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人身事故の加害者に問われる罪とは 判決までの流れも解説
内閣府が公開している令和3年版交通安全白書によると、令和2年中に全国で30万9178件の交通事故が発生し、36万9476人が負傷、2839人が事故発生から24時間以内に亡くなっています。
これだけ多くの交通事故が発生している状況をみれば、自動車のハンドルを握る限りは「誰もが交通事故の加害者になる危険がある」といえるでしょう。
人身事故の加害者になってしまうと、単なる「事故」では済まされず「犯罪」として刑事手続きを受けることになります。人身事故の加害者が問われる罪や事故後の手続きの流れを確認しながら、人身事故を起こしてしまった場合の正しい対応を確認していきましょう。
1、人身事故の定義
交通事故は、大きく「人身事故」と「物損事故」の2種類にわかれます。それぞれの意味や両者の違いを確認しましょう。
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(1)人身事故とは
「人身事故」とは、交通事故によって負傷者や死者が生じてしまった場合を指す用語です。一般的には「相手を死傷させた」と考えがちですが、自分を含めて自分の同乗者などが死傷してしまった場合も人身事故として扱われます。
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(2)人身事故と物損事故の違い
「物損事故」とは、交通事故によって物の損壊が生じた場合を指します。衝突して自動車が壊れた、ガードレールをへこませた、家屋の壁を壊したといった事故はすべて物損事故です。こちらも自動車同士の事故をイメージしがちですが、誰の物を壊したのかは問題にならないので、たとえば自分の不注意で壁に激突してしまった、いわゆる「自損事故」も物損事故として扱われます。
人身事故と物損事故を区別するのは「死傷者の有無」です。そして、死傷者を生んだ人身事故は、単なる事故として処理されるだけでは済まされず、刑事上の責任も問われることになるという点も大きな違いだといえます。
民事的にも、物損事故では損壊した物の賠償責任だけが生じますが、人身事故では治療費などの補償とあわせて精神的苦痛に対する慰謝料の賠償責任も生じるという点で扱いが異なります。
なお、物損事故という用語は一般的な名称です。警察の書類では「物件事故」という名称が使われていますが、これは物損事故を指しています。
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2、人身事故を起こした場合に問われる罪
人身事故を起こすと、状況に応じてさまざまな罪に問われます。
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(1)過失運転致死傷罪
人身事故を罰するもっとも典型的なものが「過失運転致死傷罪」です。自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称:自動車運転処罰法)第5条に規定されています。条文によると「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者」を罰する犯罪で、不注意によって引き起こされる交通事故を罰する旨が明記されています。
交通事故の多くは不注意や操作ミスなどの「過失」によって引き起こされます。たとえ過失によるものでも、死傷者を生んだという結果を重視して罰する規定で、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます。
ただし、条文の後段には「ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」と明記されているため、かならず処罰されるとは限りません。軽傷で済んだ事故なら、処罰されることなく事故が処理される可能性があります。 -
(2)危険運転致死傷罪
同じく自動車運転処罰法第2条に規定されているのが「危険運転致死傷罪」です。
危険運転致死傷罪は、アルコールや薬物を接種したうえで運転するなど、法で定められた8つの行為によって人の死傷を生じた事故を招いた場合に成立します。
事故によって生じた結果に応じて処罰も異なり、負傷で済んだ場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上の有期懲役が科せられます。「1年以上の有期懲役」とは、最低でも1年、最長では20年の懲役という意味です。
懲役のみが規定されており、軽傷で済んだ場合の免除規定もないという点をみても、非常に厳しい刑罰が予定されているといえます。 -
(3)過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
自動車運転処罰法第4条に規定されている犯罪です。アルコールまたは薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠ったことで人を死傷させた場合に、飲酒運転の発覚を免れる目的で次の行為をはたらいた場合に成立します。
- さらにアルコールまたは薬物を摂取すること
- その場を離れて身体に保有するアルコールまたは薬物の濃度を減らすこと
- その他その影響の有無または程度が発覚することを免れよう行動を起こしたとき
飲酒運転の「逃げ得」を看過しないために設けられた規定で、12年以下の懲役という厳しい刑罰が設けられています。
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(4)道路交通法違反
