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何が違う? 過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の成立要件と刑罰を比較
自動車を運転する際に、歩行者に気づかなかった、携帯電話に気をとられたなどの不注意によって死傷事故を起こすと、過失運転致死傷罪に問われる可能性があります。
交通事故の中でも特に多い類型の犯罪で、自動車を運転する者は誰もが加害者になる危険があるといえるでしょう。
この記事では、過失運転致死傷の定義や刑罰の内容、示談交渉に向けて何をするべきなのかについて解説します。あわせて、類似の犯罪でありニュースなどでも耳にする機会が増えた、危険運転致死傷との違いも確認しましょう。
1、過失運転致死傷罪の定義
過失運転致死傷罪とはどのような犯罪なのかを解説します。
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(1)過失運転致死傷罪が成立する要件
過失運転致死傷罪は、自動車を運転するうえで必要な注意を怠り、人を負傷または死亡させる犯罪です(自動車運転死傷処罰法第5条)。故意ではなく不注意であり、加害者の行為と死傷に因果関係がある場合に成立します。
必要な注意を怠った場合とは、結果の発生を予見し、回避できたはずの事故を回避しなかった場合を指します。前方不注意や脇見運転、一時停止無視やハンドルの操作ミスなど幅広いケースが該当します。 -
(2)刑罰の内容
過失運転致死傷罪の罰則は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」です。量刑はこの範囲内で決定しますが、与えた傷害の程度が軽いときには、情状により刑が免除される場合があります。
犯罪白書によると、平成30年の過失運転致死傷事件では公判請求が1.3%、略式命令(罰金)が10.1%、不起訴処分が85.8%です。
同年の懲役・禁錮の科刑状況をみてみると、過失運転致傷事件では、約98%が執行猶予となり、実刑となった者のうち約97%が懲役3年未満です。
過失運転致死事件では、約94%が執行猶予、実刑となった者のうち約80%が懲役3年未満でした。
データからは執行猶予になるケースが多いことが読み取れますが、前科がつくことに変わりはありません。また、刑罰のほかに、運転免許の違反点数に応じた免許の停止や取り消しなどの行政処分も負うことになります。
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2、過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の違い
過失運転致死傷罪と似た犯罪に、危険運転致死傷罪があります。両罪の違いはどこにあるのでしょうか。
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(1)危険運転致死傷罪とは
危険運転致死傷罪とは、正常な運転が困難な状態で自動車を運転し、人を負傷または死亡させる犯罪です。
自動車運転処罰法第2条では、以下の6つの行為が危険運転にあたるとしています。
- 飲酒や薬物の影響で正常な運転が困難な状態で走行させる
- 制御不能な高速度で走行させる
- 運転技能が未熟な状態で走行させる
- 人や他の車の通行を妨害する目的で割り込みや急接近をし、重大な交通の危険を生じさせる速度で走行させる
- 赤信号を殊更に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で走行させる
- 通行禁止道路へ進入し、重大な交通の危険を生じさせる速度で走行させる
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(2)過失運転致死傷罪との違い
過失運転致死傷罪が不注意による事故であるのに対し、危険運転致死傷罪は自身の運転行為が危険であるとの認識(故意)があった場合に成立する犯罪です。この点で非常に悪質であるため、過失運転致死傷罪よりも重い刑罰に処せられます。
また、致傷と致死で異なる刑罰が規定されています。
- 危険運転致傷罪……15年以下の懲役
- 危険運転致死罪……1年以上20年以下の懲役
過失運転致死傷罪では刑の種類が懲役または禁錮、罰金刑と複数あるのに対し、危険運転致死傷罪では懲役刑のみが定められています。
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3、過失運転致死傷罪で処罰が重くなる行為
過失運転致死傷罪に問われた際、以下の行為が認められると刑が重くなります。
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(1)ひき逃げ行為
人身事故を起こした場合には、直ちに車両を停止させ、負傷者を救護し、道路における危険を防止する措置をとらなくてはなりません。道路交通法第72条に定められた義務であり、これに違反してその場から逃走する行為がいわゆる「ひき逃げ」です。
