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恐喝罪で逮捕! 量刑はどうなる? 罰金刑や執行猶予はあるのか
相手を脅すなどして金品を差し出させる行為は「恐喝罪」にあたります。
令和4年版の犯罪白書によると、令和3年中に全国の警察が認知した恐喝事件の数は1237件でした。そのうち、1072件が検挙に至っており、検挙率は86.7%という高い数値を示しています。刑法犯全体の検挙率が46.6%であることに照らすと、恐喝罪は「検挙されやすい犯罪」だといえるでしょう。
では、恐喝罪にあたる行為があった場合、必ず警察に逮捕されるのでしょうか? 逮捕されたのち、どのくらいの刑罰を科せられるのか、罰金で済まされたり執行猶予がついたりする可能性はあるのかが気がかりになっている人もいるでしょう。
本コラムでは「恐喝罪」で逮捕されたときに科せられる刑罰の重さや実際の量刑、執行猶予の可能性などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、恐喝罪が成立する要件
法律はどのような行為が「恐喝罪」にあたると定めているのでしょうか?
まずは恐喝罪が成立する要件を確認していきます。
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(1)恐喝罪とは?
恐喝罪は刑法第249条に定められている犯罪です。
同条には第1項と第2項が設けられており、第1項は「人を恐喝して財物を交付させた者」を、第2項は「人を恐喝して財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者」を罰すると明記しています。 -
(2)恐喝罪が成立する要件
恐喝罪が成立する要件となるポイントは4点です。
- 暴行や脅迫を用いたこと
典型的には、殴る・蹴るなどの暴力行為や、「金を出さないとケガをさせるぞ」などと脅す行為を指します。
ただし、本罪における暴行や脅迫とは「相手の抵抗を抑圧させるに至らない程度」という解釈をするのが通説なので、たとえば相手がまったく抵抗できなくなるほどに暴力を加えた場合は恐喝罪ではなく「強盗罪」によって処罰される可能性があります。
- 相手が畏怖を感じたこと
「畏怖」とは恐怖の感情を意味します。
暴行や脅迫によって相手が「怖い」「恐ろしい」といった感情を抱いたかどうかで、恐喝罪の成否が分かれるという考え方です。同じ程度の行為があっても、その行為に畏怖を感じるかどうかは人によって異なります。
強く脅したつもりがなくても相手のとらえ方次第で恐喝罪が成立する可能性があるという点には注意が必要です。
- 畏怖の感情によって相手が自ら財産を処分したこと
恐喝罪は、畏怖の感情にもとづいて相手が自ら財産を処分した場合に成立します。
たとえば相手の意思に反して財物を強引に奪い取れば強盗罪が成立する可能性が考えられますが、まったく畏怖していないものの「かわいそうだ」などといった感情にもとづいて財物を差し出したときは犯罪を構成しなくなります。
- 財物が移転したこと
恐喝罪は財物が加害者本人や第三者の手に移転したときに既遂となります。
たとえば、恐喝にあたる行為があったものの被害者が警察に通報して財物が交付される前に逮捕されたといった場合は、恐喝罪は既遂に達しません。
ただし本罪には「未遂も罰する」という規定があるので、恐喝未遂に問われる事態は免れられないでしょう。
なお、恐喝罪が保護しているのは財物だけではなく「財産上の利益」も対象に含まれます。
財産上の利益とは、たとえば貸したお金を返してもらう権利やサービスを提供してお金の支払いを受ける権利などを指します。
暴力や脅しを用いた「踏み倒し」は、刑法第249条2項に定められている「財産上不法の利益」を得たことになるので恐喝罪に問われます。
2、恐喝罪で科せられる刑罰の種類や重さ|罰金刑はあるのか?
恐喝罪を犯した場合は、どのような刑罰が科せられるのでしょうか?
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(1)恐喝罪の法定刑
恐喝罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
恐喝罪には罰金刑の定めがありません。そのため有罪となった場合、最低で1か月、最長では10年の懲役刑となります。執行猶予が付されなければ刑務所に収監され、刑務作業という労働を課せられることになる重罪です。 -
(2)法定刑の考え方
日本は「罪刑法定主義」という制度を採用しています。
これは、どのような行為が罪となり、その罪によってどんな刑罰が科せられるのか、ということはあらかじめ法律によって厳格に定めるという制度です。
この制度にもとづいて各犯罪別に定められているのが法定刑なので、あらかじめ刑法の条文に定められているもの以外の刑罰が科せられることはなく、その範囲を超えることもありません。
この考え方を恐喝罪に照らすと、たとえどんなに悪質な方法だったとしても恐喝罪で死刑が科せられることはなく、無期の懲役が科せられることもありません。
一方で、悪質性が低い場合でも罰金刑で済まされることはなく、科せられる刑罰の種類は懲役一択です。
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3、恐喝罪で実際に科せられた刑罰の状況
恐喝罪の法定刑は10年以下の懲役ですが、必ず最大限の刑罰が科せられるわけではありません。では、実際に恐喝罪に問われて刑事裁判が開かれ、有罪判決を受けた場合にはどの程度の刑罰が科せられるのでしょうか?
