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相手に怪我がなくても傷害罪で逮捕される? 傷害罪の成立要件を弁護士が解説
法務省が発表した令和5年版の犯罪白書によると、令和4年中の「傷害罪」の認知件数は1万9514件で、粗暴犯においては暴行罪についで2番目に多い犯罪です。テレビなどで傷害事件のニュースをよく耳にすることもあり、日常においても非常に身近な犯罪といえるでしょう。
多くの方は「他人に怪我をさせれば傷害罪」という程度の認識を持っているはずですが、刑法の規定はさらに限定的で、傷害罪が成立する条件を厳密に規定しています。では、どのような場合に、傷害罪が成立するのでしょうか? たとえば、うっかりとしたミスで怪我をさせてしまった場合や、外傷が認められない場合でも傷害罪が成立するのでしょうか?
本コラムでは「傷害罪」の成立要件や、傷害罪で逮捕された後の流れ、傷害事件を起こした場合にとるべき対応などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、刑法上の傷害とは
まず、傷害罪とはどのような犯罪なのかを解説します。
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(1)傷害罪の成立要件と罰則
傷害罪は、刑法第204条で、下記のように規定されています。
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する「人の身体を傷害する」とは、暴行による結果です。つまり、傷害罪の成立には、前提として暴行罪が存在します。
「暴行」とは、人の身体に向けた有形力の行使を指し、殴る・蹴るなどの具体的な暴力行為のほか、背中を押す・首を絞める・羽交い締めにする・襟首をつかむなどの行為もこれに該当します。 -
(2)「傷害」の定義
「傷害した」とは、単純にいうと「暴行の結果、怪我をさせた」とまとめることができます。
ただし、学説上はどのような行為が傷害となるのかは、意見が分かれています。その中でも、もっとも有力視されているのが「人の生理機能を害すること」で、判例でもこの説が採用されています。
傷・あざを与えるといった結果があれば、人の生理機能を害するといえるでしょう。
また、皮膚が擦りむける、毛髪が抜ける、爪がはげるなどの身体的な変化を与えるほか、めまい・嘔吐(おうと)・中毒症状・病原菌などの病理的な変化を与えることも傷害とみなされます。非常に細かいところでは、外皮を強く吸うことで内出血を起こさせる、いわゆるキスマークをつける行為も傷害になり得るのです。
その他、精神的な苦痛を与え、PSTDといった精神的症状を与えた場合も、傷害と認められる可能性があります。
2、傷害の故意と刑罰の関係
傷害罪の成立には「故意」と「結果」が、強く関係します。
故意と結果によっては、傷害罪以外の罪に問われる可能性もあるのです。
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(1)傷害罪が適用されるケース
故意の暴行によって怪我を生じさせると、たとえかすり傷程度でも刑法上は傷害罪が成立します。故意の暴行とは、自分の意思でわざと暴行を加えた場合を指します。
傷害罪で有罪となった場合、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
ただし、負傷の程度が軽微であれば、傷害罪で逮捕・送致されたとしても、起訴の段階で暴行罪に変更されることもあるでしょう。 -
(2)暴行罪が適用されるケース
故意に暴行を加えても、相手が負傷しなかった場合は暴行罪が適用されます。たとえ怪我をさせる意図を持って暴行を加えたとしても、傷害罪の未遂とはならず暴行罪が適用されます。
たとえば、相手が怪我をしてもかまなわいと考えて殴った結果、相手がしりもちをついただけで怪我をしなかったといった場合です。
暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料です。 -
(3)過失傷害罪が適用されるケース
故意に暴行していない場合でも、過失によって相手が怪我を負った場合には、過失傷害罪が適用される可能性があります。つまり、わざとでなかったとしても、結果的に傷害を引き起こせば、過失傷害罪にとわれることもあるのです。
過失傷害罪の法定刑は、30万円以下の罰金または科料です。
故意ではないため傷害罪と比較すると刑罰は軽く、懲役刑が予定されていないため刑務所に収監される心配もありません。
ただし、わざとではない行為の結果、相手に怪我を負わせてしまったからといって、必ずしも過失傷害罪が成立するというわけではありません。
たとえば、満員電車の中でほかの乗客に押されてしまい、直前の乗客を押して怪我をさせた場合などのように、本人に過失がないことが明白な場合においては、過失傷害罪が適用される可能性は低いでしょう。
特定の相手に暴行を加える意図がないとしても、自身の行為が傷害の結果を生むことが容易に予見できた場合にのみ、成立すると考えられます。
なお、過失傷害罪は存在しますが、過失暴行罪はありません。したがって、手を振ったところ通行人の頭に当たってしまったといったケースでは、相手に傷害の結果が発生しない限り、犯罪に問われる可能性は低いでしょう。 -
(4)傷害致死罪が適用されるケース
故意の傷害によって相手が死亡した場合、傷害致死罪が適用されます。
法定刑は3年以上の有期懲役なので、最高で20年の懲役刑が科せられる可能性があります。
3、精神的苦痛などで傷害罪が成立するケース
傷害罪は「暴行の結果、相手に怪我をさせた」という場合に成立する犯罪です。
ところが、外傷を与えなくても傷害罪が成立するケースも存在します。事例で確認しましょう。
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(1)騒音による精神的苦痛を与えたケース
平成17年に最高裁が判決を下した事件では、連日連夜にわたって大音量でラジオなどを鳴らした行為により、隣人に慢性頭痛症などを生じさせたとして傷害罪が成立しています。
ラジオの音、目覚まし時計のアラーム音などの騒音を鳴らす行為が暴行にあたるのかが争われたケースですが、通常、ラジオや目覚まし時計から鳴る「音」に傷害を引き起こす力はありません。
ところが、隣人が不快をおぼえ、精神的なストレスを抱えることを認識したうえで大音量を鳴らし続ける行為は、故意の暴行となります。
この事件では、隣家に面した窓の一部を開け、窓際やその付近にラジオや目覚まし時計を置き、1年半にもわたって大音量で鳴らし続けていたようです。
隣人が、慢性頭痛症や睡眠障害、耳鳴り症といった病理的な変化を発症したことは、大音量に起因するものと認められました。 -
(2)性病を隠して感染させたケース
昭和27年に最高裁が下した古い判例ですが、性病に感染していることを隠して性交し、その結果、性病を感染させた行為が傷害罪と認められました。
病気を伝染させる行為は、「人の生理的機能を害する」という傷害罪の要件に合致するという判断が下されています。殴る・蹴るなどの具体的な暴力行為がなくとも、病気が感染する危険を認識しつつ性交を持つといった非暴力的な行為も、傷害罪の対象となるという代表的な判例です。
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4、傷害罪で逮捕されたら? 弁護士がサポートできること
前述のとおり、故意の暴行による傷害はもちろんですが、意図せず相手に怪我を負わせてしまったケースや、暴行と認識していなくても相手に強いストレスを与え病気を発症させてしまったケースなどでも、傷害罪が成立するおそれがあります。
では、傷害罪の疑いで逮捕されたらその後はどうなるのでしょうか。逮捕を回避するためにできることはあるのでしょうか。
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(1)逮捕されたらどうなる?