死傷事故を起こしてひき逃げをした場合の刑罰は「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」です(道路交通法第117条2項)。
ただし過失運転致死傷罪との併合罪になるため、重い方の刑罰の最高が1.5倍になります。したがって、刑の上限は「最長で15年」に引き上げられます。 -
(2)無免許運転
免許を取得・更新せずに自動車を運転する行為は、規範意識が低いことの表れであり、危険な運転にも該当します。自動車運転処罰法第6条では、無免許運転による刑の加重を定めています。
また、過失運転致死傷罪を犯した者が無免許だった場合には、「10年以下の懲役」が科せられます(同条4項)。 -
(3)飲酒運転などを隠蔽(いんぺい)する行為
飲酒や薬物の影響で正常な運転ができないおそれがある状態で死傷事故を起こし、飲酒や薬物の影響であることを隠蔽しようとすると、自動車運転処罰法第4条の「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」に問われる可能性があります。
たとえば、事故現場から離れて水を摂取してアルコール濃度を下げるような行為や、事故現場でアルコールを摂取して飲酒検知を無効化しようとする行為が該当します。
罰則は「12年以下の懲役」ですが、ひき逃げとの併合罪になった場合には刑の上限が「最長で18年」に引き上げられます。
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4、加害者が負う責任と示談交渉
死傷事故を起こした場合には、公益的な観点からの刑事責任を果たすだけでなく、被害者や遺族に対する道義的責任や民事上の損害賠償責任を果たす必要があります。
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(1)道義的責任を果たす
道義的責任とは、人として正しい道を守る責任を指します。被害者への真摯(しんし)な謝罪やお見舞いなどは法律で義務づけられたものではありませんが、最低限守るべき道義的責任だといえるでしょう。
不起訴になりたい、刑を軽くしてもらいたいといった気持ちは理解できますが、その前に被害者や遺族の感情を推し量り、誠意をもって謝罪する努力は怠るべきではありません。 -
(2)謝罪のタイミングは?
謝罪は被害者側への誠意を示す行為なので、速やかにおこなうべきです。被害者への謝罪がなされていない場合には、結果的に刑が重く傾く可能性があります。量刑への影響を鑑みても、謝罪のタイミングは可能な限り早く、遅くとも裁判が開始される前が適切でしょう。
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(3)謝罪の方法に悩んだ場合
被害者や遺族への謝罪は、どのようにすればよいのかと悩むかもしれません。謝罪をしようとしても、被害者側から拒否される場合もあるでしょう。だからといって謝罪をしないという選択は望ましくありません。
このようなケースでは、弁護士を交えるのも一案です。また、自身も入院中で謝罪に行けない場合は、まずは手紙で謝罪するなどの方法も考えられます。 -
(4)損害賠償責任を果たす
与えた損害に対する賠償責任を果たすことも重要です。ケガをさせてしまったのなら治療費や通院・入院費用、仕事を休むことになった際の所得補償などが必要です。
被害者が亡くなってしまった場合には、遺族に対して、被害者が本来であれば得られていたはずの収入(逸失利益)や葬儀費用、精神的な苦痛に対する慰謝料なども支払うことになります。
保険に加入していれば、保険の規約に基づいた保障がされるので、全ての賠償を自ら背負わねばならないとはならない可能性があります。 -
(5)示談成立に向けた交渉
示談とは被害者・遺族へ謝罪と賠償をおこない、当事者間で問題を解決する手続きです。
民事上の手続きですが、刑事手続きへの影響もあります。示談の成立は加害者に反省や謝罪の意思があり、一定の被害回復が図られた証しとなり、刑事手続き内においても考慮要素となり得るためです。
早期に示談が成立すれば、不起訴処分となる可能性や減刑が期待できます。
ただし、被害者や遺族は大変なショックを受けているため、謝罪同様に加害者との接触を拒否するケースが想定されます。無理やりに会おうとせず、公正中立な第三者として交渉ができる弁護士を交えることを検討してください。弁護士が介入することで、被害者が交渉に応じてくれるケースも少なくありません。
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5、まとめ
自動車を運転する際は、ほんのわずかな不注意であっても重大な事故を引き起こす可能性があるため、細心の注意が必要です。事故を起こし、過失運転致死傷罪に問われれば、その後の人生に大きな影響を与えることになります。今後どうなるのかという不安を抱えるのはもちろんのこと、被害者への謝罪や示談交渉が進まないなどの難しい場面もでてくるでしょう。
そのような場合は、ひとりで対処しようとせず、弁護士へご相談ください。ベリーベスト法律事務所は、交通事故トラブルの対応実績が豊富な弁護士が在籍しています。
まずはご相談ください。
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