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大麻で逮捕されるのはどんなとき? 処罰や逮捕後の流れとは?
違法薬物による汚染は確実に広がっています。最近では、特に若年層の間で「大麻」が深刻化しており、令和2年10月には職務質問を受けた高校生が大麻を所持していた容疑で逮捕される事件も起きています。
大麻についてインターネットで検索すると「合法の国もある」といった情報がみつかりますが、わが国では大麻取締法の規制を受ける違法薬物です。所持だけでなく、譲り受けや栽培といった行為も禁止されており、事件の内容次第では初犯であっても厳しい刑罰が科せられるおそれがあります。
このコラムでは「大麻」に関する事件を起こして逮捕されるケースの処罰や逮捕後の流れについて弁護士が解説します。
1、大麻取締法と覚醒剤取締法の違い
違法薬物を取り締まる法律としては、「大麻取締法」のほかにも「覚醒剤(覚醒剤)取締法」の存在が広く知られています。
大麻取締法は大麻を、覚醒剤取締法は覚醒剤を取り締まる法律です。それぞれ規制対象とする薬物が異なりますが、規制する内容には共通点があります。大麻と覚醒剤は、いずれも医療用や研究用として活用されているものですが、特別な許可がない限り所持が認められない「禁制品」です。
両者の明確な違いは「自己使用」の規制にあります。
大麻取締法において禁止されている行為は、所持・譲渡・譲受・栽培・輸出・輸入です。一方の覚醒剤取締法では、所持・譲渡・譲受・製造・輸出・輸入に加えて「使用」も禁止されています。
覚醒剤取締法では、注射・吸引・服用といった方法で体内に成分を取り込む行為を「使用」として禁止行為に掲げています。ところが、大麻取締法においては覚醒剤取締法のような自己使用を禁止する条文はありません。
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2、大麻の「使用」だけでは逮捕されない根拠とは
大麻取締法第3条では、第1項で「大麻取扱者でない者の所持・栽培・譲渡・譲受または研究のための使用」を禁止し、第2項で大麻取扱者であっても本来の所持目的以外で使用してはならない旨が明記されています。
大麻取締法において自己使用を禁止してないのは、決して「無害だから」「中毒性が低いから」という理由ではありません。
薬物としての「大麻」は、大麻草の葉や花に多く含有される有害物質「テトラヒドロカンナビノール(THC)」が作用します。ところが、規制対象に加えられていない成熟した茎・皮・実にもごく微量のTHCが含まれている可能性があります。
これらは、繊維製品や香辛料の原料として日常的に使用されており、たとえ尿や血液からTHCが検出されたとしても、大麻草のどの部分から摂取したのかの判別ができないので、あえて「使用」が規制対象から外されているのです。
ただし、尿や血液の検査から大麻の使用が発覚すれば、それ自体では処罰されなくても所持・譲り受けなどの疑いを受ける事態になるのは避けられないでしょう。
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3、売買で罪が重くなる大麻の「栽培」
大麻取締法第3条は、栽培も禁止しています。大麻草の栽培が許されるのは、都道府県知事の免許を受けて繊維もしくは種子を採取する目的で栽培する「大麻栽培者」だけです。
大麻の栽培が売却・輸出といった営利目的であれば、薬物汚染を広める重大な責任を負ったことになるため、厳しい取り締まりを受けるのは必至でしょう。警察の強制捜査を受けるだけでなく、刑罰も加重されて厳しいものになります。
実際に営利目的の大麻栽培で刑事裁判に発展した事例では、4名が共謀のうえで大麻草を栽培し、もっとも厳しく処断された者で懲役7年および罰金300万円、もっとも軽い者でも懲役3年および罰金50万円の判決が言い渡されています。
これは、栽培していた大麻草が1万本以上という極めて計画的かつ組織的な犯行であり、倉庫に所持していた大麻草の量も2500グラムを超えていたという悪質な事例です。また、一部の者は覚醒剤も所持していた、前科を有していたという事情もあり、非常に厳しい判決となりました。
【平成28(わ)261 奈良地裁 大麻取締法違反、覚醒剤取締法違反被告事件】
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4、大麻の「譲受」は逮捕されるのか
大麻取締法第3条は「譲受」も禁止しています。
有償・無償にかかわらず、第三者から譲り受けた場合は譲り受けた者も処罰の対象です。大麻の譲り受けは、次のような状況から発覚します。
