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準強制わいせつ罪は何をすると罪に問われる? 逮捕の可能性と刑罰
性的な行為は、基本的に同意のもとでのみ許されるものです。しかし、どのようなシチュエーションでもはっきりと同意を取り付けるのかといえば、そうではないケースもめずらしくないでしょう。黙って行為に応じた、無言のままで抵抗しなかったといった状況でも、実は相手は同意していないのかもしれません。
令和4年8月には、駅のホームで酩酊(めいてい)状態の女性にキスをした男が「準強制わいせつ罪」などの被疑で逮捕されました。逮捕された男は、警察の取り調べにおいて「女性が同意したと思った」と述べたそうです。
友人・知人・同僚などの関係においても「同意があった」と思っていたのに、あとで「同意していない」と反論され、事件に発展してしまう可能性があります。本コラムでは「準強制わいせつ罪」について、どのような行為が罪になるのか、逮捕の可能性や刑罰の重さなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
令和5年7月13日に準強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」へ、準強制性交等罪は「不同意性交等罪」へ改正されました。
この刑法改正によって、犯罪が成立する要件が明文化され、処罰の対象となる行為が拡大されました。
1、準強制わいせつ罪とは?
「準強制わいせつ罪」は、刑法第178条1項に定められている犯罪です。
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(1)準強制わいせつ罪の法的根拠
刑法第178条1項には、「人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせてわいせつな行為をした者」は刑法第176条の「強制わいせつ罪」と同じく罰する旨が明記されています。
強制わいせつ罪は、「13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者」を罰する犯罪です。
準強制わいせつ罪は「強制わいせつ罪」の一種だと考えておけばわかりやすいでしょう。 -
(2)準強制わいせつ罪の法定刑
準強制わいせつ罪には、強制わいせつ罪と同じく「6か月以上10年以下の懲役」が科せられます。
刑法が予定している刑罰は懲役のみで罰金の規定はありません。
つまり、有罪判決を受けると必ず懲役が科せられてしまい、執行猶予がつかなければ刑務所に収監されてしまう重罪です。
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2、準強制わいせつ罪が成立する条件
準強制わいせつ罪が成立する条件を整理しながら解説します。
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(1)心神喪失とは
心神喪失とは、精神的な障害によって正常な判断力や行動を制御する能力を失った状態です。
高度な精神疾患を患っているなど常に判断能力・行動制御能力を欠いている状態だけでなく、熟睡・泥酔・麻酔など一時的にこれらの能力を欠いた状態も心神喪失に含まれます。 -
(2)抗拒不能とは
心理的、あるいは物理的に抵抗できない状態を指します。
- 心理的抗拒不能
治療行為だと信じて誤認していたり、脅されて恐怖に陥っていたりして、抵抗できなくなった状態 - 物理的抗拒不能
ケガや身体障害などで手足が不自由であったり、手足を縛られて抵抗できなかったりする状態
- 心理的抗拒不能
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(3)「乗じて」と「させて」の違い
準強制わいせつ罪の条文は、心神喪失や抗拒不能に「乗じて」「させて」と明記されています。
「乗じて」とはすでに存在する心神喪失・抗拒不能の状態を利用すること、「させて」とは積極的に心神喪失・抗拒不能に陥らせることです。
悪意をもって心神喪失・抗拒不能に陥らせる行為はもちろん、偶然に心神喪失・抗拒不能の状態にある人をみつけた場合でも、罪を問われます。 -
(4)わいせつな行為とは
本罪における「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮・刺激させ、普通の人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反する行為を指します。
具体的には胸・尻・陰部などを触る、キスをするなどの行為が考えられるでしょう。
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3、準強制わいせつ罪に問われた実例
どのようなシチュエーションで、どのような行為をはたらけば準強制わいせつ罪に問われるのでしょうか。ここでは実際にあった事例を紹介します。
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(1)泥酔した女性にキスをしたり首筋をなめたりした
令和4年4月、深夜の居酒屋に来店した女性が泥酔し、同伴者は先に退店して、ひとりでテーブルにうつぶせて眠りこけてしまいました。同店の店長だった加害者は、女性が泥酔状態であることに乗じて頰や唇にキスしたり、首筋をなめたりしたそうです。
被害に気づいた女性が警察に届け出て、事件が発覚しました。
加害者は、捜査段階では「同意があったと思っていた」と主張しましたが、刑事裁判では反省を述べて罪を認めました。懲役1年6か月の判決でしたが、深く反省して再び罪を犯さないことを約束しているなどの事情から3年の執行猶予が付されています。 -
(2)整骨院の施術行為として胸や陰部を触った
令和3年5月、整骨院の経営者が女性客の胸や陰部を触った疑いで逮捕された事例です。
検察官は「被害者は抵抗できない状態だった」と主張し、起訴に踏み切りましたが、判決は無罪でした。
胸や陰部を触った事実があったことは認められたものの、正当な施術にもとづく行為だったという加害者側の主張が認められたうえで、同意がなかった点についても被害者女性が通院を続けていたことから施術を了解したものと認識していても不自然ではないと判断されたようです。
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4、準強制わいせつ罪は逮捕される? 逮捕後の流れや逮捕を避けるためにできること
同意があったと思っていたのに、性的な行為におよんだあとで、相手がいきなり「同意していない、警察に被害届を出す」と言い出せば、誰でも驚くはずです。
「逮捕されてしまうのではないか?」という不安も強く感じるでしょう。
準強制わいせつ罪の被疑をかけられると逮捕は避けられないのでしょうか?
