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盗撮に失敗。盗撮未遂罪はあるのか? 盗撮未遂は逮捕される?
犯罪には「未遂」という考え方があります。殺人未遂・誘拐未遂・窃盗未遂など、たとえ犯行が未遂に終わっても逮捕されたというニュースを目にしない日はありません。
では、盗撮に失敗して、未遂に終わったとしても、やはり逮捕されたり、処罰の対象になったりするのでしょうか?
本コラムでは、盗撮行為で問われる罪を確認したうえで、盗撮が未遂に終わったときの扱いや盗撮未遂で逮捕された後の流れなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
盗撮行為は、令和5年7月13日に新設された「撮影罪(性的姿態等撮影罪)」によって処罰の対象となります。
1、「盗撮罪」は存在しない! 盗撮で問われる罪と刑罰
令和5年4月現在、どの法令をみても「盗撮罪」といった犯罪は存在しません。
撮影罪という形での整理をした刑法改正が進んでいますが、新法が施行されるまではあくまで現行の仕組みで取り扱われます。
盗撮行為は、場所や状況に応じてここで挙げる3つのいずれかが適用されます。
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(1)都道府県の迷惑防止条例違反
盗撮行為を規制するもっとも代表的な法令が「迷惑防止条例」です。
地域によって規制内容が若干異なりますが、公共の場所や公共の乗り物において、下着など通常は衣服によって隠されている部位を撮影する行為や、住居・風呂・トイレなど人が通常は衣服の全部または一部を身に着けないでいるような場所における撮影行為を禁止しています。
また、平成30年ころから全国で規制対象となる場所が拡大され、公共性はないものの不特定多数の人が利用する事務所・学校・タクシーの車内などにおける盗撮行為も含まれるようになりました。
罰則も地域によって異なりますが、全国のモデルになっている東京都の条例では1年以下の懲役または100万円以下の罰金が定められています。 -
(2)軽犯罪法違反
盗撮行為には、軽微な秩序違反行為を罰する「軽犯罪法」が適用されることもあります。
同法第1条23号には、正当な理由がないのに、人の住居・浴場・更衣(こうい)場・便所など、人が通常衣服を着けないでいるような場所をひそかにのぞき見た者を罰する規定があります。
軽犯罪法における「窃視(せっし)の罪」ともいいますが、これは盗撮を規制するのではなく、のぞき行為を罰する規定です。
たとえば自分の家の風呂場に監視カメラを設置して客人が入浴している姿を盗撮したなど、迷惑防止条例では規制できない場所における盗撮行為には、のぞき行為の部分をとらえて本法が適用される可能性があります。
罰則は拘留または科料です。
拘留は1か月未満の刑事施設への収容、科料は1万円未満の金銭徴収の刑で、日本の法律で定められている刑罰のなかではもっとも軽い刑とされています。 -
(3)刑法の建造物侵入罪
迷惑防止条例違反・軽犯罪法違反のいずれも適用できない場合は、刑法第130条の「建造物侵入罪」の適用が考えられます。
本罪は、正当な理由なく他人が看守する建造物に侵入した者を罰する犯罪で、いわゆる不法侵入と呼ばれる行為を処罰の対象とします。
盗撮との関係で言うと、たとえばトイレに侵入して盗撮を行った場合、より法定刑が重い建造物侵入罪基準で刑が決まってきます。また、出入りが自由な公共施設や商業施設などでも、管理者は盗撮という不法の目的をもっている人の出入りまでは許していないので、不法な侵入にあたるという考え方です。
実は、建造物侵入罪は同じような考え方でほかの違法行為にも適用されることがあります。
もっとも典型的なものは、パチンコ店における不正行為、いわゆる「ゴト」を規制するケースです。
ゴト行為は窃盗罪が適用される犯罪ですが、不正の疑いこそあっても、どういう手法で出玉を操作しているのかその場ですぐには解明できないことが多く、被害の程度も詳しく調べないとわかりません。
そこで、パチンコ店側が必ず掲示している「ゴト行為を目的とした入店を禁止する」という表示をとらえて、まずは建造物侵入罪の被疑で逮捕し、後の詳しい捜査で窃盗罪も立件するという流れが一般的です。
建造物侵入罪の法定刑は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられます。
なお、同じく刑法第130条には「住居侵入罪」の規定もあります。
盗撮目的で他人の住居や庭などの敷地内に立ち入れば本罪が成立し、建造物侵入罪と同じように処罰されます。
2、盗撮する前に相手に気づかれた! 盗撮は「未遂」でも処罰される?