- 大麻事件の関係者が逮捕され、電話・メール・LINEなどのメッセージのやり取りから発覚する
- 別の事件で尿検査を受けて大麻成分の陽性反応が出て発覚する
- 内偵中の捜査員に譲り受けの現場を目撃されて発覚する
- 所持品検査や車内検査の機会に使用後の容器などが見つかり発覚する
これらの状況があれば、譲り受けの疑いが強まって捜査を受け、逮捕にいたるおそれがあります。大麻事件の捜査は、売買、譲渡・譲り受けのルートすべてが捜査の対象となるため、たとえ末端の譲受者であっても、捜査線上に浮かべば逮捕されてしまいます。
捜査機関はルートの全容解明を目指すため、ある譲渡者から発したルートはすべての末端者まで捜査の手がおよぶと考えたほうがよいでしょう。
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5、大麻取締法違反の刑罰
大麻取締法違反に対する刑罰は、禁止されている行為の態様や目的によって異なります。行為・目的別の刑罰を確認しておきましょう。
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(1)所持・譲渡・譲受の場合
大麻の所持・譲渡・譲受には、大麻取締法第24条の2第1項の規定によって「5年以下の懲役」が科せられます。
さらに、これらの行為が営利目的であった場合は、同条第2項の規定によって「7年以下の懲役、または情状により7年以下の懲役および200万円以下の罰金」が科せられます。
大麻取締法違反のなかでももっとも軽い単純所持・単純譲渡・単純譲受であっても5年以下の懲役となり、罰金刑の規定はありません。つまり、有罪判決を受けたら確実に懲役刑です。
また、営利目的であれば、懲役の上限が引き上げられるだけでなく、懲役と罰金の両方が科せられるおそれがあるという点も心得ておくべきでしょう。 -
(2)栽培・輸入・輸出の場合
栽培・輸入・輸出は、所持や譲り受けといった末端者と比べると大麻の拡散を招く重大な責任を負うことから、さらに厳しい刑罰が規定されています。
大麻取締法第24条の規定によって、非営利の目的であれば「7年以下の懲役」が、営利目的では「10年以下の懲役、または情状により10年以下の懲役および300万円以下の罰金」が科せられます。
大麻事件の量刑を判断する重要な基準として「所持量」が挙げられますが、栽培・輸入・輸出では、所持量が個人所有とは比較にならないほど大量になるケースが多いため、厳しい刑罰は免れないでしょう。
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6、大麻で逮捕された場合の流れ
大麻事件を起こして逮捕された場合、その後はどのような刑事手続きを受けるのでしょうか?
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(1)逮捕後に送致される
警察に逮捕されると、直ちに身柄を拘束されて取り調べを受けたのち、48時間以内に検察官へと身柄が引き継がれます。この手続きを「検察官送致」といいますが、ニュースなどでは「送検」と呼ばれています。
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(2)送致後に勾留される
送致を受けた検察官は、被疑者を取り調べたうえで、24時間以内に起訴・不起訴を決定します。ただし、逮捕から送致までの限られた時間では捜査や取り調べが尽くされていないので、事件の全容が解明されていません。そこで検察官は、多くの場合、この段階では起訴・不起訴の決断を下さず、裁判所に身柄拘束の延長を求める「勾留請求」を行います。
裁判所が勾留を認めると、勾留請求の日から原則10日間、延長によって最長20日間を上限とした身柄拘束が認められ、被疑者の身柄は警察へと戻されます。
なお、勾留が決定した段階からは家族などとの面会も認められますが、大麻事件では共犯者や関係者に情報が流出してしまうおそれがあるため、面会を制限する「接見禁止」が下されるケースもめずらしくありません。 -
(3)検察官が起訴・不起訴を決定する
逮捕から数えて最長23日間にわたる身柄拘束を経て勾留が満期を迎える日までに、検察官は再び起訴・不起訴を検討して決断を下します。
検察官が起訴に踏み切った場合は刑事裁判へと移行しますが、不起訴処分となれば刑事裁判は開かれず、即日で釈放されます。つまり、厳しい刑罰を回避するには、最長23日という短い期間で検察官に不起訴処分を決定させるのが最善策です。
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7、大麻で逮捕された場合、不起訴の可能性は?
