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児童ポルノは所持だけで逮捕? 逮捕されるケース、されないケースとは?
令和2年9月、海外を拠点としたアダルト動画販売サイトの運営者が摘発されました。この事件に関連して、警察は児童ポルノにあたる動画を販売した出品者への強制捜査の方針を固めただけでなく、今後は購入者についても「単純所持」の容疑で立件する方針を示しています。
児童ポルノにあたる画像・動画を販売したり、販売目的で所持していたりすれば厳しく処罰されるのは当然だと感じるでしょう。しかし、動画販売サイトなどで購入した児童ポルノを個人が所持しているだけでも罪になり得ます。
本コラムでは、児童ポルノ禁止法違反の「単純所持」で逮捕されるケースと逮捕されないケースを紹介しながら、逮捕後の流れや罰則などを解説します。
1、児童ポルノ禁止法違反とは?
児童ポルノ禁止法とは、正しくは「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」といいます。この法律に定められた規制に反する行為があると、児童ポルノ禁止法違反として厳しい刑罰が科せられることになります。
まずは児童ポルノ禁止法違反の定義や違反行為・罰則を確認していきましょう。
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(1)児童ポルノとは
児童ポルノ禁止法第2条3項によると、「児童ポルノ」とは次のような写真・電磁的記録媒体などを指します。
- ① 児童を相手方とする、または児童による性交・性交類似行為にかかる児童の姿態
- ② 他人が児童の性器などを触る行為、または児童が他人の性器などを触る行為にかかる児童の姿態
- ③ 衣服の全部、または一部を着けない児童の姿態であり、ことさらに児童の性的な部位が露出・強調されているもの
「児童」とは18歳未満の者であり、男女の別は問われません。
また、②と③にあたる場合は、さらに「性欲を興奮させ、または刺激するもの」でなければ児童ポルノにはあたりません。 -
(2)児童ポルノ禁止法違反となる行為と罰則
児童ポルノに関して児童ポルノ禁止法違反となるのは、次のような行為です。
- 自己の性的好奇心を満たす目的での所持・保管
1年以下の懲役または100万円以下の罰金(第7条1項違反) - 児童ポルノの提供
- 児童ポルノの提供を目的とした製造・所持・運搬・輸出入・保管
3年以下の懲役または300万円以下の罰金(第7条2項~4項違反) - 盗撮による児童ポルノの製造
3年以下の懲役または300万円以下の罰金(第7条5項違反) - 児童ポルノを不特定もしくは多数に提供、または公然と陳列
- 児童ポルノを不特定もしくは多数に提供、または公然と陳列する目的での製造・所持・運搬・輸出入・保管
5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれらを併科(第7条6項~8項違反) - 児童ポルノ製造を目的とした児童売春・買春
1年以上10年以下の懲役(第8条1項) - 児童ポルノ製造目的で、海外に居住する略取・誘拐・売買された児童をその居住国外に移送した日本国民
2年以上の有期懲役(第8条2項)
- 自己の性的好奇心を満たす目的での所持・保管
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2、児童ポルノは単純所持でも罰則対象?
法律が定める「児童ポルノ」にあたる画像・動画は、所持しているだけでも処罰の対象になってしまいます。
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(1)児童ポルノの「単純所持」とは
児童ポルノ禁止法における「所持」は、その目的に応じて3つの種類にわかれています。
- 単純所持
- 第三者への提供目的の所持
- 不特定・多数への提供目的の所持
従来は、第三者への提供目的による所持や不特定・多数への提供目的の所持について罰則が設けられていました。児童ポルノが広く流通してしまう事態を助長する行為や、営利の手段として児童ポルノを悪用する行為のみが厳しい処罰の対象となっていたのです。
しかし、平成26年の法改正では「単純所持」も処罰の対象に加えられました。単純所持とは「自己の性的好奇心を満たす目的」で児童ポルノにあたる画像や動画などを所持することをいいます。 -
(2)単純所持でも処罰の対象になる
児童ポルノの単純所持は、どのような経緯で所持にいたったのかを問いません。冒頭で紹介したように、違法な児童ポルノ動画を販売していたサイトを介して購入・所持した場合も処罰の対象です。またダウンロードした画像を削除したような場合でも、犯罪が成立する可能性があります。
単純所持は児童ポルノ禁止法第7条1項の「自己の性的好奇心を満たす目的での所持」にあたり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。実刑判決を受ければ刑務所へと収監されてしまうおそれもあるため、決して「軽い罪」とはいえません。 -
(3)単純所持が成立する要件
単純所持とは「単に持っているだけ」であれば罰せられるという意味だと誤解されがちですが、所持していれば必ず罪となるわけではありません。児童ポルノ禁止法に違反する単純所持の罪が成立するのは、次の要件を満たす場合に限られます。
- 自己の性的好奇心を満たす目的があること
- 自己の意思にもとづいて所持にいたったこと
児童ポルノは、児童の性交・性交類似行為や性器を触る行為、裸体などを写した画像や動画などを指します。これらは主に性的好奇心を満たす目的で所持されるものであり、厳しく規制されるのは当然です。しかし、子どもの成長記録のなかには、風呂・プール・海水浴などで裸や下着・水着姿になっている姿態を撮影したものも少なくありません。
これらは「自己の性的好奇心を満たす目的」をもたないものなので、実際に所持していても単純所持は成立しないものと考えられます。
また、単純所持が成立するには「自己の意思にもとづいて所持にいたった」ことも必要です。たとえば、悪質ないたずらメールなどに児童ポルノが添付されており、スマートフォンのメールフォルダに保存されていたとしても、自己の意思に反して送りつけられたものなので単純所持は成立しません。
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3、児童ポルノで逮捕されるケース
児童ポルノに関する事件は、児童が被害者となっているという重大性や、容疑者が容易に証拠を隠滅できるという緊急性の高さから、容疑をかけられれば逮捕されてしまうおそれが高まります。児童ポルノ禁止法違反で逮捕される場合、どのような経緯で事件が発覚して逮捕に結びつくのでしょうか?