盗撮しようと相手に近づいてスマホやカメラを差し向けたところ、相手や周囲の人に気づかれてしまえば、当然、そのまま盗撮するわけにはいかないでしょう。
すると、盗撮するつもりだったとしても、結果として盗撮はしていないのだから「未遂」になるはずだと考えるかもしれません。
果たして、盗撮は未遂でも処罰されるのでしょうか?
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(1)撮影していなくても迷惑防止条例違反になる可能性が高い
もともと、迷惑防止条例において規制されていたのは「撮影」や「のぞき見・透視」だけでした。
実際にネガへの焼き付けや電子データの保存がおこなわれていなければ撮影は成立せず、しかも迷惑防止条例には未遂を罰する規定もないので、盗撮未遂は本条例では処罰されなかったのです。
ところが、平成30年以降、全国で盗撮を目的としてカメラを向ける行為やカメラを設置する行為も規制対象に加える動きが広がりました。
現行の迷惑防止条例では、多くの地域で既遂・未遂を問わず盗撮を目的として「カメラを向ける行為」があった時点で違反になります。
一部、改正されず旧条例のまま運用されている地域もありますが、実際に撮影しないと盗撮を罰しないのは、令和5年4月時点で確認できる限り、石川県・奈良県だけです。
ほとんどの地域では未遂でも迷惑防止条例違反として処罰されると覚えておきましょう。 -
(2)軽犯罪法違反は撮影の有無を問わない
迷惑防止条例による規制を受けない場所では軽犯罪法違反の成立を考えることになりますが、軽犯罪法が禁止しているのは「のぞき」なので、実際に撮影したかどうかは問題になりません。
たとえ撮影には至っていなくても、のぞき見ている時点で違反が成立します。 -
(3)不法の目的で侵入すれば撮影していなくても建造物侵入罪が成立する
盗撮の実行には至っておらず、まだカメラを差し向けてもいない状況だったとしても、盗撮の目的があることが発覚すれば建造物侵入罪は既遂となります。
通常、盗撮しようというそぶりがなければ盗撮目的が発覚することはないでしょう。
ただし、異性の後ろをつけまわすなど怪しい挙動を繰り返しており、警察官が所持品を検査したところ盗撮に用いるツールをもっていることが発覚したなどのケースでは、本罪に問われる可能性があります。
3、盗撮未遂で逮捕された場合の流れ
盗撮未遂で迷惑防止条例違反などに問われて警察に逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか?
刑事手続きの流れを確認していきます。
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(1)逮捕による最大72時間以内の身柄拘束
警察に逮捕されると、警察署の留置場に収容されて取り調べなどの捜査を受けます。
警察が捜査できる時間は48時間以内で、時間内に捜査を終えて検察官へと引き継がなければなりません。この手続きを送致といいますが、ニュースなどでは送検とも呼ばれています。送致を受理した検察官は、自らも取り調べをおこなったうえで24時間以内に勾留を請求するか、釈放するかを選択します。
ここまでが「逮捕」による身柄拘束となります。
逮捕の効力は、48時間+24時間=72時間が限界で、それ以上の身柄拘束は認められていません。 -
(2)勾留による最大20日間の身柄拘束
逮捕による身柄拘束は72時間が限界なので、以後は勾留による身柄拘束へと切り替わります。
検察官からの請求を受けて裁判官が勾留を許可すると、10日間の勾留による身柄拘束の開始です。勾留が決定すると被疑者の身柄は警察へと戻され、検察官による指揮のもとで警察が捜査を進めていきます。
10日間で捜査を遂げられなかった場合は、一度に限り10日以内の延長が可能です。
つまり、勾留の効力は10日間~20日間以内となります。 -
(3)検察官による起訴・不起訴の判断
勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を決定します。
検察官が起訴すれば刑事裁判の被告人としてさらに勾留され、不起訴となれば身柄拘束の必要がなくなるので釈放されます。また、略式起訴という形になった場合も、裁判は開かれず罰金の納付で終わるため、釈放されます。被告人としての勾留にも1か月の期限がありますが、刑事裁判が継続している限り何度でも延長可能なので、実質的に無期限です。
ただし、被告人になった段階からは一時的な身柄開放である「保釈」の請求が可能になります。保釈が認められれば、自宅へ帰ることも、会社に通うことも、再就職に向けた活動を始めることもできるので、社会復帰を早めるためにも積極的に活用しましょう。 -
