポートは必須です。
もし、実際に不同意わいせつ罪にあたる行為をしたと認めているのであれば、重たい刑罰が科せられないように被害者との示談を進める必要があります。
しかし、性犯罪の被害者は加害者とは直接会いたくない、話たくないという感情をもつ傾向が強いため、加害者やその家族などが示談をもちかけても交渉の場にすらつけないことが多いでしょう。また、そもそも被害者の連絡先を知らない場合、捜査機関が連絡先を教えてくれることはありません。
そのような場合も弁護士であれば捜査機関から被害者へ確認のうえ、弁護士に対してのみであればと条件付きで連絡先を教えてくれることがあります。また、示談交渉についても「弁護士であれば話は聞こう」と、被害者が話し合いに応じてくれることがあります。このように、弁護士を通じて、謝罪と弁済の意を伝えることで、示談が成立する可能性が高まります。
また被害者の中には法外な示談金を要求してくる方もいますが、示談交渉を弁護士に任せれば、事案内容に応じて適切な示談金での解決が期待できるでしょう。
不同意わいせつ罪をはじめとしたわいせつ事犯の場合、特に示談金の相場が一定しません。被害者の感情ひとつで示談金が決まる傾向があるので、異常な負担を強いられないためにも弁護士のサポートが有効です。
実際には不同意わいせつの行為や故意などはなく、いわれもない疑いをかけられている状態でも、弁護士のサポートは必須となります。取り調べに向けた対策には弁護士のアドバイスが必要ですし、故意はなくとも行為があれば示談によって解決することで身柄開放が早まる場合もあります。
どのようなケースであっても、不同意わいせつ事件で逮捕されたのであれば弁護士のサポートは必要不可欠といえます。
5、まとめ
不同意わいせつ罪は、相手の同意がない状況などで、わいせつな行為をした場合に罪に問われます。従来の強制わいせつ罪に比べて罪が成立する行為・範囲が拡大し厳罰化されており、逮捕されれば重い刑罰を科される可能性もあるでしょう。
不同意わいせつ事件で逮捕や起訴、重い刑罰を回避するには、被害者との示談などが重要です。しかし、わいせつ行為を受けた被害者は、加害者に対する恐怖心やショックから、示談を避けようとする傾向があるため、なるべく早く弁護士へ依頼したうえで、適切な弁護活動を開始することが望ましいといえます。
ベリーベスト法律事務所には、性犯罪事件の弁護実績が豊富な弁護士が在籍しています。不同意わいせつ罪で逮捕されてしまった、不同意わいせつ事件の被疑者として疑いをかけられているといった状況であれば、まずはお早めにベリーベスト法律事務所までご連絡ください。弁護士が不当に重い罪を科せられることのないよう弁護活動に励みます。
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