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痴漢の証拠とは? 物的な証拠や科学的な証拠、逮捕の可能性などを解説
「痴漢」と呼ばれる行為には、たとえば殺人事件の凶器や窃盗事件の盗難品などのように、明らかな証拠は存在しないように思えるでしょう。
しかし、何の証拠もないように思える痴漢容疑の事件でも、実際には多くの人が犯人として処罰されています。では、一体、なにが証拠となって痴漢が立証され、刑罰を科せられているのでしょうか? また痴漢で逮捕される場合は「現行犯逮捕」というイメージがあるかもしれませんが、証拠を基に後日、逮捕される可能性もあるのでしょうか?
本コラムでは「痴漢の証拠」について解説しながら、痴漢行為で問われる罪や刑罰、逮捕の可能性はあるのかといった問題などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
令和5年7月13日に強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」へ改正されました。
1、痴漢の証拠になるもの
「証拠」の考え方について、誤解している方も多いかもしれません。映画・ドラマといった物語の世界では犯罪の決定的な証拠について「動かぬ証拠」などと表現されることも多く、主に血のついたナイフや殺害に使用した特殊な毒物などとして登場するのがセオリーです。
すると、痴漢行為については「動かぬ証拠」は存在しないように思えますが、痴漢の証拠になるのは物的なものに限りません。
痴漢事件において証拠となるものを種類別に挙げていきます。
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(1)物的な証拠
「証拠」として理解しやすいのが物的な証拠です。
たとえば、犯人が犯行時に落とした財布や身分証、痴漢行為をはたらいている現場の防犯カメラ映像などが挙げられます。最近では、電車内に防犯カメラが設置されている車両もあるので、電車内をはじめ、駅のホーム、改札、エレベーターなどあらゆる場所に設置された防犯カメラの映像は有力な証拠となるでしょう。また、定期券や交通系ICカードの乗車記録なども証拠となり得ます。
これらは証拠物や証拠品といった「物」として存在し、実際に手に取ることや、目で見ることができるものなので、証拠として高く評価されやすいでしょう。 -
(2)科学的な証拠
物語などでもたびたび登場するのが科学的な証拠です。
たとえば、被害者の身体に付着した犯人のDNA、被疑者の手に残った被害者の衣服の繊維片、犯人が現場に遺留した指紋といった鑑識資料が挙げられます。
鑑識資料の多くは、通常、肉眼では確認できません。
特殊な方法で採取され、詳しく鑑定されたうえで証拠として活用されるので、痴漢を犯した本人自身も科学的な証拠が存在しているかどうかを把握できないという点が特徴的です。 -
(3)供述などの証拠
「証拠」として一般的には理解しにくいのが供述などの証拠です。
たとえば、痴漢の被害に遭った本人や周囲でその状況を見ていた目撃者の供述も証拠になり得ます。被害者や目撃者などの供述は「物」として存在しないので証拠にはならないように感じるかもしれません。
しかし、供述は警察官や検察官によって録取される「供述調書」という書類にまとめられ、裁判所において採用されると証拠になります。
「物」として存在する証拠と比べると証拠としての評価は高くありませんが、供述の積み重ねによって犯罪が立証されることもあるので軽視できません。
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2、痴漢冤罪を防ぐための証拠とは?
日ごろから通勤などで混雑する電車を利用する機会が多い方なら、いわれもないのに痴漢の疑いをかけられてしまう、いわゆる「痴漢冤罪(えん罪)」に恐怖を感じているでしょう。
被害者などの供述でも証拠になるといわれれば、誤った証言によって有罪になってしまうこともあるのではないかと不安が高まるはずです。
痴漢冤罪を防ぐには、どのような証拠が有効なのでしょうか?
