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歩行者をはねてしまった…危険運転致死傷罪の罰則と該当ケースを解説
令和元年版の犯罪白書によると、平成30年中における自動車運転処罰法違反の検挙人員は41万9166人で、うち606人が「危険運転致死傷」として検挙されました。
ニュースや新聞で大々的に報じられた悪質な危険運転による痛ましい事故を教訓に整備された「危険運転致死傷罪」には、非常に厳しい処罰が設けられています。
本コラムでは、危険運転致死傷罪が適用される6つのケースに加えて罰則の内容や逮捕後の流れなどを弁護士が解説します。
1、危険運転致死傷罪に該当する6つのケース
危険運転致死傷罪は、一定の危険な運転によって人を死傷させてしまった場合に適用される犯罪です。
交通事故といえば、誰もが「起こしたくて起こすものではない」はずですが、事故を起こしてしまうのが当然ともいえるような状況で他人を負傷・死亡させた場合は、危険運転致死傷罪が適用され、厳しく罰せられることになります。
それでは、具体的に、どのような行為が「危険運転」なのか、見ていきましょう。
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(1)飲酒または薬物の影響により正常な運転が困難な状態
自動車運転処罰法第2条1号は「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」を厳しく処罰するよう規定しています。
アルコール、つまり飲酒運転のうえでハンドルやブレーキの操作を誤った場合は危険運転とされるおそれがあります。なお、飲酒運転がそのまま危険運転とされるわけではありません。体内に保有しているアルコールの量や酔いの程度などを合わせて、正常な運転が困難な状態であるかが慎重に判断されます。
また、条文に記されている「薬物」とは、覚せい剤などの幻覚症状を引き起こす違法薬物に限らず、眠気を催すおそれのある市販薬なども含まれます。薬物の影響が生じることを認識していれば、危険運転に問われる可能性があります。 -
(2)制御困難になるほどのスピード運転
自動車運転処罰法第2条2号では「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」を危険運転の一態様としています。
このケースでは、道路や運転者の状況等によって、危険運転と判断される速度が異なるため、一定の基準があるわけではありません。
なお、危険運転に問われない場合でも、スピード違反として取り締まりを受ける可能性はあるでしょう。 -
(3)制御できる技能を持たずに運転(無免許運転)
自動車運転処罰法第2条3号は「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」について危険運転と規定しています。
まず考えられるのが自動車運転免許の交付を受けていない無免許運転ですが、無免許という事実のみをもって一律に無技能・未熟とするわけでもないので注意が必要です。たとえば、無免許であっても運転歴が長く運転免許証の交付を受けたドライバーと同等の技術を持っている場合は無技能・未熟とはされないことがあります。
また、ここで挙げている危険運転の各例において無免許運転の場合は処罰がさらに厳しいものになるので注意が必要です。 -
(4)人・車の通行を妨害する目的の運転
「人または車の通行を妨害する目的」の運転は、自動車運転処罰法第2条4号によって規制されています。
走行中の自動車の直前に進入する、急な進路変更や幅寄せをする、といった「あおり運転」は、危険運転とされる可能性があります。
なお、4号の危険運転は「重大な交通の危険を生じさせる速度」の運転が対象となりますが、高速運転とは限らず、低速でも危険運転とされることがあります。 -
(5)信号無視
自動車運転処罰法第2条5号は「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視」した自動車運転を危険運転とすることが規定されています。ここでいう「殊更に無視」とは、明らかに故意の信号無視を指すと考えればよいでしょう。
なお、5号の違反も4号と同じく「重大な交通の危険を生じさせる速度」の場合に成立します。 -
(6)通行禁止道路の走行
「通行禁止道路を進行」することは、自動車運転処罰法第2条6号によって処罰され得ます。
道路標識を見落として通行禁止道路に進入してしまったようなケースではなく、故意に進入した場合が対象です。
歩行者専用道路・歩道はもちろんですが、車両の種類や時間帯による規制も対象になります。6号も4号・5号と同様に「重大な交通の危険を生じさせる速度」が要件です。