(4)刑事裁判が開かれる
起訴からおよそ1~2か月後に初回の公判が開かれます。
以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれ、数回の審理を経て判決が言い渡されるのが一般的な流れです。
なお、盗撮事件では正式な公判が開かれず書面のみで審理する「略式手続」が取られることも少なくありません。この場合は起訴・不起訴を決める段階で検察官から「略式手続を受け入れるか?」の打診を受けることになります。
略式手続による起訴を受けると、ほぼ即日で判決と同じ効力をもつ略式命令が言い渡されて裁判手続きが終結します。
迅速な終結が期待できるので勾留を短縮できるという点では被告人にとって有利ですが、必ず罰金・科料の命令を受けるため前科がつく事態は避けられません。公開裁判で事実を争う機会が失われてしまうので、実際には未遂を含めて盗撮をした事実がなく無罪を主張したい場合は、安易に略式手続を受け入れるべきではないと心得ておきましょう。
弁護士との電話相談が無料でできる
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- お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
4、盗撮事件で不起訴や執行猶予などを得るためにするべきこと
盗撮が未遂で終わったとしても、迷惑防止条例違反や建造物侵入罪などの適用は避けられません。ただ待っているだけでは厳しい処分を受けてしまうので、不起訴や執行猶予といった有利な処分を望むなら、直ちに対策を講じるべきです。
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(1)直ちに弁護士に相談する
盗撮の被疑をかけられてしまったとき、何よりも優先すべきは弁護士への相談です。
警察に逮捕されると、逮捕の段階で最大72時間の身柄拘束を受けたうえで、さらに勾留されると最大20日間の身柄拘束を受けます。身柄拘束の長期化を避けるためには勾留の阻止が不可欠ですが、逮捕直後72時間は家族でも面会が許されず、勾留阻止に向けた対策を尽くすことも事実上は不可能でしょう。
この段階で本人と面会できるのは、法律によって接見を許されている弁護士だけです。
弁護士が接見して詳しい状況を聴き取り、必要な対策を講じることで早期釈放の可能性が高まります。 -
(2)被害者との示談交渉を進める
盗撮事件をできるだけ穏便に解決するには被害者との示談が欠かせません。
刑事事件において、示談とは、加害者と被害者が警察・検察官・裁判所が関与しないところで話し合いを進めて双方が和解し、事件を解決する手続きを意味します。
加害者は真摯(しんし)に謝罪したうえで精神的苦痛などを賠償する示談金を支払い、被害者はこれに応えて加害者を許し、被害届や刑事告訴を取り下げるというのが一般的な流れです。
被害者との示談が成立すれば、加害者に対して処罰を求める意思がなくなったという評価につながり、検察官が不起訴としたり、刑事裁判で執行猶予や罰金といった有利な判決が言い渡されたりする可能性が高まります。
ただし、被害者は、加害者に対して強い怒りや嫌悪を感じていることが多いので、直接交渉では相手にしてもらえないかもしれません。そもそも、逮捕されて身柄拘束を受けている状況なら、加害者本人が被害者と会う機会を設けるのは不可能でしょう。
被害者と示談交渉を進めるには、公平な第三者として弁護士が窓口となるのが現実的です。
5、まとめ
盗撮は、たとえ撮影に失敗して未遂で終わったとしても処罰の対象となります。
逮捕・勾留による最大23日間にわたる長期の身柄拘束を受けるだけでなく、厳しい刑罰が科せられて前科がついてしまうおそれもあるので、被害者との示談交渉など対策を尽くさなくてはなりません。
盗撮事件の解決はスピード勝負です。素早く示談を成立させれば勾留の阻止による早期釈放が期待できる一方で、示談交渉が難航してしまえば検察官が起訴に踏み切ってしまう可能性も高まるので、穏便な解決を望むならまずは弁護士への相談を急ぎましょう。
盗撮事件の解決はベリーベスト法律事務所におまかせください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、迅速な弁護活動によって早期釈放や不起訴といった有利な処分を得られるよう全力を尽くします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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