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(1)恐喝事件の科刑状況
裁判所が公開している司法統計によると、令和2年中に全国の地方裁判所で刑事裁判が開かれ、恐喝罪で有罪になって懲役の言い渡しを受けた人の数は341人でした。
実際の科刑状況は次のとおりです。
- 10年以下……1人
- 7年以下……1人
- 5年以下……11人
- 3年(実刑)……9人
- 3年(執行猶予)……20人
- 2年以上(実刑)……43人
- 2年以上(執行猶予)……95人
- 1年以上(実刑)……59人
- 1年以上(執行猶予)……99人
- 6か月以上(実刑)……3人
実際の科刑状況をみると、1年以上3年以下に人数が集中しています。
法定刑の上限あるいは上限に近い厳しい刑罰を科せられたケースはまれで、多くは3年以内の懲役が科せられているのが現実です。 -
(2)執行猶予が付される可能性は?
同じく司法統計の科刑状況をみると、判決に執行猶予が付された人の数は合計で214人でした。割合に換算すると62.7%で、半数以上に執行猶予が付されている計算になります。
懲役に執行猶予が付された場合は、刑務所に収監されず社会生活を送りつつ更生を目指すことが許されるので、これまでどおりに仕事をしたり、学校に通ったりすることができます。
もっとも、執行猶予が付されたからといって「前科」がつかないわけではありません。
前科とは「刑罰を科せられた経歴」であり、たとえ執行猶予が付されたとしても懲役の前科がつくことになります。
前科があることで、一部の職業では公的な資格を失ってしまったり、一定期間は就業できなくなったりします。また履歴書の賞罰欄への記載を求められるので就職や転職が難しくなるといった可能性は否定できません。 -
(3)執行猶予の条件
執行猶予が付される条件は、刑法第25条に定められています。
ポイントは、前科なしの人の場合でも、懲役3年以下じゃないと執行猶予が法律上つけられないところにあります。
恐喝罪には最大10年の懲役が科せられるので、3年を超える懲役が科せられた場合、執行猶予の対象外となってしまうおそれもあります。
また、懲役3年以下に該当するからといって、必ず執行猶予が付されるわけでもありません。刑法第25条第1項の条文には「その刑の全部の執行を猶予することができる」と明記されており、執行猶予を付するかどうかは裁判官の裁量に任されています。
特に恐喝罪は暴行や脅迫によって相手から金品などを脅し取るという点で悪質性が高いと評価されやすい犯罪なので、裁判官が執行猶予を付さず実刑判決を下す場合もあります。
4、恐喝事件における量刑判断のポイントと弁護士を頼るべき理由
刑事裁判において、法定刑の範囲内でどの程度の刑罰が適切であるのかを裁判官が判断することを「量刑」といいます。
量刑の判断は裁判官の裁量に任されていますが、好き勝手に決めていいというものではありません。恐喝事件における量刑判断のポイントと、有利な判断を得るために弁護士を頼るべき理由を挙げていきます。
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(1)恐喝事件における量刑判断のポイント
恐喝事件において量刑に影響を与えるポイントとしては、次のような項目が挙げられます。
- なぜ恐喝事件を起こしたのかという動機
- 恐喝事件を起こすに至るまでの事情や背景
- 暴行や脅迫の方法や程度
- 被害額
- 加害者と被害者の関係
- 犯罪の前科・前歴の有無
- 本人の性格
- 本人の反省の程度
- 謝罪・弁済の有無
- 再犯防止対策の有無
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(2)弁護士にサポートを依頼すべき理由
執行猶予とは、要するに社会生活の中でもう1回チャンスを与える仕組みですので、本人が深く反省して再犯可能性が無くなっているかは重要です。また、財産犯としての性質から、被害者に対して真摯(しんし)に謝罪し、弁済を尽くして示談が成立している場合、お金に関する被害は回復していることになるため、それ相応の評価をされます。
示談が成立したことを示す示談書は、すでに民事的な賠償は尽くされており被害者も厳しい処罰を求める意志をもっていないことを証明できる重要な証拠になります。
また、検察官が起訴に踏み切る前に示談が成立していれば、被害届・刑事告訴の取り下げによる不起訴処分も期待できるでしょう。不起訴とは「刑事裁判の提起を見送る」という処分であり、不起訴になれば刑事裁判が開かれないので刑罰も科せられずに済みます。
ただし、恐喝事件の被害者と示談交渉を進めるのは簡単ではありません。
恐喝事件の被害者は、加害者から暴行や脅迫を受けたうえで金品などを差し出させられたという立場であり、被害者に対して強い恐怖や怒りといった感情をもっているものです。
加害者本人やその家族などが示談を申し入れても相手にしてもらえない可能性が高く、何度も連絡を取ったり相手の家に押し掛けたりすると「脅されている」「自宅に押し掛けてきた」などと通報され、別のトラブルに発展する危険もあります。
恐喝事件の被害者との示談交渉は、弁護士に任せたほうが安全です。弁護士に対応を任せれば、被害者の警戒心を和らげながら交渉を進められるので、穏便な解決が期待できます。
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5、まとめ
恐喝罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
懲役しか定められていない重罪であり、罰金などで済まされる可能性はありません。
ただし、必ず厳しい判決が言い渡されて刑務所に収監されるわけでもないという点は覚えておいてください。判決に執行猶予が付されれば社会生活を送りつつ更生を目指すことが許されます。実際に恐喝罪で有罪判決を受けた人の62.7%に執行猶予が付されているという状況をみれば、被害者との示談交渉などを尽くすことで執行猶予が得られる可能性もあります。
恐喝事件を穏便に解決するためには被害者との示談交渉が必須です。
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