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あおり運転は危険運転致死傷罪が成立する? 規制対象行為を確認
令和2年6月、愛知県内の高速道路であおり運転をした男が逮捕される事件がありました。男は高速道路上で約700mにわたり、被害者が運転する車に複数回の幅寄せや急ブレーキをかけて停車させるなどの行為をしていたようです。
あおり運転をする者への社会的な非難の声が高まる中、あおり運転に関する法改正がおこなわれました。あおり運転の行為者はこれまで以上に厳しく処罰されることになったわけですが、具体的にどのような行為が禁止され、どの程度の罰則が適用されるのでしょうか。
本コラムでは改正の内容を踏まえながら、規制対象となる運転行為や罰則について解説します。
1、あおり運転は妨害運転として罪に問われる
令和2年6月30日に施行された改正道路交通法では、あおり運転を「妨害運転」と定義し、これに対する罰則が創設されました。
改正道路交通法は、ほかの車両などの通行を妨害する目的で一定の違反行為をした場合をあおり運転(妨害運転)とし、厳しく処罰します。また、改正道路交通法は、あおり運転によって著しく交通の危険を生じさせた場合、単にあおり運転をした場合よりも重い罰則を科しています。
さらに同年7月2日には、改正自動車運転処罰法も施行され、危険運転致死傷罪の対象となる妨害運転行為が追加されました。
このように、道路交通法や自動車運転処罰法が改正された背景には、あおり運転の社会問題化があります。
近年、悪質なあおり運転による重大な死傷事故などを教訓とし、運転者を厳しく処分するべきとの声が多くありました。警察は刑法の暴行罪や道路交通法違反などさまざまな法令を駆使して積極的に取り締まってきましたが、あおり運転を直接禁止する規定がないことから、取り締まりや罰則の適用が難しい面があったのです。
本改正によって、警察は危険・悪質な運転をあおり運転として摘発しやすくなり、あおり運転をした者は厳しく罰せられることになります。
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2、妨害運転罪に問われる運転行為
法改正の内容を踏まえ、具体的にどのような運転行為があおり運転(妨害運転)にあたるのかについて解説します。
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(1)10種類の運転行為
あおり運転となる運転行為は以下の10類型です。
- 通行区分違反(対向車線からの接近や逆走)
- 急ブレーキ禁止違反(不要な場面での急ブレーキ)
- 車間距離不保持(前方車両への異常接近)
- 進路変更禁止違反(急な進路変更)
- 追い越し違反(左からの追い越し、無理な追い越し)
- 減光等義務違反(執拗なハイビームの継続)
- 警音器使用制限違反(必要のない場面でのクラクションの反復)
- 安全運転義務違反(幅寄せや蛇行運転)
- 最低速度違反(高速自動車国道での低速走行)
- 駐停車違反(高速自動車国道や自動車専用道路での駐停車)
これらの運転行為は、もともと道路交通法で禁止されている行為ですが、改正後は、ほかの車両の通行を妨害する目的で上記行為をおこなえばあおり運転(妨害運転)として処罰されます。さらに、交通の危険を生じさせた場合は単にあおり運転(妨害運転)をした場合よりも重い罰則で処罰されます。 -
(2)妨害運転罪の法定刑
妨害運転罪の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」となっています。
あおり運転をおこない、著しい交通の危険を生じさせた場合の法定刑は「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」です。具体的には、あおり運転をし、高速道路上でほかの車を停止させるなどした場合が該当します。
ここで、通常の道路交通法違反と法定刑を比較してみましょう。
たとえば単純に「車間距離不保持」の規定に違反した場合の法定刑は「5万円以下の罰金」です。
これに対し、ほかの車両の通行を妨害する目的で車間距離不保持をした場合にはあおり運転となるため、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が適用されます。
つまり、あおり運転と認められた場合は、通常の道路交通法違反よりも重く処罰されるということです。
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3、あおり運転で相手がケガや死亡した場合は、危険運転致死傷罪が成立
自分の運転が危険だと認識しながら危険な運転行為をし、それによって人を死傷させた場合、「危険運転致死傷罪」が適用される可能性があります(自動車運転処罰法第2条)。
ここでは、危険運転致死傷罪が成立するあおり運転の内容や罰則について解説します。