傷害の被疑で逮捕されてしまうと、警察署で48時間を限度とした身柄拘束を受け、警察官による取り調べが行われます。この段階で嫌疑が晴れない場合には、被疑者の身柄は検察へ送致されます。検察へ送致されると、検察官による取り調べが行われ、検察官は24時間以内に被疑者を釈放するか、さらに身柄拘束を継続すべきかを判断します。
身柄拘束の継続が必要だと判断された場合、検察官は裁判官に勾留を請求し、これを裁判官が認めた場合には、まず10日間の身柄拘束を受けます。10日間で捜査を遂げられなかった場合、一度に限り勾留の延長請求が可能です。延長の上限は10日間であるため、合計すると勾留期間は最長で20日間となります。
つまり、逮捕されてから最長で23日間にわたって身柄を拘束される可能性があるのです。社会から隔離されてしまうと、仕事に行くこともできず、マスコミにより報道されれば職場に逮捕された事実が伝わる可能性も高いでしょう。生活そのものに、大きなダメージを受けるのは必至ですので、逮捕の回避に向けた対策が必要といえます。
また、勾留が満期を迎える日までに検察官が起訴または不起訴を判断します。起訴されれば被告人としてさらに勾留を受けます。その後、刑事裁判によって有罪判決を受けて執行猶予がつかなければ刑務所に収監されることになります。一方で、不起訴となれば刑罰は科せられません。そのため、弁護士による、早期の釈放や不起訴処分の獲得に向けた活動が重要となります。 -
(2)逮捕を避けるために重要な示談交渉
傷害のトラブルを起こしてしまった場合は、被害者との示談を進めることで逮捕の回避や不起訴処分の獲得が期待できます。示談が成立していれば、たとえ起訴されても刑が減軽される可能性も高まります。
突発的に発生した傷害事件以外であれば、被害者と面識があるケースもあるでしょう。そのような場合では、被害者へ直接連絡をとり、示談の話し合いをしたいと考えるかもしれませんが、それは得策ではありません。示談交渉については、加害者やその家族が直接示談交渉を行うよりも、弁護士に一任するべきといえます。
被害者は、心身ともに大きな衝撃を受けています。そのため、加害者側との面会を拒むケースが多々あります。また、示談にしたいばかりにやみくもに話を進めようとすると、逆効果になることもあるでしょう。法外な慰謝料などを請求されるおそれもあります。
示談に関しては、弁護士が間にはいることで、被害者側が交渉に応じてくれる可能性が高まります。真摯(しんし)な謝罪はもちろんですが、弁護士と相談しながら、精神的苦痛に対する慰謝料、診察や治療にかかった医療費などを含めた適切な示談金を被害者に提示することで、法外な金額を請求されることを避けつつ、示談成立の可能性を高めることにつながります。
また、相手の負傷程度などを確認したい場合でも、弁護士からの要求として伝えれば相手が納得して診断書などを提示してくれることも少なくありません。
傷害事件の弁護活動は、スピードが肝心です。
警察が認知している事件でも、逮捕に踏み切るまでに示談を成立させれば逮捕の回避が期待できます。万が一逮捕されてしまった場合でも、示談が成立していれば即時釈放されるケースもあるので、傷害事件を起こしてしまった場合は早急に弁護士に相談することが大切です。
5、まとめ
傷害罪は故意の暴行によって他人を負傷させる犯罪ですが、ここで例に挙げたとおり、故意の暴行ではないケースや、外傷を負わせていないケースでも罪が成立する余地があります。
思いがけず傷害罪の被疑をかけられてしまった場合は、自身の行為が傷害罪にあたるのか、傷害罪が成立する場合は、逮捕や重い処罰を避けるためにどのような対策が必要なのかなどについて、弁護士からアドバイスを受けましょう。また被害者との示談を進めるにあたっては、弁護士に依頼することで示談成立の可能性を高めることにつながります。
ベリーベスト法律事務所では、故意の暴行による傷害事件はもちろん、暴行によらない傷害罪についても、適切な弁護活動で逮捕の回避や不起訴処分の獲得を目指します。
傷害事件を起こして逮捕されると不安を感じている方や家族が傷害罪で逮捕されてしまった方など、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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