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(1)痴漢行為を否定できる証言
まず考えられるのが、痴漢行為を否定できる証言を得ることです。
「あの人は両手がふさがっていて痴漢などできなかったはずだ」といった有利な目撃証言や、「その時間帯は私と一緒に別の場所にいた」など犯行そのものが不可能だったことを証明する供述があれば、犯行を否定できる可能性が高まります。
また、被疑をかけられている本人の「痴漢などしていない」という否認の供述も証拠のひとつです。被害者にとって有利な供述ばかりが証拠として採用されるのではなく、加害者にとって有利であっても供述の信用性に照らして重要な証拠となる可能性があります。 -
(2)真犯人の存在を示す鑑定
DNAなどの科学的な証拠は、必ず被害者側に有利な証拠になるとは限りません。
たとえば、被害者の身体に被疑者のDNAが付着していなかったり、被疑者の手指に被害者が着ていた衣服の繊維片が存在しなかったりすれば「痴漢をしていない」と主張する材料になり得ます。別人のDNAが発見されれば、真犯人の存在を示唆することにもなるでしょう。
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3、痴漢行為で問われる罪と刑罰
痴漢行為は犯罪です。ただし、刑法をはじめとしてどの法令をみても「痴漢罪」という犯罪は存在しないのです。痴漢にあたる行為には、その内容や強度によって次に挙げるいずれかの犯罪が適用されます。
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(1)都道府県の迷惑防止条例違反
痴漢行為を罰する規定が存在するのが、都道府県が定める「迷惑防止条例」です。
正式な名称は都道府県によって異なりますが、おおむね「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」などの名称が使用されています。
東京都の迷惑防止条例を例に挙げると、第5条1項1号において、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような行為で、かつ、公共の場所や乗り物において衣服やそのほか身に着ける物の上から、または人の身体に直接触れる行為が禁じられています。
ほかの道府県も東京都の条例をモデルに制定されているので、規制されている行為は同様です。
混雑した電車内などで、ほかの乗客に対し衣服の上から胸や尻などを触る行為は、本条例が適用される可能性が高いでしょう。東京都の場合、罰則は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金です。 -
(2)刑法の強制わいせつ罪
迷惑防止条例違反よりも、わいせつ性の強度が高い痴漢行為は、刑法第176条の「強制わいせつ罪」が適用されます。
本罪が処罰の対象とするのは、「13歳以上の者に対し暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者」です。条文に照らすと、殴る・蹴るといった暴力や「声を出したら痛い目に遭わせるぞ」といった脅しを用いてわいせつな行為をした場合に適用される犯罪ですが、暴力や脅しがなくても痴漢行為そのものが暴行・脅迫にあたることがあります。
衣服の下に手を差し入れて胸や尻を直接触る、衣服の上からでも陰部を触る、胸を執拗にまさぐるといった、迷惑防止条例違反にあたる行為よりもわいせつ性が高いケースでは、本罪が適用されるでしょう。
強制わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以下の懲役です。懲役の上限が10年と長く、罰金の規定もないので、迷惑防止条例違反よりも厳しく処罰される犯罪だといえます。
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4、痴漢が発覚すると逮捕されるのか?
痴漢行為が発覚すると「逮捕される」というイメージが強いでしょう。しかし、たとえ痴漢をはたらいたのが事実でも、必ず逮捕されるわけではありません。厳しい姿勢で逮捕されることがあれば、逮捕されずに事件が処理されるケースも存在します。
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(1)身柄事件と在宅事件
刑事事件の処理方法には「身柄事件」と「在宅事件」の2種類があります。
犯罪の被疑者を逮捕して身柄を拘束したうえで捜査を進めるのが身柄事件、逮捕せず任意捜査が進められるのが在宅事件です。ニュースや新聞で報じられる事件の多くは身柄事件なので「事件を起こすと逮捕される」というイメージが強いかもしれませんが、実は警察捜査の基本は犯罪捜査規範という法令によって「なるべく任意捜査の方法によっておこなわなければならない」と定められています。
事実、令和4年版の犯罪白書によると、令和3年中に検察庁で処理された事件のうち身柄事件は34.1%でした。例年、この割合はほぼ横ばい状態です。つまり、刑事事件の約65%は任意の在宅事件であるといえます。 -
