- 交通事故・交通違反
- 死亡事故
- 釈放
死亡事故で釈放されるのはどんなとき? 法的責任や逮捕後の流れ
警察庁が公開している統計によると、令和2年中に全国で起きた交通死亡事故の件数は2784件で、亡くなった方は2839人でした。死亡事故の件数・死者数はいずれも毎年のように過去最低を更新しており、減少傾向にあります。とはいえ、警察は交通死亡事故ゼロを目指しているため、取り締まりの手が緩むことはないでしょう。
死亡事故を起こせばその場で逮捕され、刑事裁判を経て刑罰が下される可能性があります。また、刑事上の責任だけでなく、民事・行政面での責任も追及されることになるので、死亡事故の加害者が背負う責任は重大です。
本コラムでは、交通死亡事故の加害者が問われる法的責任の内容や逮捕を含めた刑事手続きの流れを確認しながら、身柄拘束から釈放が期待できるタイミングなどについて解説します。
1、死亡事故で加害者が負う法的責任
まずは、交通死亡事故を起こした加害者が負うことになる法的な責任の種類や内容を確認していきましょう。
-
(1)刑事責任
刑事責任とは、法律によって犯罪として規定されている行為について、刑事裁判でその罪を追及し刑罰が科せられることを意味します。死亡事故を起こすと、自動車運転処罰法に規定されている罪に問われるため、所定の刑事手続きを経たのち、裁判官の審理を経て懲役・禁錮・罰金といった刑罰が下されることになります。
-
(2)民事責任
民事責任とは、個人が負った損害について、損害を与えた加害者がその賠償を尽くす責任を負うことを意味します。民法第709条において定められた「不法行為責任」を根拠としており、故意・過失を問わず損害に対する賠償責任を負うという考え方です。この点は、さらに自動車損害賠償保障法第3条においてもその責任が明記されています。
死亡事故について負うべき民事責任(損害賠償責任)には、いくつかの種類があります。
- 死亡した本人や遺族が負った精神的苦痛に対する慰謝料
- 死亡した本人が将来働いて得るはずだった収入(逸失利益)
- 損傷した車両や物の修理費・修繕費・買い替え費用
- 葬儀代
事故によってどのような損害が発生したのかは、事故の状況によって異なります。主に慰謝料・逸失利益の部分が高額になりやすく、自動車保険による補償に頼るところが大きくなるでしょう。
-
(3)行政上の責任
わが国における行政庁は、法律の定めに従って国民の権利・義務に直接影響を及ぼすことが認められています。自動車の運転に関していえば、運転免許も都道府県公安委員会による許可のひとつです。
死亡事故を起こした加害者には、都道府県公安委員会による行政処分として、運転免許の「停止」や「取り消し」といった処分が下されます。
行政処分の内容を決める際に大きな影響を及ぼすのが、免許の「点数」です。死亡事故については、もっぱら加害者の不注意によって発生した事故であれば20点、それ以外でも最低13点が加算されます。そこからさらに、事故にかかわる交通違反の点数も加算されますが、スピード違反や一時停止違反などの目立った違反行為がない場合でも、安全運転義務違反の2点が加算されるのが一般的です。
すると、加害者の不注意の程度が重くない事故でも最低15点は加算され、過去に行政処分を受けた経歴がない場合でも運転免許取り消し・欠格1年となります。事故前にほかの違反によって点数が累積していた場合はさらに処分が重くなることもあります。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
2、死亡事故を起こした際の刑罰
自動車の運転によって死亡事故を起こすと、自動車運転処罰法の定めに従って刑罰が下されることになります。どのような刑罰が下されるのかは、同法が定めるどの罪にあたるのかによって異なります。
-
(1)過失運転致死の罰則
不注意やミスによる死亡事故は、自動車運転処罰法第5条の「過失運転致死」に問われます。条文によると「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者」に適用される罪です。
有罪の場合、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます。同条のただし書きに、「その傷害が軽いときは、情状によってその刑が免除することができる」と定められているとおり、死亡事故については、ただし書きの規定は適用されません。 -
(2)危険運転致死の罰則
人身事故の原因が運転手の「危険運転」である場合は、自動車運転処罰法第2条の「危険運転致死」が適用されます。
危険運転にあたるのは次の8項目です。
- アルコール・薬物の影響で正常な運転が困難な状態で自動車を走行させた
- その進行を制御するのが困難な高速度で自動車を走行させた
- その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させた
- 人や車への妨害目的で、走行中の自動車への割り込み、人や車への接近などを重大な交通の危険を生じさせる速度でおこなった
- 車への妨害目的で、走行中の車の前方で停止・著しく接近した
- 高速道路・自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の前方で停止・著しく接近し、走行中の自動車を停止・徐行させた
- 赤色信号またはこれに相当する信号をことさらに無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した