事故の原因に道路交通法違反があれば、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪とあわせて道路交通法にも問われます。
たとえば、飲酒運転のうえで過失による人身事故を起こした場合は、過失運転致死傷罪とあわせて酒気帯び運転または酒酔い運転に問われることになり、両者は「併合罪」の関係になります。
併合罪では、刑法第47条の規定に従い「そのもっとも重い罪の刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする」と定められています。この場合、もっとも刑罰が重いのは過失運転致死傷罪なので、刑罰の上限が1.5倍に加重され、最大で10年6か月の懲役となります。
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3、人身事故発生から判決までの流れ
人身事故が発生して実際に刑罰を受けるまでの流れについて、順を追って確認していきましょう。
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(1)事故の捜査活動
人身事故は犯罪として扱われるため、警察は事故の原因や状況について「捜査」を尽くします。当事者の取り調べ、事故現場や車両の実況見分、事故当時の状況の再現見分など、どのようにして事故が発生したのか、なぜ事故が起きたのかが徹底的に究明されます。
捜査には、被疑者を逮捕して身柄を拘束したうえで進められる「身柄事件(強制事件)」と、身柄を拘束しないまま進められる「在宅事件(任意事件)」の2種類があります。
身柄事件では、逮捕から48時間以内が警察の持ち時間、送致されて24時間以内が検察官の持ち時間となり、厳しい取り調べを受けることになります。さらに、容疑を否認していたり、重大な結果が発生していて捜査を尽くすために、さらに時間が必要であったりするケースでは、検察官が勾留を請求するおそれがあります。
勾留を受けると、原則10日間を上限として身柄拘束が延長されます。さらに必要があれば勾留延長を受けて10日間を限度に身柄拘束が長期化します。 -
(2)起訴
捜査の結果「厳しく罰するべき」と判断すれば検察官は起訴に踏み切ります。起訴は刑事裁判の提起であり、検察官だけに与えられた権限です。つまり、刑事裁判に発展するかどうかは「検察官が起訴するかどうか」にかかっています。
検察官による起訴には、正式な公開の裁判を求める公判請求のほかにも、事実に争いのない事件について簡易的な審理を求める略式起訴という方式があります。
略式起訴とは、被疑者が容疑を認めていて、100万円以下の罰金または科料に相当する犯罪を対象に、書面審理のみで命令を下す手続きです。事件の迅速な終結が期待できるうえに懲役・禁錮を科せられる危険を回避できる一方で、反論する機会を失いかならず有罪となるという不利益が生じます。100万円以下の罰金・科料が予定されている犯罪のみが対象なので、過失運転致死傷罪に問われるケースでは略式命令による罰金で決着できるケースも少なくありません。
なお、身柄事件では起訴された段階で被告人としての勾留に切り替わり、保釈が認められない限りは身柄拘束が続きます。 -
(3)刑事裁判
検察官が公判請求した場合は、公開の法廷における刑事裁判が開かれます。検察側・弁護側がそれぞれ提出した物証や人的証拠を裁判官が取り調べをおこないます。
身柄事件では刑事裁判が進行している期間は勾留を受け続けることになり、在宅事件では日常生活を送りながら公判期日に出廷することになります。 -
(4)判決
刑事裁判の最終回となる結審の日に「判決」が下されます。
判決は「有罪」または「無罪」のいずれかであり、有罪の場合はさらに法定刑の範囲で量刑が言い渡されます。なお、懲役・禁錮には「執行猶予」が付される可能性もあるため、かならず刑務所へと収監されるわけではありません。
執行猶予とは、刑の執行を一定期間猶予する制度で、別の罪を犯すことなく期間を満了すれば刑罰が消滅します。日常生活を送りながら罪を償うことが許されるため、実刑判決を受けるケースと比較すれば素早い社会復帰が期待できます。
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4、刑事処分は赤切符
ここまでで説明した事故発生から判決までの流れは、刑事手続きの原則的な処理方法です。交通事故の原因に重大な交通違反が関連していた場合は「赤切符」が交付されることがあります。
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(1)「赤切符」とは
「赤切符」は、正式名称を「道路交通法違反事件迅速処理のための共用書式」といい、重大な交通違反を犯した場合に交付されます。
一方で、軽微な交通違反を犯した場合は白切符・青切符で処理されることになります。 -
(2)赤切符と青切符の違い
一般的な交通違反に対して交付されることが多いのが「青切符」です。一時停止違反・赤色信号無視・一方通行違反・軽微な速度制限違反などが対象となります。
青切符が交付された場合、本来は刑事処分を科すべきところを「反則金」の納付によって正規の刑事手続きが省略されます。そもそも、一時停止違反や赤色信号無視などの軽微な違反も、道路交通法の定めに照らせば懲役・罰金といった刑罰が規定されている犯罪です。しかし、これらのすべてに対して正規の刑事手続きをとっていれば、警察・検察・裁判所の機能はすぐに麻痺してしまうでしょう。
そこで、軽微な違反については刑事処分に代えて反則金を納付させ、違反内容に応じて違反点数を加算し、累積点数によって行政処分を科すという制度が採用されています。この制度を「交通反則通告制度」といいます。
一方で、赤切符は飲酒運転や重大な制限速度違反など、悪質な違反を対象としています。赤切符の対象となる違反は、交通反則通告制度の適用を受けられません。反則金の納付による刑事手続きの省略は許されず、刑事手続きによる処分を受けることになります。 -