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(1)危険運転致死傷罪が成立するあおり運転とは
危険運転致死傷罪が成立するための要件となる危険な運転行為とは、たとえば飲酒運転や制御できないほどの高速度での運転行為を指します。
改正前の自動車運転処罰法第2条ではこのような危険運転行為を1号~6号にわけて示しており、その4号では妨害運転を次のように規定していました。
【自動車運転処罰法第2条4号】
人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
妨害目的で走行中の車の直前に進入したり著しく接近したりする運転行為は、典型的なあおり運転といえますので、この条文でも、このようなあおり運転による死傷事故は危険運転致死傷罪の対象となることがわかります。
もっとも「重大な交通の危険を生じさせる速度」という要件に高速道路などでの停車行為が含まれるのかがあいまいになっていました。 -
(2)危険運転にあたるのかが争点となった事件
平成29年には東名高速道路で、執拗なあおり運転によって追い越し車線に無理やり停車させられた夫婦が、後続のトラックに追突され死亡するという痛ましい事件がありました。
このとき、加害者の車は停止していたため、速度がゼロkmである状況が、「重大な交通の危険を生じさせる速度」という成立要件を満たし、危険運転致死傷罪を適用できるのかどうかが争点となったのです。 -
(3)速度要件を含まない「あおり停車」も対象に
上記事件の教訓から、令和2年7月に施行された改正自動車運転処罰法では、速度要件を設けない以下の2つの妨害運転が危険運転行為として追加されました。
- 走行する車の前で停止、減速するなど著しく接近する運転行為
- 高速道路や自動車専用道路で停車するなどし、走行する車を停止・徐行させる行為
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(4)危険運転致死傷罪の法定刑
あおり運転による危険運転致死傷罪が成立した場合の法定刑は次のとおりです。
- 人を負傷させた場合:15年以下の懲役
- 人を死亡させた場合:1年以上の有期懲役(上限は20年)
いずれも、有罪になれば必ず懲役刑が適用されます。
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4、あおり運転で罪に問われた場合の弁護活動
あおり運転を行い、妨害運転罪や危険運転致死傷罪に問われた場合には、逮捕・起訴され、厳しく処罰されることも覚悟しなくてはなりません。
ただ、心の底から反省して更生を目指すのであれば、弁護士による弁護活動が不可欠です。弁護士は被害者との示談交渉や刑の減軽に向けた活動をおこないます。
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(1)示談交渉
示談が成立すると、被害者の処罰感情がやわらぎ、被害弁済によって被害の回復が図られたとして、逮捕・起訴されても刑が減軽される可能性が高まります。
しかし、被害者はあおり運転によって相当の恐怖心を抱いたでしょうから、処罰感情が高く、簡単には示談に応じないと予想されます。
特に危険運転致死傷事件では被害者・遺族の精神的な負担が大きく、加害者が直接コミュニケーションをとることは困難です。弁護士が介入し、被害者感情に配慮した慎重な交渉を行うべきでしょう。 -
(2)過失運転致死傷罪の成立を主張
事件の内容によっては、危険運転致死傷罪ではなく、過失運転致死傷罪が成立する場合もあります。
危険運転致死傷罪が成立するには、自らの運転行為が危険であるとの認識(故意)が必要なので、故意がなく、車の運転に必要な注意を怠ったこと(過失)によって死傷事故を起こした場合は同罪にあたらず、過失運転致死傷罪が成立する余地があるのです。
過失運転致死傷罪の法定刑は「7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金」と、危険運転致死傷罪と比較すれば軽くなります。ただし、あくまでも事件を生じさせた非を認めたうえで、危険運転致死傷罪の成否を争うことになるでしょう。
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5、まとめ
あおり運転の社会問題化を受け、道路交通法および自動車運転処罰法が改正されました。これまであいまいな部分が多かったあおり運転は「妨害運転罪」として罰則が設けられ、危険運転致死傷罪の対象となる妨害運転行為も追加されています。
このような状況下であおり運転をした場合には、逮捕・起訴され厳しい処罰を受ける可能性が高まっています。危険運転問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士がサポートしますので、できるだけ早期にご連絡ください。
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