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(1)被害者児童や家族からの通報
児童自身や児童からの相談を受けた家族が警察に通報することで事件が発覚する流れが、もっとも典型的なケースといえるでしょう。学校・教師が事態を把握して警察に相談するという流れもめずらしくありません。
児童からの訴えで事件が発覚する場合、多くは児童にも心当たりがあり、さまざまな証拠が残されているため、容疑者として特定されるまでにさほど時間はかからないでしょう。たとえ児童自身が撮影などを了承していた場合でも、罪を免れることはできません。 -
(2)警察のサイバーパトロールによる発覚
各都道府県の警察本部では、生活安全部を中心としてサイバーパトロールが実施されています。インターネット上にまん延している有害コンテンツから犯罪につながるものをピックアップして捜査を進める部署なので、違法な児童ポルノを発見すれば積極的な捜査によって容疑者として特定される危険が高いでしょう。
サイバーパトロールから発覚した事件は、警察本部と管轄警察署が連携して担当するケースが多く、大規模で徹底的な捜査が尽くされます。強制捜査に発展し、逮捕される危険が非常に高い流れだといえます。 -
(3)別の刑事事件の捜査による発覚
まったく別の刑事事件で捜査が進められる過程で、児童ポルノに関する犯罪が発覚するケースも少なくありません。冒頭で紹介した事例のように、児童ポルノを販売していた業者が摘発され、芋づる式で購入者も逮捕されてしまうといった流れが考えられます。
警察が購入者のリストや会員情報、代金の受け取り履歴、サイトへのアクセス履歴などを解析すれば容易に容疑者として特定されるため、利用した事実があれば単純所持の容疑で逮捕される危険は非常に高いでしょう。
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4、児童ポルノで逮捕されないケースとは?
児童ポルノの単純所持の容疑があったとしても、必ず逮捕されるわけではありません。
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(1)単純所持に該当しない場合
児童ポルノ禁止法の定めに照らせば児童ポルノに該当する画像・動画であっても、性的好奇心を満たす目的ではない、自己の意思で所持していたのではない場合には単純所持が成立しません。
容疑をかけられても、子どもの成長記録であることが捜査の過程で判明するなど性的好奇心が否定されたり、何者かに送信されてやむなく所持していた状況が明らかになったりすれば、犯罪が成立しないので逮捕されないでしょう。 -
(2)単に児童ポルノを閲覧しただけの場合
児童ポルノの販売や公開を目的としたサイトにアクセスし、児童ポルノにあたる画像や動画を閲覧しただけであれば、児童ポルノ禁止法には違反しないので逮捕されません。現在の児童ポルノ禁止法では、閲覧を罰する規定は存在しないからです。
ただし、販売・公開を目的としたサイトにアクセスして閲覧しただけでなく、画像や動画をダウンロードし、スマートフォンやパソコンに保存した場合は単純所持が成立してしまう危険があることには注意しなければなりません。 -
(3)アニメ・漫画など架空の児童ポルノを所持していた場合
小児性愛の嗜好(しこう)がある人のなかには、アニメ・漫画といった架空世界での児童ポルノを好む人も多数です。アニメ・漫画などの架空世界の児童ポルノは、現行の児童ポルノ禁止法の規制対象にはなっていないため、所持・保管していても逮捕されません。
ただし、アニメ・漫画を児童ポルノとして規制するかについては活発に議論されているところであり、将来的には規制対象に加えられる可能性もあります。今後は法改正の情報にも注目していくべきでしょう。
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5、児童ポルノ所持で逮捕された後の流れ
児童ポルノの単純所持で容疑をかけられて逮捕されてしまうと、その後はどのような流れで刑事手続きを受けるのでしょうか?
