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ストーカーを辞めさせるために必要な心理的ケアと、逮捕された場合について
ストーカー規制法の取り締まり対象は、特定の人物に対する愛情や好意を根源とし、その感情や自らの欲望が満たされないことに対する恨みに突き動かされ、該当の相手やその親しい人に対してつきまとい等の行為をした者です。あなたの家族がストーカー規制法の取り締まり対象となれば、どうにかして辞めさせたい……と悩むことは当然のことと考えられます。
通称「ストーカー規制法」は平成12年に制定された、比較的新しい法律です。正式名称は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」で、平成28年にはさらに現代の状況に適した内容に改正されています。
まずはストーカー規制法の取り締まり対象となる具体的な行為と、ストーカー加害者になってしまうその犯罪心理や、辞めさせるためにできることについて弁護士が解説します。
1、加害者となるストーカーの心理とは
まずは、ストーカー規制法の取り締まり対象となる具体的な行為について解説します。そのうえで、ストーカー加害者が抱く傾向がある心理について知っておきましょう。
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(1)ストーカー行為とは
「ストーカー行為」については、ストーカー規制法第2条3項で規定されています。原則として、冒頭で述べたとおり、恋愛感情などに基づいて、特定の人物に対して、同法第2条で定められた「つきまとい等」の行為を繰り返しするケースを指します。ストーカー(ストーカー加害者)は特定の人へのつきまとい行為をする人のことを指しており、加害者・被害者の性別は問いません。
「つきまとい等」に該当する行為は、具体的に以下の8つが定められています。- つきまといや待ち伏せ、住居等への押しかけ、住居等付近をうろつくなどの行為
- 相手に対して監視していることを告げたり匂わせたりする行為
- 相手に対して会うことや交際することや贈り物を受け取ることを強制する等、義務のないことを要求する行為
- 相手に対して怒鳴りつけたり大きな音を立てたり、粗暴な言動をする等の行為
- 無言電話をかけたり、相手が拒否していても何度も電話、メール、SNSのマイページにコメントを書き込む等する行為
- 汚物や動物の死体などを送りつけたり相手が見えるところに置いておく行為
- 相手を中傷する、相手の名誉を傷つけることを告げたりメールを送ったりする行為
- 相手を性的に辱めるようなことを言ったり、性的に辱めるような画像を送りつけたりする行為
なお、ストーカー規制法違反に該当する、つきまとい等の行為が見られる場合は、警察や公安委員会はストーカー加害者に対し「警告」もしくは「接見禁止命令」の措置を取ります。警察からの警告や公安委員会からの接見禁止命令を出された加害者が、なおストーカー行為を続ける場合は逮捕される可能性が高くなります。
なお、逮捕されて裁判で実刑判決が下された場合は、以下の罰則を受けることになります。-
ストーカー行為をした場合
1年以下の懲役、または100万円以下の罰金
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禁止命令等に違反した場合
6ヶ月以下の懲役、または50万円以下の罰金
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禁止命令等に違反し、つきまとい行為やストーカー行為をした場合
2年以下の懲役、または200万円以下の罰金
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(2)ストーカー加害者の傾向
なぜ、ごく普通の人と思われている方がストーカーの加害者になってしまうのでしょうか。警察庁が発表している資料から、ストーカー加害者の傾向を見てみましょう。
平成29年にストーカー規制法違反で検挙された件数は926件であり、前年から150件以上増えています。うち、性別では男性が82.7%、年齢は30~40代だけで41%以上を占めていました。
また、被害者と加害者の関係性は、「元」を含む交際相手が44.8%を占め、次いで友人知人、同僚や職場関係者が続きます。つまり、ほとんどが顔見知りもしくはそれ以上の親しい相手に対して、ストーカー行為をしていることが明らかになっています。他方、面識がない相手へのストーカー行為は7.4%にとどまっていました。
ストーカーといえば、ニュースになって世間を騒然とさせた事件が印象深く、アイドルに対して行われるものなどと考えているかもしれません。しかし、実際のストーカー事件の多くは、イメージ通りではありません。かつて交際をしていた相手や、顔見知りの人物に対して行われるケースが非常に多いのです。