- 通行禁止道路を進行し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した
人を死亡させた場合の罰則は1年以上の有期懲役で、最高20年にわたる懲役が科せられます。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
3、刑事手続きの流れ
死亡事故は、単なる「交通事故」ではなく過失運転致死・危険運転致死といった罪名の「刑事事件」として扱われます。つまり、単純な事故処理ではなく、窃盗・暴行・傷害・詐欺などと同じような扱いを受けて所定の刑事手続きを受けることになるのです。
-
(1)逮捕後の流れ
死亡事故を起こすと、その場で現行犯逮捕されるケースが多いです。警察に逮捕されると、警察段階で48時間以内、送致されて検察官の段階で24時間以内、合計72時間を上限とした身柄拘束を受けます。さらに、検察官が「捜査のためには身柄拘束を続ける必要がある」と判断すれば、裁判官の許可を受けて「勾留」による身柄拘束が続きます。
勾留は原則10日間、延長が10日間、最長で20日間です。再延長は認められないので、勾留が満期を迎える日までに検察官が「起訴」または「不起訴」を決定します。検察官が起訴すれば刑事裁判へと移行し、数回の審理を経て有罪・無罪の別と、有罪の場合の量刑が言い渡されて手続きが終了します。 -
(2)釈放が期待できるタイミングは4回
過失運転致死・危険運転致死の容疑で警察に逮捕されたのち、釈放が期待できるタイミングは全部で4回です。
- 送致後のタイミング 事件・被疑者の送致を受けた検察官は、自らも被疑者を取り調べたうえで勾留の要否を判断します。ここで検察官が「勾留の必要はない」と判断したり、裁判官が検察官による勾留請求を認めなかったりすると、釈放されて在宅事件へと切り替わります。
- 起訴のタイミング 検察官が起訴・不起訴を判断する際に、不起訴となれば事件が終結するため釈放されます。また、起訴された場合でも、公開の裁判を求める「公判請求」がなされれば裁判への出廷を確保するためにさらに勾留されます。書面審理のみで迅速処理する「略式起訴」が選択された場合、裁判官が略式命令を告知すると、勾留は執行するため、釈放されます(罰金を納付しない場合には、労役場に留置される場合もあります。)。
- 保釈許可のタイミング 検察官が起訴した後は、「保釈」の請求が可能です。保釈保証金を担保に一時的に勾留が解除される制度で、保釈が認められれば在宅のまま刑事裁判へと出廷することになります。
- 判決のタイミング 刑事裁判の判決において、懲役・禁錮に執行猶予が付された、または罰金が言い渡された場合は釈放されます。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
4、死亡事故で逮捕されたら弁護士に相談を
死亡事故を起こした場合には、逮捕されなくてもただちに弁護士に相談して、以下のような必要なサポートを受けましょう。
-
(1)遺族との示談交渉を依頼できる
死亡事故を解決するひとつの方法は、遺族との示談交渉です。真摯に謝罪して賠償を尽くすことで、遺族の方が損害賠償請求訴訟を起こす前に示談が成立すれば、損害賠償請求自体されませんし、刑事責任も軽減できる可能性が高まります。ただし、家族を失ってしまった遺族との示談交渉は容易ではありません。
示談交渉の際には、法的状況や過去の同様の事例に照らして適切な賠償額を算出しなくてはならないので、経験豊富な弁護士に一任されることをおすすめします。 -
(2)早期釈放が期待できる
仮に逮捕され、身柄が拘束されたとしても、弁護士のサポートを得ることで、逮捕・勾留による身柄拘束からの早期釈放が期待できます。逮捕後に釈放が期待できるタイミングは全部で4回ですが、適切な弁護活動を尽くすことで、身柄が釈放される可能性も高まります。
もし送致後のタイミングで釈放されれば、身柄拘束の期間はおよそ3日間で済みます。
早期に身柄拘束から解放されれば、社会から隔離されている時間が短縮されるので、無断欠勤による解雇・退学などのリスクを大幅に軽減できるでしょう。 -
(3)処分の軽減を期待できる
死亡事故を起こすと、自動車運転処罰法違反として刑事責任を追及されます。不注意による過失事故の場合は最長7年、危険運転による事故だと判断されれば最長20年にわたって刑務所に収監されてしまう重罪です。
死亡事故は非常に重い罪ですが、歩行者の過失が大きいケースや、安全運転に徹していながらも避けがたい状況のなかで死亡事故に至ってしまうケースも少なからず存在します。
そうした事情があれば、弁護士から検察官への働きかけによって不起訴となる可能性を高められます。また、刑事裁判に発展しても、遺族との示談交渉など適切に弁護活動を展開することで、執行猶予つき判決となるなど処分の軽減も期待できます。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
5、まとめ
交通死亡事故を起こせば、自動車運転処罰法の定めに従って厳しい刑罰が下されるおそれがあります。他人の生命を奪ってしまったという事実を考えれば、厳しい処分が下されるのは当然かもしれません。
しかし、安全を徹底していたにもかかわらず事故に至ってしまったケースなどにおいては、厳しすぎる刑罰は加害者とその家族も不幸に陥れてしまうので、弁護士に依頼して事件の解決を目指すのが最善策だといえます。
死亡事故を起こしてしまい逮捕や刑罰に不安を抱えている、早期釈放を望んでいる方は、ただちに刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。