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2、危険運転致死傷罪の罰則
危険運転致死傷罪は、違反の内容や相手に与えた死傷の程度などによって罰則が異なります。
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第2条1~6の各号
- 人を負傷させた場合……15年以下の懲役
- 人を死亡させた場合……1年以上の有期懲役
- 人を負傷させた場合……12年以下の懲役
- 人を死亡させた場合……15年以下の懲役
- 無免許で第2条に違反して人を負傷させた場合……6か月以上の懲役
- 無免許で第3条に違反して人を負傷させた場合……15年以下の懲役
- 無免許で第3条に違反して人を死亡させた場合……6か月以上の有期懲役
第3条1・2項
アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、よってそのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合
第6条1・2項
ひと目でわかるとおり、これらの罰則には「懲役」のみで「罰金」はありません。つまり、有罪判決を受けた場合は必ず懲役刑が下されることになります。
なお、これらは刑事罰として科せられるものです。さらに、刑事罰とは別に免許の点数が加算されます。危険運転致傷の違反点数は45点~55点で、致死の場合は62点です。過去に免許取り消しを受けた経歴がない場合でも、運転免許の取り消しの行政処分を受けたうえで、少なくとも5年間の欠格期間が設けられています。
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3、逮捕後の流れ
危険運転致死傷罪の被疑者として逮捕されてしまうと、まず警察に48時間以内の身柄拘束を受けたうえで検察庁に送致され、さらに24時間の身柄拘束を受けます。危険運転にあたらない自動車事故では48時間以内の身柄拘束を受けたうえで釈放されるケースも少なくありません。ただ、危険運転による事故は、悪質性が高く負傷の程度も重大になりやすいため、さらに身柄拘束が延長される「勾留」を受けるおそれが高まるでしょう。
身柄拘束の有無に関係なく、検察官は刑事裁判を提起するか否かを判断します。検察官が罪に問うべきと判断した場合は起訴されて刑事裁判となりますが、不起訴処分となれば刑罰を受けることはありません。もっとも、危険運転致死傷罪は社会的な非難も大きいため大々的に報道されやすく、検察官としても起訴に踏み切る可能性が高いでしょう。
また、刑事罰と被害者への賠償は、まったく別のものです。たとえば任意保険で被害者に対し相応の賠償がなされた場合でも、自動車運転処罰法に規定された処罰を受けることになり得ます。
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4、危険運転致死傷罪で逮捕されたら早めに弁護士に相談
危険運転致死傷罪の被疑者として逮捕されてしまったら、早急に弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談してサポートを受けることで、罰則の重い危険運転致死傷罪の適用が回避できる可能性があります。危険運転致死傷罪は成立が容易ではないため、客観的な証拠が存在すれば「危険運転にはあたらない」との主張が認められることもあるでしょう。
危険運転ではなく過失による事故であったと判断されれば、刑罰・行政罰ともに大幅な軽減が見込めます。逮捕されてしまった場合は早期の身柄釈放を目指すことで、身柄拘束に伴う不利益を最小限に抑えることもできるでしょう。不起訴処分を獲得できれば、刑事裁判が開かれることはありません。
また、被害者やその家族との示談交渉をするときには、加害者とその家族では交渉の場についてもらうこともできないことがほとんどでしょう。弁護士が弁護人となって示談交渉を進めることで、被害者側の心理的負荷や反発を軽減することも可能です。
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5、まとめ
危険運転致死傷罪は、社会的に耳目を集めやすい犯罪です。とはいえ、自動車のハンドルを握って走行させるだけでも誰もが罪に問われるリスクを抱えるものなので、被疑者として逮捕されてしまった場合はただちに弁護士に相談するべきだとおぼえておきましょう。
危険運転致死傷罪を含めて交通事故の加害者となってしまった場合は、早急な対策が必須です。交通事故トラブルの弁護なら、実績豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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