なお、ストーカー規制法違反に該当する行為をした動機については、圧倒的多数が「好意の感情」に基づいていたことがわかっています。つまり、ストーカー加害者のほとんどが、相手が嫌がっている行動をしているという自覚がなく、愛情の表現として「つきまとい等」や「ストーカー行為」に至っていると考えられます。
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2、ストーカー加害者の心のケアも必要
ストーカー規制法違反に該当する行為を辞めさせるために、警察や各種医療機関もさまざまな取り組みを行っています。
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(1)ストーカー加害者の原因:環境
人は、理解できない出来事に遭遇すると、何かの理由をつけて安心しようとしてしまいがちです。ストーカー加害者となる原因についても、生活歴などをもとに何かしらのストーリーを考えようとする傾向があるようですが、それもまた主観でしかありません。日本性教育協会によって発行されている「現代性教育研究ジャーナルNo.73」においてもその危険性を指摘しており、「科学的なデータに基づいた理解が必要である」と警告しています。
ストーカー加害者の傾向は前述のとおりデータで知ることができますが、すべての30~40代の男性がストーカーであるとは言えないように、環境的な原因は多岐にわたります。つまり、これが原因だと明言できる「環境」はまだ明らかになっていません。
また、ストーカーの約半分は数日から2週間以内にストーカー行為を辞めている一方、2週間を超えたケースでは行為は数ヶ月にわたり、さらに粗暴行動に出やすいという研究結果が発表されています。他にも、認知のゆがみや、感情統制スキル不足があるなど、多くのリスク因子を抱えているケースが多いと報告されています。 -
(2)ストーカー加害者の原因:自覚
一般的な犯罪者治療においては、認知行動療法がもっとも知られています。日本国内においてはストーカー加害者を専門的に治療するプログラムは確立されていないため、今後、さらなる発展が望まれる分野であるといえるでしょう。
同ジャーナルでは、Bonta&Andrews(2016)による犯罪者治療の3原則(「リスク原則」「ニーズ原則」「治療反応性原則」)を報告しています。海外で行われている臨床的・危険防止介入例をみると、犯罪者治療の3原則に基づいた、以下のリスク因子の変容を目的とした認知行動療法を中心に実施することが望ましいと考えられています。- 「誤った行動はしていない」、「これが愛情表現だ」などの認知のゆがみ
- 「自分に治療は不要だ」と考える、治療モチベーションの低さ
- 対人や社会的、感情統制などのスキル不足
- パラフィリア(性的倒錯)
- (薬物使用などがあるときは)依存症治療プログラム
自分自身が犯罪領域に足を踏み入れていることを自覚するのはつらいものでしょう。なかなか自覚も持てないかも知れませんので、やはり専門機関による心のケアが必要になるでしょう。
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3、ストーカー行為を辞めさせるために必要なこと
ストーカー加害者の多くが、自らが誤った行動をしているという自覚がない傾向があります。家族が治療を働きかけても拒否されてしまうケースは多々あります。
平成27年度に警察庁行った委託調査研究「ストーカー加害者に対する精神医学的心理学的アプローチに関する調査研究(Ⅱ)報告書」をもとに、家族はどうしたらよいのかについて考えてみましょう。
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(1)医療機関やストーカー相談機関などに頼る
ストーカー行為を辞めさせたいと家族がいくら願い、説得しようとしても、聞き入れてもらうことは非常に難しいことです。近所や親類縁者の目が気になるなどの理由で、家族だけで解決したいと思う方もいるかもしれませんが、医師をはじめとした専門家の力を借りるべきと考えられます。
近所に適切な医療機関がなかったり、わからなかったりすることもあるでしょう。そのときは、ストーカー加害者向けの相談を受け付けている専門機関に助けを求めてみてもよいかもしれません。前述の報告書によると、NPO ヒューマニティで相談し、カウンセリング等まで至った50名のうち、入院措置となったケースもありますが、ストーカー加害のリスク評価は、カウンセリングを受けた前と後で以下のように推移しています。- リスク「高」 カウンセリング前52%(50名中26名)⇒カウンセリング後6%(50名中3名)
- リスク「中」 カウンセリング前44%(50名中22名)⇒カウンセリング後32%(50名中16名)
- リスク「低」 カウンセリング前4%(50名中2名)⇒カウンセリング後62%(50名中31名)