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(1)準強制わいせつの被疑で逮捕される可能性は?
準強制わいせつ罪単体の数字は公開されていませんが、令和4年版の犯罪白書によると、強制わいせつ事件の検挙率は90.3%となっています。
全刑法犯の検挙率の平均が46.6%であることに照らすと、強制わいせつ罪の検挙率は極めて高いといえるでしょう。
一方で、全国の検察庁で処理された強制わいせつ事件のうち、加害者が逮捕された割合を示す身柄率は53.7%でした。
この数字を単純にみれば、たとえ事件化されても逮捕されたのは半数で、残る半数は任意の在宅事件として処理されている状況がうかがえます。
こういった現実をみると、準強制わいせつ罪の被疑をかけられたとしても、必ず逮捕されるわけではないといえるでしょう。後述するように、逮捕されると勾留に進んで行く可能性が非常に高いため、早いうちからどのように対応するかを考えておくのが有益です。 -
(2)逮捕されるとどうなる? 逮捕後の流れ
警察に逮捕されると、直ちに身柄を拘束されて警察署の留置場へ収容されます。
警察の段階で48時間以内、送致されて検察官の段階で24時間以内の身柄拘束を受けますが、それだけでは解放されません。
検察官の請求によって勾留が認められてしまうと、10~20日間にわたって社会から隔離されてしまいます。
令和4年版の犯罪白書によると、準強制わいせつ罪を含む強制わいせつ事件で身柄付き送致された人において、検察官が勾留を請求した割合は98.6%でした。つまり、準強制わいせつ事件の被疑者は、ほぼ確実に勾留されて長期の身柄拘束を受けると考えるべきです。
勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を判断します。
起訴されると刑事裁判が開かれ、準強制わいせつ罪にあたる行為があったと認定されると有罪となり、法律の範囲内で刑罰が科せられます。 -
(3)逮捕や刑罰を避けるためにできること
警察に逮捕されると、身柄拘束を受けて社会から隔離されてしまいます。
会社や学校に行けず、自宅にも帰れないので、社会的な悪影響は計り知れません。
準強制わいせつ罪には懲役の規定しかないので、実刑判決を受ければ刑務所に収監されます。刑期を終えても前科がついた状態になるので、逮捕や判決の実名報道などの影響から、社会復帰も難しくなるでしょう。
こういった事態を回避するためには、早期に弁護士に相談して解決に向けたサポートを受けるのが最善策です。弁護士による適切な弁護活動を受けることで長期の身柄拘束となる勾留を回避できる可能性が高まります。
弁護士に依頼して被害者との示談が成立すれば、被害届や刑事告訴の取り下げによる不起訴が期待できます。真摯(しんし)な謝罪と賠償を尽くしていれば、刑事裁判でも有利な判決が得られる可能性が高まるでしょう。
先に紹介した事例のように、業務として正当な行為であったり、実際は同意があったりした場合は無罪の主張も可能ですが、被疑をかけられている本人が主張するだけでは足りません。
業務の正当性や同意が存在していた事実を証明する客観的な証拠を集める必要があるので、準強制わいせつ事件の解決実績が豊富な弁護士のサポートは必須です。
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5、まとめ
熟睡や泥酔など正常な判断ができない状態の相手にわいせつな行為をはたらくと、刑法の「準強制わいせつ罪」に問われるおそれがあります。
準強制わいせつ罪には、厳しい刑罰が予定されている重罪なので、被疑をかけられた場合は直ちに弁護士に相談して法的なサポートを受けるべきです。
準強制わいせつ事件の解決はベリーベスト法律事務所にお任せください。
被害者との示談交渉や捜査機関へのはたらきかけによって、逮捕や厳しい刑罰の回避、無罪の主張などを全力でサポートします。
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