(2)身柄事件の流れ
捜査の基本は任意ですが、痴漢事件はその特性から身柄事件として扱われやすい傾向が強い犯罪です。痴漢事件を起こすと、通報を受けて駆け付けた警察官や目撃者など周囲の人によって現場で現行犯逮捕されるか、捜査によって被疑者として特定された後日に通常逮捕される可能性が高いでしょう。
いずれの場合も、逮捕されれば警察の段階では48時間以内、検察官の段階では24時間以内、合計で72時間以内の身柄拘束を受けます。逮捕の効力が切れても、検察官の請求によって勾留が認められると最大20日間にわたって身柄拘束が延長されて外界とは完全に隔離される状態が続くので、社会的な不利益は避けられません。
さらに、検察官が起訴すれば刑事裁判が開かれます。検察官が起訴に踏み切った事件のほとんどで有罪判決が言い渡されているので、実際に痴漢行為があったのなら無罪判決を期待してはいけません。 -
(3)在宅事件の流れ
現場で逃亡を図る気配がなかったり、証拠の提出について積極的な姿勢を示していたりすれば、在宅事件として処理される可能性も高まるでしょう。
在宅事件では、身柄拘束を受けないので取り調べなどの必要が生じた都度呼び出しを受けて警察署へと出頭することになります。警察の捜査が終わると検察官へと書類送検され、さらに検察庁への呼び出しを受けて取り調べがおこなわれたうえで、起訴・不起訴が決まります。
起訴されれば刑事裁判が開かれるという流れは、身柄事件と同じです。ただし、身柄事件では起訴されて被告人になったあとも勾留が続くことが原則ですが、在宅事件では被告人としての勾留を受けないため、社会生活を送りながら刑事裁判を受けることになります。
このような違いをみると、身柄事件よりも在宅事件のほうが軽い扱いを受けているようにみえるかもしれませんが、それは間違いです。在宅事件だからといって不起訴になりやすいわけではないので、安心してはいけません。
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5、痴漢の疑いをかけられたら弁護士に相談を
痴漢の疑いをかけられてしまうと、迷惑防止条例違反や刑法の強制わいせつ罪が適用されて厳しい刑罰が科せられてしまう可能性があります。
刑罰を避けて事態を穏便に解決するためには、弁護士のサポートが欠かせません。
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(1)被害者との示談交渉を依頼できる
弁護士に依頼すれば、痴漢事件の被害者との示談交渉を進めることが可能です。
痴漢をしたと疑いをかけられている本人に代わり真摯(しんし)に謝罪したうえで深い反省を伝え、被害者が負った精神的苦痛に対して慰謝料などの賠償を尽くすことで、許しを得られるよう交渉します。
示談が成立し、被害者が被害届や刑事告訴を取り下げた場合、検察官が不起訴の判断を下す可能性も高まるでしょう。不起訴になれば刑事裁判が開かれないので、刑罰を受けることがなければ、前科がつくこともありません。刑罰を避けるもっとも現実的な方策は弁護士にサポートを依頼して「不起訴を目指すこと」だといえます。 -
(2)刑罰を軽くするためのサポートが期待できる
痴漢行為をはたらいたのが事実でも、あきらめてはいけません。
弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉や有利な証拠の提示によって刑罰が軽くなる可能性があります。
また、もし実際には痴漢行為をはたらいていないのであれば無罪を主張するべきですが、自分ひとりで捜査機関に立ち向かうのは困難です。無罪を証明する証拠の収集や刑事裁判における対応は、痴漢事件の解決実績が豊富な弁護士に任せましょう。 -
(3)早期の釈放が見込める
痴漢事件では、昨今、勾留をする理由がないことを示す証拠資料を適切に用意すれば、釈放を認めることも多いです。痴漢事件の解決実績が豊富な弁護士であれば、早期の釈放を獲得できるケースもあります。
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6、まとめ
犯罪の証拠となるのは「物」が中心だと感じるかもしれませんが、痴漢事件における証拠の考え方は「物」に限りません。明らかな物証がないからといって痴漢行為が立証されないわけではなく、被害者の供述や目撃証言なども重要な証拠になります。
また痴漢は現行犯逮捕のイメージがあるかもしれませんが、現行犯逮捕に限らず、さまざまな証拠を基に捜査を行った警察などに後日逮捕されるケースもあり得ます。逮捕されれば、厳しい刑罰を受ける可能性もあります。
厳しい処分を避けるには、証拠について正しく理解している弁護士のサポートが必要です。痴漢事件の解決は、痴漢事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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