(3)赤切符を切られたら、前科がつく
赤切符として処理されると、検察庁または簡易裁判所への呼び出しを受けます。被害者がいないケースを中心に、罰金刑以下が相当と認められる場合は、略式裁判を選択することができます。略式裁判は、簡易裁判所内の交通裁判所における書面上の審理のみが行われるため、手続きは1日で済みます。
高額になるとはいえ、反則金と同じような処理に重大さを感じないかもしれません。しかし、赤切符としての処理はわずか1日で捜査・起訴・裁判・判決のすべてを簡易的に進めるだけであり、有罪判決を受けて罰金を納付したのと同じです。つまり、赤切符で処理されて罰金を納付すれば「前科」がついた状態になります。 -
(4)赤切符で問われる行政上の責任
赤切符で処理された場合も違反点数が加算されます。青切符と比べると大きな点数が加算されることになり、それまでに累積点数がない状態でも免許停止・免許取消といった行政処分を受けることになるでしょう。
過去に行政処分を受けた経歴があると、その経歴に応じて「欠格期間」も設けられます。欠格期間中は、運転免許の再取得が認められません。買い物などの日常生活だけでなく、仕事のうえでも運転免許を取得できないことは大きな不利益を招くでしょう。
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5、人身事故を起こしてしまった場合の対応
人身事故を起こしてしまった場合は、その場で正しい対応を取らなければなりません。
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(1)ただちに停車して負傷者を救護する
道路交通法第72条1項は、交通事故が発生した際にはただちに車両の運転を停止し、負傷者を救護しなければならない旨を定めています。負傷者を救護しないままその場を離れてしまえば「救護義務違反」となります。いわゆる「ひき逃げ」として扱われ、みずからが死傷の原因を作った事故では10年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
令和2年版犯罪白書によると、令和元年中に発生したひき逃げ事故の件数は7491件でした。死亡事故については検挙率100.8%、重症事故では84.2%、ひき逃げ事故全体でも64.4%という高い検挙率が記録されています。周囲に目撃者がいなかったからといって、負傷者の救護を怠り逃走することだけは絶対に避けなければなりません。 -
(2)警察に通報する
道路交通法第72条1項には、さらに現場に警察官がいる場合は警察官に、警察官がいない場合は最寄りの警察署などに交通事故が発生したことを報告しなければならない旨を定めています。
報告義務違反にあたる場合も罰則が設けられており、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられます。
交通事故の現場に警察官が居合わせるケースはまれなので、ただちに110番通報しましょう。事故の相手方に任せていると、双方が「通報してくれているだろう」と思い込んで通報が遅れてしまうこともあるので、積極的にみずから通報する心づもりをもつことが肝心です。 -
(3)二次災害を予防する
交通事故を起こした者には、ハザードランプを点灯し、三角停止表示板を設置し、発煙筒を発火させるなど、後続車に事故が発生していることを知らせて二次的な事故を予防する努力が求められます。もちろん、交通量が多い、見通しが悪いなどの理由でこれらの措置を取ることが危険である場合まで強制されるわけではありませんが、最大限の措置を取る努力をしなければなりません。
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(4)弁護士に相談する
人身事故の加害者になってしまった場合は、弁護士に相談して必要なサポートを受けましょう。弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉や厳しい刑罰の回避に向けた弁護活動などを一任できます。
人身事故が発生し、加害者の処罰を検討する場面では、被害者の意向も尊重されます。真摯に謝罪のうえで賠償を尽くし、示談が成立していれば、警察の聴取に対して「厳しい処罰は求めない」という意見を述べてもらえる可能性が高まるでしょう。被害者が処罰を求めない場合は、検察官が不起訴処分を下し、刑罰を受ける危険も低くなります。
加害者本人でも示談交渉は可能です。ただし、人身事故の被害者は、とつぜんの被害に憤っているケースが多く、多額の示談金を請求されることも多いので交渉は難航するでしょう。
また、相手方にも大きな過失がある事故では、相手方の過失を主張して厳しい処罰や多額の賠償を回避できる可能性もあります。客観的な証拠の提示や捜査機関へのはたらきかけも重要になるので、弁護士のサポートは必須となるでしょう。
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6、まとめ
人身事故の加害者には、自動車運転処罰法や道路交通法にもとづく刑罰が科せられます。事故態様が悪質である、発生した結果が重大であるといったケースでは厳しく罰せられるおそれもあるので、ただちに弁護士に相談して必要なサポートを受けましょう。
交通事件の解決には、法律への深い理解だけでなくさまざまな事故ケースへの対応・解決実績が欠かせません。人身事故の加害者になってしまい、厳しい刑罰や多額の賠償を回避したいと考えるなら、交通事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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