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(1)身柄を拘束されて取り調べを受ける
警察に逮捕されると、警察段階で48時間、送致された検察官の段階で24時間、合計で最大72時間にわたる身柄拘束を受けます。さらに、検察官の請求によって裁判官が勾留を認めた場合は最大20日間まで身柄拘束が延長されるため、逮捕段階から数えると身体の拘束は23日間にわたることになります。
逮捕・勾留されている期間は、警察官や検察官による取り調べが続きます。また、自宅や関係先の捜索によって証拠品が押収されるおそれも高いでしょう。
社会から隔離されるという非日常的な環境に置かれたうえで厳しく事実を追及されるシーンが多いため、精神的に極限状態にまで追い込まれてしまいます。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
捜査の結果、事件を起訴するのか、不起訴とするのかを判断できるのは検察官だけです。検察官が不起訴とした場合、刑事手続きはそこで終了します。刑事裁判は開かれないので、身柄拘束の必要がなくなりただちに釈放されるだけでなく、刑罰を受けることも、前科がつくこともありません。
検察官が下す不起訴にはいくつかの種類がありますが、そのなかでもとくに多いのが「起訴猶予」です。起訴猶予とは、捜査の結果、刑事裁判を開けば有罪を証明できるだけの証拠がそろっているものの、諸般の事情などを考慮してあえて起訴しないとする処分をいいます。
本人が深く反省しており再犯のおそれがない、被害児童への謝罪と弁済が尽くされている、逮捕によって社会的な制裁を受けているなどの事情を総合的に判断し、厳罰を下す必要はないと判断されれば起訴猶予となる可能性にも期待できるでしょう。 -
(3)起訴されると刑事裁判が開かれる
検察官が起訴すると、それまでは被疑者であった立場が被告人へと変わり、刑事裁判を受ける身となります。
検察官の起訴には、正式な法廷において裁判官の審理を受ける「公判請求」と、書面審理による「略式起訴」があります。
公判請求されると、法廷の場に裁判官・検察官・弁護士・被告人が集まり、傍聴人にも公開されて刑事裁判が進行します。一般的には、こちらが典型的にイメージする刑事裁判だといえるでしょう。
略式起訴では、書面審理のみで進行するため、傍聴人に公開されることはありません。法廷の場で主張を述べる機会もないため、迅速な判決が期待できるという点は大きな利点です。ただし、略式起訴された事件では必ず有罪となって罰金・科料が下されるため、懲役を回避できるとはいえ前科がつく事態は避けられないという不利益も存在します。略式起訴を受け入れるかどうかは本人次第なので、慎重な判断が必要です。 -
(4)判決が下される
刑事裁判の最終回となる結審では、裁判官から判決が言い渡されます。有罪・無罪の別と、有罪であれば法定刑の範囲内で量刑が言い渡され、控訴しなければ刑罰が確定します。
児童ポルノの単純所持には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が規定されているため、懲役となるおそれもありますが、懲役が下されても必ず刑務所に収監されるわけではありません。
判決に「執行猶予」が付された場合は、刑の執行が一定期間に限って猶予され、猶予期間に取り消し事由にあたる行為がないまま満了すれば、刑の効力が消滅します。社会生活を送りながら更生に努めることが可能であり、新たに事件を起こすなどの事情もなければ刑務所に収監されずに済みます。
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6、児童ポルノ所持について弁護士に相談すべき理由
児童ポルノの所持に関して容疑をかけられてしまった場合は、ただちに弁護士に相談しましょう。
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(1)逮捕の回避に向けたサポートが受けられる
全国の警察は児童ポルノ禁止法違反に対する取り締まりを強化しています。児童が被害を受ける悪質な事件であり、社会的にも強く非難されるものなので、逮捕される危険はきわめて高いでしょう。
逮捕されれば、実名で報道されてしまい、社会生活に大きな打撃を受けてしまいます。弁護士に相談し、自首や被害児童・保護者との示談交渉を進めてもらうことで、逮捕の回避が期待できます。また、逮捕後の実名報道は最終的に報道各社の判断に委ねられるものの、弁護士から実名報道を控えるようはたらきかけてもらうことも可能です。 -
(2)被害児童への謝罪と示談交渉を一任できる
児童ポルノ禁止法違反のうち、単純所持については「児童ポルノを自己の性的好奇心を満たす目的で、みずからの意思で所持していた」場合に成立するものです。特定の被害者に対して害悪をおよぼしたことは要件になっていないため、示談が成立しても必ず不起訴となるとはいえません。
しかし、被害児童および保護者に対して真摯(しんし)に謝罪し、精神的苦痛に対する慰謝料などの賠償を尽くしたという事実は、検察官の起訴・不起訴の判断や、刑事裁判の量刑判断において有利な事情となります。ただし、加害者本人が被害児童や保護者との接触を試みても、かたくなに拒絶されたり、反感を買ってしまったりするおそれが強いので、示談交渉は弁護士に一任するのが最善でしょう。
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7、まとめ
たとえ個人的な趣味・嗜好であっても、自己の性的好奇心を満たす目的をもち、みずからの意思で児童ポルノにあたる画像や動画を所持していた場合は「単純所持」の罪となり、厳しく罰せられます。「公開してない」「販売して利益を得たわけではない」といった理由があっても罪を免れることはできず、たとえお金を支払って業者から購入したとしても処罰の対象です。
児童ポルノに関する犯罪は全国の警察が取り締まりを強化しているため、単純所持でも逮捕され、刑罰を科せられてしまう危険があります。逮捕を回避し、穏便なかたちで事件を解決したいと望むなら、刑事事件の弁護実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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