大麻事件で逮捕されても、必ずしも検察官が起訴に踏み切るわけではありません。ここでは、大麻事件で不起訴処分を獲得できる可能性を見ていきましょう。
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(1)大麻事件における処遇の実態
令和元年版の犯罪白書によると、平成30年中に全国の検察庁で受理した大麻取締法違反事件の総数は5393人で、うち2534人が起訴され、2451人に不起訴処分が下されています。未成年の少年が起こした事件で家庭裁判所に送致された408人を除くと、検察官が起訴に踏み切った割合は50.8%です。
つまり、警察に逮捕され、検察官に送致されても、およそ半数は起訴されていないことになります。 -
(2)起訴・不起訴の判断基準
犯罪白書のデータを見ると、不起訴処分が下された2451人のうち、1400人に「起訴猶予」が下されています。不起訴処分には主に次の3種類があります。
- 嫌疑なし……容疑が完全に晴れた場合
- 嫌疑不十分……容疑は晴れていないものの、有罪の証明が困難な場合
- 起訴猶予……容疑が固まり証拠も十分だが、さまざまな事情に照らしてあえて起訴しない場合
大麻事件で送致された被疑者の多くが起訴猶予になっている状況に照らすと、起訴・不起訴を判断する基準が見てきます。
- 所持量
- 所持の目的
- 大麻への依存性の程度
- 薬物事件の前科・前歴の有無
- 反省の程度と更生への期待
- 家族など身元を保証し監督する人の存在
つまり、所持や譲り受けなどで逮捕・送致されても、特に悪質な事案ではなく、これまでに違法な薬物に関する事件を起こした経歴がなく、十分な反省と更生が期待できる環境が整っていれば、不起訴処分を獲得する可能性はあるということです。
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8、執行猶予がつく可能性はある?
大麻取締法違反では、有罪判決を受けると確実に懲役刑が下されてしまいます。
ただし、判決に「執行猶予」が付された場合は、刑務所へと収監されることなく社会生活を通じて更生を目指すことになります。
大麻事件を起こして起訴された場合、執行猶予つきの判決が得られる可能性はあるのでしょうか?
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(1)平成期の執行猶予率
令和元年版の犯罪白書で公開されたデータによると、平成期における、大麻取締法違反事件の第一審における全部執行猶予率は81~86%台でほぼ一定していました。つまり、刑事裁判に発展しても、80%以上の人に執行猶予つきの判決が下されていることになります。
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(2)初犯で考慮される事情
同種の前科前歴が多い場合や、短期間に大麻所持を繰り返して複数の事件を同時に起訴された場合では、執行猶予つきの判決を得られる可能性は低いでしょう。ただし、これまでに同種の前科前歴のない「初犯」であれば、次のような事情に照らして執行猶予が付される可能性があります。
- 所持量
- 所持の目的
- 反省の程度
- 自白の有無
自己使用を目的とする単純所持のように所持量が少ないケースでは、大麻取締法に違反していても特に悪質性が高いとは評価されず、執行猶予が付される可能性が高まります。また、本人が深く反省して大麻をはじめとした違法薬物に手を染めないことを誓う、入手ルートを含めて素直に自白しているとった状況があれば、やはり執行猶予の獲得に向けて有利な事情となるでしょう。
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9、大麻で逮捕されたときの弁護活動
大麻事件を起こして逮捕されてしまった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
大麻事件では、共犯者への情報流出や証拠隠滅を防止するため、逮捕後に勾留されるおそれが高まります。できる限り不利益の少ない結果を目指すには、大麻事件の解決実績が高い弁護士によるサポートが不可欠です。
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(1)保釈の獲得を目指す
逮捕・勾留によって身柄拘束を受けてしまうと、家族・会社・学校といった社会生活から隔離された状態が続きます。さらに刑事裁判に移行すれば被告人としての勾留が続くため、判決が下されるまで勾留されていれば、社会生活への悪影響は甚大なものになるでしょう。
検察官が起訴に踏み切った段階から「保釈」による一時的な解放を請求することが可能なので、弁護士に依頼して一刻でも早く社会生活に復帰できるよう、働きかけてもらいましょう。 -
(2)即決裁判での決着を目指す
犯罪事実に争いがない単純な事件では、原則として起訴から2週間で初公判が開かれて当日中に執行猶予つきの判決が下される「即決裁判」で審理される可能性があります。
即決裁判になれば迅速な審理が期待できるだけでなく、必ず執行猶予が付されるため、社会復帰に向けて専念できるでしょう。
即決裁判の申し立てができるのは検察官だけですが、弁護士が働きかけることで即決裁判が採用される可能性が高まります。 -
(3)執行猶予を求める
刑事裁判で有罪判決を回避できない状況であれば、執行猶予つきの判決を求めるのが最善策です。
たとえば、本人が深く反省していることを示す反省文や家族などの嘆願書を弁護士経由で検察官や裁判官に提出します。
そのほかにも薬物依存からの更生プログラムへの参加や更生施設への入所など、自発的に更生を目指している状況を主張することで、執行猶予つきの判決が獲得できる可能性が高まるでしょう。
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10、まとめ
大麻は自己使用を目的として所持しているだけでも違法となり、有罪判決が下されれば確実に懲役刑が下されてしまいます。所持の量や目的によっては厳しい刑罰が科せられるおそれがありますが、初犯で悪質性が高くない場合は不起訴処分・執行猶予つき判決も十分に期待できるので、容疑をかけられてしまったら、直ちに弁護士にサポートを依頼しましょう。
大麻取締法違反事件の刑事弁護は、薬物事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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