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無理やり覚醒剤を使わされた! 強要された場合も犯罪は成立する?
日本の薬物犯罪における検挙者数でもっとも多いのは、覚醒剤取締法違反によるものです。平成20年~平成29年までの10年間の推移をみると、検挙者数は毎年1万人以上で推移しています。
覚醒剤事件では、取引による利益が反社会的勢力の資金源になることもあり、その多くが起訴されます。では、「他人から無理やり覚醒剤を注射された」などの事情が存在する場合も起訴されてしまうのでしょうか。
本コラムでは、覚醒剤に関する犯罪や量刑の判断基準を解説するとともに、第三者からの強要によって覚醒剤を使用したケースが罪に問われるのかについて解説します。
1、覚醒剤に関する犯罪
まずは覚醒剤取締法違反となる行為や刑罰について解説します。
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(1)覚醒剤の使用
覚醒剤に関する犯罪の中で代表的なのが「使用」です(覚醒剤取締法第19条)。違反すれば「10年以下の懲役」を科せられます(第41条の3)。
使用とは、覚醒剤を消費する一切の行為をいいます。
【使用の具体例】- 水で溶かした覚醒剤を静脈へ注射する、他人に注射する
- 覚醒剤の結晶を火であぶって煙をストローで吸う
- 錠剤型の覚醒剤を服用する
- 粉末の覚醒剤を飲み物に溶かし入れて飲む
使用の有無は尿検査などで確認されます。検査にいたる例としては、使用による中毒症状がでたために病院に搬送され、検査を受けるケースです。挙動不審だったために警察官から職務質問を受け、「警察署で尿検査をしましょう」といわれるケースもあります。 -
(2)覚醒剤の所持
覚醒剤の製造業者や医師、研究者など、特別に許可された人が業務のために所持する場合を除き、「所持」が禁止されています(第14条)。刑罰は「10年以下の懲役」です(第41条の2)。
自分のものではなくても所持が疑われるケースがあります。たとえば複数人で乗った車に覚醒剤が置いてあったケースや、知人から預かっていた荷物の中に覚醒剤が入っていたケースです。 -
(3)そのほか禁止行為と刑罰
ほかにも輸出・輸入(第13条)、製造(第15条1項)などが禁止されています。輸出・輸入、製造の刑罰は「1年以上20年以下の懲役」です。
たとえば輸入の罪では、知人から「外国に行って荷物を預かるだけで大金が手に入るよ」などと誘惑され、運び屋にされるケースがあります。 -
(4)営利目的の加重
覚醒剤取締法では、違法行為が営利目的である場合の刑の加重を定めています。
たとえば輸出・輸入、製造の加重は「無期または3年以上の懲役」で、情状により1000万円以下の罰金を併科されます(第41条2項)。所持の加重は「1年以上20年以下の懲役」で、情状により500万円以下の罰金を併科されます(第41条の2、2項)。
- ※お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- ※警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
2、無理やり覚醒剤を使用させられた場合の対応
覚醒剤の使用事犯においては「無理やり覚醒剤を使用させられた」というケースは決してめずらしくありません。第三者から無理やり注射されたという事例のほか、セックスの快楽度を強化するために「気持ちよくなる薬だから」と覚醒剤であることを知らされずに使用されてしまうこともあります。
自らの意思に反して覚醒剤を使用した場合には、取り調べや裁判でどのような対応をするべきなのでしょうか。
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(1)自分の意思による使用ではないことを主張する
覚醒剤を使用する意思(故意)がない場合、使用の罪は成立しません。故意ではないと認められれば、不起訴となる可能性があります。
このケースで逮捕された場合は、まずは否認し続けることが大切ですが、加えて、故意がなかった事実を裏付ける具体的な証拠が必要です。故意ではないことの証拠の収集や法的な主張をするには、弁護士による弁護活動が必要になるでしょう。 -
(2)緊急避難の成立を主張する
法律には「緊急避難」という制度が設けられています(刑法第37条)。緊急避難が成立すれば、使用の罪に問われない可能性があります。
緊急避難は簡単にいえば、ある行為が本来は違法となるが、要件を満たせば違法として扱われないというものです。たとえば自分の首に包丁を突きつけられた状況で、「覚醒剤を使わなければ殺す」と強要され、仕方なく覚醒剤を使用したケースが挙げられます。
もっとも、本来は犯罪なのに罪に問われないのですから、緊急避難の成立は次に挙げる要件をすべて満たす必要があり、厳格に判断されます。
- 現在、生命や身体、自由、財産に対する危険が生じていること
- 危険を避ける目的でなされた行為であること
- 危険を避けるためのやむを得ない行為であること
- 緊急避難によって守られる権利が、侵害される権利よりも大きいこと
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3、覚醒剤使用における量刑の判断
起訴後、裁判でどのような判決を受けるのかは本人や家族にとって大変気になる点でしょう。裁判で言い渡される刑(量刑)は、次のような要素をもとに総合的に判断されます。