ただし、平成27年2月から12月までの間に「一般社団法人男女問題解決支援センター」に問い合わせがあった68件のうち、治療に至ることができたケースはたったの15件であることも明らかになっています。無断キャンセルが多く、次に費用面などを理由にした拒否、加害者本人が拒否したケースも見られているため、まずは治療をスタートさせることそのものが非常に難しいといえるでしょう。
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(2)警察への相談
では、治療を拒否されてしまった場合はどうすればよいのでしょうか。
同調査によると、男女問題解決支援センターへ問い合わせた動機については、実際に警告や刑事裁判を受けたり、警察にすすめられたりしたケースが半数を占めます。また、前述のカウンセリング等まで至った加害者のうち56%が、口頭警告や逮捕など、何らかの警察措置が行われていることがわかっています。
警察機関による介入で、自分自身がストーカー規制法違反に該当する行為をしていることを初めて知るというケースは少なくないのです。荒療治かもしれませんが、ことを露呈させないことに注力するよりも、実際に自らの行為について明らかにされてしまうほうが、治療の道につながる可能性もあるかもしれません。
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4、ストーカー加害者として逮捕されたら弁護士に相談を
加害者の立場で、ストーカー行為により逮捕されてしまったらどうすればいいでしょうか。逮捕に至る罪状は2種類あります。
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(1)ストーカー規制法違反による逮捕
ストーカー規制法に基づいて逮捕される可能性があります。ストーカー規制法に基づく禁止命令は行政処分として行われますので、行政指導として行われる警告より一段階厳しいものです。
ストーカー規制法に基づいて逮捕される可能性があるケースとして、前述した「ストーカー行為」をした場合や、禁止命令等が出されているのになお被害者に近寄る等した場合が挙げられます。後者の場合は、禁止命令等に違反したこと自体が犯罪とみなされるため、被害者に具体的な被害が出ていなくても逮捕される可能性があります。
なお、ストーカー行為がエスカレートし、相手を傷つけてしまったときなどは、その状況に応じて、暴行罪や傷害罪、殺人未遂罪、強制わいせつ罪、住居侵入罪などが該当する可能性もあるでしょう。 -
(2)逮捕後の流れ
ストーカー規制法違反に限らず、逮捕されれば警察署等に留め置かれ、取り調べが始まります。夜は警察署の留置場などに入れられ、48時間以内に身柄を検察に送致するかどうかが決まります。
送致されると、24時間で起訴の有無について判断が行われます。しかし、24時間以内では決定できない事件は少なくありません。そこで、逃亡・証拠隠滅の危険性があるとき、検察は引き続き身柄を拘束する「勾留(こうりゅう)」を行えるよう、裁判所へ請求します。勾留が認められると、勾留は原則最大10日ですが、さらに10日間の延長がされる可能性がありますので、最大で20日間となります。この間、留置場に入れられたままで、取り調べも続きます。
証拠がそろっているときや、示談が成立していないときは最終的には起訴される可能性が高く、刑事裁判にかけられることになります。日本の司法制度では起訴されれば99%が有罪となるため、起訴されたら前科がつく可能性が高いといえます。 -
(3)ストーカー加害者になる前に弁護士に相談を
家族がストーカー行為で逮捕されるかもしれない、あるいは逮捕されてしまったら、すぐに弁護士へ相談することをおすすめします。
逮捕から勾留までの間は、被疑者と接見できるのは弁護士のみに限られ、家族すら会って話をすることはできませんし、起訴されたら裁判が始まります。弁護士であれば、逮捕後の接見はもちろん、加害者の代理人として被害者に連絡を取り、示談交渉をすすめることもできます。
また、早期釈放や不起訴処分を求めるための意見書を作成し、捜査機関に提出することもできるでしょう。さらに起訴されて裁判になった場合でも執行猶予をつけるよう裁判をサポートすることができます。
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5、まとめ
ストーカーの心理と、どうすればその加害・被害を防げるのかについて考えるとともに、逮捕されたときの流れを解説しました。もしも家族がストーカー行為で逮捕されてしまったときは、一刻も早く弁護士が対応することで、起訴処分にならずにすむ可能性が高まりますので、すみやかに弁護士に依頼しましょう。
ご家族のストーカー行為でお悩みの場合は、一度ベリーベスト法律事務所へご相談ください。ベリーベスト法律事務所では、状況に応じて被害者との示談や医療機関の紹介など、加害者の社会復帰も視野に入れた弁護活動を行います。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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