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(1)営利目的はなかったか
営利目的の場合には社会に覚醒剤を広めてしまうことから、悪質性が高いとみなされ、量刑が重く傾きます。営利目的の使用には、他人に注射して報酬を得るようなケースが考えられるでしょう。
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(2)初犯であるかどうか
初犯であれば必ず執行猶予がつく、刑期が短くなるといったことはありません。しかし再犯と比べるとまだ覚醒剤への依存度が低く、はやい段階で依存症の治療を受ければ更生できる可能性が十分にあります。そのため判決に執行猶予がつき、社会生活の中での更生機会をあたえられる可能性がでてきます。
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(3)再犯のおそれがあるかどうか
依存度が高い場合や本人に反省の様子がみられない場合には、再犯のおそれが高いため量刑は重くなるでしょう。
依存度は、覚醒剤の使用量や頻度、使用期間や方法などの項目をもとに判断されます。反省の様子は反省文の内容や捜査への協力の度合い、再犯防止策を真剣に考えているかなどを確認されます。 -
(4)周囲のサポートが見込めるか
覚醒剤への誘惑は本人の気持ちだけで断ち切るのは困難なので、周囲のサポートが不可欠です。サポートが見込めない状況であれば再犯のおそれが高いと判断されるでしょう。
残されたご家族が監督できるか、回復施設への入所など再犯防止のための環境を整えられるのかといった点がみられます。
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4、家族が覚醒剤の使用で逮捕された場合の対応
最後に、家族が覚醒剤の使用で逮捕された場合にどのような対応が必要になるのかを解説します。
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(1)弁護士へ相談する
弁護士は、今後必要となる対応や、残されたご家族が何をするべきなのかをアドバイスしてくれます。
犯罪白書によれば、平成期における覚醒剤事件の起訴率は76%~90%台と、非常に高い率で推移しています。そしていったん起訴されると、有罪になる確率は9割以上といわれています。そのためできるだけ早期に相談することが大切です。弁護士ができることが多くなり、早期の身柄釈放にもつながります。 -
(2)本人が罪を認める場合
罪を認める場合、弁護士は裁判で刑の減軽を目指す方向で活動すると同時に、起訴後の保釈をサポートします。
しかし、覚醒剤事件では再犯のおそれが高いと判断されれば刑が重くなり、執行猶予もつかない可能性があります。また仲間との接触などによる証拠隠滅のおそれがあるため、保釈が認められにくい傾向があります。
そこで弁護士は、本人が深く反省していて再犯のおそれや証拠隠滅のおそれが低いことを主張します。
具体的には、覚醒剤の入手ルートを正直に話している点、携帯電話を解約するなどして薬物にかかわる人との関係性を絶っている点、更生できる環境が整っている点などを示していきます。これにより、刑が軽減される可能性や、保釈が認められる可能性を高めます。
ご家族が注力するべきは、次に挙げるような再犯を防ぐための環境整備です。
- 規則正しい生活環境を整える
- 悪い仲間との付き合いをしないよう同居して監督する
- 専門機関での治療やダルクなど回復支援施設への入所の手配をする
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(3)自己使用を否認し、不起訴処分を目指す場合
無理やり使用させられたなどの理由で自己使用を否認するのであれば弁護士のサポートが不可欠です。弁護士が使用を強要された事実や緊急避難の成立などを立証し、不起訴処分や無罪の獲得を目指します。
ただし、起訴や判決までの限られた時間内において明確な裏付けが必要なので、まずはご家族が早期に弁護士を依頼することが大切です。
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- ※警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
5、まとめ
覚醒剤の使用は有罪になると重い罰を受ける犯罪です。本人の意思で使用したのなら罪を認め更生を目指す必要がある一方で、第三者に無理やり使用させられたなどの状況があれば的確に主張しなくてはなりません。
しかしいくら口頭で主張しても明確な裏付けがなければ信じてはもらえませんので、早期に弁護士のサポートを得ることが重要です。薬物事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士が力を尽くしますので、まずはご相談ください。
- ※お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- ※警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
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